こどもとIT

【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第2回

生徒が自由に使える「当たり前のICT環境」が、コロナ禍から学びを守る!

〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭がめざす学びのアップデート②

学校現場は今、これまでの学びの価値観が揺らいでいる。学校が果たす役割は何か、今までの学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先生自身の言葉をお伝えしていく。「生徒は未来から預かった留学生」と語る校長の力強いバックアップを受け、2013年に生徒の利用を制限しないiPad導入を実現した近大附属高等学校の乾武司教諭。第2回の本稿では、1人1台環境の実践がいかにコロナ禍で生徒の学びにつながったのかを紹介する。
近大附属高校、休校中のオンライン授業の様子

1人1台とクラウド環境があるから、突然の休校でも”なんとかできる”と思えた

「来週から生徒を学校に登校させてはいけないって?」

2020年2月27日、出張で訪れた学校の先生や教育委員会の方々と食事をしながら、これからの教育について話をしているときに、その一報は届きました。

新型コロナウイルス感染症対策本部からの要請で、3月2日から24日までの約1ヶ月間を臨時休校にするというのです。全国レベルで学校がこんな長い間、休校になるなんて前代未聞の出来事でした。

その知らせを聞いて、その場にいた皆が急にバタバタと慌て始めました。「授業はどうしよう?」「卒業式はできるの?」「生徒への連絡はどうすればいい?」「生徒に配るプリントを急いで印刷しなきゃ!」などなど、さっきまで語り合っていた“これからの教育”どころの騒ぎではありません。まさに、明日からのことでいっぱいで、私はこのときの様子が未だに脳裏に焼きついています。

一方、私はというと、大変なことになったという認識はあったものの、「なんとかできるだろう」と楽観的に考えていました。近大附属高校は、すでに1人1台で自由に使えるiPadが生徒全員の手元にありましたし、連絡するための手段もiPad 導入当初から整備し、日常的に活用していたからです。あとは生徒たちに、学校からの連絡に注意するように伝えておけば、どうにかなると考えていました。学年末テストがすでに終わっていたことも幸いでした。

実際に休校開始の前日に、学校から生徒たちへ連絡したことは、「これから長期間の休校になりますが、学校からの連絡はいつも通りサイバーキャンパス(本校の教育プラットフォーム)を使うので、毎日注意して見てください」という内容だけでした。

近大附属高校が利用しているプラットフォーム「CYBER CAMPUS(サイバーキャンパス)」

その後、連絡や配布物、教材などはサイバーキャンパス経由で配信し、必要な授業はZoomやGoogle Meetなどのビデオ会議システムを使うようになりました。これまで生徒たちは、これらのツールを使ったことはありませんでしたが、アプリをインストールする手順や使い方のレクチャー、オンライン授業を実施する日時など、すべてサイバーキャンパス経由で連絡し、自分たちで準備してもらいました。何気ないことですが、こうしたICTスキルひとつをとっても、普段から生徒たちが自由にiPadを使っていたからこそ、身についたと思っています。

正直にいえば、この期間、休校だからといって何か不自由を感じたことはありませんでした。強いて言えば、卒業式を盛大に行うことができず、卒業生たちに寂しい思いをさせてしまったことが心苦しかったのと、生徒がひとりもいない学校に強い違和感を持ったことです。年度末の保護者懇談もZoomなどで実施できたので、業務的に欠落したものは全くと言ってありませんでした。

休校中も生徒たちとオンラインでコミュニケーション

休校中のオンライン授業で大切にした4つのポイント

しかし、少しずつ休校期間が延長され、4月初めにゴールデンウイーク明けまで臨時休校を延長するという発表が出たときには、「これは大変なことになった…」と思い、震えました。

新学期の初めから生徒が登校することなく1ヶ月の休校に入る。しかも休校は、この先いつまで延長されるか予想できない。こんなこと、戦後教育史上初めての事態で、まさか自分が直面するなんて思いも寄らなかったからです。

まず学校として、生徒に何をしなければいけないのかを考えました。そして、「登校できない生徒たちの精神的な不安を少しでも軽減すること」を最重点目標としました。特に新入生に対しては、「君たちは近大附属の一員で、学校がきちんとサポートする」という姿勢を示す必要があると考え、Zoomで朝のホームルームを毎日やると決めました。

これは、生徒を管理するのが目的ではなく、担任が中心となって生徒の心のケアにあたり、学校やクラスというコミュニティへの帰属意識を高めることが目的でした。生徒にとって、学校は“社会”であり、そこに自分の居場所があると感じられることは重要なことです。また新しい学年になって、生徒たちにとっても友達との人間関係や教師との関係を築くのに大切な時期であり、日々のコミュニケーションはとても大事だと考えていました。

続いて、本校の充実したICTインフラを活かして、休校期間中も生徒の学びを止めないよう「オンライン授業」のアウトラインを設計しました。このアウトラインの中で強調したのは、次の4つです。

