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インボイス制度が狙うもの。増える業務負荷と迫られるデジタル化

2023年10月1日からインボイス制度が導入される。消費税の処理・納付にかかわる新たな仕組みで、法人だけでなく、個人事業主やフリーランスとして活動する人にも大きな影響が予想される。インボイス制度の影響や企業・個人が準備するべきことを会計ソフトなどを展開するfreeeに聞いた。

インボイス制度は、消費税を、事業者同士、または事業者と個人が書類上で正しくやりとしていることを担保できるようにする取り組み。最終的には消費税が正確に納付されるようにすることを目的としている。

この制度のポイントは、事業者は適格請求書(インボイス)に記載された消費税でないと「仕入税額控除」が受けられなくなること。例えば、企業が仕入先などから請求書をもらう場合、制度に準じた「適格請求書」でないと、企業側が支払う消費税が増えてしまう。

一方、適格請求書を発行できるのは登録を受けた「課税事業者」に限定されている。

売上高が1,000万円以下の小規模な事業者や個人は、消費税の納税を免除されている「免税事業者」が多い。しかし、これらの免税事業者は適格請求書を発行できない。'23年10月以降は免税事業者への支払いは、課税事業者に比べて、支払い企業側の税負担が増えることとなる。

「インボイス」制度に向け、適格請求書発行事業者の登録を

企業側の税負担が増えるため、インボイス制度開始後は、企業が免税事業者に発注への絞る自体も予想される。同じ仕事を発注するのであれば、免税事業者より課税事業者のほうが企業側の税負担が少なくなるからだ。

免税事業者にとっては、課税事業者にならないと仕事を失う可能性もある。

実際に一部の企業では、取引のある免税事業者に課税事業者になるよう依頼するケースも出てきているという。

会計ソフトのfreeeが5月に実施したアンケートによれば、免税事業者の取引先数を把握している企業の半数を超える53.4%が「課税事業者への転換を求める」としており、すでに求めている会社も14.5%ある。

この傾向は大企業(301人以上)ほど高くなり、7割が課税事業者への変更を依頼すると回答。中堅企業(21-300人)だと5割、小規模企業(20名以下)だと4割弱となっている。

企業間あるいは企業と個人の間の多くの取引段階で対応が必要になる「インボイス制度」。制度導入まで1年4カ月を切ったが、制度の認知は進んでおらず、特に大きな影響を受ける中小企業での対応が遅れているのが現状だ。

中小企業での対応遅れや理解不足が目立つ

インボイス制度が狙うもの

そもそも、なぜインボイス制度が導入されるのか。それは、「適正な課税の確保」と「益税の阻止」の2つ狙いが有る。

適正な課税の確保

「インボイス」とは「適用税率や税額の記載を義務付けた請求書」のこと。「適格請求書」という名称だが、領収書もレシートも納品書も全て適格請求書となる。

インボイス制度は、適格請求書によって消費税を計算し、正確に納付する取り組みといえる。現在、消費税は10%だが、食品や新聞などは8%の「軽減税率」が適用される。つまり10%と8%、2つの税率が混在している形になる。

売り手が買い手に対して、この商品が消費税10%か8%を正確に伝える必要がでてきてしまった。こうした理由から、商品の消費税率や税額を明記する「適格請求書(インボイス)方式」が導入されることになった。

そのため、インボイス導入後の適格請求書では、多くの情報が含まれることになる。

  1. 発行者の氏名又は名称
  2. 取引年月日
  3. 取引内容
  4. 取引金額
  5. 交付を受ける者の氏名又は名称 ※
  6. 軽減税率の対象である旨
  7. 税率ごとに合計した対価の額
  8. 税率ごとの消費税額及び適用税率
  9. 登録番号

益税の阻止

もうひとつのインボイス制度導入の理由が「益税の阻止」だ。

益税とは、消費者が事業者に支払った消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となること。

通常の事業者は、取引の際に消費税を乗せた金額を受け取り、売上から仕入れ分を引いた残りの額に相当する消費税を収める。例えば2,000円で仕入れて、事業者が3,000円で販売した場合、事業者は売上から仕入れ分を引いた額の10%である100円を納税する。

