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熟練技を完コピ 「大阪王将」が「炒め調理ロボット」導入
2023年10月2日 09:00
大阪王将は、10月1日にリニューアルオープンする「大阪王将 西五反田店」にて調理ロボットスタートアップのTechMagicと共同で開発した炒め調理ロボット「I-Robo」のテスト稼働を開始する。
「大阪王将」は全国に344店舗を展開する餃子専門店。西五反田店では「I-Robo」を3台導入し、大阪王将で提供している、ドリンクと餃子以外の約60のグランドメニューのうち、20種類が「I-Robo」で調理可能となった。一部メニューは顧客のカスタマイズにも対応し、「いまだかつてない街中華」として新しい食体験を提供する。
TechMagicでは外食業界の人手不足の課題に対し省人化を推進し、解決を目指している。「I-Robo」は高火力IHと鍋のような形状のフライパン、ヘラの回転制御で調理技術を再現するロボット。メニューに応じて、加熱温度、加熱時間、鍋の回転スピード、回転方向を調節し、五目あんかけ焼きそばやニンニク炒飯、回鍋肉などをロボットが調理する。人がフライパンを振る作業から解放し、誰でも炒め調理ができるようになる。フライパンは自動洗浄される。今回の店舗では調味料は人が投入しているが、自動供給もオプションで追加可能。
今回の3台のロボット投入により、天津飯を除くほとんどの炒めメニューはロボットを使って行なわれる。人はロボットのタブレットに表示される指示に従って食材や液体調味料を投入するだけでよくなるため、厨房の職人比率を下げることができる。
職人技をコピーしたロボットで再現
大阪王将 代表取締役社長の植月剛氏は「調理ロボットの開発には10年くらい前から取り組んでいて、トライするのは今回が3回目。これまでの機械は単調なドラム式で、なかなか技を落とし込めなかった。今回のロボットの特徴は職人の技術を機械で写しとったこと。熟練の職人技をコピーした火加減、品質、味など、職人が調理したものと全く遜色がない」と語った。
火力、お玉の代わりの羽根の使い方などは全てコンピュータで制御される。焼き目をつける場合は、いったんフライパンの回転をステイさせるといった細かい設定も行なって、職人同様の調理を実現した。「炒め」でできない商品は天津飯だけだという。天津飯では卵にふんわりと空気を入れる必要があるが、そこはまだロボットでは再現できていない。将来はそこもロボット化できないかと開発を進めているという。
食材や調味料の投入は、ロボット横に置かれたタブレットに表示される手順に従って人が行なう。TechMagic側では全て自動化した機械も開発されているものの、大掛かりになりすぎて、実際の狭い外食厨房には導入しづらい。そこで小型店舗に力を入れている「大阪王将」では人手での投入を選んだ。
調理時間は、ほぼ人と同等で、商品によっては機械のほうが早い。仕上がり温度も90℃前後で「技術が未熟な人よりも機械のほうが美味しく仕上がる」という。植月氏は「『大阪王将』での調理検定一級に近い調理が可能になった」と語った。なおチャーハンの場合、最後に盛り付けて丸く仕上げる作業は人が行なう。
またロボットにはフライパンの自動洗浄機能もついている。通常のフライパン(中華鍋)洗浄は水を大量に使い、炊きながら洗わなければならないが、その水の使用量も半分くらいに減った。機械が洗浄しているあいだに、人は他の調理に取り掛かることができる。「調理のあいだの無駄な時間もなくなった」という。
また厨房内の温度も下がり、食材の飛び散りや湯煙も減少して床が汚れにくくなったことで、働きやすく、疲労の少ない厨房環境になった。また、フライパンを振る作業などもあって、従来の調理には力が必要だが、ロボットを使うことでその作業がなくなるので、シニアや女性が活躍できる余地が広がった。
厨房での職人比率の削減が可能、海外展開も視野に
海外出店も視野に入れる。植月氏は「このロボットを海外に持っていけば、日本の味をそのまま持っていくことができる」と語った。細かい調理の指示はロボット側から出されるため従来は研修が必要だった調理工程が、ロボットを扱うための基本的な知識を伝えるだけで良くなり教育時間も短縮できることから、職人比率を下げた事業展開も可能になる。現在は調理人がいないと店の営業が難しくなるためもともと多めに採用しているが、そのような必要がなくなるという。
ただし植月氏は「職人に代わるものとは思っていない」と強調した。「あくまでも職人が技術を磨き、それをコピーする。だからロボットはサポート役。『職人ゼロ』の店を目指すわけではない」と述べ、あくまで職人を機械で補助することで働きやすい環境をつくり、美味しい食品をスピーディに顧客に提供できるようにしたいと語った。
ロボット導入によって厨房内の人手を1人くらい減らせると考えられ、いわゆるFLコスト(食材費と人件費の合計金額)は10%くらい削減できると見込まれている。ここには光熱費削減分は入っていない。五反田店を選んだ理由は店舗のサイズ感と、新商品テストに向いている店舗だと判断したため。
従来は対応が難しかったカスタマイズが可能に
一部のメニューでは「肉多め、玉ねぎ少なめ」など、顧客のカスタマイズに対応できる仕組みも用意した。タブレットから注文し、その注文に応じて人が食材を用意し、ロボットに指示されるタイミングで投入して調理して仕上げる。
また、一般に町中華は「茹で料理と焼き料理」など異なる調理過程を組み合わせたセットが提供されることが多いが、それは厨房の都合による。このロボットを使うことで、「レバニラ炒め・チャーハンセット」のような「炒め料理と炒め料理」の組み合わせも提供が容易になり、「ロボットを入れることで新しい価値を提供できる」と語った。
なお、麺類はロボットを通さずに調理する。今回の試食会ではロボットを使う調理のみが注文できた。「自分盛り」と名付けられたカスタマイズも試してみた。繰り返しだが食材投入は人が行なっているが、内容に合わせた適切な火加減等の調理はロボットが行なう。どのタイミングで何をどのくらい入れるかといった指示もロボットが出す。それに合わせて人は材料を投入する。
調理工程全てを撮影しロボットへと落とし込み
TechMagic 取締役社長の白木裕士氏は「シェフの味を再現できたことには大きな意義を感じている。プロントに導入してもらった『P-Robo』は非常に大きかったが、『I-Robo』は非常にコンパクト。多くの厨房に導入できると思う。料理もテクノロジーとサイエンスを融合した味へと進化している。未来の厨房の姿を広めてもらいたい」と語った。
「I-Robo」は各々メニューごとに火力や回転などのパラメーターを調整しながら調理する。難しかった点としては「大阪王将のこだわり」のような細かい部分の再現を挙げた。全ての調理工程を撮影して、ロボットの作業に落とし込んでいったという。洗浄も「何℃のお湯で、どのくらいの時間をかけなければいけないのか」といったことも全て定量化してロボット作業に落とし込んだ。中華では焦げが生じるので、焦げもしっかり取れるという。
そして、ロボットが非常に柔軟で顧客の注文に応えることができることを強調した。なお注文側からすれば有難いカスタマイズだが、ロボット側からすると全て異なるレシピとなるため、開発現場はかなり大変だったとのこと。