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好調「新NISA」で一歩先の活用を考える 5つの疑問とテクニック

新NISAがスタートして3カ月が経ちました。この間、日経平均は一時4万円を超え、米国の代表的株価指数であるS&P500指数も過去最高を更新しています。制度スタートとともに投資した人も、投資額を増やした人も、現在のところ大満足といったところではないでしょうか。まさに新NISAは幸先の良いスタートを切ったといえます。

ただしまだ「何に投資したらいいか分からない」という人もいるでしょう。1月末時点で新NISA 476万口座を持つ楽天証券によると、うち残高がある口座の比率を示す稼働率は65.4%でしかないそうです。新NISA口座は開いたものの、3人に1人はまだ投資は行なっていないのです。

圧倒的な人気を誇る「オルカンに投資する」という人も多そうです。三菱UFJアセットマネジメントが商標を持つ「オルカン」こと「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は、1月単月で3,400億円の資金が流入しました。3月19日時点では2兆7,759億円の規模を誇ります。これは一般に販売されている投資信託の中で、「eMAXIS Slim米国株S&P500」に次ぐ第2位の規模です。

ただし誰も彼もがオルカン推しというわけではありません。米国株式インデックスの代表であるS&P500の人気は高く、パフォーマンスを比較するとS&P500のほうが上のことも多いため、「オルカンかS&P500か」といった議論もネット上では話題になっています。

こうした新NISAを取り巻く状況の中、少し制度を深堀りして、少しでも合理的な投資手法のヒントを提供しようというのが本記事の趣旨。少々マニアックながら、新NISAの根本的な疑問に迫ってみましょう。

新NISAの基本と特徴

1月にスタートした新NISA。その特徴は、投資で得た“利益“に税金が掛からないことです。加えて、期限が「無期限」となったこと、また新たに年間120万円までの「つみたて投資枠」、年間240万円までの「成長投資枠」が新設され、生涯投資枠として合計1,800万円まで拡大したことが主なポイントです。

新NISAの概要(出典:金融庁)

従来のNISAは年間120万円/5年=600万円、つみたてNISAは年間40万円/20年間=800万円だったので、大幅な引き上げになります。

「生涯投資枠(1,800万円)の中で、より長期的に非課税のメリットを受けながら資産運用してほしい」というのが新NISA制度が目指すところです。ざっくりと政府の狙いをまとめると、「証券口座(とNISA口座)を作って、余裕資金の範囲で積立投資をして、ご自身で判断してください。利益は非課税なので、長期的には一定の資産形成ができるでしょう」といったものです。

そのため、新NISAを始める人向けの一般的な説明は、「生活費以外の余裕資金で、低コストな投資信託などに積立投資しましょう。期限が無期限なので、長期間の投資により資産形成が期待できます」というものです。前述の「オルカン」も全世界株式インデックスに分散投資できて、低コストで長期の積立投資に向いていることから人気を集めています。

長期・積立・分散がNISAの基本(出典:はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック)

ただ、新NISAの前からある程度投資経験がある人は、少々は物足りないかもしれません。また、新NISAにあわせて、少し変わった使い方も登場しています。よく話題になっている新NISAの疑問などから、注目ポイントを少し詳しく見ていきましょう。

特定口座の株を売却して新NISA口座で投資し直すべき?

新NISAでは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万、合わせて年間360万円の投資が可能です。給与から360万円を新たに投資に回せる人は稀でしょうから、すでに投資を行なっていた多くの人は、ある疑問が浮かぶはずです。

「これまで投資した特定口座の株式を売却して、その資金で新NISAで買い直したほうがいいのだろうか?」と。

なぜこれが悩みになるかというと、特定口座の株を売却するとその時点で税金を払わなければならないから。売却せずに含み益のまま投資を継続することで、税金分も運用でき、その分パフォーマンスが改善する。新NISAは全部非課税ですが、今税金を払ってまで新NISAに乗り換えるメリットはあるのでしょうか?

