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2020年もタクシーアプリ戦国時代? 「GO」誕生と「S.RIDE」の進化

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観光業の低迷、東京オリンピック・パラリンピックの開催延期など、モビリティ業界にとって厳しい社会情勢のなか、タクシー配車アプリにも大きな変化が訪れている。9月1日に「JapanTaxi」と「MOV」が統合し、「GO」というサービス名で新たなスタートを切ったかと思えば、それに先立つ7月にはソフトバンクの支援する「DiDi」が一部地域でのサービス提供を中止。一方で、Uberが“本業”の配車サービス「Uber Taxi」を東京都内で始めるなど、スクラップ&ビルドが進んでいるようだ。

本誌ではおよそ1年前に4つのタクシー配車アプリを比較したが、サービスの統合やアプリ自体の進化で当時とはまた状況が変わってきている。そこで今回は、これから日本のタクシー配車サービスの主要な立ち位置を担うと思われる「GO」と「S.RIDE」を中心に、使い勝手やそれぞれの違い、特徴について改めてチェックしてみた。

JapanTaxiとMOVが統合した「GO」は地域拡大&機能拡充

「GO」アプリの画面

日本のタクシー配車アプリとしては最も歴史の長い「JapanTaxi」と、DeNA発の「MOV」が統合し、2020年9月1日から提供を開始したのが「GO」だ。当初は2020年度後半リリース予定だったものが、タクシー業界を盛り上げるためとして、急きょ前倒しでスタートしたものになる。

「JapanTaxi」にとってみれば、2011年に「日本交通タクシー配車」アプリとして誕生し、その後「全国タクシー配車」アプリへ引き継いでから、さらに「JapanTaxi」アプリに変わって今回の「GO」への統合となったわけで、都合4回の“脱皮”を繰り返してきたことになる。もう一方の「MOV」も初めは「タクベル」というサービス名だったから、名称変更は3回目だ。

統合によってMOVとJapanTaxiの両方が提携している(当初は一部の)タクシー会社に対応し、利用できる機会や地域がさらに広がることになる。9月15日時点の対応エリアは、全国13エリア(宮城県/埼玉県/千葉県/東京都/神奈川県/滋賀県/京都府/大阪府/兵庫県/奈良県/福岡県/愛知県/岐阜県)で、さらに24日から群馬県、30日から茨城県に拡大する。

「GO」アプリは「MOV」をベースにしており、基本的なユーザーインターフェースもほとんど「MOV」のままなので、JapanTaxiユーザーには戸惑うところもあるかもしれないが、アプリの機能自体はこの1年でかなり充実してきた。

基本的な使い方は、乗車したい場所を地図上で指定して、「タクシーを呼ぶ」ボタンを押すだけ。利用可能な地域が広がったため乗車場所として指定できるところは増えているが、反対にあえて乗車場所の指定をできなくしているところもある。たとえばタクシー乗り場のある駅ロータリーや、車両が進入できない公園などは特殊なエリアとして色分け表示され、そこにはタクシーを呼べないようになっている。

乗車場所を地図上で指定して「ここで乗る」ボタンを押す
タクシーの到着予定時間が表示されるので、問題なければあとは「タクシーを呼ぶ」ボタンを押すだけ
車両の進入できないようなところは明示的にタクシーを呼べない場所として色分け表示される

また、タクシー降車時に表示される「メーター運賃」を支払う通常の方法に加えて、乗車前に料金が決まる「確定運賃」も選べるようになった。確定運賃は、乗車場所から降車場所までを走行したときにかかる料金予測をもとに、乗車前の時点で支払料金を確定するもの。スムーズに移動できた場合はメーター運賃より高くなる可能性はあるが、道路の混雑が予想されるときは確定運賃の方が出費を抑えられる場合もある。

