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カードもバイトも「メルカリ」 メルカード200万枚とメルカリが作る“循環”

メルカリ 執行役員 CEO Marketplaceの山本真人氏。'24年1月からは執行役 SVP of Japan Region(メルカリグループ日本事業責任者)に就任する

メルカリ/メルペイによるクレジットカード「メルカード」が好調だ。11月13日には、発行開始から約11カ月での発行枚数200万枚を達成し、「国内トップレベルの水準」で新規獲得しており、メルカリユーザーを中心に利用も拡大している。

メルペイ代表取締役 CEOで、メルカリ 執行役員 CEO Marketplace 兼 CEO Fintechの山本真人氏によれば、好調の理由はメルカリとの密な連携、そしてカードの「再発明」にあるとという。

メルカリとの連携と“統合”は経営体制にも現れている。山本氏はメルペイの決済事業をリードし、2022年1月からメルペイCEOとなっているが、'22年7月からはCBO Marketplaceも兼務し、メルカリとメルペイの融合を主導してきた。さらに今年11月には、執行役員 CEO Marketplaceに、そして2024年1月からは執行役 SVP of Japan Region 兼 CEO Marketplaceとして、メルカリの日本事業全体を統括していくこととなる。

今後メルカードやメルペイなどのFintechと、メルカリは一層連携していくようだ。山本氏にメルカードを軸に今後のメルカリの日本事業展開について聞いた。

メルカードがメルカリに及ぼす影響

山本:キャッシュレスサービスは、実質的に携帯キャリアの4社とメルペイぐらいに集約されてきました。各社ともポートフォリオ(提供機能群)は我々より多く、いわゆる「スーパーアプリ」的なかたちを追求しています。

一方、我々は「メルカリ」が中心にあって、そこに組み合わせることで大きな“循環”を作ることが、お客様に提供できる価値になると考えています。結果的にメルカードとメルカリをわけて説明するのは難しいですし、先日発表した(スキマバイトサービスの)「メルカリハロ」も“繋がってきて”しまうんですよね。

メルカードは11カ月で200万枚を達成し、新規獲得は「国内でトップレベル」という成功となった。ただし、山本氏によれば「予想外」の状況ではないという。

山本:順調ですが「期待通り」です。グループとして「Go Bold(大胆にやろう)」というバリューを掲げていますが、相当大胆な目標を立てていました。最初から「他に類を見ないぐらいの伸びを作る」と考えていたので、その目標に対しては「期待通り」です。現状メルペイユーザーは1,600万人、メルカリは2,300万人がアクティブに使っています。その中の200万ですから、まだ伸ばせるし、加速していく段階です。

クレジットカード全体でも発行枚数は伸びています。ただ、有効なカード枚数は減っていて、日本では3枚近いカードを既に皆が持っているという状況。その中で、我々は明確に「後発」です。そのため、明確な価値が必要ですが、メルカードの良さはきちんと伝わった結果として、今の200万枚があると思っています。

では、メルカードの良さが伝わったとはどのような部分なのだろうか?

山本:(メルカード開始から)11カ月で明確に見えてきていることは、「メルカードを持つと、メルカリ利用が明確に増える」ということ。「購入」だけでなく、メルカリで「買う」「売る」「払う」の3つの全ての利用比率があがっています。「買う」「売る」「払う」の全てを行なう人の割合はメルカードを持った人では1.3倍になります。

メルカリでの「購入」だけでもメルカードユーザーは、10%~60%増えます。特にこれまで「メルカリをそれほど使っていなかった」人の購入が大きく伸びています。メルカードにより、メルカリ内の流通が伸び、結果としてカードの支払い金額が伸びるという相乗効果がでています。

「メルカリを使うならメルカードがあれば、すごく便利でお得になる」ことを皆さんにを感じていただけた。また、メルカードをきっかけにメルカリを使う人もいるので、この流れを増やしていきたい。

カードとしての新しさ。メルカリ売上金の価値

メルカリへのプラスの影響が大きいという「メルカード」。若い世代を中心に利用拡大しているが、支持を得ているのはどの部分なのか? 山本氏は「カードとしての新しさ」と語る。

