教員のICT活用 - こどもとIT

現役教師に聞く、海外研修で受けた衝撃と授業へのICT活用実践

――マイクロソフト認定教育イノベーター「MIEE」インタビュー

マイクロソフトは長年、グローバルで教育分野に力を入れている。なかでも同社の強みは、「MIEE」と呼ばれる教育者向けのプログラムをグローバルで展開しているところだ。同プログラムでは、国や地域、校種や教科を超えて教育者同士がつながり、一大コミュニティを築いている。マイクロソフトが取り組むMIEEの魅力とはなにか。実際にMIEEに認定された教師たちに話を聞いた。

写真左から、今回話を伺った熊本大学教育学部附属小学校 松山明道教諭、大分県立情報科高等学校 佐藤正男教諭

地域や校種、教科や立場を超えて、教育者同士がつながるコミュニティ

マイクロソフト認定教育イノベーター(以下、MIEE)とは、教育現場でICT活用の推進に取り組む教育者を認定し、その活動を支援するプログラムだ。米マイクロソフトが教育分野において最も注力するプログラムで、世界各国、グローバルで展開している。対象となるのは、初等中等教育および特別支援教育を行う学校で、ICT活用を推進する教育関係者。毎年1回、募集期間が設けられ、2018~2019年の同プログラムには、世界で約8800名以上、日本からは200名近くの教育者がMIEEに認定された。

2019~020年度マイクロソフト認定教育イノベーターの募集は既に始まっており、7月13日が募集締め切りだ

MIEEに認定されると、実践機材や製品ライセンスの貸出、各種勉強会や公開授業などの支援が受けられる。また優れた実績を残した教育者に対しては、「Microsoft Education Exchange(以下、E2)」と呼ばれる海外研修への参加も用意されている。同研修は毎年、世界各地で場所を変えて開催され、2019年はフランスのパリで行われた(詳しくはこちらのレポート記事を参照)。

このような支援が受けられるMIEEであるが、教育者にとって最もメリットとなるのは、自身の教育観を広げられることだ。一般的に、教育者のコミュニティといえば、学校内や地域、教科や校種など、範囲が限定されがちであるが、MIEEの場合は、そうした括りに関係なく“ICT”という共通点で教育者同士がつながる。そのため、さまざまな教育者同士の交流が行われており、こうした環境に身を置くことで自身の教育観を広げていけるというのだ。しかも、グローバル企業のマイクロソフトが支援するプログラムだけあって、国を超えて教育者同士がつながるのも魅力のひとつ。MIEEでは、オンラインコミュニティを築き、世界中の教育者たちが交流し、情報発信・共有できる場も提供している。

海外研修で学んだ授業スタイルを小学校に取り入れて、児童の主体性を引き出す

ここからは、実際にMIEEに認定された教師の生の声を紹介しよう。1人目は、2015年のMIEEに認定された熊本大学教育学部附属小学校 松山明道教諭だ。松山教諭は当時、在籍していた小学校がマイクロソフトの認定する教育ICT先進校「Showcase School」に選ばれ、それがきっかけでMIEEに応募したという。

熊本大学教育学部附属小学校 松山明道教諭

松山教諭はMIEEでの活動を振り返り、海外研修のE2に参加したことを一番インパクトが大きかった出来事として挙げた。「E2では、テクノロジーを使うことを前提として、学びをどう展開するのか、授業デザインについて学べたことが大きかったです。自分の教育観も大きく変わりました」と松山教諭は述べた。

なかでも松山教諭が一番印象的だったのは、海外の教師たちと一緒に取り組んだグループワークだったという。それは、与えられたテーマについて、グループで協力しながらひとつの授業プランを作る活動であったが、日本の教育現場がめざす「主体的・対話的で深い学び」や課題解決型学習を体験できるものだったというのだ。

「最初はチームの意見がまとまらず苦労しました」というグループワークも、「なんとかしなければと、私が作った授業デザインを見せたところ、メンバーも賛同してくれました。その後すぐにチームでスライドを共有し、同時編集で足りない部分を補足して仕上げました」という。「やっていくうちに、このチームに貢献したいという想いがだんだん芽生えてきて、グループワークではこういう原動力を子どもたちに与えることが一番大切なのだと思い直しました」と振り返る。

松山教諭が参加した海外研修「Microsoft Education Exchange」では、国籍の異なる教育者がひとつのチームになり、与えられたテーマに基づいて一緒に授業プランを作成した

E2から戻った松山教諭は、その後、自身の授業でもグループで取り組む課題解決型学習のスタイルを積極的に取り入れた。たとえば、4年生の総合的な学習の時間では、「街の新しいユニバーサルデザインを考えよう」をテーマに実施。どのように課題を進めるかは子どもたちに委ね、松山教諭はルーブリック(評価基準)を提示して、あとはサポート役に徹したという。

現在は、理科の授業の中で課題解決型学習を実施しているという松山教諭。たとえば、5年生の電磁石に関する単元では、「ブザーの音を強く鳴らすためにはどうすればいいか」をテーマに、児童たちは電磁石の強さや導線の巻き数、電流の関係を調べる実験に取り組んだ。分からない部分はタブレットで調べたり、実験のプロセスを動画に撮影して振り返ったりと、自ら工夫して学習を進めるスタイルだ。

5年生の電磁石実験の様子

「課題解決型学習では、子どもたちが必ず失敗をするのですが、そこを大事にしてほしいと思っています。ある児童の感想に“実験では上手くいかなかったけど、諦めないことを大切にがんばりました”と書いてあり、こういう気持ちを学習の中でもっと育てていきたいと思っています」と話してくれた。

