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Go To トラベルの地域共通クーポンに効果はある? 長崎旅行で検証

長崎市でGo To トラベル 地域共通クーポンの利用状況をチェックしてきた

10月1日より東京発着の旅行がGo To トラベルの対象に加えられるとともに、旅行代金の15%が地域共通クーポンとして提供されるようになったことで、お得な国内旅行が注目を集めている。ただ、Go To トラベルの地域共通クーポンは地方都市にとって本当に有効な施策となっているのだろうか?

今回は、長崎県での様子を紹介しつつ、地域共通クーポンの現状や課題を見ていきたいと思う。

Go To トラベルの地域共通クーポンは10月1日にスタート

7月22日より開始となったGo To トラベル事業。開始当初より賛否様々な意見が見られるが、旅行代理店や宿泊業者、公共交通機関など、旅行関係の事業者にとって追い風になっていることは間違いないようだ。そして、10月1日には東京発着の旅行についてもGo To トラベルの対象に加えられるとともに、地域共通クーポンの提供も開始となった。

地域共通クーポンの詳細はこちらの記事にまとめられているが、簡単に言うと、旅行代金の15%相当額(1泊あたり6,000円、日帰り旅行は3,000円が上限)のクーポンを旅行者に配布することで、旅行先の土産物店や飲食店の需要喚起に繋げる施策だ。

地域共通クーポンは、紙のクーポンとスマートフォンで利用する電子クーポンの2種類が用意される。どちらが付与されるかは、旅行商品を販売する旅行会社やホテルなどによって異なっている。

10月1日より配布が開始された地域共通クーポン。こちらは紙クーポンで、額面は1,000円のみとなり、お釣りは出ない
こちらは電子クーポン。利用者が1,000円、2,000円、5,000円のいずれかの額面でクーポンを発行して利用することになる

今回筆者は、もともと予定していた取材旅行にGo To トラベル対象の旅行商品を利用した。旅程は10月18日、19日の1泊2日で、旅行代金は26,500円。ここから9,200円がGo To トラベルの割引きとして適用されて支払額は17,300円となり、さらに4,000円分の地域共通クーポンが付与された。つまり、実質13,300円で東京から長崎への1泊2日の取材旅行が行なえた形だ。なお、今回付与されたのは電子クーポンだった。

このように、旅行者にとってはGo To トラベルでの35%の旅行代金割引きに加えて15%の地域共通クーポンが受け取れるようになったことで、実質最大半額で旅行ができるため、かなりお得な施策となっている。

今回の旅では、4,000円分の電子クーポンが付与された
旅行代金は26,500円のところ、9,200円の割引きと4,000円分の地域共通クーポン付与によって、実質13,300円とお得に旅ができた

長崎旅行でGo To トラベル「地域共通クーポン」電子版を使ってみた

ほぼ趣旨通りの施設で利用できている

旅行者に付与される地域共通クーポンは、事前に利用申請し、Go To トラベル事務局に登録された店舗での利用が可能となっている。具体的には、土産物店、飲食店、観光施設、アクティビティ、交通機関など、旅行者が観光で利用する店や施設、交通機関などを主に想定している。

実際に長崎市内で地域共通クーポンの利用できる店舗をチェックしてみたところ、土産物店や観光施設、交通機関などでは対応している例が比較的多く確認できた。

例えば、グラバー園や出島、長崎新地中華街など、多くの観光客が集まる観光地にある土産物店では、すでにほとんどの店が地域共通クーポンが利用可能となっていた。また、長崎市の中心部にある浜市商店街でも、カステラや角煮まんじゅうの販売店など観光客が多く利用しそうな店での対応が確認できた。

こちらはグラバー園へ続く通りだが、土産物屋などほとんどの店で地域共通クーポンが利用可能となっていた
グラバー園の入園料にも地域共通クーポンが利用できる
出島も入園料に地域共通クーポンが利用できた
出島の売店でも利用可能だった
全国的に有名なカステラ店をはじめ、観光客が土産物を購入するために多く訪れる店も多くが対応

土産物店といえば、駅や空港の店は外せないが、JR長崎駅と長崎空港の土産物店も、もちろん利用可能だった。

この他には、大手コンビニエンスストアやドラッグストアなども多くが対応していた。地域共通クーポンによって全国規模の大手チェーンに利益が出るのはあまりいいことは思えないが、実際に店舗を運営しているのは地元企業ということも多く、地域経済の回復を主目的としている地域共通クーポンの趣旨から大きく外れているとは言えないだろう。

公共交通機関については、今回の行動範囲内においては、一部のタクシーや、稲佐山展望台への足となっている長崎ロープウェイで利用できることを確認した。また、今回は利用しなかったが、長崎県営バスでは、バスターミナルの窓口で販売している券種で地域共通クーポンが利用できる。こういったことから、おおむね当初の想定どおりの事業者が積極的に地域共通クーポンへの対応を進めていると感じた。

