トピック

スターリンクを有線LANで使ってみる

我が家では“非常用の通信回線”として導入した衛星インターネットの「Starlink」(スターリンク)ですが、ルーター部分がWi-Fi専用で、そのままでは有線LANのPCなどが使えないので、これを可能にする別売りオプションの「イーサネットアダプター」を購入してみました。

私がスターリンクのキットを購入したのは2023年1月です。アンテナは長方形のデザインで、「標準(Rectangular)」などと呼ばれているタイプです。ルーターは「Gen 2」と呼ばれている世代のモデルがセットになっています。このGen 2 ルーターはWi-Fi専用で、有線LANを利用するには別途「イーサネットアダプター」を買って装着する必要があります。日本からだと価格はかなり高く、10,400円。送料は無料で、注文してから4日後に届きました。

スターリンク純正のイーサネットアダプター
接続図。事実上、スターリンクの「Gen2」ルーター専用アイテムです

なお現在、米国の一部ユーザー向けに「Gen 3」ルーターの提供が始まっており、こちらのモデルにはあらかじめ有線LANポートが搭載されている、とサポートの資料などでは案内されています(本体は横長で、新たにWi-Fi 6に対応するなどいろいろ強化されているようです)。つまり、別売りのイーサネットアダプターは今のところGen 2ルーター専用という形になっています。

普段の有線LAN環境に接続できる

スターリンクでも有線LANの環境を使えるようにしたいと思った理由は、非常用とか緊急用という位置づけで導入したとはいえ、利用シーンをシミュレーションしつつ、“普段通りの使い方"を再現しようとすると、有線LANに対応することが重要になってくる、と予想できたからです。

私の普段の仕事はテレワークが基本で、Wi-Fiに対応していないデスクトップPCを使い、NASは仕事でもプライベートでもフル活用しています。デスクトップPCだけなら、臨時の手段としてUSB Wi-Fiアダプターを購入してスターリンクのWi-Fiルーターに接続するという方法をとれますが、NASなども含めた既存のLAN環境をそのまま使いたいとなると、有線LANを活用するのが現実的です。

スターリンクのWi-Fiルーターにイーサネットアダプターを取り付けると、それだけで有線LANを使えるようになりますが、スターリンクWi-Fiルーターの機能はそのままです。つまり、スターリンクWi-Fiルーターの配下に自宅のルーターという多重ルーターの状態になりますから、かなり無駄の多い構成です。

サードパーティ製のWi-Fiルーターをメインにして環境を作りたい場合や、私のようにすでにセットアップしてあるルーターにつないで既存の環境を流用したい場合は、スターリンクのアプリの設定でルーターの「バイパスモード」を選択することで、文字通りスターリンクWi-Fiルーターの機能をバイパスすることができます。

アプリでバイパスモードを設定するところ。設定後は画面からWi-Fiルーターのイメージイラストが消え(アンテナの左隣)、ネットワーク関連の設定はできなくなります

バイパスモードは気軽に利用できる機能ではなく、(この筐体の)ルーター機能は完全に停止されます。付与されるIPアドレスもひとつだけになるので、サードパーティ製ルーターにつなぎ、これをローカルルーターとしてセットアップする必要があります。バイパスモードを解除するにはスターリンクWi-Fiルーターを工場出荷状態にリセットするしかないので、自分でいろいろと設定を行なえる玄人向けのモードという位置づけです。

もう少し詳しくみていくと、イーサネットアダプターを取り付けてバイパスモードにすると、スターリンクWi-Fiルーターの電源部分だけは機能し、それ以外のルーター部分は完全停止するという形です。

アンテナに接続しているケーブルは1本だけで、スターリンクWi-Fiルーターにつながっています。このケーブルはアンテナに電源を供給するためPoEの仕組みを流用しつつ独自仕様のケーブルになっています。スターリンクWi-Fiルーターの機能が停止しても、アンテナに電源を供給するために電源部分は稼働している必要があるわけです。

こうしたことから、イーサネットアダプターを付けてバイパスモードにしたスターリンクWi-Fiルーターは、PoEで電源を供給する「PoEインジェクター」のように機能していることがわかります(ただし独自仕様です)。

実は、スターリンクのシステムにおいては、アンテナの中にもルーターが搭載されています。このため、スターリンクWi-Fiルーターのルーター機能を無効化しても、上流にあるアンテナ内蔵ルーターは機能しているので、自前のルーターは「ローカルルーター」(DHCPクライアント)として動作させればインターネットにつながるようになります。

利用イメージ。イーサネットアダプターからサードパーティ製ルーターのWANポートにつないでいます(白いLANケーブル)。ルーターはローカルルーターモードにします

スターリンクのプランはこれまでと変更はなく、日本国内の陸上であれば利用場所に制限がなく、一時停止や再開が自由にできる「モバイル - 地域」(Mobile - Regional)というプランで使っています。利用料は月額9,900円で、月の途中で再開すると日割り計算されます。

実際に普段使っている自前のルーターのWANポートにスターリンクからのLANケーブルを接続し、ローカルルーターモードに切り替えて、普段のデスクトップPCで使ってみましたが、光回線と比較すると少し遅いかなと感じるところはあるものの、Webブラウジング、YouTubeを見るといった程度では、スターリンクでも十分な速度が出ています。ルーターがいつもと同じなので、NASなど自宅のLAN環境がそのまま使えて、ネット回線がいつもと違うということを忘れてしまいそうになります。

通信速度は「モバイル」プランだとベストエフォートですが、以前と大きな変化はなく、下り100~200Mbps、上り10Mbps前後、遅延は30ms前後といった具合です。

通信速度。「モバイル」プランはベストエフォートですが、なかなか好調です

なお、今回試してみたタイミングでも、dアニメストアは「海外からのアクセスです」と表示されて見られない状況は変わっていませんでした。コンテンツ利用地域を制御する必要があるサービスは、引き続き利用できるかどうかチェックが必要なようです。

今回試したような、スターリンクで有線LANを使えるようにした環境であれば、自宅の有線LAN環境の上流だけをスターリンクに置き換えるといった運用が可能です。ほかにも、使用する周波数帯を制御できる自前のWi-Fiルーターを用意したり、「トラベルルーター」といった小型のWi-Fiルーターでミニマルに運用したりすることもできます。このイーサネットアダプターは米国内の価格と比較して高額な点が残念ですが、スターリンクをいろいろと踏み込んで活用してみたいという人には便利に使えるアイテムだと思います。

太田 亮三