こどもとIT

【連載】1人1台時代の学校現場 第1回

BYODは生徒の当たり前、ストレスから解放して伸びる生徒の力

――湘南学園中学校高等学校の取り組み(後編)

2018年度にタブレットの機能や使い方を制限した“ガチガチiPad”で、1人1台をスタートした湘南学園中学校高等学校(以下、湘南学園)。その後、同校はiPad活用を進めるも、翌年には、生徒たちが好きな端末を使うBYODへと切り替えた。ガチガチiPadでは、生徒たちが”文房具“として愛着を持てず、1人1台のメリットも活かせないと判断したからだ。その当時のエピソードについては、前編「『ガチガチiPad』から、生徒の好きな端末のBYODにした理由は?」で紹介した通りだ。

同校ではiPadやWindows、Chromebookなど、BYODの環境でどのように学習を進めているのだろうか。またBYODによって学びはどのように変わったのだろうか。後編では湘南学園でのICT活用や、BYODの課題について話を聞いた。

湘南学園ではBYODの端末としてiPadを選んでいる生徒が多いという

湘南学園がBYODで提供した3つのICT環境、「G Suiteのアカウント」「ネットワーク」「教室での充電」

湘南学園(神奈川県藤沢市)では、2018年度にiPadによる1人1台をスタートし、2019年度の高校1年生からBYODに切り替えた。同校では生徒たちが使う端末の条件に、「G Suiteが使えるもの」「ディスプレイサイズがiPadミニ (7.9インチ) 以上」という2つを設けているが、これらを満たしていれば、基本的にはどんな端末を使ってもよい。生徒たちに人気があるのは「iPad」で、7割の生徒が選んでいる。続いて、「Surface Go」「MacBook」「Chromebook」の順となり、他のタブレットを使う生徒もいるという。

こうした同校のマルチデバイス環境を支えているのが、教育プラットフォーム「G Suite for Education」だ。同校では、生徒全員にG Suiteのアカウントを配布し、生徒はそれぞれの端末からアクセスして使用する。iPadを持つ生徒は、「Apple ID」のアカウントが必要になるが、これは生徒個人で取得し管理するという。

また、2018年度に導入した学校支給のiPadではインターネットへのアクセスも厳しく制限していた同校であるが、BYODをきっかけに、生徒たちが自由にネットの情報にアクセスできるようにした。もちろん、犯罪に関わる有害情報や違法サイトなどはフィルタリングで制限し、安心・安全な環境を整備している。

さらに興味深いのは、湘南学園では各教室に生徒たちのデバイスを充電できる環境を用意していることだ。筆者の取材経験では、タブレット導入校の多くは、“充電は家でするもの。忘れた場合は生徒の責任”という話をよく聞くが、同校では家庭での充電や、モバイルバッテリーの使用を勧めつつも、生徒たちが学校でも気兼ねなく充電できるようにしている。

湘南学園では、各教室に生徒たちがデバイスを充電できる環境を用意している

これについてICT主任の山田美奈都教諭は、「BYODで文房具として活用する以上、生徒たちの利活用が進めば進むほど良いと思っています。一方で、さまざまなスペックの端末が混在しているので、学習に支障をきたさないようバッテリーなどの必要な環境は学校で提供したいと考えています」と述べる。小学校の教室に鉛筆削りがあるのと同じような感覚で、充電スペースが設けられているイメージだといえば、分かりやすいかもしれない。

BYODで学習の利便性を高め、生徒たちが自分で“選べる”学習環境へ

湘南学園ではG Suite for Education のなかでも、教材配信や連絡に活用できる「Google Classroom(以下、Classroom)」の使用頻度が高い。課題の配信や宿題の提出など、さまざまな教科で使用されているほか、クラスの連絡や情報共有にも活かされている。このようなやり取りは、今まで紙のプリントで行われていたが、Classroomを使うことで、音声データや動画を用いた課題が出題できるようになり、学習の選択肢も広がったという。

数学を担当する植田卓真教諭も、Classroomを活用している。同教諭は、数学では単元によってClassroomの利用がむずかしいと話しつつも、オンラインで課題の配信や回収ができるようになったのは、学習の利便性を高めると話す。「紙のプリントは、整理できる生徒もいれば、苦手な生徒もいます。しかし、Classroomを使うことで、すべての教科のプリントがクラウド上に保存され、場所に関係なく学習に取り組めるようになりました」と同教諭はメリットを語る。

高2学年主任・数学科 植田卓真教諭

山田教諭も、教師と生徒のやり取りや学習内容がすべてGoogleのクラウド上にあるのが良いと話す。「教師にレポートを提出しても生徒たちは手元で見られるので指導しやすくなりました。実際に生徒とのやり取りも充実し、再提出も増えています。ICTを使うと人間のつながりが失われるという意見も聞きますが、そんなことは一切ありません」(山田教諭)。