結論を言うと「乗り換えたほうがいい」。

「含み益の額によって異なる」などと説明されているものも見かけますが、そんなことはありません。特定口座で運用している資金があるなら、基本的に含み益の額にかかわらずそれを売却して新NISAで買い直したほうがいいでしょう。

数式的には次のようなものですが、直感的に考えてみましょう。

特定口座を売却して新NISA口座で買い直すほうが得かどうかを計算する式。ちなみにこちらはAnthropicのClaude3 Opusに解説してもらった

すべてが含み益の資産が100万円あるとします。これを数年間運用して100%のリターンとなったと仮定しましょう。税率は20%です。

まずこれを特定口座で持ち続けた場合は、額は200万円に増加しています。これを売却すると20%の税金がかかって、手元に残るのは160万円です。一方で、100万円のときに売却してNISAで再投資したらどうでしょうか。最初に20%の税金がかかるので運用当初の額は80万円。これが100%のリターンで2倍になって160万円です。NISAなので税金はかかりません。

このようにすべてが含み益の場合、特定口座で運用し続けるのと、一旦売却してNISAで運用するのに差は出ませんでした。

さてここで元本部分はどうなるかというと、元本部分のリターンに対して特定口座は20%の税金がかかりますが、NISAで運用した場合は税金がかかりません。つまり、元本が増えた分について、NISAのほうが有利となるわけです。

ただし注意点があります。これは将来利益が出ることが前提の比較だという点です。利益が出なければどちらでも同じだし、仮に損失が出てしまった場合、NISAに乗り換えたほうが損になります。これが一つ。

2つ目は、今後5年で生涯投資上限枠の1,800万円を満たす買付を予定している場合です。特定口座を売却しなくても年間360万円買付を考えているなら、そのほうが有利でしょう。

「年初一括投資」の是非は?

もう一つ、新NISAで議論になるのが「年初一括投資」の是非です。これは年間投資上限額の360万円を1年の最初に一気に埋めたほうがいいのか、毎月少しずつ積立て埋めていったほうがいいのか? という悩みです。

ちなみに、新NISAの成長投資枠240万円はいつでも一括で投資できますが、つみたて投資枠の120万円は積立でしか投資ができません。そのため、一括で年初に投資しようと思ったら、月額100円などの少額を積立設定して、残りの199万8,800円をボーナス積立扱いで1月頭に積み立てるという、ちょっとした裏技が必要になります。

どの銘柄が上昇するかは誰にも分からないし、いつ買うのがよいかも分からないという立場で考えると、最も合理的なのは「できるだけ多くの資金を、できるだけ長く投資すること」となります。その意味では、選べるのなら毎月少しずつよりも最初に一気に投資するほうが理屈にあっています。

ただこれは簡単そうで、実は意外と難しい。

パターンを分けて見てみましょう。

まず360万円をすでに特定口座で運用しているなら、年初で全部売却して、同時に新NISA口座で360万円買い付けるのがベスト。先に述べた方に特定口座の含み益は気にする必要はないし、課税口座よりも非課税口座で運用するほうがメリットが大きい。ここを悩む人はいないでしょう。

もう1つは特定口座での運用が360万円に達しておらず、現金も持っていないというパターン。これも簡単で、特定口座から新NISAに乗り換えられる分はすぐに乗り換えて、あとは給与から毎月積立を行なえばいい。制度が想定している最も多いパターンはこれでしょう。

問題になるのが、「現金を使って新NISA口座で360万円分の株式を買い付けよう」という行為です。これまで投資をしていなかった人が、新NISAを機に投資に目覚めたというのであれば、あまり問題はありません。「貯蓄から投資へ」とずっと旗を振り続けてきた金融庁的にも、望ましい資産のシフトでしょう。

ただすでに株式などで資産運用している人が、手持ちの現金を減らしてまで追加投資をするのはあまり合理的だとはいえません。ほとんどの投資家は、「現金を30%」とか「半分は現金」とか、厳密でなくても自分のリスク許容度にあった現金比率で運用しています。なのに現金を使って新NISAで株を買うのは、リスク資産比率を上げることであり、これまでよりリスクを取る行為だからです。

それを理解して追加のリスクを取るのなら問題はありません。ただ「新NISAはローリスク」だと考えて投資するなら、後悔するかもしれません。NISA=ローリスクというわけではないからです。

NISAにデメリットはあるのか?

