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若者はなぜ「制服」でディズニーに行くのか

カンコー学生服の制服をレンタルできる「カンコーショップイクスピアリ」

学生服を製造・販売する菅公学生服(以下:カンコー学生服)が、制服のレンタルや販売を行なう専門店「KANKO SHOP Select Square」(カンコーショップイクスピアリ)を、1月30日に東京ディズニーリゾート近くの商業施設イクスピアリにオープンしました。

「制服を着てテーマパークをもっと楽しく」をコンセプトにした同店には、スカートやブレザーだけでなく、靴下やローファーまで用意されており、男女ともに制服一式を借りられます。価格が2,000円~と手軽なのも特徴です。

「制服で遊びに行く」というのはZ世代の女子高生にとっては当たり前のようで、休日でも制服を着て、若者が集まるスポットでスイーツを食べたり、プリントシール機で写真を撮ったりしています。

レンタル用アイテム
靴下やローファーも借りられます

特にメジャーなのが、制服で東京ディズニーリゾートへ遊びに行く、いわゆる「制服ディズニー」です。若者が東京ディズニーリゾートに行く際、何を着て行くかは重要なポイント。「一緒に行く人とバラバラの服装なんてありえない」と語るくらいで、事前にお揃いのトレーナーやスカートを購入して東京ディズニーリゾートへ挑みます。カップルも「カップルコーデ」(ペアルック)で出かけます。

その中でも人気が高い服装が制服なのです。2023年、東京ディズニーリゾートでは、学生を対象とした1~3月限定の割引チケット「キャンパスデーパスポート」(通称:春キャン)が3年ぶりに復活しました。春キャンCMでも、出演者は全員制服です。

制服ディズニーという言葉が初めてメディアに出たのは2008年頃。かれこれ15年近く、若者達は制服で東京ディズニーリゾートに出かけているのです。

制服ディズニーは現役の中高生だけでなく、大学生や20代の人も楽しんでいます。自分が高校時代に着ていた制服を着る人が多いものの、制服をすでに処分している人や自分好みの制服ではなかったという人もいます。その場合は、可愛い制服を調達しなければなりません。

そうした若者のニーズを感じていたのがカンコー学生服です。イクスピアリにカンコーショップをオープンした経緯や反響について、菅公学生服 カンコーセレクトスクエア事業部 部長 兼 マーケティング室 室長の羽冨裕也氏にお話を伺いました。

菅公学生服 カンコーセレクトスクエア事業部 部長 兼 マーケティング室 室長の羽冨裕也氏

原宿のレンタル制服ショップが盛況

カンコー学生服は、学校向けの制服や体操服を製造、販売する企業。創業は1854年(安政元年)です。縫製を海外に委託する国内企業が多いなか、カンコー学生服は自社・国内の縫製比率が約9割を超えているため、安定した品質の製品をスピーディーに生産できるといいます。

同社が制服を納入する学校数は、小中学校、高等学校含め15,000校以上。ですが、それ以外に「セレクト制服」も手掛けています。セレクト制服とは、いわゆる“なんちゃって制服”のこと。

学校指定のデザインではなく、一般的に制服と呼ばれるようなデザインの服を指します。学校指定の制服がない「自由服」の学校や、シャツやニットだけは自由とされている学校の生徒がアイテムを単品で買いたいときのための服です。

レンタルできるのは、学校指定の制服ではない、一般的に制服と呼ばれるようなデザインの「セレクト制服」
男性用のセレクト制服もあります

セレクト制服を販売するショップとして、カンコー学生服は2016年に「KANKO SHOP Harajuku Select Square」(カンコーショップ原宿)をオープンしました。原宿を訪れる女子高生たちが通りすがりにショップに入り、「かわいい」「着てみたい」とかなりの反響があったとのこと。

ですが、制服は3年間着られるように素材や耐久性にこだわって作られているため価格が高額で、「通学に使えないから買えない」と購入に至らないケースも多いそうです。

「可愛いけど買えない、でも一度は着てみたいという声をいただいて、弊社としても多くの方にカンコー学生服の良さを体験してほしいという思いがありました。そこで、オープンして2年後の2018年、レンタルサービスを開始しました」(羽冨氏)

2016年にオープンしたカンコーショップ原宿。当初は販売のみでしたが「買えないけど着てみたい」という声から、2018年にレンタルサービスを開始

原宿店で制服レンタルを開始したところ、原宿を訪れた女子学生達が通学では着られない可愛いデザインの制服を借り、スイーツを手に写真を撮る姿などが見られたそうです。また、企業から広告を撮影するために制服を借りたいなどの要望も年間200件ほど受けるようになりました。