・課題を出しすぎないこと
・リアルタイムのオンライン授業は極力減らすこと
・いつも通りの授業形態に固執しないこと
・生徒たちの感想をしっかり聞くこと

先⽣⽅は⽣徒のことを思うあまり、ついつい過剰な課題を出しがちです。ましてや今回は、前代未聞の⾮常事態に不安が蔓延していました。そのため、課題は先⽣が考える7〜8割くらいでお願いしますと伝えました。

また家庭のWi-Fi環境も異なるので、リアルタイムでのオンライン授業は生徒によっては負荷が大きすぎることがあります。そのため、「できるだけリアルタイムのオンライン授業はやらないでください。必要な場合は、視聴できない生徒に配慮してください」とお願いしました。自分の講義をリアルタイムで流すのではなく、簡潔な動画にまとめるなど、生徒の負担軽減を最優先してくださいと、併せてお願いしました。

休校中のオンライン授業の様子

なお本校では、オンライン授業に関して生徒たちの感想を聞くために、かなりの頻度でアンケートを実施しました。私たち教員にとっても、こんなに長い間、オンライン授業に取り組むことは初めての体験なので、生徒の実態を知りながら授業改善を重ねていくことが必要だったのです。具体的には、授業や教材の適切な分量を把握したり、生徒たちの理解度や学習の定着度などのデータを集めました。その結果を踏まえて、その都度、修正を加えながら、最終的にはほぼ不満が出ない状態まで改善することができました。アンケートを重視し、さまざまなデータを集計できたことは、授業改善にとても有効だったと考えています。

アンケート結果では、先生たちのいろいろな工夫が生徒にも伝わっているのがとてもよくわかりました。「授業内容を簡潔な動画にまとめてもらえるのはとてもありがたい」といったコメントも多く見られました。オンライン授業が進むにつれて「課題の量が少し多いと思う」生徒が若干増えてきましたが、最終的な満足度調査では、「とても満足」「満足」が60%を占め、「普通」まで合わせると95%となり、生徒たちはそれなりの効果を実感してくれたようでした。

オンライン授業を通して、教育活動を見直すきっかけに

そうした3ヶ月のオンライン授業期間を経て、6⽉15⽇から通常授業が再開しました。生徒たちはとても元気に、そして楽しそうに登校し、新しい生活様式に戸惑いながらも学校生活を満喫しているように感じます。学習面に関しては、休校中も学びを止めることがなかったので、例年とほぼ変わらない進度で進めることができています。

未曾有の休校でしたが、振り返ってみると今までの学校活動では得られない気づきも多くありました。ICTに関しては、生徒の手元にある自由なiPadと、いつでも安心してつながる通信手段があれば、学習を進められることがわかりました。

一方で、生徒たちにとってリアルな学校は、本当にかけがえのない場所なのだと改めて気づかされました。だらだらと何時間も友達同士でお喋りをしたり、馬鹿話で大笑いしたり、クラブ活動で自分の限界に挑戦したり、誰かに負けて悔しくて泣いたり、好きな子の姿を見かけてときめいたり、学校はキラキラと輝く時間の詰まった青春を過ごす大切な場所なのだと痛感しました。オンラインでも授業はできますが、生徒たちにとって学校に来る価値は、まだまだ多くあるのです。

教員研修の風景。右写真は教員たちがZoomの研修を受けている

また、オンライン授業を全科目の教員が体験したことは、本校の教員にとって非常に大きな財産となりました。各先生方のICTスキルが格段に向上したのはもちろんですが、授業の内容をどのように伝えれば生徒たちに届くのかを試行錯誤する過程が生まれ、自分の教育活動をもう一度見つめ直すことができたからです。

こうした教員同士の共通体験を通して、教員の間で学びに関する議論が頻繁に行なわれるようになりました。知識を伝えるだけの授業なら、学校に来なくても動画配信で済むのではないだろうか、生徒たちが学校に来る目的は何か、オンライン授業の利点は何か、という具合に、教員同士で本質的な学びについて語り合えるようになったことが、学校の最も大きな成長だろうと思っています(第3回につづく)。

近畿大学附属高等学校(大阪府東大阪市)
2013年度に高校1年生1048名に対して、iPadによる1人1台環境を実現。アプリのダウンロードやウェブサイト、SNSへのアクセスに制限を設けず、生徒による自由な使い方を認めるiPadの運用ポリシーで注目を集めた。現在は、中学・高校合わせて約4000台のiPadが稼働する。2014年から3期連続で、アップルが認定する先進的な学びに取り組む教育機関「Apple Distinguished School」にも選ばれている。
乾 武司(近畿大学附属高等学校 教育改革推進室室長)

高等学校、塾、予備校等の講師を経験後、平成14年より理科専任教員として近畿大学附属高等学校に勤務。電算室主任として校務学績管理システムの構築や教科「情報」の設置に携わる。学内情報のデータベース化・ペーパーレス化とともに、 lCT教育環境のアウトラインデザインに取り組む。 平成31年度から教育改革推進室室長。Apple Distinguished Educator 2015。