現在のところ確定運賃は、対応しているタクシー(会社)でなければ選ぶことができない。地域によっては従来通りメーター運賃のみの利用となるだろうが、「GO」では配車したいタクシー会社を選択することも可能なので、メーター運賃にするか確定運賃にするか、状況に合わせてうまく使い分けたいところだ。

「確定運賃」で乗りたいときは乗車場所と降車場所を指定する
ただし「確定運賃」で利用できるのは対応しているタクシー会社のみ

さらに、乗車前には走行ルートも指定できるようになっている。自動で選ばれる「推奨」のほか、「時間優先」と「有料道優先」の計3パターンから選択でき、カーナビでルート探索するのに似たような使い勝手。もちろん乗車後に口頭で要望を伝えることもできるわけだけれど、やり取りが減ることで移動がよりスムーズになることは確かだ。ドライバーとは最小限の会話で済むので、ある意味このコロナ禍のニューノーマルに適応した機能とも言えるだろう。

「推奨」のときのルート
「時間優先」にしたときは有料道路を利用する形になった。早く到着できるが料金は少し上がる

決済方法は、あらかじめアプリ内で登録したクレジットカードのみ。車内にタブレット端末がある場合は、「GO」アプリ上で「アプリ決済」の操作をした後、タブレット端末にスマートフォンを近づけることで支払が完了する。タブレット端末がない場合は降車時にドライバー側で操作し、決済する形になる。いずれにしても利用者がドライバーとなんらかのやり取りをする必要はない。接触を極力抑える仕組みになっているのは、このご時世ではありがたい。

現状、利用できるのはクレジットカードのみ
車内でのタブレット端末、もしくはドライバー側の操作で決済する

なお、「GO」ではPayPayによる決済方法も用意しているが、7月27日から「GO」の運営会社の都合により新規の登録が休止しているようで、9月14日時点でも登録受付は再開していない。MOVのときには対応していたデビットカードやプリペイドカードも「GO」への移行を機に利用不可となっており、7月にはクレジットカードのDiscoverも非対応となった。支払手段については絞られている印象だ。

ちなみにJapanTaxiユーザーが「GO」へ移行するにあたっては、「GO」の新規インストール、新規会員登録が必要となり、既存のログインアカウントは使えない。「GO」の設定画面からJapanTaxiの「ランク」情報(利用回数に応じてクーポンなどが増額される)など一部のデータを引き継ぐことはできるが、JapanTaxi独自の車内決済である「JapanTaxi Wallet」は現在はまだ「GO」アプリ上から使えないなど、実装・統合されていない部分も残っている。

「JapanTaxi」アプリは当面そのまま利用できるとのことなので、しばらくは無理に移行しなくてもいいのかもしれない。

“連携”をキーワードに独自の進化を遂げる「S.RIDE」

「S.RIDE」アプリの画面

ソニー発のタクシー配車アプリ「S.RIDE」は、配車に対応している地域が当初は東京23区、武蔵野市、三鷹市と狭かったが、2020年9月時点で西東京市、立川市、多摩市、稲城市、横浜市、名古屋市も追加され、カバー範囲は拡大している。日本の大都市のかなりをカバーする「GO」に比べると地域は限定されるものの、タクシー配車機能の強化だけでなく、他社連携も積極的で独自色が感じられる。

タクシー配車に直接関係する部分の機能も充実している。利用するタクシー会社や車両タイプをあらかじめ限定して配車依頼でき、支払方法は登録済みクレジットカード(車内でのQRコード決済)と対面支払の2通りを選べる。

事前に「メーター運賃」と「確定運賃」から選ぶこともできるので、自分なりのこだわりのタクシー利用にも柔軟に対応できるのではないだろうか。

乗車・降車場所を指定してボタンを右にスライド
「確定運賃」で利用することも可能
利用したいタクシー会社、車両タイプはあらかじめ設定しておける

乗車場所で待つ間にドライバーにメッセージを送りたいときは、他のアプリと同じようにテキスト入力することになるが、はじめから用意されている定型文のタップで簡単に伝えられるようにもなっているのも便利。移動を便利にしようという意気込みが随所で感じられるサービスに仕上がってきている。