湘南学園では、授業のスタイルも変化しつつある。たとえば保健の授業では、教師が教えず、生徒たちがペアを組んで教師役になり、1時間の授業を受け持つというのだ。この授業は、生徒からの反応も良く、生徒たちの工夫によって楽しい授業が行われたようだ。保健の教師からは事前に「端末を使って教えてもいいし、使わなくてもよい」との指示が出たようだが、生徒全員が端末を使用して教える方を選択。生徒たちは、仲間に理解してもらおうと、スライド作りも協力して取り組んだという。

保健の授業風景。生徒たちが教師役になって1時間の授業を受け持った

ほかにも山田教諭は、提出物に対しても生徒の工夫や個性が見られるようになったと話す。現代文の授業では、ひとつの課題に対してもGoogleドキュメントやGoogle スライドを使う生徒がいるなど、まとめる方法はさまざま。総合学習においても、動画や写真を用いたり、文字でまとめたりと生徒は好きな方法でアウトプットをする。山田教諭は「学習の内容にもよりますが、基本的には、生徒たちが文房具として使うという発想を大事にしています。それぞれの得意を活かして、使いやすいツールで学習に取り組んでほしいです」と語った。

現代文を受け持つ山田教諭の課題に対して、生徒たちが提出したレポート。Google ドキュメント、Google スライドなどアウトプットの形はさまざま

コロナ禍の休校期間中も、BYODの学年に関しては、非常にスムーズにオンライン授業に切り替えられたようだ。最初は1時間からスタートし、最終的に午前中に3時間程度の学習、午後は特別講座という形で実施した。「オンライン授業は安心・安全・適度にこだわりました。リアルな授業をオンラインに置き換えることはせず、マイクオフ、画面オフにした時点で途切れてしまうような、教師の話を受け身で聞くだけの授業はしないと考えていました。同時双方向型の授業は教師への負担度も大きく、オンラインのメリットを活かした学習に取り組もうと考えていました」と山田教諭は語る。

一方で、生徒にも教師にも好評だったのが、学年や教科に縛られないオンライン特別講座だったという。これは教師が今までやってみたかった学習を企画したもので、「大学生とディスカッションしてみよう」や「はじめての3Dモデリング講座」、「力学について物理と数学の先生が話してみた」、「家庭料理検定にチャレンジしてみよう」など、普段の授業では受けられないような面白い講座が用意された。BYODの環境になったことで、教師自身もできることが広がり、自由な発想で“やってみよう”と挑戦できる機会が生まれているようだ。

コロナ禍の休校中に実施された「コミュニケーションを通じて知見を深めるwith大学生」のオンライン特別講座

生徒たちはBYODをどう思っている?

湘南学園の生徒たちは、BYODの取り組みについてどのように思っているだろうか。2人の生徒に話を聞くことができた。

高2・中村玲王さん。デジタル教科書用にAmazon「Fire HD」の購入も検討中

高校2年生の中村玲王さんは、「iPad Pro」と「Lenovo ThinkPad X1 Carbon」の2台を学校で使用している。中村さんはこの2台を選んだ理由について、「iPadは直感的に使えるメリットがありますが、高度な編集には向いていません。一方でWindowsは拡張性が優れているので深いこともできるのが良いです」と学習によって端末を使い分けていることを教えてくれた。

中村さんはBYODについて、「以前は一律配布のiPadだったので、生徒は先生が言った方法や与えられた時間でやらなければなりませんでした。今は自分で選べるようになったので、自分のアイデアを形にしやすく、表現したいものも増えてきました」と語る。一方で、「自分の好きなときに端末を触れる環境なので、生徒側も自分を律することが大切です」と語ってくれた。教師から言われるのではなく、自分たちで意識を高めていくことが大事だというのだ。

高3・山本航世さん。山本さんは“ガチガチ”iPad時代も体験している

高校3年生の山本航世さんは、「Surface Pro」を使用。パソコン部でプログラミングをするため、Windowsを選んだ。山本さんは湘南学園での授業について、「情報の授業が面白いです。テーマを与えられて、3Dやプログラミングで自分の好きなものを作れるのが良かったです。また休校期間中はオンライン特別講座で、離れている大学生とディスカッションができたのも良くて、オンラインがあるからこそできると思いました」と語ってくれた。

一方でBYODの課題点については、値段の高い端末を持っている生徒と、そうではない生徒で金銭的な差が生まれてしまうことを指摘する。「自分もSurfaceを買う時は、自分でいくらかお金を出しました。自分が使いたい端末を選べることはいいことだけど、親の考え方も影響するね、と友達とも話しています」と山本さんは、正直に語ってくれた。