ただし、売上高が1,000万円以下の小規模な事業者の多くは「免税事業者」で、この場合は消費税の納税を免除されている。納税が免除のため、消費者が支払った消費税300円のうち100円が納税事業者の利益となる。消費者と事業者の税負担額が不一致となるこの問題を「益税」とし、これを削減することもインボイス制度の狙いといえる。

日本の事業者の過半数が免税事業者

実は、日本の事業者の過半数は免税事業者で、財務省の調査では、国内の823万の事業者のうち、53%の435万者が個人の免税事業者、9%の77万社が法人の免税事業者で、その割合は6割を超えている。

免税事業者の仕組みは、平成元年(1989年)に消費税3%を導入する際に、中小企業の負担に配慮する形で導入された。以来、30年以上にわたり続いているが、消費税免税の特例措置の条件は年々厳しくなってきてはいる。

しかし今回のインボイス制度には「大きな転換が見られる」という。

それは、従来「免税事業者の数を減らす」に力点が置かれていたが、インボイス制度以降は「免税事業者だとビジネスし辛くなる」施策になっているということだ。

前述のように、企業側が税負担が増える免税事業者より課税事業者を選ぶ、あるいは企業から課税事業者になるよう免税事業者に促す事例は増えていくだろう。

政府では、インボイス制度の導入で513万の免税事業者のうち、課税事業者に転換するのが約161万者、新たな課税事業者の1事業者あたりの税負担額は154,000円、導入で生まれる増収見込みを2,480億円と試算している。

経理の負荷は間違いなく増大。迫られるデジタル化と認知拡大

国としての税収増は見込まれるものの、事業者や個人における対応負担はかなり大きい。発行した適格請求書の保存の義務化、受領した適格請求書(領収書や請求書等)の保存義務が生じるほか、「とにかく日々の記帳パターンが増大する」(freee)という。

新たに、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置がスタートし、請求書にもその記帳が必須となる。受け取る領収書等にも適格請求書の新たな書式に準ずる必要があり、対応すべきフォーマットが増大する。結果として、記帳負荷が大幅に増え、経理担当者等の負担も増えることは間違いない。

請求書の記帳パターン(インボイス前)
請求書の記帳パターン(インボイス後)
領収書の記帳パターン(インボイス前)
領収書の記帳パターン(インボイス後)

そのため、経理・会計などのデジタル化は非常に有効で、freeeもインボイス対応を強化している。

会計freeeや/freee受発注においては、適格請求書フォーマット対応や、請求書の電子取引の電子保存対応、AI-OCRの強化による領収書・請求書の自動分類や電子保存対応を進めており、作業社の負荷削減を図る狙い。

ただし、インボイス制度への対応は、一社の社内ツールや関連部署だけでなく、取引先・関係先などの多くの部署において対応や理解が必要となってくる。そのための準備ができているとは言い難い状況だろう。

また、導入推進の課題の一つといえるのが、インボイス制度導入に伴う免税事業者や中小企業側のメリットが「基本的にない」ということ。

デメリットとしては、免税事業者は取引停止のおそれがあり、また課税事業者へ転換した場合も税負担が増えるなど枚挙に暇がない。中小事業者においても、事務負担の増大、納税額の増加、税務判断の増加、免税事業者の取引停止のおそれ、保存する書類の増加(それに伴う電子化対応)などデメリットは多岐に渡る。

一方でメリットといえるのは、政府の補助金(IT導入補助金)でバックオフィス領域におけるIT化が実施しやすくなる程度。規模が小さく、日々の業務に追われる事業者らが、積極的に準備するインセンティブにかけている点は否めない。

インボイス制度導入を前に中小企業がやるべきことは? (freee作成)

領収書の電子保存義務化などを定めた1月の電子帳簿保存法改正では、企業や社会の対応準備の遅れなどにより2年間の猶予が設けられたが、インボイス制度の導入では、さらなる混乱も起こりうる。デジタル化による対応準備はもちろんだが、今後の推進には社会的な関心の高まりも必要となりそうだ。