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5G時代のARグラスは“風景”の拡張。KDDIとタッグを組む「nreal light」

nreal・ファウンダー兼CEOのChi Xu氏。手にしているのはスマートグラス「nreal light」の試作機

6月27日、KDDIは、東京都内で、5Gへの取り組みを紹介する法人向けイベント「KDDI 5G SUMMIT」を開催し、KDDIとパートナーシップを締結した、スマートグラス「nreal light」開発元nrealのファウンダー兼CEOのChi Xu氏が来日した。Xu氏に、同社が開発中のスマートグラスの狙いと、KDDIとの提携の背景などについて語った。

2020年に499ドルで販売、Androidスマホをつないで利用

まず、「nreal light」がどんなスマートグラスなのかを解説しておきたい。以下、細かなスペックについては、スペック表などに記載がないものの、Xu氏に直接訊ねて確認した内容を含んでいる。

nreal lightは現在開発中で、8月に開発者バージョンの提供を開始する。一般の消費者向けは2020年初頭に出荷予定だ。

スマートグラスには様々な種類があるが、nreal lightは、メガネにディスプレイと位置認識用のセンサーが搭載されたものになっている。処理はケーブルでつながれたスマートフォン、もしくは専用デバイスで行なう。対応スマートフォンはAndroid、プロセッサーとしてQualcommのSnapdragon 855、インターフェイスとしてUSB Type-Cを採用している。

KDDI 5G SUMMITで展示されたnreal light。Androidスマホである「Xperia 1」に特別なソフトを入れた上で利用している
nreal light本体。多少大柄だが、メガネにより近いデザイン・かけ心地であるのがポイント

1月のCESでは専用デバイスを併用するものが展示されていたが、KDDI 5G SUMMITでの展示は、Xperia 1に特別なソフトウエアを入れたものが使われていた。市販のXperia 1がそのまま使えるというわけではない。

1月のCESで展示されていたnreal light。左手に持っている四角いものが専用の本体。この当時は、このデバイスとセットで使うとされていた
KDDI 5G SUMMITでのデモ。専用本体の代わりにスマートフォンを利用する

メガネのレンズにあたる部分の上部にカメラとセンサーがあり、CGを現実の風景と位置合わせするのに使われる。ディスプレイは有機EL。解像度などは公開されていないが、視野角(対角)は52度で、AR系デバイスとしては広い方だ。

短時間だが、筆者も改めて体験してみた。映像がかなりシャープで色も鮮やかなのが特徴だ。3Dのオブジェクトはもちろんだが、2Dの映像を空中に浮かばせて見ることもできる。視野角は52度なので、VR系HMDほどの迫力はない。だが、飛行機の中などでパーソナルシアターとして使うなら十分あり得るのではないか、と思えた。

nreal lightからの映像出力をディスプレイに出したもの。左側の人体模型のようなものがCGで、nreal lightからは、これが机の上に置かれているのが見える

HoloLensなどに比べると位置合わせの精度では劣る印象だが、かける手間は非常に小さく、負担も小さい。なにしろ、メガネデバイス自体は88gと軽い。HoloLensの重量は529gなので、方向性が違うデバイスとはいえ、その差は歴然としている。ちなみに、一般的なメガネの重量は20g台だ。

視力矯正用メガネと一緒にかけるのは難しいが、矯正用レンズをnreal lightの中につける仕組みがあるので問題はない。ちなみに、矯正用レンズはマグネットで取り外しが可能な設計になっている。

現在の予定では、2020年発売の消費者向けバージョンは499ドルを予定。8月提供開始予定の開発者向けバージョンは1,199ドルの予定だ。

KDDI 5G SUMMIT会場では、実証実験として、メルカリが、実際の商品を認識し、出品されている商品を検索できる「mercari Lens」を出展していた。

メルカリはKDDI・nrealと提携し、「mercari Lens」を実装。スマホを見ている人とnreal lightでARを見ている人の両方が一緒にショッピングを楽しむことを想定したデモになっている
「mercari Lens」は今年の1月のCESで、Vuzixのスマートグラス「Vuzix Blade」に搭載したアプリケーションの形で発表されている

メルカリ、“指差し”で商品価格表示する新技術

ただし、開発を担当したメルカリ・R&D XR リサーチエンジニア・マネージャーの諸星一行氏は、「1月にデモしたものとはまったく違うもの」と説明する。

今回のデモは、指差しによって商品を検索するだけでなく、そこで見つけた商品を別のスマホでも一緒に見て、ARを利用している人とそうでない人が同時にショッピングを楽しめるように……という発想である。

