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なぜABEMAの“恋リア”は若者に人気なのか

複数の男女の恋愛模様を描く「恋愛リアリティショー」は、もはや定番と言えるほど、人気のジャンルです。ドラマのような台本がない世界で出演者達が本気で恋に落ち、駆け引きをしたり、失恋したり。視聴者は自分と重ね合わせながら、一緒にドキドキし、切ないシーンでは涙ぐみ、恋を見届けます。

恋愛リアリティショーは地上波から大手動画配信サービスへと舞台が移り、各社が独自の番組を作成、複数のシリーズを展開しています。それぞれターゲットの年齢や設定が異なりますが、どの番組も大ヒットしており、若者からの支持は絶大。

若者の間では恋リア(れんりあ)と略され、最近では恋リア出演が人気タレントへの登竜門となっているほどで、SNSのフォロワー数にも大きく影響します。

なかでも、ABEMAの恋愛番組は放送されるたびに話題になります。特に「オオカミ」シリーズの話題性は著しく、2017年のスタートから現在まで、13シリーズで累計視聴数3億回を突破するほどの人気コンテンツです。

ABEMAで多数配信されている恋愛番組の中でも、「オオカミシリーズ」は特に人気(出典:ABEMA)

男女の恋を追いかける恋愛番組ではありますが、「オオカミ」シリーズの特徴は、メンバーの中に恋をしてはいけない「オオカミ」が最低一人以上潜んでいること。これまでになかった切り口で、若者の間では「誰が“オオカミ”か」予想が盛り上がるなど話題を呼んでいます。

ほかにもABEMAの恋愛番組には、現役高校生が数日間の“運命の恋と青春の修学旅行”をする「今日、好きになりました。」、高校生が2週間にわたって週末を一緒に過ごす「恋する♡週末ホームステイ」、肉体美を誇る大人の男女が激しい“ラブバカンス”を繰り広げる「シャッフルアイランド」などさまざまなシリーズがあり、いずれも独自の切り口で視聴者を飽きさせない展開が若者を夢中にさせています。

なぜ、ABEMAの恋愛番組が人気なのか、若者を惹きつける魅力はどこにあるのか、「オオカミ」シリーズを立ち上げ、現在はABEMAとNexflixが手を組んだ「オオカミちゃんには騙されない」のプロデューサーであるサイバーエージェント執行役員 横山祐果氏にお話を伺いました。

サイバーエージェント執行役員 横山祐果氏。2017年よりスタートした「オオカミくんには騙されない」のプロデューサーを務め、以降「オオカミ」シリーズを担当。現在は、ABEMAとNexflixが手を組んだ「オオカミちゃんには騙されない」を手掛けるほか、11月からは「恋愛ドラマな恋がしたい」のNetflix版である「韓国ドラマな恋がしたい」がスタートする

ABEMAで“恋リア”が始まった理由

当時AbemaTVだったABEMAが開局した2016年4月、ニュースやスポーツ、ドラマなどが放送されていましたが、恋愛番組はまだありませんでした。

「当時のABEMAには、女性や若者向けの番組が少なかったんですね。それが恋愛番組を始めたきっかけです」と、横山氏は話します。

「オオカミ」シリーズの初回「オオカミくんには騙されない♡」が放映されたのは、2017年2月のこと。続いて、「今日、好きになりました。」と「恋する♡週末ホームステイ」が2017年10月に始まりました。

「オオカミ」シリーズの大まかなルールは、恋をしてはいけない「オオカミ」がメンバーに紛れ込んでおり、他の出演者には自分が「オオカミ」であることを秘密にしたまま交流を深めます。本気で恋をしても、相手が「オオカミ」であった場合は成就せず、告白をした段階で「オオカミ」であることをカミングアウトされます。

2017年2月に、ABEMA初の恋愛番組として誕生したのが「オオカミくんには騙されない」

シーズンによって男性の「オオカミくん」、女性の「オオカミちゃん」、または男女両方に「オオカミ」がいる場合があり、相手が嘘をついていないのか見極めていく必要があります。まるで「人狼」ゲームのような仕掛けが、さらに視聴者を夢中にさせるのです。

