こどもとIT

【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第22回

「正解のない問い」で生徒の発想を広げ、ICTで個性を表現する学びへ

〜聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭がめざす学びのアップデート④

これまでの学びの価値観が揺らいでいる今、学校が果たす役割は何か、学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先⽣⾃⾝の⾔葉をお伝えしていく。“答えはひとつ”が当たり前だった学校の学び。聖徳学園中学・高等学校の品田健教諭が挑戦する正解のない授業とは。
「正解のない問い」に向き合う授業は、学校の学びに馴染むのか

「正解のない問い」に向き合いながら、学びに対する既成概念を変えていく

“正解のない問い”という言葉を、最近よく聞きますよね。しかし、学校での学びといえば、正解が決まっていて、先生が生徒をその正解へと導き、テストで正解を再現できれば良い成績が取れる、そんなイメージではないでしょうか。

そんな学校で、これからの社会にあふれる“正解のない問い”にどう取り組めばいいと思われますか?

生徒に“正解のない授業がある”ことを実感してもらうために、聖徳学園で実践しているSTEAM教育のプロジェクトをいくつかご紹介しましょう。

頭を動かすよりまず手を動かすことを体感させる「ペーパータワー」

年度のはじめには、「ペーパータワー」というグループワークをよく行ないます。

2~3名のグループを組んで、数枚の紙と消しゴムだけを使い、数分の制限時間中に一番高いタワーを建てたグループが勝利、というゲームです。紙を切ったり折ったりするのは自由ですが、ハサミや糊も使えません。自分の「頭」と「手」を使って作りなさいと伝えます。

紙を積み上げて、てっぺんに消しゴムを載せる。制限時間内に高く作れたチームが勝ち

もちろん、テクノロジーやエンジニアリングを突き詰めれば理論上の「正解」はあるかもしれませんが、生徒たちは手作業で取り組むため、正確に理論通りのものを構築することはできません。その場、その時で「正解」を探るしかなく、グループ内で検討し、試行し、上手くいかない原因を見つけて対策を考える、そうやって進めていきます。

実際にやってみると、検討している間に制限時間を終えるグループ、意見が合わず分裂して一人で進めるグループ、終わっても話し合いを続けるグループなど、生徒たちのとても興味深い姿が見られます。しかも、事前には伝えずにゲームは2回繰り返して行ない、紙は再利用するルールのため、1回目で切ったり折ったりが激しいと2回目に影響します。合間にも「なぜ上手くいかなかったのか」「次はどうすればいいのか」を振り返る時間も取っています。

狙いとしては「あれこれ考えてるより、まずは試して修正していく」ということを知ってもらうことなのですが、生徒はきっとそれ以上に学んでくれているなと感じます。

最終目的は同じでも、さまざまな方法があることを理解する「レゴダック」

同じ結果になるとしても、その途中にはいろんな正解があるよ、ということを理解してもらうために、「レゴダック」というプロジェクトも行なっています。

これは、ペアになった者同士が互いに相手の手元を見ないで、レゴブロックで「同じアヒルを作る」というものです。まず一人がアヒルを作り、相手が同じアヒルを作れるように言葉だけで説明します。もちろん、お互いの手元を見てはいけません。制限時間を迎えたら、作ったアヒルを見せ合います。違うアヒルになれば何が問題だったのかを話し合ってもらいます。

互いの手元を見ないで、説明だけで同じアヒルを作る「レゴダック」。1回目は質問あり、2回目は質問なし、という具合に条件をどんどん厳しくしていく

そもそも、相手にレゴの配置や組み立て方をどのように伝え、レゴのパーツをどうやって指定するのがよいのでしょうか? 長方形や正方形、4×2や2×2など、呼び方も違えば、どちらがわかりやすいのかも人によって違うでしょう。最終的な目的は「同じアヒルを作る」ですが、そこに至る方法はいくらでもあります。私たちもヒントは教えられても、ただ一つの正解を提示することはできません。逆に、生徒たちの説明を聞いて「なるほどねえ」と感心することもしばしばです。

