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政策もグルメもリアルな声を聞いてこそわかる。統一地方選の楽しみ方(後編)

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統一地方選の楽しみ方(前編)では、主に「インディーズ候補」を中心に、統一地方選ではどのような傾向があり、有権者は立候補者をどのように知っていけば良いかを畠山理仁さんに教えてもらいました。後編では、街頭演説との接し方を通した、統一地方選の楽しみ方を聞きました。

今年は、4年に一度実施される統一地方選の年にあたります。総務省によると、4年前に実施された統一地方選における全選挙の投票率は道府県議会議員選挙44.02%、知事選挙47.72%、指定市議会議員選挙43.28%、指定市長選挙50.61%、市区町村議会議員選挙46.07%、市区町村長選挙47.25%と、軒並み低い傾向にあります。

「誰に投票していいのかわからない」「誰に投票しても同じ」という諦めの声も聞こえてきそうですが、それらの意見を否定するのがフリーランスライターの畠山理仁さんです。

畠山さんは、自身が選挙権を有しない地域にも足を運び、さまざまな選挙を見てきました。それらの知見は、2021年に一冊にまとめられ、『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)として出版されています。各地を旅するように選挙を見に行くスタイルは、本のタイトルから“選挙漫遊”と呼ばれるようになりました。

畠山理仁さん

選挙で選んだ商品(政治家)は原則的に返品不可

――『コロナ時代の選挙漫遊記』で書かれているような、旅するように選挙を見に行くという発想は斬新ですね。

畠山氏:2021年10月に出版した『コロナ時代の選挙漫遊記』では、国政選挙・地方選を問わず選挙を見るために地方へ出かける“選挙漫遊”という新しい旅のスタイルを提案しています。選挙を取材した本と聞くと、ガチガチの政治本をイメージするかもしれません。しかし、そんなことはありません。本書は、あくまでも選挙を楽しむことに主眼を置いた内容になっています。

これまで、私は国政選挙だけではなく、地方の選挙にも足を運び全候補者に会って話を聞くことを信条にしてきました。「それは時間に余裕があるフリーのライターだからできるんだ」という批判もいただきますが、そんなことはありませんと断言したいです。

――時間に余裕がない会社員でも選挙漫遊は難しくないということですか?

畠山氏:2022年にカタールで開催されたFIFAワールドカップには、コロナ禍の厳しい渡航制限下でも多くの日本人が現地に足を運びました。日本代表がドイツやスペインに勝利することで、日本人同士で盛り上がれるし、嬉しい気持ちになります。それを否定するつもりはありません。

しかし、日本代表が勝っても負けても私たちの生活は変わらずにこれからも続きます。統一地方選もワールドカップと同様に4年に1回しかありません。今回を逃すと、次の選挙は4年後です。そこで選んだ商品(政治家)は原則的に返品不可です。変な人を選んでしまうと、4年間ずっと後悔しながら生活することになります。これって、ワールドカップよりも重要ですよね? 一般的に、商品を購入するときは、事前にほかの商品と比べてみたり、他店にも足を運んだりと手間をかけます。選挙も同じだと言いたいのです。

――自分の住む自治体の選挙に関心を持つことは大事だと思います。しかし、自分とは関係がない自治体にまで足を運ぶ選挙漫遊は、さすがにハードルが高いようにも思います。

畠山氏:確かに、自分が居住しているわけでもない自治体、しかも遠方まで足を運び複数の候補者の話を聞く選挙漫遊はハードルが高いかもしれません。そもそも自分の居住している自治体の選挙でも、あちこち回って複数の候補者から話を聞く人も実はそんなに多くありません。選挙公報を見れば十分という考え方もありますが、やはり自分の目で見るため、耳で聞くために候補者に会って話を聞くのが一番です。

自分が住んでいない自治体の選挙を見ることも、実はとても大事なことです。例えば、東京都知事選で、A候補者がBという政策を訴えていたとしましょう。そのBという政策は、愛知県でも大阪府でも取り入れることができる政策かもしれません。政策をパクると言えば聞こえは悪いかもしれませんが、私たちの暮らしがよくなる政策なら、居住地は関係ありませんよね。選挙漫遊すると、ほかの地域で掲げられていた政策を知ることができます。

