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“自宅にオフィスチェア”の時代。選び方・座り方をオカムラに聞く

コロナ禍により一部で在宅勤務やテレワークが長期化・常態化したことで、自宅の仕事環境を“その場しのぎ”ではなく、ちゃんとしたもので揃えたいと考えている人が増えているのではないだろうか。特にイスや机は、長時間使用し肉体の健康にも直結するだけに、仕事用として新たに買うなら慎重に選びたいところ。

そこで本誌では、オカムラのオフィスチェアの開発者に、家庭で使うことを念頭にオフィスチェアの選び方や座り方などを聞いた。オカムラの人気・オススメ製品のほか、そもそものオフィスチェアの正しい座り方とは? という、自宅・オフィスを問わず実践できる基本的な部分も聞き、オカムラ以外の製品を購入する際にも参考にできるようにした。

10年使える品質

コロナ禍で都心のオフィス事情は転換期を迎えていると言われるが、オカムラの事業はどうなっているのだろうか。実は現在のところ、あまり売上は減少していないという。これは、オフィスの再編などで改装の需要が生まれているためだ。

また、法人向けと規模は異なるものの、やはり在宅勤務の増加で個人向けの販売も伸びており、オフィスで使っているものと同じチェアを買う人も多いという。

一方、オフィスで使い慣れているからという理由でオカムラのオフィスチェアを個人で買おうとして、その価格帯に驚く人も多いという。例えばオフィス向けで人気の「シルフィー」は、個人向け販売で買うと、可動肘モデルで9万弱という価格だ。通信販売サイトなどでは外国製の安価なオフィスチェアも販売されているが、それらとの違いはどこにあるのだろうか。答えはズバリ、高い品質だ。

「設計図の線1本から我々が作っていますし、機構も開発しています。構造体(可動しない基礎部分)は10年以上使っても壊れないという考えを基本に、大柄な欧米の人が使っても大丈夫なように設計しています。最近では、主要なオフィスチェアの構造体の保証期間を3年間から8年間に伸ばしています。こうした品質の違いが、価格に返ってくるところだと思います」(オカムラ マーケティング本部 ワークプレイス製品部 コミュニケーションファニチュアGRP 課長の五十嵐僚氏)

「シルフィー」人気の秘密

オカムラのシルフィー

オカムラがオフィスに納入しているチェアで最も売れているのは「シルフィー」とのことだが、個人向け販売の一番人気もこのシルフィーという。

シルフィーは、オカムラのオフィスチェアの中では珍しい、バックカーブアジャスト機構を備えているのが特徴。これは小柄な人でも背もたれが背中にフィットするよう、上から見た時の背中のカーブ(≒ウエストの幅)に合わせてカーブとフィット感を変えられる機構で、女性にも人気の機構という。

小柄な人の背中にもフィットするバックカーブアジャスト機構

またシルフィーには背もたれのリクライニング機構として、座面と連動してわずかに前にも傾けられる前傾機構も搭載。筆記やノートPCのような、下を向きがちな作業をサポートできるようになっている。

ほかにも、座面のクッションは硬さの異なる素材が組み合わさっており、前方は柔らかくして太ももを圧迫しないようにするなど、随所に長年のノウハウや工夫が凝らされている。

オフィス向けで人気のシルフィーは、在宅勤務にも最適といえそうだが、デザインもオフィス向けなので、例えば家庭のリビングには馴染みにくい。これはオカムラでも認識しており、シルフィーのような人気の機構を搭載した、リビングにも馴染むデザインのチェアを開発中とのことだった。

アーティストの自宅にも。世界モデル「コンテッサ」

機能とデザインのどちらでも存在感を放つのは、トップモデルの「コンテッサ セコンダ」だ。初代モデルは2002年の発表で、すでに20年近い歴史を持つほか、イタリアのイタルデザインとのコラボレーションで開発されたことも注目を集め、欧米にも出荷されている。リニューアルしたコンテッサ セコンダは、デザインを継承しながらフレームを薄くするなど、ほとんどのパーツを変えた力作。また、グローバル市場もターゲットということで、通常は体重120kgで試験するところを、コンテッサは130kg以上で試験するなど、より高強度な設計になっている。

コンテッサは、分野を問わずアーティストにも人気で、自宅のスタジオで使用し、その様子がインタビュー写真やSNSで広まって注目を集めることもあるという。

コンテッサ セコンダ

新しい取り組みとしては、近年注目を集める「ゲーミングチェア」分野に新製品「ストライカー」シリーズを投入、出荷が開始されている。シューティング、ロールプレイングなどゲームのジャンルに合わせて前傾や後傾といった姿勢を選べるほか、背もたれや座面など体が触れる部分には合成皮革ではなくファブリックを使用し、汗による蒸れや耐久性にも配慮している。

ゲーミングチェア「ストライカー」

このほか個人向けでは、高機能で高価な、天面に傾斜機能が付いた昇降デスクも、オカムラが想定する以上に売れているとのことだった。

フローリングはチェアマットも推奨

家庭でのオフィスチェアの利用には、車輪(キャスター)についてもポイントがある。オカムラでは通常のナイロンキャスターのほかに、オプションでウレタンキャスターをラインナップしている。ナイロンキャスターはオフィスで一般的なカーペット向け、より柔らかいウレタンキャスターは、傷をつけにくいという点でフローリング向けになっている。