しかし、その中でも利用が多かったのが、テーマパークのために制服を借りる人達でした。

「原宿からテーマパークまで距離がある中、原宿店で制服を借りていく人が多かったんです。レンタル自体の数も増えていましたし、新型コロナウイルス感染症が落ち着いてきたことをきっかけに事業を拡大しようと考えました」(羽冨氏)

得意の小ロット生産でレンタル専用の制服も

東京ディズニーリゾート隣接の商業施設「イクスピアリ」にレンタル制服ショップを出店するにあたり、カンコー学生服では社内公募を実施し、若い社員を中心に10人程度のプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトオーナーは、2016年に原宿店の立ち上げを担当した羽冨氏です。イクスピアリ店だけで提供する制服のデザイン、店舗の内装などもプロジェクトのメンバーが企画しました。

「制服は元々、小ロットで生産するので、イクスピアリ店専用の制服を作ることは難しくはありませんでした。コスプレ用の制服とは異なる品質の良さを評価いただいていると思っています」(羽冨氏)

イクスピアリ店だけでレンタルできる制服もあります
元々小ロット生産が得意なため、店舗専用の制服を作るのは難しくなかったそうです
イクスピアリに出店するにあたり社内公募でプロジェクトを立ち上げ。内装なども若い社員の意見を取り入れています

そして1月30日、カンコーショップイクスピアリがオープンしました。制服のデザインは、紺のブレザーとチェックのスカートといった定番のもの、セーラー服と詰襟、イクスピアリ店オリジナルの華やかなカラーの制服などが用意されています。

また、カーディガンやリボン、学生風のバッグや靴、上着も単品レンタル可能で、その総数は約1,000点に上ります。一部の商品は購入もできます。

制服を借りたい人は、お店の商品を見て試着室で着替えをしてから料金を支払います。料金はセットプランになっており、当日のみ、1泊2日、2泊3日から選択可能。利用時は身分証(学生証・保険証など)の提示が必須となります。

人気のプランは、ボトムとリボンかネクタイ、シャツ、ニットが借りられる「Mプラン」(4,000円~)とのことですが、高校生はリボンとボトムなど、一部だけを借りてお揃いにすることも多いそうです。返却の際にクリーニングや洗濯する必要はありません。

イクスピアリ店外観
セーラー服や詰襟は学校制服として減少しているため、希少価値が高まり人気があるそうです
華やかなカラーを用意できるのもレンタルだからこそ
カーディガンやベストだけを単品で借りることも可能
学生の間で流行っているという縦型のショルダーバッグもありました
リボンやネクタイも豊富に揃えています
セットプランの料金表

店内にはロッカーと有料のメイクルームが併設されており、ショップで着替えとメイクをしたら、荷物を預けてすぐに出かけられます。

イクスピアリ店がオープンして約2週間、女子高生と女子大生に利用されることが多く、半々ぐらいだそうです。カップルでの利用もあり、20~30代の人も来ているとのこと。

また、海外からの観光客が訪れることもあります。羽冨氏によると、イクスピアリを見ていてたまたまショップが目に入り、自分が着るためやお土産として購入していく人が多いとのこと。日本のアニメやドラマの影響も大きいそうです。

コインロッカーに荷物を預けられます
有料のメイクルームも

人気の制服は、紺のブレザーやチェックのスカート、ピンク色のニットカーディガンなどです。また、セーラー服や詰襟などは「一度着てみたかった」と借りる人も多いとのこと。SNSで活躍するインフルエンサーやモデルなどが来店した際は、カラフルなデザインを選んだそうです。

「予想通りの来店者数」と羽冨氏が話す背景には、SNSマーケティングの成功があります。カンコー学生服は、中高生10名ぐらいで構成される「カンコー委員会」を毎年オーディション形式で募集し、商品開発やSNSによる情報発信をしています。変化が早い制服のトレンドを掴み、SNSで認知拡大をすることで「カンコーの制服を着てみたい」とショップに足を運ぶ若者が増えているのです。

中高生10名ぐらいで構成される「カンコー委員会」が商品開発に携わっています

原宿、イクスピアリとレンタル制服サービスが好調に展開している同社は今後どのような展開を考えているのでしょうか。羽冨氏に伺いました。

「今後はオンラインでの制服レンタルを考えています。レンタル制服サービスを始めてからさまざまな反響があり、SNSやメディアの影響で来店が増えたのはもちろん、アルバイトをしたいという声も多くいただきました。

その中で印象的だったのが、全国の商業施設からの出店依頼です。現在レンタルできるのは原宿とイクスピアリだけで、オンラインショップでは販売のみを行なっています。ゆくゆくはオンラインショップでレンタルサービスを開始し、全国に配送できるようにしたいと思っています」

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。