なぜNISAはローリスクとは言えないのか。これはそのままNISAのデメリットでもあります。新NISAのメリットは一言でいうと「利益に対する税金がかからない」ことです。通常は利益に対して20.315%の税金がかかるので、新NISAは「利益を1.25倍にする制度」だと捉えてもいいでしょう。

逆に、NISAならリスクが下がるということもありません。価格の変動度合いを表す「ボラティリティ」というという意味でもそうだし、損失の可能性という意味でもそうです。利益は増加するが、損失が減るわけではない。それがNISAの本質です。

また、特定口座では利用できる損益通算や損失の繰り越しが、NISAでは使えません。損益通算とは損失を他の口座の株式の利益や配当と合算できる仕組みで、損失の繰り越しは損失があったら翌年の利益と相殺できる仕組みです。いずれも”損をしたとき”の救済策ですが、これがNISAにはありません。

利益が出たときは1.25倍になるが、損失があったときは救済策なし。これがNISAのデメリットです。

そのため、NISAの投資は「ほぼ確実に利益が出る」ことが見込まれる商品であることが重要です。それが「オルカン」が人気の理由でもああります。オルカンと同じ投資先であるMSCI ACWI連動ETFの過去のリターンを見ると、短期では損失が出ることはしばしばあるものの、運用期間が長くなるに連れてプラスのリターンになる可能性が増していきます。

三菱UFJアセットマネジメントの「オルカン」こと「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」。1月の新NISAスタートから純資産総額が急激に増加していることが分かる

1年間の成績では-20.54%となったこともあるものの、3年間の平均リターンを見ると、最悪の3年間でも1.84%、5年間だと3.13%になり10年間だと6.02%まで上昇する。つまり長期間投資を続けることで最悪の結果を避けられる可能性が上がるわけです。

オルカンと同じMSCI ACWIに連動するETFの過去のリターン(2008-2024)。注目したいのは最も悪かったとき(Low)のパフォーマンス。短期的には低いリターンの場合もあるが、長期間運用すると最低パフォーマンスも上昇する。なお最高パフォーマンスも減っていくので、パフォーマンスが中央付近に集約されていくといってもいい

なぜ高配当商品とNISAの相性は悪いのか?

新NISAで人気の投資先を見ると、全世界株式インデックスに投資する「オルカン」だけでなく、高い分配金を出す高配当ファンドも人気のようです。新NISAは、老後の資金などを取り崩していきたい人も利用するから、高配当ファンドが非合理的というわけではありません。

ただし、資産形成に向けて積み立てを行なう人で、NISAの非課税枠を最大限に活用したいなら、できるだけ分配金を出さない投資信託に資金を投じるほうが合理的。というのは、NISAの年間投資上限枠は購入額で決まるからです。

オルカンのような無分配ファンドは、投資先の株式から出された配当金を内部的に再投資する。つまりオルカンを100万円分買えば、配当金として得られた約2万円を使ってオルカンが買われ、102万円分を保有できるイメージです。

ところが高配当ファンドなどで配当金を受け取ると、それを再投資するときに、再びNISA枠を消費してしまいます。100万円分の高配当ファンドで、5万円の分配金を受け取って再投資したら105万円分の枠を消費してしまいます。

年間360万円の上限枠なんて、とても消費しきれない……だから、枠の消費なんて細かなことは気にしない。これも一つの正解です。ただし、生涯投資枠の1,800万円は、着実に積み立てを続けていけば足りなくなることもあります。例えば、月5万円ずつ積み立てて、年間で60万円を新NISAで購入する場合、30年で1,800万円の投資枠上限に到達します。22歳から積み立てを始めたら、52歳で枠がいっぱいになってしまう計算です。

1,800万円は多いと思うかもしれませんが、せっかくの枠をわざわざ減らす必要はありません。高配当ファンドで配当金を再投資する行為は、せっかくの非課税枠を無駄に消費することにつながってしまうのです。