ただ、マンションなどでは、重いオフィスチェアをフローリングの部屋で動かす際のキャスターの音が、階下からの苦情につながるケースもあるという。こうしたケースでは「チェアマット」を敷くことを推奨している。チェアマットを敷く場合は、通常のナイロンキャスターで問題ないとのことだった。

オフィスチェアの座り方

オカムラの製品かどうかを問わず、オフィスチェアの座り方、オフィスチェアを選ぶ際の機能のポイントも聞いた。取材では、オカムラ 働き方コンサルティング事業部 ワークデザイン研究所 第二リサーチセンター エグゼクティブリサーチャーで、認定人間工学専門家(CPE)の浅田晴之氏に解説していただいた。

まずイスへの座り方だが、座面の奥に(深く)座るのが大前提。お尻を背もたれにつけ、背中を背もたれに預けて間に隙間を作らないのが基本になる。お尻が勝手に前にずれていく場合は、根本的な部分で体や姿勢にイスが合っていない可能性が高いという。

座面の高さは、膝が直角に近い角度になるのが良いポジション。この時、足を前後に動かしても、かかとが浮かない程度に接地していることが望ましい。かかとがどうしても浮いてしまう場合は、ルームシューズを履いてかかとを高くする、フットレストを置いてかかとの位置を高くするといった対策がある。太もも裏の圧迫は冷えやむくみの原因になる。着座中は定期的に足を動かすことも大事という。

座面を前後に調整できる場合は、座面の先端が膝の裏に当たったり、太い血管が通っている太ももの裏を圧迫しないよう、指2本程度が入るように前後に少し隙間を作る。

肘置き(アームレスト)は、肘を支えて肩の負担を軽減する効果があり、特にパソコンのキーボードを使うなら付いているのが理想。キーボードは手前に置き、アームレストに肘を置いたまま操作できるようにする。この時、肩が不自然に持ち上がらない高さに調整する。アームレストがない場合は、肘を机の上に乗せてしまうのもアリとのことだ。

背もたれの角度(リクライニング)は作業内容によって最適な姿勢は異なるが、前のめりになって背中が背もたれから離れないようにするのが基本で、重量のある人間の頭部を体幹で支えるのが好ましい。パソコンを使う作業の場合は、下向きにならないような姿勢も大切になる。ディスプレイは目線の高さにし、ノートPCの場合なら、スタンドなどを使ってディスプレイの位置を高くすると、体への負担が軽くなる。

基本の姿勢や調整機能の使い方
悪い姿勢の例。背中が背もたれから離れ、前のめりになっている
良い姿勢。かかとが接地し、背中と背もたれに隙間がなく、頭の重量を体幹で支持する。シルフィーは写真のように座面と背もたれを連動させて前傾姿勢にでき、腹部の圧迫感を軽減、ノートPCなど下向きがちな作業もある程度サポートできる

ヘッドレストは首の位置をサポートするもので、リクライニングで後傾姿勢を多用する場合は効果が高い。余談だが、上下・前後など可動タイプのヘッドレストは内部に機構が収まるため、メッシュタイプのデザインを採用しづらいとのことだった。

一部モデルには、ランバーサポートという腰を支えるパーツを付けられるモデルがある。ランバーサポートは腰痛持ちの人などに好まれるとのことで、少し固めで、腰を後ろから押されているような感触になる。基本的には、背もたれと腰のカーブの隙間を埋めるというもので、ランバーサポートの頂点部分をズボンのベルトの上あたりにくるように調整する。

背もたれの裏にある黒いパーツがランバーサポート

イスの座面の高さが最適なポジションとして固定されるため、家庭では多くの場合、机の高さを上げたい・下げたいという状況になるという。このため、高さを変えられる昇降デスクが便利とのこと。また、天面が手前に傾斜できるタイプの机は、イスを後傾姿勢にできるため、よりリラックスした姿勢で作業できるという。机の高さが不足する場合については、薄い台を置くといった対策も可能だ。

いずれにしても、理想的な姿勢であっても長時間同じ姿勢で作業することは好ましくなく、定期的に手足を動かす、席を立って体を動かすといったことが推奨されている。

天面を傾斜できるタイプの昇降デスク。微調整のほか立ち姿勢にも対応できる

自宅で仕事をするという昨今の状況により、長時間の使用に耐えるオフィスチェアの重要性に改めて気付かされたという人は多いのではないだろうか。10年間使えると謳うオカムラの製品は、単価は高額だが、結果的に高いとは言い切れない部分もある。また、姿勢のせいで肩が凝りがち、腰を痛めるといった肉体的な疲労や怪我を伴ってしまうと、数字に現れにくい部分で生産性を落とし、何より気分も快適でなくなる。自宅での仕事を健康で快適にするためにも、今回伺ったような内容が自宅向けオフィスチェア選びの一助になれば幸いである。