山本:クレジットカードは、登場してから60年ぐらい経っています。ある意味“型”があって枯れたサービスだと思われている。そこにこれまでのクレジットカードが避けられてきた理由、ペイン(苦痛)や課題があると考えました。今の考え方と今のテクノロジーでクレジットカードの再発明を狙ったのが「メルカード」です。

大事なのは「利用状況がわかりやすい」という部分で、メルカードでは「利用状況をコントロールしやすい」。ここにつきます。

クレジットカードで「ヒヤッとした経験」は皆さんお持ちだと思います。「思った以上の高額の引き落としがきて驚いた」とか、なんとなく嫌な思いをしたことがある人は多いはずです。また、「月の途中で締め日が来て、10日ぐらいに支払われる」とか、クレジットカード独自の支払いルールを把握するのは、実は難しいことです。

メルカードとメルペイでは、「利用履歴」がすぐに確認できます。他の銀行やカード会社のアプリも見られますが、アプリ起動の頻度は限られます。普段使うメルカリで履歴が確認できることが大事。

さらに大事なことは、メルペイとメルカード、iD、オンライン、コード決済、すべての支払い方法が統一されてメルカリから見られます。例えばセブン-イレブンでiD、スーパーではカード、渋谷スクエアではコード決済、マクドナルドではモバイルオーダーでオンライン支払いとか、様々な支払手段に対応していますが、それらの支払った手段が別でも、全てメルカリから確認できます。

他社のカードでは、支払手段ごとに明細が分かれている場合が多く、そうすると自分がどこで幾ら使ったか、わかりにくくなってしまう。このわかりやすさが重要です。

また、200万人達成に重要だったのが「始めやすさ」という。

山本:クレジットカードの利用開始までは、大きなハードルがあります。キャッシュレスも同じですが、アプリをダウンロードして、申込入力、本人確認、銀行接続、チャージ、使うなどのハードルが多段階である。その各段階でスムーズにいかず、躓いてしまうこともあります。

一方、メルカリを使っていればアプリはもう使っていて、メルペイユーザーの90%が「本人確認」も終わっていて、さらに「売上金」も入っている。その状態であれば、メルカードの申込みは30秒ぐらいで終わります。最初のエントリーがすごく簡単というのはメルカリユーザーにとっての利点です。

開始のハードルを下げた上で「利点」をしっかり伝えることは、もっと重要です。メルカードを使っている方への調査では、1位は当然「メルカリの中で便利に使えてお得」ですが、2位以降では、クレジットカードを使う上での“ペイン”を解消したことがポイントになります。

前述の「利用状況がわかりやすい」という点に加え、支払い日が「いつくるかわからない」ことは不安に繋がります。メルカードでは、カードの支払日より先に支払えるというのも重要です。

私の例では、新しいiPhoneを買って、古いiPhoneをメルカリで売りました。支払日まで待つのがストレスなので、iPhoneを売ったお金にプラスしてiPhoneの代金を支払い終えてしまうことも可能です。支払いと同時にポイントも付与され、引き落とし日には、ほとんど払い終わってるという形にもできます。引き落とし日を待つストレスは無くなります。

また、支払日までにメルカリで何かを売って、銀行からの引き落とし額を減らすことも可能です。メルカリで売れれば、支払いも減るので、「売ることの価値」も実感できます。だからメルカードを使ってメルカリで「買う」が増え、「売る」も増える。そういう循環を作り出していけます。

従来のクレジットカードのビジネスは、支払いを「引き延ばす」ことで、金利収入などの収益化に繋げてきた。あと払いやリボ払いなどが収益源となっていたが、メルカリ/メルカードで「先払い」すると収益的なマイナスにならないのだろうか?