海外のペーパーレス化に衝撃を受け、クラウドと生徒のスマートフォンを活用した授業を実践

続いて紹介するのは、松山教諭と同じく、2015年にMIEEに認定された大分県立情報科高等学校の佐藤正男教諭だ。佐藤教諭は、学会を通して知り合った教師がMIEEに応募したのを知り、自分もやってみようと思ったという。当時はMIEEについて何も知らなかったが、普段からさまざまなソフトを自作していた佐藤教諭は、マイクロソフトの教育支援プログラムに興味を持ったというのだ。

大分県立情報科高等学校の佐藤正男教諭

佐藤教諭もMIEEの活動の中で、海外研修のE2に参加したことが一番印象に残っていると話す。「課題解決型学習のやり方が全く違っていて驚きました。日本では授業は教師が行いますが、アメリカでは教師以外の人も一緒に授業に入っていました。また、現地で視察した学校全てがペーパーレスだったのにも驚きました。海外に行って初めて今までと違った見方が出来るようになり、MIEEに感謝しています」と当時を振り返る。

佐藤教諭も参加したEducation Exchangeにて、グループワークを発表している様子

佐藤教諭はE2の帰国後、ペーパーレス化が進んだ海外の学校に衝撃を受け、日本でも同様の取り組みができないかとクラウドを活かした授業に挑戦した。具体的には、年間の授業内容をすべてデジタルコンテンツにして「OneNote」で共有したり、宿題や日々の連絡事項の伝達をクラウド経由で行うようにシステムを構築。幸い、佐藤教諭が受け持ったクラスは、生徒のスマートフォン所持率が100%であったことから、こうした取り組みがスムーズに進められたという。

佐藤教諭は「学校としては校内におけるスマートフォンの利用は制限していますが、私は生徒たちに、学習用途としてもスマートフォンが使えることを知ってほしいと思っています」と話す。「板書内容をスマートフォンから見られるようにすると、生徒はノートに書く必要がないので聞くことに集中できますし、手元で大きく見ることもできます。また生徒からは電車の中でデジタル教材を見ることができて助かっているという話も聞きます。テクノロジーを活用することで学び方が広がることを知ってほしいですね」と、実際にスマートフォンやテクノロジーを授業に活用することで得られるメリットを語ってくれた。

佐藤教諭は年間の授業内容をすべてデジタルコンテンツに収録しており、動画は全部で200近くになるという。生徒たちはスマートフォンでいつでも、どこでも見ることができる

大分県立情報科高等学校は、佐藤教諭のこうした取り組みも評価され、2018年9月にマイクロソフトスクールの認定校にも指定された。佐藤教諭は「テクノロジーを活用して授業をすると、生徒から“先生の授業がよかった”など嬉しいことを話してくれます。そういうことを聞くと、もっと良くしたい、もっと頑張ろうと思えるので、そんな気持ちで今までやってきました」と語ってくれた。テクノロジーありきではなく、生徒のために頑張りたいと思う気持ちがMIEEでの活動の支えになっていたようだ。

MIEEのメリットは「人の交流」と「情報量の多さ」

最後に、松山教諭と佐藤教諭にMIEEに参加してよかったことは何かを聞いた。

松山教諭は、「ICT活用に関する情報や実践例に多様に触れられることもメリットですが、MIEEに選ばれる教師たちは、そもそも授業の実践自体に魅力がある方が多く、そうした先生と気軽につながって交流できることが一番のメリットでした」と語る。立場や教科を超えて、同じ目線で語ることができたり、互いの学校を訪問したりと、さまざまな交流が自身の糧になったというのだ。松山教諭は「こういうプログラムに参加する教師は皆、ICTに長けた人だと思われがちですが、必ずしもそうではありません。私達はおそらく、ICTに関して失敗をたくさん経験した教師たちであり、そういう目で見てもらえる方が嬉しいですね」と語った。

また、佐藤教諭は「MIEEになってから情報の入り方が全く変わりました」と語る。それまでは情報源が限られていたが、今は、MIEEのコミュニティを通して新しい製品情報や、他の教師の取り組みを知ることができるようになったという。「MIEEに参加する前は、ICTの高い技術を求められるのではないかと思っていましたが、そうではありませんでした。むしろ、他の先生が実践されている面白い授業を知って、自分もやってみようと思うことが増えました」と述べた。

授業を良くしたい、学校を良くしたい、子どもたちのためにもっとがんばりたい。そんな想いを持ちながらも、どうしていいか途方に暮れる教師は全国にたくさんいる。そうした想いを持つ教師たちをつなぎ、教育を前進させるべく、さまざまな活動を支援しているMIEEは、現在2019~2020年度の参加教員を募集中だ。この記事が、そうした想いを持った先生方の一助となれば幸いである。

2019-2020年度 マイクロソフト認定教育イノベーター募集概要
対象者日本国内の初等中等教育 および 特別支援教育を行う学校にて ICT 活用の実践を行っている教育関係者
申込締切2019年7月13日(結果連絡は同8月21日)
応募方法Microsoft Educator Communityへの参加
②活動内容をSwayにまとめたものか、代用できるWebページのURL
ビデオ(動画)形式の資料(授業風景でなくとも、今まで撮った写真をつないだものなどでOK)が必要
支援内容実践機材の貸出、製品ライセンスの貸出、各種勉強会、公開授業の支援、発表登壇の機会提供など

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。