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冷凍ラーメンにパスタロボ。日米スタートアップが語るフードテックの今

「食×テクノロジー&サイエンス」をテーマに、産業を超えて食の未来を描くことを目指す「スマートキッチンサミット 2022(SKS JAPAN 2022)」が9月1日~3日の日程で開催された。米国発のフードテックカンファレンスの日本版で、今回が5回目。企画・運営はシグマクシス。フードシステムの未来像や多様な食の価値理解、共創ベースの事業開発アプローチ等をテーマとして、数々の展示と、トークセッションが行なわれた。

ベースフードによる完全栄養パン「ベースブレッド」。コンビニでもお馴染みになった
「Hestan Cue(へスタンキュー)」。IHヒーター、専用フライパン、そしてアプリで温度を細かく制御し、指示してくれるスマート調理器具
東南アジアで栽培されているジャックフルーツという果物を使った植物性代替肉。現在はマレーシアのみでの販売
デイブレイクの急速冷凍機「アートロックフリーザー」。3つのファンを使って冷気を調整、食材を傷めず急速冷凍できる
Byte Bitesの3Dフードプリンター。多様な食感を生むチョコなどを作れる
エムエスディのクラフトエナジードリンク「レイセンス・ドラフト」。シトルリンを1,000mg配合

そのなかの一つ「フードロボティクスで広がる新価値創造」では、2022年4月に日本に上陸した米国発の自動調理ソリューション「Yo-Kai Express」と、厨房の省人化のためにパスタ調理ロボを6月から展開開始した日本のスタートアップ「TechMagic」、それぞれの代表が登壇し、今後目指すレストランプラットフォームやフードロボティクスの可能性について議論が行なわれた。

Yo-Kai Expressは一風堂、テーブルマークと提携

Yo-Kai Expressはラーメンの一風堂、うどんのテーブルマークと提携

Yo-Kai Expressは自動販売機「Yo-Kai Express」の実機も展示。熱々のラーメン等を冷凍から90秒で提供する自動調理ソリューションだ。同社は「SKS JAPAN 2022」初日である9月1日に「一風堂」を展開する力の源ホールディングスならびにテーブルマークを傘下に持つ日本たばこ産業との業務提携を発表しており、その紹介も行なわれた。

今回の発表で「一風堂博多とんこつラーメン」と「IPPUDO プラントベース(豚骨風)ラーメン」の販売が正式スタートした。このほか、力の源グループによる「善光寺 Kamo Soba」も今秋Yo-Kai Expressのメニューとして登場する予定。

また、テーブルマークの主力商品である冷凍うどんを活用した「テーブルマーク カレーうどん」「テーブルマーク きつねうどん」「テーブルマーク 肉うどん」の開発も進めており、こちらは今冬の販売予定となっている。

自動調理ソリューション「Yo-Kai Express」
できあがったラーメンは熱々。れんげと割り箸は自分で取る
博多とんこつラーメンを試食
冷凍自販機では提供が難しい半熟ゆで卵も

うどんやパスタ、丼もの提供も目指す

Yo-Kai Express 創業者兼CEO アンディ・リン(Andy Lin)氏

セッション司会の「Food Tech Studio - Bites!」創業者の外村仁氏から、「なぜうどんのテーブルマークとラーメンの一風堂と業務提携ができたのか」と問われたYo-Kai Express 創業者兼CEO アンディ・リン(Andy Lin)氏は「新しいチャネルに入ることでブランドアピールができると認識してもらえたからだ」と答えた。

一風堂とは3月に会い、4月に最初のサンプルを作って記者会見で提供し、その後に改善を続けて今回の発表に至ったという。テーブルマークとは6月に話を始めて、すでに3つのサンプルレシピを示している。いずれも高速で開発している。

今回の「一風堂博多とんこつラーメン」には半熟卵が入っている。茹で卵の冷凍は難しく、普通は白身がぼそぼそになってしまう。Yo-Kai Express 日本法人の代表である土屋圭司氏によれば、キユーピータマゴの冷凍技術で可能になったものだという。「IPPUDO プラントベース」では不二製油グループ本社のスープと、相模屋の技術を使ったがんもベースのチャーシューのようなものが入っていることで、肉を使っていないにもかかわらずコクが出ている。

もともと日本のレトロ自販機から発想を得て開発され、日本に「逆上陸」した形の同社のソリューションが各種メディアで取り上げられていることについては「新しいものを人々が欲していた。そして食べてみると本当に本物だった、レストランのクオリティーがあったと感じたということ。もっと進んでいくだろう」と自信を見せた。

Yo-Kai Expressは本国アメリカではすでに韓国風の麺やジャージャー麺などのほか、チャーシュー丼やプルコギ丼などご飯ものも提供している。和風パスタやカレーライスなどの提供も狙っているという。アンディ・リン氏は「全ての国際料理を手掛けたい」と述べ、「Yo-kaiに委託して頂ければ、人件費もかからず世界中に料理を届けられる」と来場者たちに呼びかけた。

司会の「Food Tech Studio - Bites!」創業者 外村仁氏
トークセッション中にも食事提供の様子がライフ中継された
アメリカでは様々なメニューを既に提供中

新しい食体験創造を目指すTechMagic

TechMagic CEO 白木裕士氏

TechMagic創業者でCEOの白木裕士氏は「テクノロジーによる持続可能な食インフラを作る」ことをミッションとし、世界中に調理ロボット、業務ロボットを展開していることを目指していると紹介。プロントとのパスタロボットのほか、厨房機器大手のフジマックとは洗浄食器の仕分けロボット、CRISPとはサラダロボットを開発中だ。

CRISPと開発中のサラダロボット
フジマックと開発中の洗浄食器の仕分けロボット

特に人手不足問題を解決したいと考えており、厨房のなかを自動化することで人件費を抑制していくことができるのではないかと考えていると語った。パスタロボット「p-robo」は具材・ソースをグラム単位で供給し、その後の加熱調理、そしてフライパンの洗浄まで一連の調理工程を自動化している。また、レシピのロボット言語化を進めるほか、各種厨房に合わせるためにそれぞれの部品のモジュール化などを進めているという。

一人から二人の省人化効果があるというパスタロボットは現在、東京駅直結の丸ビル地下の「エビノスパゲッティ」と、恵比寿駅から徒歩1分の「香味麺房」の2店に導入されている。今後、パスタだけでなく様々なジャンルの調理にもトライしていきたいという。

「香味麺房」はTechMagicが自社運営する旗艦店

白木氏は「レストランは単に食事を提供する場所ではない。厨房を自動化するだけではなく様々な業態の食体験をプロデュースしていきたい。そのためにまずは日本で様々な企業とコラボして実績を作り、新しい食体験を作っていき、アジア、北米、ヨーロッパにも積極的に挑戦していきたい」と語った。

司会の外村仁氏は最後に「ロボティクスを活用した両社の成功を通じて、日本の豊かな美味しい食が世界中に広まることを期待したい」とセッションを締めくくった。

(左から)外村仁氏、TechMagic CEO 白木裕士氏、Yo-Kai Express CEO アンディ・リン氏