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キャッシュレス決済の基本(4)。なにかと話題の「QR決済」

キャッシュレスの歴史や経緯、現状などをまとめた連載の第4回。今回は、何かと話題のQR決済について解説したい。

【第1回】決済の手段
【第2回】クレジット/デビット/プリペイドカード
【第3回】電子マネーと国内外の非接触決済事情
【第4回】なにかと話題の「QR決済」

手数料の安さが特徴のQR決済

2018年に大きな話題となったキャッシュレス決済に「QR決済」がある。決済の際にQRコードやバーコードという二次元コードを読み取ることで支払いを行なう決済手法だ。二次元コードを使うので、正確に言えば「二次元コード決済」または「コード決済」となるが、一般的にはQR決済という表現が使われている。

決済の際には、客がスマートフォンの画面にコードを表示して、レジのリーダーやスマートフォン・タブレットで読み込むか、客が店のコードを読み込んで支払いを行なう。店舗側も客側も手持ちのスマートフォンだけで完結するため、初期投資がほとんどいらないというのが特徴だ。

支払いの構造は電子マネーと変わらない。あらかじめ、専用マネーを購入してアプリ内にチャージしておき、代金を支払う。銀行口座やクレジットカードを登録することでチャージするというのも電子マネーと同様だ。

使い方は店舗の対応によるが、コード読み取りの場合、客側がスマートフォンにコードを表示して、店側はレジのリーダーなどで読み取る。店のスマートフォンやタブレットのカメラでQRコードを読み取る場合もある。その時、打ち込まれた金額分が、チャージされたマネーから引き出される。

店側のQRコードを読み取る場合、レジと連動している店なら、金額を打ち込むとその情報を含めたコードが都度生成されるので、客がスマートフォンアプリから読み取って支払いを行う。店のコードが固定されている場合、客がコードを読み取ったら金額を打ち込み、支払いを行う。

基本的に、スマートフォンの端末内にマネーは保存されていないので、いずれの方法でもネットワークアクセスを行ない、サーバー上のマネーで支払うため、支払いの情報が店側に即時通知されない場合がある。そのため、決済画面を店員と確認するという手間も発生する。

これは例としてPayPayの支払いフロー。ビックカメラでは、店舗のQRコードを客側が読み取り、金額を手入力する必要がある

最も簡単な場面で比べると、客側がタッチするだけでいいクレジットカードや電子マネーに比べて、QR決済はアプリを起動してコードを表示して店のリーダーに読み取ってもらう、という流れになる。

客側のスマートフォンのネットワーク環境にも左右される。これが、ほかの決済手段とは異なる点だ。これまで、店のネットワークや決済ネットワークといった裏側のネットワークは必須だったが、客側も通信できないと使えないというのは問題が発生しやすい。

2018年12月には、ソフトバンクが長時間にわたる全国規模のネットワーク障害を引き起こし、ちょうどPayPayのキャンペーンのさなかだったことで混乱を招いたのは記憶に新しい。

ビックカメラで大々的にアピールされたPayPayの20%還元キャンペーン。初日はPayPay自身の決済ネットワークが不調で、さらにその後、ソフトバンクのネットワーク障害が追い打ちをかけ、インフラの重要性が鮮明となった

QR決済ブームの背景

QR決済の話題のきっかけとなったのは、中国での爆発的な普及だ。2013年ごろから普及した中国でのQR決済は、IT企業のテンセントが提供するWeChat Pay、ネットサービスのアリババによるAlipayが主流だ。中国の国際ブランドである銀聯もサービスを提供しているが、主に話題になるのは前2社のサービスだ。

中国でQR決済が普及した理由は色々あるだろう。もともと、キャッシュレス文化の薄かった中国で、経済成長にともなった決済手段の多様性が求められていたところに、他業種からの参入であるWeChat PayとAlipayがさまざまなキャンペーンなどを打ったことで話題をさらっていった。

カーシェアリングなどで利用者を増やしつつ、初期投資がほとんど不要というメリットは加盟店の拡大にも繋がった。特に小規模店でも簡単に導入できた点は大きい。キャンペーンの効果で使いたいという人が増え、店側に対応する必要があったというのもあるだろう。旺盛な消費意欲が、細かな問題を覆い隠して拡大したのが、中国のQR決済だ。

中国では電脳ビル内にあるような個人商店や屋台レベルでもQRコードが張り付けられ、QR決済に対応している。写真は中国・深センにて。2017年4月撮影

一般的に言われる偽札や強盗などの犯罪対策は、一義的な理由ではないだろう。根本的にキャッシュレス決済にはそういった効果があるため、あながち間違いとは言い切れないが、中国で爆発的に普及した背景には、キャッシュレス文化のないところに急激な経済成長が重なり、莫大なユーザーを抱えるネット企業が先導した、というIT革命に近い話だ。

これがキャッシュレス決済大国スウェーデンになると、青空マーケットの露店でもクレジットカードに対応する
小規模な露店が並ぶマーケット。農場などの出店以外に、個人のフリーマーケットもあるようだ

技術として二次元コードは「枯れた」技術だ。QR決済自体も特別な技術があるわけではなく、最先端というわけでもない。世界的な流行というわけでもなく、やはり、時宜にかなったサービスが中国で登場したというのが、普及の理由だろう。

中国人の「爆買い」も話題になったが、こうした消費動向が日本経済にも影響を与え、中国人旅行客の増加で日本の店舗でもAlipayやWeChat Payに対応する例が増えた。このため、日本でもQR決済に対する認知が進み、昨今のQR決済ブームに繋がったと言っていいだろう。

中国人観光客を睨んだ国内観光地の対応も進む。例えば富士急ハイランドがWeChat Payに対応している

キャッシュレス決済対応へ準備を

キャッシュレス決済は、古くて新しい話題だ。クレジットカードで考えれば、日本でも歴史は長く、対応店舗、利用客ともに多く、発行枚数は2018年3月末で約2億8,000万枚、利用額は8兆9,628億円(いずれも日本クレジット協会調べ)に達しており、一定の規模はある。

それでも、消費全体に占める割合は20%に満たないとされており、海外の多くの国と比べても2倍以上の開きがある。小規模店舗での導入が進まないという課題に対して、決済手数料の安いQR決済は一定の役割は果たすだろうが、根本的な解決策ではないはずだ。

また、Origami Pay、pring、Kyash、LINE Pay、楽天ペイ、Amazon Pay、d払い、PayPayといったQR決済サービスの乱立も課題だろう。そのため、経済産業省が音頭を取ってコード共通化の取り組みを進めている。

ただ、政府が消費税増税に合わせてキャッシュレス決済に対するポイント還元を計画していることは追い風だ。導入費用の補助金もあるため、タブレット型やハンディ型の端末導入もコストを抑えられる。逆に言えば、ここで導入しないと、ポイント分、損をする客が離れる危険性もあるので、店舗側も導入せざるをえないだろう。

海外からの旅行客は考慮しないということであれば、QR決済だけに対応すれば、安価にキャッシュレス決済対応はできる。その後、クレジットカードへの対応を検討するという手法も可能だ。

補助金受付にも期限がある。店舗側は、相応のタイミングで準備を進める必要がある。利用者側も、現金払いだと損をすることがあるので、キャッシュレス決済への移行を検討すべきタイミングに来ているのだろう。