畠山さんは選挙現場だけではなく、記者会見にも足を運ぶ。写真は、官邸で安倍晋三首相(当時)に質問している様子

街頭演説巡りで知った長崎での「リンガーハット」人気

――選挙は直に候補者に会って話を聞くことがベターですが、政治に関わりが薄い一般有権者がいきなり街頭演説の場に足を運ぶことは心理的なハードルが高いようにも感じます。

畠山氏:街頭演説は立候補者の演説を聞く場ですが、だからと言って政治の話だけ聞いて帰るのはもったいないです。集まった支持者は地元の方ばかりですから、演説が終了した後に「よその土地から来たのですが、せっかくなのでご当地の美味しいものを食べて帰りたいです。おすすめの料理や店はありますか?」と訊ねてみてください。わざわざ遠くから来てくれたんだと感激して、地元の人だけが知っている美味しい飲食店を教えてくれます。

そうした地元の美味しい店を紹介してもらうやりとりでは、たまに面白い体験をすることもあります。私が長崎へ行ったとき、集まった支持者の方々に「せっかく長崎に来たので、美味しいちゃんぽんを食べて帰りたい。美味しい店を知っていますか?」と質問したら、「リンガーハットが一番うまい。間違いない」と言われたのです。

確かに全国チェーンのリンガーハットなら店舗ごとに味のばらつきはありませんし、万人に向けた味です(笑)。そういう面白い話を聞けるので、現地へ足を運んでいます。

食べ物の話は、街頭演説に集まった支持者たちと話をする最初のきっかけにしやすいのでおすすめです。いきなり見知らぬ人から、「政府の物価高対策や円安についてどう思いますか?」と政治ド直球の話を振られても、相手も容易に口を開いてくれません。それは立候補者も同じです。

しかし、ご当地の美味しい店やお土産だったら、「あそこで買うのがいいよ」といった具合に、すぐに話が弾みます。話の入り口としては最適です。そんな会話をしながら、少しずつ外交・防衛政策や消費税といった政治課題に話を切り替えていけば、相手も胸襟を開いていろいろな話をしてくれます。

――立候補者に対して、そんな軽いノリで話しかけても怒られないんでしょうか?

畠山氏:立候補者は現職・新人を問わず、真摯に政治に向き合っている人たちです。選挙に慣れていないと、そんな友達とダベる感覚で質問をしたら怒られるんじゃないか? と恐れる人が多いみたいですね。しかし、恐れることはありません。

そもそも有権者は、立候補者に対してわずかな情報しか持っていません。だから、政党名やポスターの顔写真だけで投票する人を選んでしまいがちです。でも、政治は顔や政党名でするものではありませんよね? 政策、そのほかにも信用できる人物なのか? といった人柄が判断材料になります。

有権者だったら、そうした判断材料になる情報を多くほしいと考えます。だからテレビや新聞、そして週刊誌やネットから情報を得ようとするわけです。少しでも判断材料がほしいという気持ちは、街頭演説などで立候補者に会うと一気に高まります。そのため、街頭演説では立候補者に遠慮なく質問してほしいんです。

例えば、それが愛人問題だったとしても、臆することはありません。自分が気になっているのなら、「週刊誌で見た愛人問題、実際はどうなんですか?」と聞けばいいんです。それは、有権者として当然の心理ですし、権利でもあります。

写真は、新宿駅南口で実施されたれいわ新選組の街頭演説で山本太郎代表に遠慮なく質問している様子

――そこまで踏み込んで聞いても大丈夫なんですね……。

畠山氏:聞き方は丁寧さを心がける必要がありますが、質問の内容に忖度は不要です。金銭スキャンダルについても、政治家は説明する責任があります。都合の悪い質問から逃げるような立候補者では、仮に当選しても国民の負託に応えられる政治家になれません。

質問した有権者も、その受け答えの内容・態度によって信頼できる候補者なのか、信頼できないのかを見極めることができます。

――立候補者が信頼できる人物であることは、どう見極めたらいいのでしょうか?