生涯で1800万円の投資枠を実質増加させる方法

最後に、生涯で1,800万円という投資枠を実質的に増加させる裏技を紹介しましょう。これは新NISAの「売却によって枠が復活する」という仕組みを活用したものです。

1,800万円分の投資を終えたあとも、運用している資産を売却すると、その簿価(購入時の価格)分だけ枠が復活します。例えば、100万円で買った株式を売却すれば100万円の枠が空き、翌年から新たに100万円分投資できるようになるのです。

ここでのポイントは、復活する枠が「購入時の価格」であること。例えば、100万円で買った資産が200万円に価値が上がっていたら、この200万円分を売却しても、復活する枠はあくまで100万円分です。200万円に価値が上がった資産もすべて非課税のまま運用できるのだから、これは取崩しに入るまでは売らないほうが合理的です。

一方で、1,800万円まで投資したときに含み損の資産があったらどうでしょう?

100万円で購入したものが50万円に値下がりしていた。もしこれを売却すれば、売却額は50万円なのに、新NISAの枠は100万円復活することになります。この銘柄を持ち続けても非課税で運用できるのは50万円分だから、売却して枠を復活させ、新たに100万円分の非課税枠を活用するのがいいですね。

でも含み損の銘柄を持っているなんて、それは投資として失敗しているのではないか?

そんなふうに思うかもしれません。そこで、オルカンのようなインデックス投信がどんな構造になっているのかを思い出しましょう。インデックス投信は、市場を構成する数多くの株式を購入して平均的なパフォーマンスを生み出す仕組みです。その中には、ものすごく上昇した株もあれば、残念ながら下落した株もあります。全部ごちゃ混ぜで持つのがインデックス投信ですが、もし同じ投資先を個別に購入して、自分で擬似的なインデックス投資を行なったらどうでしょう。

その中には含み益がある銘柄もあれば、含み損となっている銘柄もある。そして、このうち含み損の銘柄だけを売却して非課税枠を復活させ、再び同じ銘柄を買い直せば、あら不思議、1,800万円の上限枠が実質的に増加します。

これは別に個別の株式を購入できなくてもいい。例えば今は中国株が大きく下落していますが、このように全世界株式が好調だといっても、特定の地域だけとか、特定のセクターだけは含み損状態になっているということはよくあります。投資するときの粒度をうまく調整して相関の小さい銘柄同士でポートフォリオを組めば、同様のことが可能になります。

ちなみにこれは手作業でやれなくはないが、非常に面倒くさそうなのはわかるでしょう。実はこの仕組みを教えてくれたのは、NISAに最適化したロボットアドバイザーを運営するSUSTENの岡野大CEOです。SUTENでは、こうした処理を自動で実行する機能も備えているので、チェックしてみてもいいでしょう。

NISAに対応したロボアド「SUSTEN」が備えるNISAの「節枠」機能。同社の試算では平均的な投資家で140万円分のNISA枠を拡大できる効果があるという

新NISAと相性のいいオルカン

新NISAの一歩踏み込んだ疑問や、あまり世に出回っていないテクニックを5つ紹介してきました。こうしてみると、オルカンが新NISAで圧倒的な人気を誇るのもよくわかります。

NISAは購入額に制限があるだけで、運用額には制約がありません。そのため、老後などで取り崩しを始める日までは売らずにずっと運用を続けるほうが、非課税枠を最大活用できます。こうした長期投資に最も向いているのが株式インデックスです。そして、全世界の株式に分散投資することで、もしも世界経済の覇権が移り変わったとしてもそれに追随して運用できるという安心感が得られます。

最後に新NISAを最大限活用するための、ありふれたテクニックを紹介して終わりにします。

それは、もしも暴落が来ても、世界株式は長期では力強く回復することを信じて持ち続け、積み立てを継続すること。

3月頭にもちょっとした株価下落が日米市場を襲いましたが、これから20年間、30年間のうちにはもっともっと大きな、株価が半減したリーマンショックのような暴落が起こることもあるでしょう。

そんなときも思考停止して、持ち続け、積み立て続ける。それでOKだから、オルカンが人気となるのでしょう。

斎藤 健二

金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりアイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務める。2023年に独立し金融およびFintech業界をテーマに取材・執筆を行う。 𝕏:@3itokenji