我が子の目的に合った端末を選べるICTに詳しい保護者から、決められた端末を購入し管理運用も学校に任せたい保護者まで、家庭の事情や考え方はさまざまで、正解があるわけではない。こうしたICTに対する家庭の考え方の違いをどのように受け入れていくか、湘南学園に限らず、BYODに挑戦する学校が避けては通れない課題のひとつだ。またBYODに取り組む学校がさらに広がれば、文房具としての端末選びをどうするのか、保護者も考えていく必要がある。

生徒が変わったのではなく、本来の姿を出すようになっただけ

ガチガチiPadからBYODに方向転換した湘南学園。BYODになってから、学校の学びや生徒たちはどのように変わったのだろうか。

写真左から)ICT主任・国語科 山田美奈都教諭(Google認定イノベーター)、BYODを実施した高2学年主任・数学科 植田卓真教諭、入試広報主任・ICT副主任・情報科 小林勇輔教諭(Google認定イノベーター)

山田教諭はこれについて、「BYODによって“生徒たちが変わった”と言いたいところではありますが、生徒たちはそもそもスマートフォンがある生活をしているので、BYODでできることは当たり前。むしろ、今まで学校がかけていたストレスから解放されたと捉える方が正しいと思っています」と語る。

聞きたいときに教師にメールができる、知りたいときにネットで調べられる、今の生活で当たり前にできることが、今までの学校ではできなかった。そのストレスがBYODの環境で減りつつあり、生徒たちのできることが増えているのが一番の変化だというのだ。「今は生徒たちの方から、“先生、空いている時間にミーティングしてもいいですか?”とカレンダーでスケジュールの通知が来るようになりました。生徒たちが何かをしようとするときのハードルが下がってきていると感じています」と山田教諭は語る。

生徒とのミーティングもGoogle カレンダーでセットアップ。今までは、生徒が教師のいる時間帯をねらって職員室まで出向き、教師の都合を聞くのが当たり前だった。しかし、教師がいない場合は、生徒たちが何度も足を運ぶことに。ツールを上手くつかって、効率的に動けるようになったことは学校から見れば変化であるが、スマホ世代の生徒たちから見れば当たり前のことだと山田教諭は指摘する。

入試広報主任・ICT副主任の小林勇輔教諭も山田教諭と同様に、生徒たちがデバイスを使うようになったことで、学校の当たり前が変わったと話す。「生徒たちもデバイスを使えば、さまざまなことが便利に、効率的にできるようになると分かり、今は自分の端末をもっと上手に使えるようになりたいと思っていることがよく分かります」と話す。また植田教諭は、「紙とペンによる勉強が苦手な生徒たちがデバイスを学習に活かすことで、学びに向かう力がついたと思います」と手応えを語る。BYODになり、生徒たちが自由に取り組みやすい環境に変わったからだというのだ。

メリットばかりに見えるBYODだが、学校共通の端末ではないデメリットはないのだろうか。山田教諭はこれについて、「当初は、生徒の端末によって起きるトラブルが異なるので大変でした。しかし、それもいつの間にか慣れていきます」と話す。学校で端末を運用する場合は、教師が生徒全員の端末を管理し、故障や不具合もすべて学校側が対応しなければならない。しかし、BYODであれば教師と生徒と家庭の三者が力を合わせてトラブルを解決できる。また生徒にとっても、大学や社会でPCを使うことが当たり前の今、自分で自分の端末を管理するスキルを身につけることにもつながる、というわけだ。

今後の抱負について山田教諭は、「オンラインを活かした学びの機会を増やしていきたい」と語ってくれた。卒業生とつないでオンラインの大学訪問をしたり、大学生や社会人による進路相談などを企画していきたいという。「教師だけのリソースでは世界が狭くなりがちなことも、オンラインを活用すれば卒業生や社会人とのつながりができます。学校を開くための手段としてオンラインを活用し、生徒たちの世界を広げていきたいと考えています」(山田教諭)。

オンラインを活用した生徒発案のプロジェクト「STAYTUBE」の一場面。生徒たちがYouTubeLiveで新任の教師を紹介した。湘南学園では生徒たちのアイデアを活かした企画も取り入れ、学びの場が変わりつつある

湘南学園のように、生徒が自分で選んだ端末を使うBYODを実施している学校は日本全国を見渡してもまだまだ少なく、“特別な学校の特別な取り組み”に感じるかもしれない。しかし、もはや高校生ともなると、生徒たちは機種の異なるスマートフォンを持ち、仲間同士でやり取りしながら生活で活用している、という現実がある。生徒たちが生活レベルで接するICT活用の “当たり前”が学校の中にあること、それが大事なのだと湘南学園の取り組みが教えてくれる。

1人1台時代をBYODで過ごした生徒達が学び修める来年度、どのような成果を手にしているのか今から楽しみだ。

この連載では、1人1台環境で学びのアップデートを目指す教育関係者へのインタビューから、GIGAスクール後の利活用のヒントを探ってゆきます。

神谷加代

こどもとIT編集記者。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。