畠山氏:選挙に縁が遠い人は、たまたま通りがかった候補者と握手をすると「あの人、思ってたよりいい人だった」と感じてしまうことが多いようです。そのため、ほかの候補者を見なくなってしまいます。

接してみて感じたインスピレーションは大事にしてもらいたいのですが、その後に別の候補者にも接してもらいたいのです。なぜなら、選挙に出る人はみんなエネルギッシュで人並みはずれたパワーを持っています。政治家は5秒で人を魅了してしまう力を持っています。だから別の政治家と接してみて、そのパワーを比べてみる必要があります。

私は、最高で1日に18人の候補者に会ったことがあります。さすがに、そこまでは無理だと思いますが、選挙漫遊を1日するだけでも4~5人の候補者に会えます。

複数の候補者と会って話を聞くだけで、より自分にマッチした候補者を見つけることができます。仮に話すことができなくても、演説している姿をチラ見するだけでも、抱く印象は異なるはずです。

――まるでルーティンのように、いつも決まった候補者(政党)に投票している人もいますよね。やはり、ほかの候補者を見て比較検討することは重要なんですね。

畠山氏:考えてもみてください。みんな選挙に出たいって思いますか? まして、政党の支援も得られずに選挙に出るって考えませんよね? 選挙に出ることは、とても面倒なんです。自分の生活を犠牲にしなければならないし、仕事を辞めることもあります。時に家族を巻き込むことにもなりますので、家族・親族から「やめてくれ」と猛反対されることもあります。

そんなリスクを引き受けてまで選挙に出馬してくれる候補者は、私たち有権者にとって本来はありがたい存在です。私たち有権者は、そういった志を持つ人たちを大切にしなければいけません。選挙に負けて落選した候補者といえども、有権者から票を入れてもらっているのです。その候補者に票を入れた人は、忙しい中で投票所まで足を運び、投票用紙に名前を書いたわけです。そうした有権者の負託は決して無視していいものではありません。

そういった候補者を無視してしまうと、選挙に出る人はどんどん減ってしまいます。お金持ちだけが選挙に出られる、二世・三世だけが選挙に出られるという状況になります。そして、最終的には選挙なんて不要じゃないか?という社会になりかねません。そういう社会になって困るのは私たちです。

――選挙漫遊を広めるため、畠山さんはオリジナルグッズを制作していると聞きました。

畠山氏:『コロナ時代の選挙漫遊記』を発売した際、予約して購入してくださった方に自作した手ぬぐいをプレゼントしました。それが好評だったので、後に選挙漫遊を楽しむためのスタンプ帳をつくりました。

選挙漫遊を広めるため、シールなど自作グッズをたくさん制作

このほど新しい選挙漫遊グッズとしてシールを自作し、無料で配っています。これは、2月18日から劇場公開が始まった映画「劇場版 センキョナンデス」のPRも兼ねています。センキョナンデスは、お笑い芸人のプチ鹿島さんとラッパーのダースレイダーさんが監督・主演を務めたドキュメンタリー映画ですが、私が出演しているわけではありません。

それなのに、なぜ映画のプロモーションをお手伝いしているのかと言えば、プチ鹿島さんとダースレイダーさんが私の選挙漫遊を面白いと感じてくれて、2人で実践してくれているからです。

お二人は、もともとYouTubeで「ヒルカラナンデス(仮)」という政治色の濃い番組をやっています。そこから派生して、2人が各地の選挙を散歩感覚で見に行くようになり、そうした現地取材の映像が映画化されたのが「センキョナンデス」です。

ドキュメンタリー映画「センキョナンデス」の宣伝をするため、街頭に立ってビラを配る畠山さん(写真提供:「劇場版 センキョナンデス」)

「センキョナンデス」だけではなく、近年は立憲民主党の小川淳也衆議院議員を主人公にした「なぜ君は総理大臣になれないのか」や続編の「香川1区」、選挙に挑戦し続けてきたマック赤坂さんを中心に選挙戦を描いた「立候補」、原一男監督の「れいわ一揆」といった、選挙のドキュメンタリー映画が多く制作・公開されるようになっています。

政治は、“まつりごと”とも形容されるように、捉え方によっては“お祭り”なんですよね。だから小難しく考える必要はありません。旅行と同じように美味しいものを食べ歩きしながら観光名所を回るのと同じ感覚で、自分なりのペースで楽しんでほしいのです。ぜひ、今春の統一地方選は選挙漫遊に出かけてみてください。

畠山さんは、映画「センキョナンデス」のTシャツを着てインタビュー場所に現れた

畠山理仁(はたけやま・みちよし)
1973年、愛知県生まれ。早稲田大学在学中から取材・執筆活動を開始。日本国内のみならず、アメリカ・ロシア・台湾などの選挙にも足を運ぶ。2017年に『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。そのほかの著書に『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)や『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)などがある

小川 裕夫

1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスに転身。専門分野は、地方自治・都市計画・鉄道など。主な著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『都電跡を歩く』(祥伝社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)など。