5Gになれば、スマホやnreal lightに表示されている3Dの商品モデルも、ほぼ瞬時にダウンロードが終わる。そうなればよりリッチな体験ができる、とメルカリ側は期待している

普及には低価格化と多用途が重要、大手の参入は大歓迎

Xu CEOとは、多数の記者によるラウンドテーブル、個別の取材などで色々な話を聞くことができた。以下、一問一答の形にまとめてお届けする。

Xu CEOが持っているのは、nreal lightのパッケージ。メガネと変わらないサイズなので、ここまでコンパクトになる

−この種のスマートグラスは、どのくらいの市場性があると考えていますか?

Xu CEO(以下敬称略):非常に大きな可能性があります。特に5Gがスタートすれば、それが普及のブースターになります。

スマートフォンとの違いは多数ありますが、スマートフォンは小さな画面を見て使うものです。しかし、スマートグラスに代表される製品はもっと広い画面を使える。自分が見ている風景すべてに、画像を重ねてディスプレイとして使えるわけですから。

その他にも、色々なニーズがあります。

−普及のためにはなにが必要ですか?

Xu:一般的な人に対して、ベストな体験ができることが重要です。

特に大きいのは「販売価格」ではないでしょうか。他のARデバイスは比較的高価な製品になっていますが(筆者注:HoloLens2は3,500ドル、Magic Leap Oneは2,295ドル。どちらも開発者向けの製品)、我々は499ドルを目指しており、販売価格の面で競争力がある、と考えています。

低価格かつ高品質な製品を作るために、我々は1年前から専用の工場の建設をしており、その強みを活かします。

−ハードだけで利益を得るのですか? ソフトやサービス、プラットフォームの構築で利益を得る予定なのですか?

Xu:プラットフォーム構築は重要です。自分達でSDKを作り、オープンなプラットフォームとして広げていきたいと考えています。

MR(Mixed Reality)の世界では2Dから3Dへのシームレスな移行が必要ですが、そのための仕組みはまだまだ出来上がっていません。やらなければいけないことはたくさんあります。

−他にやらなければいけないことは?

Xu:本当にたくさんありますよ! 最適化はまだまだ必要です。つけ心地の改善も必要だし、視野角も広げたい。スマートフォンと接続せず、単体で動作するデバイスにする必要もあるでしょう。ただし、ARデバイスに本当に必要とされる条件が、すべてわかっているあけではありません。むしろまだわからないことの方が多い。ですから、検証していきながら進めていきたいです。

−以前は専用の本体をセットで使う構成でした。でも、今回はスマートフォンとセットで使う形にしています。なぜそうした選択をしたのですか?

Xu:2つ理由があります。

まずはコストを下げるためです。スマートフォンという、十分に性能があるデバイスを多くの人が持っているならば、それを使う前提になれば、本体のコストを下げられます。そもそも、本体を安く、軽くするためには、ケーブルで接続する別のデバイスにする必要があります。

次に、用途を広げるためです。Androidスマホをつないで使うのであれば、映像を見たり音楽を聞いたり、ゲームなど普通のAndroidアプリを使ったり、といったことも可能になります。ARアプリだけでなく、より広い用途で使える方が魅力的です。

−しかし、専用デバイスの利用も残す。両方の選択肢があるんですよね?

Xu:はい。なぜ両方を選んだかというと、業務用などでは、スマホではなく専用デバイスを使いたい、というニーズがあるからです。どちらにしろ、Androidベースですし、アプリはUnityで開発しますので、開発のハードルは高いものではありません。

−KDDIと提携しましたが、その狙いは?

Xu:KDDIは日本におけるARのパイオニアであると考えています。彼らといっしょに、色々なことができることを期待しています。

なお、KDDI側はこの点について、「nrealにはずいぶん前からアプローチしており、5Gに向けてなにか一緒にできないか、ともに検討を進めてきた」と話している。

−アップルを含めた大手が、このジャンルに参入してくる可能性が高いですが、どう見ていますか?

Xu:大歓迎です。この市場をまず大きくしなくてはなりません。現在のARは始まりに過ぎないので、いっしょに大きくしていくことがなにより重要です。