「放送初期からSNSなどで反響があって、楽しんで見てくれているなと感じていました」と横山氏は言います。ABEMAの恋愛番組は瞬く間に人気となり、2018年11月には「オオカミくんには騙されない」「今日、好きになりました。」「恋する♡週末ホームステイ」の3番組の視聴者のうち、女子中高生(15歳~19歳の女性)の累計視聴者数が100万人を超えたことを発表しました。

若者マーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab」による、2018年トレンド大賞のドラマ・番組部門の1位にも、「オオカミくんには騙されない」がランクインしています。

「AbemaTV」2018年の人気番組ランキング

若者から支持されるワケ

横山氏は、自身が担当する「オオカミ」シリーズの人気の理由を3つ挙げています。ひとつは前述の「友達と話題にしたくなるようなルール」、「出演者の魅力」、そして「映像美」です。

「番組自体が盛り上がるには、やはり話題にしてもらう必要があります。『オオカミ』シリーズは『誰がオオカミか』を友達間で予想しあったりと話題にしやすかったのが人気の理由の1つだと思います」と横山氏は分析。

出演者の中で「誰がオオカミか」を友達間で予想しあうなど話題のしやすさが人気のきっかけに

「もう1つは、やはり出演者に魅力があるからです。第1弾からオーディションを通して出演者を決めていますが、恋愛だけでなく、その人自身の活躍を追いたくなるような方に出演していただいています。当時は10代の男女の恋愛番組というもの自体がそれまでなかったので、目新しさも話題にあがりやすい理由の1つになったと思います。また、出演者の魅力が引き立つような美しい映像をお見せしている点も評価いただいているのかなと思います。実際に視聴者からは“眼福”という声もよくいただいています」(横山氏)

映像美にもこだわり、番組内では日常の風景にも美しさを取り入れているそうです。撮影機材や編集にもこだわり、美しい場所や景色をより美しく見せることにも注力しています。

番組内では日常の風景にも美しさを取り入れ、映像美にもこだわっている

「オオカミ」シリーズには、若い俳優やタレント、モデルが多数出演しています。過去には、生見愛瑠、山之内すず、樋口幸平などが出演し、出演後さらに活躍の場を広げています。人気タレントの登竜門的な位置づけになり、「出たい」と希望する人も徐々に増えたそうです。

「色々なキャラクターの方に出てもらいたいと思って選んでいます。編集の段階でも、その人のキャラクターがしっかり立っていくように気を付けています。出演の最初と最後で全然顔つきが変わって、キラキラ輝いていく方もいるのですが、視聴者はその様子を見て、番組内での恋愛を応援しているうちに、その後もずっと追っていきたいとファンになる方が多いようです。出演者が活躍していくのは、視聴者にとっても嬉しいと思います」(横山氏)

人気タレントの登竜門になったABEMAの恋愛番組ですが、出演時からファンが付き、出演後も熱心に応援する人が続出するのも特徴的。ですが、番組自体は出演者同士での恋愛がメインなので、「推し」が恋愛する姿を視聴者はどのような気持ちで見ているのでしょうか。

「ティーン向け雑誌では、昔から人気モデル同士の恋が鉄板で、読者はカップルごと応援するという文化があります。なので番組でも、2人の恋愛を応援するという感じで見ている人が多いようです。また、女子中高生は同性のタレントに対して憧れる傾向もあります。『可愛くなりたい』『彼氏が欲しい』というのはいつの時代の女子中高生も思っているようで、番組に出演している女性に憧れつつ、共感もするから応援したくなるんだと分析しています」(横山氏)

カップルごと応援するという文化が昔からあることから、恋愛リアリティーショーの視聴者も出演者の恋愛を応援するのが自然の流れに

「泣ける」という意外な反応

「オオカミ」シリーズでは、恋愛番組なのに恋愛をしてはいけない「オオカミ」がいるという独自の切り口が話題を集めていますが、このシリーズはどのように生まれたのでしょうか。

「『嘘つきがいるのはどうか』という作家さんのアイディアが、『オオカミ』シリーズのきっかけになっています。“恋愛番組、ましてや出演者である高校生に嘘つきがいるというのはどうなんだろう”という迷いも当初はありました。でも、現実の世界でもうっかり好きになってしまったり、今は自分が頑張るときだから恋愛してはいけなかったりすることもありますよね。本当に恋愛したいと思っている人を見極めて、真実の恋を手に入れるという意味では現実も同じなので大丈夫かなと思いました」(横山氏)

