鈴木淳也のPay Attention

第72回

Go Toトラベルで各地をまわって分かったこと

11月半ば、(GoToを使わずに)秋の紅葉が美しい京都に行ってきた

間もなく11月後半の3連休に突入するが、これを機会に旅行を計画されている方もいるだろう。全国的に新型コロナウイルスの陽性患者が急増しつつあるなか、「Go Toトラベル」利用の是非も含め、この時期の旅行による人の行き来にさまざまな意見が交わされている。だが、多くの人々はこれを機会を旅行先へと出向き、この3連休は賑わう週末となるだろう。

これまで打ち出されたGo To施策の数々の効果検証が行なわれるのはまだ先の話となるが、今回はGo Toが観光地でどのように扱われ、実際に活用されているのかを少し見ていきたい。

Go Toトラベルを積極活用するホテル

Go Toトラベルの利用と実際については、弊誌でも平澤寿康氏日沼諭史氏がレポートしているが、代理店または“予約サイト”から対象となる旅行商品を購入することですぐに適用され、本来の代金から35%割り引かれた料金の支払いで済むほか、15%ぶんの地域共通クーポンが紙または電子クーポンとして付与される(1,000円単位で扱われ、百円単位以下は繰り上げ)。

日帰り旅行でもパッケージとして構成されていれば対象となるが、例えば宿屋のみの利用の場合は宿泊が前提となる。今回、10月以降にGo Toトラベルの対象地域に東京が含まれるようになったことを受け、利用客減の対策で宿泊料金を思い切り引き下げていたホテルの中には、Go To利用を前提として一気に値上げに転じたところも出てきており、Go To利用がないと倍近くまで値がつり上がったケースも見ている。

一方で、ビジネスホテルを中心に部屋を埋める手段として提供を始めたデイユースのテレワークプランの場合、宿泊がないためにGo Toトラベルの対象にはできず、引き続き低い値段設定のままになっていたりと、「Go Toを使って少しでも稼ごう」という意図を隠さない。これはホテル自身の“予約サイト”を通じてそのままGo Toを申し込める場合だが、各社各様の工夫が見られて面白い。

Go To利用を前提としているホテルでは、クーポン引き換え用の専用カウンターを設置している
配布するクーポンを使ってその場でホテルの追加サービスの案内をするケースも

筆者はGo Toトラベル開始後に3回ほど国内出張しているが、そのうち実際にGo Toトラベルを利用したのは10月の1回のみ。残り2つのうちの1回は7月にGo Toトラベル対象となるホテルを旅行代理店(OTA)経由で予約していたため、本来であれば割引対象だが、まだシステムが整っていないタイミングだったので事後申請が必要で、面倒なのでそのまま放置していた。知り合いで8月にGo Toトラベルで旅行して割引申請したが、いまだ還付が行なわれていないという話も聞いており、申込時にGo Toトラベルが適用されないといろいろとうまく行かない印象がある。

このように開始当初は割と面倒な印象があったGo Toトラベルだが、旅行代理店を介して一括申し込みが可能になると、利用のハードルが下がったのか、頻繁に活用される話を聞くようになった。10月以降は東京が対象地域に加わったため、関東都市圏でもクーポン利用可能な店舗が一気に増え、前述のようにホテルによっては専用カウンターを設置してクーポン発行に対応するケースも見られるようになった。

10月以降は長崎と京都の2都市を訪問しているが、いずれも地元商店やタクシー運転手などとの会話で、Go To利用の訪問者が非常に増えていることを確認している。先ほどの平澤氏のレポートでは、10月の長崎は多くの修学旅行生が紙クーポン片手に市内巡りをしていたとのことで、それだけGo Toトラベル利用が浸透していることが分かる。

これだけ利用者が増えれば、あとはそこで消費されるクーポンをどのように地元商店が取り込むかが鍵となる。

長崎で乗車したタクシーでは、数々のQRコード決済とともにGo ToトラベルのQRコードも貼り付けられていた

使いにくい電子クーポン

Go Toトラベルで提供される地域共通クーポンには「紙」と「電子」の2種類があるが、このうち圧倒的に利用できる場所が多いのが「紙」だ。実際にいろいろ街を歩いていると分かるが、お土産物屋などを中心に2種類のいずれにも対応する店舗がある一方で、コンビニを含む残りのほとんどは「紙」のみに対応している。

紙クーポンの例。受け取って15分以内にホテル前のコンビニで食料調達に活用させてもらった

ある店舗に「電子クーポン未対応の理由」について尋ねたところ、「電子クーポンに対応するためにシステム上で対応しないといけない」という理由を挙げていた。紙クーポンの場合、回収したものをまとめてそのまま事務局へと送付すれば、該当する金額が後にそのまま振り込まれるため、帳簿で受け取ったクーポンの金額さえ控えておけばいいということで、特別な処理が必要ない点が大きいようだ。

一方でコンビニが紙クーポンの受け取りにしか対応していないことからも分かるように、POSを導入済みなど、後付けで会計システムや処理フローをいじるようなケースでは電子クーポンは導入しにくいという側面がある。

空港の土産物屋では紙と電子の両クーポンに対応していたが、入っているテナントによっては紙のみしか受け付けなかったり、そもそもGo Toトラベル対象の店舗ではなかったりするので、会計時に困らないよう、あらかじめクーポン利用の有無を確認することをお勧めする
街の土産物屋では、やはり紙と電子の両方に対応しているケースが多い。それだけ観光客対策が重視されているのだろう
雑貨屋では紙クーポンのみの対応。これは一例だが、長崎と京都をまわった感触で両対応は2-3割程度で、残りはほぼ紙クーポンのみ対応。これは東京都市圏でもそれほど変わらない印象だ