ドライバーには定型文で簡単にメッセージを送れる
支払は車内のラブレット端末から。アプリでは「S.RIDE Walletから」と指示があるが、実際には「QR決済」のボタンを押す
表示されるQRコードをアプリで読み取って決済完了

また、S.RIDEでは、サービス・機能面では“連携”をキーワードに独自色を打ち出し始めている。

その1つはJR東日本が提供する「Ringo Pass」との連携だ。「Ringo Pass」は、自転車とタクシーの2つのモビリティサービスを快適に利用できるようにするアプリ。シアサイクルのポート(駐輪場)の場所を調べたり、アプリから電子マネーで支払って自転車(ドコモ・バイクシェア提供のサービスに対応)を借りたりできるほか、タクシー配車の機能を呼び出すことで「S.RIDE」を起動し、その場で配車手続きができるようになっている。

「Ringo Pass」アプリ内から「配車」ボタンで「S.RIDE」を起動できる

地下鉄の乗り換え検索ができる「東京メトロmy!アプリ」とも連携し、経路検索画面から直接「S.RIDE」を起動できるようにもなっている。これらを使いこなすことで自転車、電車、タクシーの最も効率的な乗り継ぎが可能になるというわけだ。どのサービスも都市圏を中心に提供されていることもあって、都会で暮らす人向けの総合モビリティプラットフォームのような位置付けになっている、と言ってもいいかもしれない。

なお、JapanTaxiも様々なMaaSアプリなどとの連携を行なってきていた。GOに統合され、それらがどのように引き継がれるかも注視したいところだ。

「東京メトロmy!アプリ」の経路検索結果から、「タクシーを呼ぶ」ボタンで「S.RIDE」を起動

さらに10月1日からは、経費精算サービスの「Concur」と連携し、「S.RIDE」を利用して乗車したタクシーの利用履歴を自動でシステムに登録できるようになるという。これが可能になれば、社内で領収書の提出などを省くことができ、経費精算時の手間が大幅に削減できるようになるはずだ。

他にも、3つの単語で地球上のあらゆる位置を指し示すことができるサービス「what3words」との連動で、乗車・降車場所を簡単に指定できるというちょっと変わった機能もある。たとえばインプレス本社がある場所は「///しらせて・まさに・しらない」と表現され、これを「S.RIDE」で入力するだけで目的地の設定が完了する。目的地が明確なら住所やビル名で指定した方が確実ではあるが、タクシーを停めてほしいポイントがわかりやすい住所やランドマークではないときは、what3wordsを使うと都合が良いときもあるだろう。

「what3words」で調べた3つの単語を入力して場所検索
好きな場所をピンポイントで指定できる

タクシー配車アプリ「GO」と「S.RIDE」に勢い?

ほぼ日本全国、いつでもどこでもタクシー配車できるという点では「GO」が圧倒的な存在になりつつある。が、都市圏に限っては、タクシーに限らず自転車や電車なども含め、移動そのものを快適にする「S.RIDE」の利便性も高い。筆者から見ると、タクシー配車アプリは2強と感じる。タクシー配車に関わる基本機能はほぼ同様なので、都市圏では「S.RIDE」を、それ以外の地域では「GO」など、その地域に強いタクシー配車アプリを選ぶというのが基本になるだろう。

「Uber Taxi」もサービスを都内で開始したが、機能はシンプルで積極的に選ぶ理由はあまりなさそうだ。一部地域でサービス休止している「DiDi」とともに、今後の盛り返しに期待したいところ。観光目的の訪日外国人の利用が当面望めないなかで、各々のサービスがどう難局を乗り切っていくのかにも注目だ。

スタートしたばかりの「Uber Taxi」。画面はシンプルだ
経費管理システムとの連携や領収書の送信などビジネス利用者向けの機能もあるが、機能は少なめ