「オオカミ」シリーズが始まった当初は、女子高生に「人狼」ゲームが流行っていました。人狼とは、人の姿をした狼を会話の中で推察して処刑することで、村人の安泰を守るゲームです。「オオカミシリーズも企画立案時に“人狼みたいだね”という意見をもらっており、ルールもすんなり受け入れてもらえるのでは、と自信につながりました。また、『嘘つきがいること』をテーマにする中で、嘘つきといえば“オオカミ少年”だったり、ミステリアスで気になる存在という印象になるようオオカミとしました」と横山氏は説明します。

オオカミシリーズは、恋愛リアリティーショーに「嘘つきがいるのはどうか」というアイディアから始まったと横山氏は説明

放送開始後、視聴者からの意外だった感想は「泣ける」という声が多かったことだそう。番組を通して恋仲になった男性が最終回で告白し、女性から実はオオカミだったと明かされて成就ならず、というシーンには泣けるという声が集まりました。

「実際にシリーズを始めてから『泣ける』という声も多くいただき、“結ばれなかった2人の悲恋”に共感して泣けた、というのは意外な部分でもありました。制作中は思いもしなかったような想定外の盛り上がりが生まれるのも、番組作りの面白いところだと思います

「オオカミ」シリーズ以外にも、高校生が旅をしながら恋をする「今日好き」や、週末だけデートを重ねる「恋ステ」など、独自の切り口の番組はどのように企画しているのでしょうか。

「企画立案の際は、まずプロデューサーがそれぞれ企画を練り、その後プロデューサー陣で企画内容を詰めていきます。恋愛番組だけでなく、バラエティーやドラマのプロデューサーも、それぞれの視点から企画を見つめ、総合的に唯一無二といえる企画になるようにしています。シーズンを続けていく上では、視聴者を飽きさせないワクワクする何かを入れることを大切にしています。藤田(サイバーエージェント代表取締役社長)から直接アドバイスをもらうことも多いです」(横山氏)

オオカミシリーズ以外に、ABEMAでは「今日、好きになりました」や「恋する♡週末ホームステイ」などの恋愛リアリティーショーも人気

恋愛番組はファンと近い距離で楽しめる一方で、SNSでの誹謗中傷と隣り合わせになりやすい傾向があります。横山氏は、出演者には十分配慮していると語ります。

「出演した方が悪い思いをするような番組は作りたくないと思っています。意外なところで厳しい意見が来ることもあるので、出演者と番組スタッフで密にコミュニケーションを取るようにしており、ロケの時から放送が終わるまでフォローアップしています。出演者の方に“出て良かった”と思っていただけるよう、そこはとても意識しているところです」(横山氏)

Netflixで初の海外進出も。新作が続々と

6月、ABEMAの「オオカミ」シリーズ最新作「オオカミちゃんには騙されない」がNetflixで配信を開始しました。Netflix版「オオカミ」は、オオカミシリーズ初の世界配信です。

「オオカミ」シリーズ最新作は、Netflixで世界配信

「Netflixでは視聴者の年齢層が高くなると考え、出演者も20代以上の方に出てもらって、夜を過ごすなど大人向けの企画に変えています。ABEMAでは新作の婚活サバイバル番組として『GIRL or LADY ~私が最強~』の放送が9月から始まりました。この番組では、結婚願望のある女性たちが20代の「ガールチーム」と、30代の「レディチーム」に分かれ、男性4人を奪い合う“婚活サバイバルバトル”を繰り広げます。年齢で分けるという切り口は色んな意見があると思いますが、“年齢とともに変化する恋愛の価値観や結婚感”というのは普遍的なテーマであり、興味を持つ方も多いのではと判断しました」(横山氏)

いつの時代も“恋愛”に関心のある層は多く、そのニーズをうまく拾って形にしてきたのがABEMAの恋愛番組なのでしょう。Netflixでの配信により、日本の女子中高生を中心に幅広い世代を夢中にした「オオカミ」シリーズは、世代や国境を超えて広がっていきました。2017年のスタートから今まで勢いは留まることを知らず、新たな企画も続々と予定しているようなので今後の展開も楽しみにしたいと思います。

9月からはABEMAで新作番組「GIRL or LADY」が開始
鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。