このように紙クーポンを中心にまわっている印象のあるGo Toトラベルだが、電子クーポンの使い勝手の悪さを考えると、高齢者を中心にスマートフォンなどの電子機器に不慣れな方には電子クーポンはあまりお勧めできない。長崎出張の場合はOTA経由で申し込んだため電子クーポンが付与されたが、ここで発行された予約番号と旅行代理店番号をGo Toトラベルのサイトに入力すると、到着日の午後3時以降にクーポン利用が可能になる。

電子クーポンではあるものの、額面は1,000円単位でしか消費できないため、お釣りの分は諦めるか、あるいは差額を現金で支払う必要がある。これは紙クーポンも同様だが、「電子クーポンなのだから、もう少し融通は利かないのか……」とは考えてしまう。

また、電子クーポンの場合は商店が展示するQRコードを読み込み、そこで金額を操作して支払い画面を見せるという手順を踏む。このあたりもMPMのQRコード決済に似ている部分があり、慣れない人には戸惑う部分も大きいだろう。その点で、「お釣りの出ない1,000円紙幣」として活用できる紙クーポンの方が手軽ではある。

ただ実際に長崎で紙クーポンの使い方を商店に聞いたところ、「皆さん、お釣りとかを気にせず手持ちのクーポンで支払える商品を手に取って会計していきます」と話していた。

電子クーポンは店の提示するQRコードを、Go Toトラベルのサイトを開いた状態で「クーポンを使う」を選択して読み込むことで“消費”する
Go Toトラベルのサイトでは予約番号に応じた金額を管理しており、1000円単位で消費できるようになっている

電子クーポンについては、千葉県の旅館で非常に大きい金額のGo Toトラベル予約が入っていたものの、実際に現地に行かずに無断キャンセルされた状態になり(ダミーの宿泊者情報が入力され、キャンセル料取得のためのカード情報は入っていない)、宿泊初日の午後3時以降の電子クーポンだけが抜き取られたという事件が発生している。

その後の情報は追えていないが、Go Toトラベルのクーポンは旅行期間中の指定地域のみ有効で、しかも前述のように電子クーポンは使える場所が非常に限られている。利用すれば足取りそのものは追える。これだけ不利な条件でどのように詐欺を働くつもりだったのか不明だが、11月25日以降は受け取り時のSMS認証が必須となる見込みで、一応は穴を塞ぐ対策は行なわれているようだ。

Go Toトラベルの効果はあるのか

具体的な数字は不明だが、観光地やホテル、商店などでの聴き取りから判断する限り、Go Toトラベル利用を前提とした訪問者はそれなりにいると考えている。特に11月中旬の京都はGo Toトラベルではすでに宿や移動手段の確保が難しかったほどで、ほぼ満員の新幹線車内においても、それなりの数の旅行者がGo Toトラベルを活用していたのではないかと推測している。

11月半ばの週末の京都の錦市場の様子。ほぼ例年通りの賑わいに戻っている
日没直後の清水寺への参道の様子。やはり例年のピークシーズンと同程度まで客足が回復している

Go Toトラベルについてはさまざまな功罪が指摘されているが、少なくとも利用した旅行代金の割引分については積み増しで宿泊業者や交通事業者に還元され、クーポンで配布される部分については地元への還元効果が期待できている。

どれだけの人が利用しているのかが分からないのは残念だが、(利用できる場所の限られる)クーポン利用のために街を歩き回ることになり、それだけお金が落ちる機会も増えることになる。

寺社や庭園などの施設の入館料はクーポンが利用できなかったりするが、わざわざ観光地に出向いてクーポンを使える店しか利用しないというわけはなく、客足が伸びれば周辺施設も潤うことになる。おそらくは、こうした人の流動性を生み出すことでお金が落ちる機会が増えた、という点で経済効果が検証されることになるだろう。コロナウイルスの拡散の可能性と紙一重ではあるものの、微妙な使い勝手の悪さが効果を生み出すポイントの1つではないかと考える。

錦市場で頻繁に見かけたGo Toトラベルの“のぼり”。標準で配布されるものではなく、別途購入する必要があるようだ。おそらく商店街単位などで購入・配布しているものと予想する
“のぼり”には紙専用バージョンもあるようだ

急造で登場した割には面白い作りになっているGo Toトラベルだが、やはり問題点もある。

例えば複数の事業者が「還元タイミングが不明で遅い」と指摘しており、中小企業を救うという側面を持つ施策である以上、キャッシュフローでの問題はあまりいい傾向ではない。また、事務手続きが煩雑になる傾向があり、このあたりも悩ましい問題だ。多くの旅行者がGo Toを適用しつつ各所を訪問するため、商店ではここで出てくるクーポンの受け皿を作らなければ機会損失につながる。ゆえにGo Toトラベル対応を検討せざるを得ず、これが負荷になる可能性がある。

システム的にも、Go Toトラベルはこれ1回切りの施策になると予想され、そのためにわざわざPOSなどのシステムを改修したり、作業フローを変えるのは効率が悪い。

筆者は、将来的にこういったシステムをアドオンで簡単に載せられる電子取引システムが存在してもいいのではないかと考えている。

いわゆる「○○Pay」の政府版や自治体版にあたるものだが、日本全国のさまざまな地域で発行されている地域通貨やポイント、そして自治体のキャッシュレス対応も合わせ、今回のGo Toトラベルに通ずる施策をスムーズに提供できる仕組みがあればいい。民業圧迫という考えもあるかもしれないが、相互連携のないシステムを施策や自治体ごとに使い捨てるのは非常にもったいないことで、うまく今後につながる仕組みがあってもいいのではないだろうか。

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)