JR長崎駅の土産物店も、もちろん利用可能だった
大手コンビニやドラッグストアでの対応は正直疑問も感じるが、対応する店が多かった
一部のタクシーで利用できることを確認
夜景スポットとして有名な稲佐山展望台へ続く長崎ロープウェイでも運賃の支払いにクーポンを利用できる

利用できる店舗では客単価や売上が伸びている

では、地域共通クーポンが利用できる店舗での利用状況や売上はどのように推移しているのか、実際にいくつかの店舗で話を聞いてみた。

まず、一様に帰ってきた答えは、客単価や売上が伸びた、というものだった。Go To トラベルが始まった7月22日以降は観光客が増えていたそうだが、10月1日から東京発着が対象となってからは目に見えて観光客が増えているという。その上で、地域共通クーポンが使えるならと、より多くの商品を買ったり、単価の高い商品を買う客が増えたことで、売上や客単価の伸びに繋がっているそうだ。

とはいえ、昨年と比べるとまだまだ、という声も聞かれた。

例えば、長崎空港の総合売店「エアポートショップMiSoLa-海空-」では、地域共通クーポンを利用して陶器や装飾品など比較的単価の高い商品を購入する客が増えたことで客単価は上がっているものの、まだ飛行機の減便が続いていることで乗降旅客数の大幅減が続いており、売上増の実感はあまり感じないという。

それでも、10月1日以降は利用客数が増えているので、今後に期待したいとのことだった。

長崎空港の総合売店「エアポートショップMiSoLa-海空-」では10月1日より電子クーポンの利用を開始し、客単価が高まっている
陶器や装飾品など比較的単価の高い商品がよく出るようになったそうだ

クーポンの利用率は日々高まっているそうで、利用する客層も幅広いという。そして、長崎という土地柄だと感じたのが、修学旅行生の利用が目立っているという点だ。観光地の土産物店で聞くと、多くの修学旅行生がクーポンを使ってお土産を買っているとのこと。今回の旅はちょうど10月の修学旅行シーズンだったこともあり、実際に観光地でも修学旅行生の姿を多く見かけたが、地域共通クーポンを使って地域の名物を食べたりお土産を買ったりと、有意義に活用しているようだ。

ちなみに、エアポートショップMiSoLa-海空-によると、10月15日時点での利用客のクーポン利用率は約15%とのこと。想像よりも少ない印象だが、この数字は今後増えていくものと思われる。また、紙クーポンと電子クーポンの割合については紙クーポンが約7割、電子クーポンが約3割とのことだった。

グラバー園付近の売店ではクーポンを使う修学旅行生が特に目立つという

電子クーポンは利用できる施設が少なく使い勝手もかなり悪い

ところで、今回筆者は電子クーポンを付与されたこともあって、電子クーポンの利用できる店が少ないという点はかなり気になった。正確に数えたわけではないが、今回の旅の時点では、電子クーポンが利用できるのは全体の半分ほどといった印象だった。

クーポン対応店舗をチェックしてみると、半数ほどは紙クーポンのみ対応となっていた

利用できるクーポンの種類は、各事業者が申請時に指定したもののみとなっている。おそらく多くの事業者が、手間のかからない紙クーポンのみの利用で申請したことで、電子クーポンの利用できる店が少なくなっているのだろう。

実際、電子クーポンに関しては利用者側、事業者側双方ともに使い勝手の悪さを強く感じた。利用者は、利用時にスマートフォンで専用サイトにアクセスしてログインし、利用する金額のクーポンを発行したうえで店内のQRコードを読み取り、決済後に店員に見せる、という作業が必要となる。また、発行できる電子クーポンは1,000円、2,000円、5,000円の3種類のみとなっているため、金額によっては何度もクーポンを発行して決済を繰り返す必要がある。

事業者側も、利用者がきちんとクーポンを使ったかどうかをスマートフォンの画面でいちいち確認する必要があるし、読み取り用のQRコードを店頭に設置する必要もある。また、電子クーポンの利用状況は専用Webページで確認できるものの、紙クーポンのような使ったことを判断できる物理的な物が手元に残らないため、売上との照合も面倒となりそうだ。

電子クーポンサイトにアクセスして、1,000円、2,000円、5,000円のいずれかのクーポンを発行
店頭に掲示されているQRコードを読み取る
決済を行ない画面を店員に確認してもらう。この一連の手順は非常に面倒だ