実はこのプロジェクトは、プログラミング教育の一環として、言葉をしっかり定義をした上で、ルールに基づいて正確に伝えることの大切さを学んでもらうことが目的です。しかし、言葉の定義やルールの正解は決して一つではない、ということも学んでもらっているのです。

正解をモヤモヤ考え続けることの気持ちよさに気づいてほしい「火星ゲーム」

「火星に一人残された宇宙飛行士を助けるのか?」という、この連載の第1回目で紹介した「火星ゲーム」も正解が一つにはなりません。あえて助けに行かないという選択も状況によっては正解になるでしょうし、どのように助けるのかも条件が変われば違ってきます。

「火星ゲーム」のモチーフになる映画を鑑賞して、自分ならどうするかを考える

もちろん、学びには決められた正解に辿り着く楽しさもあります。考えに考えて、スパッと正解を見つけられたら気持ちいいですよね。正解が一つにならないような問いは、自分なりの答えが出せても「なんか気持ち悪いな、落ち着かないな」というモヤモヤした気持ちになりがちです。

しかし、ふとした時に思い出してまた考えてしまう、寝る前に思いついて考え出したら寝られない。いつまでもモヤモヤと考え続けることも、実は「気持ちいい」と気づいて欲しいのです。

“一つの正解“から解放して発想を広げ、ICTでアートなアウトプットへ

このようにして一つの正解を求めないようになると、生徒の発想は広がりやすく、自分の個性を表現できます。以前はサンプルを見せると、それに寄せる傾向がありましたが、今は生徒も解放されてきたのか、サンプルとは違うものを考えるようになってきました。

たとえば、自分で学んだ外国語を紹介するレッスンムービーを作ったときのこと。これは、自分が習ったことのない外国語を選んで、翻訳サービスや無料語学レッスン、YouTubeなどを参考にして自分で学び、挨拶や自己紹介ができるようになったら、そこに字幕やBGMをつけて友達に教えてあげるレッスンムービーを作るというプロジェクトです。

生徒には毎年、教員の作ったサンプルや前年度の生徒のムービーを紹介していますが、少しずつ新たな工夫が増えています。基本的な例文だけでなく自分で考えたフレーズを取り入れたり、友達を加えてやりとりをしてみたり。「こんなのがあったら面白い」という生徒の発想には驚かされます。今年度はコロナ禍で自宅作業だったこともあり、兄弟姉妹や家族を紹介する生徒もいました。

ちなみに、正しい発音かどうかの判定はiPadがやってくれます。ショートムービー作成アプリ「Clips」を使えば、撮影しながら喋ったことが音声認識されて字幕で表示されるのです。先生に何度も発音を聞かせるのは生徒も気が引けるかもしれませんが、iPadは文句も言わずに何度でも聞いてくれます。そして「高校生だからこの程度でいいや」という忖度なしに厳しく判定してくれます。

Clipsの音声認識を活用して発音練習。生徒は何度もチャレンジして正しい発音を身につけます

また中間考査の前には、自分で教科や科目、単元を選んでワンポイント解説動画を作成しました。プレゼンテーションアプリ「Keynote」で背景に写す板書を作成し、説明動画を撮って、動画編集アプリ「iMovie」で合成するというものです。もちろん、説明できるようにしっかり自分で内容を理解していなければなりません。

どのような板書を作り、どのように説明するのか。生徒はApple Pencilで手書きして黒板風に仕上げたり、図形や画像を用いたニュースの解説風に仕上げたり、アニメーション機能を使ったりと、さまざまな工夫をします。またグリーンスクリーンを使って説明動画を撮影するときも、私たちが指示をしなくてもお互いに声を掛け合って、iPadでタイマーを出したり、Pagesを使って原稿を読みやすく見せてあげたり、撮影風景を記録として撮影したりと、いつの間にかグループで作業しています。