山本:ここがメルカリの特徴で、我々はメルカリで売った「売上金の価値」を高めたい。

メルペイを始める時のインタビューでも、「メルカリの売上金が外に出る意味って?」って聞かれました。「メルカリの売上金は、メルカリの中だけに閉じ込めて使ってもらった方がグルグル回って収益的には良いんじゃないか」という指摘です。ただ、メルカリの中でしか使えない“ポイント”と、どこのお店でも自分が好きに使える“お金”になることは、意味が全然違います。外で使えたほうが、「メルカリの売上金」自体の価値が高まります。そこを高めていきたい。

局所的には、分割払いをしてもらったほうが、金利収入にはなります。それも大事ですが、より大事なことは、「メルカードとかメルカリがあったから自分のやりたいことができた」とか、「支払いのストレスが減る」という状態を作ること。それ自体が結果的に、「じゃあメルカリでもっと売ろう」とか「メルカードで何か買おう」に繋がってくるはずです。第一にメルカリ全体の中でのお客様価値を意識してやっています。

メルカリで商品が売れれば、手数料収入が発生する。メルカードによる金利収入よりは「メルカリで売ること」の価値を高めていくことを重視するというのは、サービスと一体になったメルカードならではの戦略と言えそうだ。

メルカード“ゴールド”可能性は?

メルカードは現状一種類のシンプルなナンバーレスカードのみ。最近はゴールドカードに力を入れて、「おトク」を訴求したものも増えている。メルカードにおいてもゴールドカードなどのバリエーション展開はあるのだろうか?

山本:カードの多様化という可能性は「あります」。現状決まっているものはありませんが。

ゴールドカードやプラチナカードは、機能性だけでなく、かつては持つことによる「ステータス」も大きかったのかなと思います。ただ、最近はゴールドカードで携帯電話料金を支払うとポイントが多く付与されるものなど、「ステータス」より「ロイヤリティプログラム」に近い存在になってきているとみています。発行元の会社が提供する様々なベネフィットが手に入るという形ですね。

我々としても、ステータスよりは「メルカリを使いやすくなる」プログラムにしていくという観点で、カードのバリエーションはありうると考えています。海外の事例を見ていると、単純に上位のゴールドカードよりは、特定のスーパーをよく使う方とか、ビットコインを使う人に特化した形とか、顧客のニーズとかにあわせたカードなどが出ています。そういう方向性が見えてきたら、チャレンジしたいと思っています。

ただ、あまり複雑にしたくない。現状、メルカリでモノを売ってメルカードで払うというシンプルな循環自体が大きい価値だと思っていますので、今の仕組みでより伸ばしていくことに注力したい。ただ、将来の課題としては考えています。

ビットコインは「想定外」の好調

メルカリのFintechで気になる部分といえば「ビットコイン」。開始から1年で100万口座を越えるなど、急速にユーザー数を伸ばしている。一方で、今できる機能はビットコインの売り買いだけで、メルカリのエコシステム上での展開は見えていない。なぜ、いまメルカリがビットコインに注力するのだろうか?

山本:直接的につながりがまだ見えにくいところがあるかもしれません。我々はメルカリを「テックカンパニー」だと思っています。その意義の一つに、テクノロジーをしっかりと多くの人に使ってもらい、社会にそのテクノロジーを実装していく責任があると思っています。

大きな潮流で、AIとブロックチェーンがある。ただ、どうやって使っていくか、多くの人が使うようになったら社会はどうなるか、という答えにはまだたどり着けていない。

インターネット・モバイルは本当に皆が使うようになり、様々なサービスがその上に乗ったことで、明確に社会が変わりました。ブロックチェーン・AIはまだ知ってる人がちょっと使ってるという状態です。そういう機能や技術を使ってる人の数がまず増えていくことが必要なステップだと思っています。なので、力を入れて取り組んでいます。実はメルカリとしては「キャッシュレス」=メルペイも同じ思いで始まっています。

新しい技術、新しいサービスを、本当に一般の方が使うような状況にする。普通の方にとっての新しいテクノロジーの入り口の役割をメルカリが果たせるんじゃないかと思っています。

実際に開設した方は、「こんなに簡単なのか」と感じていただけたのでは、と思っています。ビットコインを買うって、大変で、ものすごくリスクが高いことと、思っている方も多いのかもしれません。メルカリがあることで、いつものメルカリアプリで、本人確認済で数回タップしたら口座ができて、売上金からビットコインにすぐに変えられる。また、ビットコインを売上金に戻すのも、24時間いつでも 1円単位でリアルタイムですぐできます。とにかくすごく簡単だと思っていただくことがいまは大事です。