ただ、利用者の声を受けて日々改善されてはいるようだ。例えば、紙クーポンのみ、または電子クーポンのみで申請した事業者から、両方利用できるように変更したいという声が多かったことを受けて、10月6日よりオンラインで両方利用できるよう簡単に変更できるようになっている。それによって、先ほど紹介した長崎空港のエアポートショップMiSoLa-海空-では、当初は紙クーポンのみ利用可能だったものの、10月10日から電子クーポンにも対応し、現在では双方が利用可能となっている。このように、現時点で紙クーポンのみ対応の店でも、今後は電子クーポンも利用できるように変更するところが増えるものと思われるため、この点は改善が期待できる。

同様に、電子クーポンの使い勝手についても、せめて1,000円単位の自由な額面でクーポンを発行し利用できるようするなどの改善を期待したい。

長崎空港のエアポートショップMiSoLa-海空-では、当初は紙クーポンのみ対応だったが、10月10日から電子クーポンにも対応

利用できる店舗数や飲食店での対応なども問題

利用できる店舗についてもいくつか疑問を感じる部分があった。特に大きな問題と感じたのが、地域共通クーポンを利用できる店や施設が絶対的に足りないという部分だ。

街を歩いて店をチェックしてみても、地域共通クーポンが利用できることを示すポスターを掲げていない店が大多数だった。そういった中には、地域共通クーポンが利用できれば客が増えそうなのに、と思う店も多く存在していたため、かなりもったいないと感じた。

また、飲食店での対応が少ない点も大きな課題と感じた。今回の旅の時点でもいくつかの飲食店でクーポンの利用が可能なところもあったが、大多数の飲食店では対応が見られなかった。

加えて、地域共通クーポンは、旅行先の土産物店や飲食店の需要喚起に繋げる施策のはずだが、衣料品店や仏壇仏具店など、なんでこの店が、と思うような店でも地域共通クーポンが利用できるようになっていた。もちろん、そういった店を観光客が利用しないとは言い切れないし、「観光需要喚起による地域経済の回復」というGo To トラベルのそもそもの目的を考えると、なるべく多くの事業者で利用できた方がいいのは間違いない。とはいえ、旅行者から見たら、先に飲食店などでの対応を進めるべきではないのか、と感じるのも事実だ。

クーポンを利用できない店舗が圧倒的に多く、使いたくても使えない場面が多い

ただ、これらは今後順次改善していくだろう。今回の旅は、日程的に地域共通クーポンの利用が始まってまだ間もないこともあって、クーポン利用の申請が間に合っていなかった店も多かったと思われる。また、公共交通機関での対応においても、長崎バスが10月22日から地域共通クーポンと長崎市内観光1日乗車券との引換を開始している。長崎県に限らず、今後は全国的に対応する店や公共交通機関が増えていくはずだ。

飲食店での対応も同様だ。そもそも飲食店で地域共通クーポンへの対応が少なくなっているのは、Go To Eatへの登録完了が必須条件となっているからだ。

Go To Eatは10月1日にスタートした事業で、予約サイト経由でのポイント付与と食事券の販売という2種類の事業がある。このうち、予約サイト経由でのポイント付与については10月1日にスタートしたが、食事券の販売は地域によって開始時期が異なっており、10月下旬時点でもまだ開始していない地域が多く存在している。そして、全ての飲食店が予約サイトを利用できるわけではなく、食事券のみの利用を考えている飲食店では、Go To Eatへの登録完了時期が食事券の利用開始直前となってしまうため、必然的に地域共通クーポンの利用開始時期も遅くなってしまう。

長崎県では、10月29日より食事券の利用が開始となったので、今後は地域共通クーポンが利用できる飲食店も増えるだろう。同様に、その他の地域でも食事券の利用開始に合わせて地域共通クーポンが利用可能となる飲食店が増えるはずで、今後は改善へと向かうはずだ。

飲食店での対応は、今回の旅行時点ではかなり少なかったが、Go To Eat食事券が始まれば改善が期待できる

早急な問題改善でより良い施策に成長することを期待

このように、まだ問題点も散見される地域共通クーポンだが、実際に長崎県での状況を見る限りでは、この施策が大きな打撃を受けている旅行業界や地域経済にとって追い風になっていることは間違いないと感じた。おそらく、他の地域でもおおむね同様の効果が出ているはずで、全体的には非常に有効な施策になっていると言っていいだろう。

長崎市でGo To トラベル 地域共通クーポンの利用状況をチェックしてきた

いくつか見られる問題点についても、比較的簡単に改善できるものばかりで、日々改善が試みられている点も心強く感じられる部分だ。Go To トラベル事業の延長が視野に入ってきていることも合わせて、今後も問題点の改善を進めていきただき、疲弊している旅行業界や地域経済を盛り上げるより良い施策として成長してもらいたいと切に願う。