30秒の解説動画を作成。構成を考えて説明の台本を作成。説明動画を撮影してiMovieで合成する

撮影した動画と板書をiMovieで合成します。グリーンの背景部分が透明になって板書と合成された瞬間の生徒の驚きの表情は何度見ても嬉しくなってしまいます。これで終わりではなく、「もう一度撮り直して完成度を上げたい」という生徒もいますし、さらにBGMや効果音、字幕を入れてオリジナリティを加えたい生徒もいます。最後にGoogleドライブにまとめてお互いの作った動画を鑑賞できるようにします。

誰かに情報を伝えるには、まずは自分がしっかり理解しないといけないこと、相手に伝えるためには視覚的な情報を作り込むことも大事なこと、そしてどういう筋立てで説明するのかストーリーが大事なこと、こんなことを動画の作成を通じて気づいてくれているようです。中にはいかに先生たちが授業を苦労して作り上げているか分かったと言ってくれる生徒もいます。

教科横断型の学びを進めるには

STEAMのような教科横断型の学びを進めるにはどうしたいいのでしょう。初めは私も、理科や数学、美術や音楽の教員がチームになってやらないと無理だと思っていました。もちろん一緒にやるに越したことはなく、授業のクオリティも上がると思います。しかし、この発想は過去のものです。

今は生徒がiPadを使って自分で様々なことを学ぶことができます。それでもわからないことをどうしようかと考えて「専門の先生に質問してみよう」となります。専門の先生が最初から必要な知識を与えてしまったら生徒は自分で学ぼうとは思いません。教えられたことだけでプロジェクトをまとめてしまうでしょう。

授業に専門の先生がいない。先生はいるけれど、たぶんこの先生に質問しても専門教科ではないだろうから自分で調べてみるか。それでも、わからないから専門の先生に聞きに行ってみようかと思ってくれるのがいいのではないかと感じています。

“先生がいないと生徒は学べない”というのは、私たち先生の過信だと思います。先生が不要な訳ではありませんが、もう役割は変わっていくのです。学ぶための手段や方法を教えること、本当にわからなくて困った時に支援してあげること、これが今のSTEAM教育に取り組む教員の姿ですし、今後は教科に関係なく、こうした役割になっていくのだと思います。

先生がいないと学べない時代は終わり。生徒には学ぶ手段があり、先生は役割が変わる

今までたくさん教えてきた先生にとっては辛い時代になります。授業中、自分の話す時間が減り、生徒が自分で学びを進め、なんだか自分が知らないようなことも理解してしまうので寂しくなると思います。実際、今は授業中に私が説明をしている時間は極めて短いです。プロジェクトによっては「今日は一日ただ教室の中をウロウロしていただけ」と思うことすらあります。

しかし、ひたすら教壇から一方的に話していた時の、机に向かっている生徒とは全く違う、時には一人で集中して考え込み、時には友達同士で教え合ったり相談したり、それぞれの姿で学びを深めていく生徒の姿を見ると、一方的に講義をしていた頃とは異なる充実感が、今の私にはあるのです。

次回は最終回。生徒が社会とつながる取り組みを紹介します。

聖徳学園中学・高等学校(東京都武蔵野市)
東京都武蔵野市に位置する私立中高一貫校。同法人に幼稚園・小学校もある。正解のない問いに挑戦できる発想力や思考力、創造力をSTEAM教育を通して育成する。多様な人々とボーダレスにつながるためのグローバル教育にも取り組み「世界と共にある自分」を意識させる。学校情報化優良校認定、ユネスコスクール指定。
品田 健(聖徳学園中学・高等学校教諭)

聖徳学園中学・高等学校 Executive ICT Director・学校改革本部長。STEAM教育の開発を担当。国語科の出身だが現在は情報科所属。Apple Distinguished Educator Class of 2015,Adobe Education Leader 2020,iTeachers Academy 理事,SOZO.Edメンバー。趣味は読書と音楽と料理。音楽は弾くのも聴くのも。料理は作るのも食べるのも。