メルカードの200万枚は「期待通り」と言いましたが、ビットコインの100万人超えは、予想を遥かに超えていました。2022年の1年間、日本の暗号資産取引所販売所を合計しても、新規口座開設は60万人でした。暗号通貨は「冬の時代」と呼ばれています。その中で、7カ月で100万人を越えるというのは、想像を越えるスピードでした。しかも殆どが初めてビットコインに触れる人です。

さらに伸ばして、ビットコインを持っている人がより多くなったら、ビットコインの新しい使い方をメルカリ上に乗せて、メルカリを含んだエコシステムでの価値をスピードアップしていると考えています。

なぜスキマバイト参入? ハロで成長の理由

メルカリは、2024年春にスキマ時間を活用して働ける求人プラットフォーム「メルカリ ハロ」を開始すると発表した。単発/短時間の雇用契約による「スポットワーク」をメルカリアプリから応募しやすくするもので、単発バイトなどに簡単に応募して働き、対価を受け取れるようにする。

「スキマバイト」については、タイミーなどの企業も注目を集めているが、メルカリとしては唐突な新規事業にも見える。しかし、山本氏はハロが目指すものは、「メルカリ、メルペイと同じ」と語る。

山本:メルカリ、メルペイ、ハロが目指すものは本質的には同じだと思っています。「やりたいこと、欲しいものに対して、実現しやすくしていく」。メルカリでは、そこに力点を置いて全てのサービスをやっています。

ハロで働くことで買いたいものを買える。「メルカリでモノを売る」と、「ハロで働いて時間を売る」というのは、自分の資産の増しかたという意味では同じです。

メルカリでは、年間1兆円という金額が流通しています。モノが買われただけでなく、それだけのお金が新しく財布に入ったということ。これまでタンスで寝てたり、捨てられていたものが新しくお金として生まれた。同じように、何もしていなかった「時間」が価値を生み、この金額が増えると、見えてなかった価値が顕在化してくる。メルカリとメルカリ ハロの共通点は大きい。

また、メルカリ ハロでは、「給与デジタル払い」への対応も予定しており、バイトの給与をメルペイで支払うといったシナジーも見込んでいるという。

山本:給与デジタル払いは、アルバイトとか単発でお金が入ってくる状況でこそ、効果を発揮できるものだとは思っていました。メルペイとシナジーがあるエリアだと思ってます。現在は「申請の準備をして、認可を待つ」状態ですが、働いたお金をそのままメルペイで受け取れるなど、メリットやスムーズさを出せるのであれば、価値はあると思っています。

物流2024問題とメルカリ

メルカリについては、順調に総流通額(GMV)を伸ばしてきたが、一方、物流2024年問題と呼ばれるように、今後物流コストの増加や配送時間の長時間化などが見込まれる。メルカリのスムーズな拡大を支えてきた日本の物流全体が変革期を迎えている。こうしたリスクをどう見ているのだろうか?

山本:メルカリの体験における大きな部分が、物流やロジスティックスのところにある。我々としても強く認識しています。特にドライバーの方の仕事環境の観点で、大きな負担をかけず効率化していくことに注意を払っています。いまは当たり前になってきましたが、「置き配」を皆さんに受け入れて使っていただけるようにして、再配達を大きく減らすなども重要です。

特に、いま家庭から出る「発送」のかなり大きな部分をメルカリが担っています。配送・発送の双方において、いかに業界自体がサステナブルになっていくかというところは考えています。具体的な施策としてすぐに発表できるものはないですが、我々が担うべき責任として、物流のエリアを認識しています。

現状では大きな影響はなく、また来年以降の影響においても、クリティカルにならないよう準備しています。ただ、世の中に対し、「考え方」を提起していく役割はできると思っています。

「メルカリで取引すると、スムーズに早く届く」。このことは価値がありますし、だから使っていただいている。一方、メルカリに「エコ」や「サステナブル」という文脈で魅力を感じて使っていただいてる方も凄く多い。「メルカリ寄付」も使われていますが、売上金を得るだけでなく、その売上金で寄付したり、要らなくなったものは、サステナブルの観点で提供したいという方もすごく多い。

同じように、「モノが早く届かなくても問題がない、それによってエコとかサステナブルという観点の役に立つのであれば、いいです」という考え方をうまく伝えていくっていう必要はあるのかな? と考えています。

臼田勤哉