鈴木淳也のPay Attention

第181回

サーバ型になった新Suicaを体験した。速度は十分

JR東日本が管轄する東北3エリア(青森、盛岡、秋田)でついにSuicaがデビュー

東日本旅客鉄道(JR東日本)は5月27日、東北3エリアでの鉄道改札におけるSuicaの利用可能駅を新たに追加した。以前にも触れたように、「センターサーバ方式」に対応した初の改札機群となる。

本連載ではたびたび「Suicaの“クラウド”化」「ID化の布石」のような形で紹介しているが、現時点でのセンターサーバ方式Suicaは既存の都市部のSuica改札機と機能的にはほとんど違いがなく、最大の違いといえば「運賃計算のみ中央のサーバで行なっている」という点になる。

今回、東北3エリアでのSuicaデビューに合わせて拡大エリアの1つである弘前(青森県)を訪問する機会があったので、現地事情と合わせ、多くの方が気にされている「センターサーバ方式Suica」が本当に“速度上の問題があるのか”という部分にフォーカスしてまとめたい。

東北3エリアでSuicaデビューの当日

今回、Suicaデビューに合わせて秋田駅と弘前駅の2ヶ所でテープカットによる早朝セレモニーが実施されるとのことで、弘前駅に前日入りしてこの模様を取材することにした。

つまり、筆者が青森エリアに到着したときはまだ「Suicaが利用できない」状態であり、改札機こそ新型なものの、リーダーが封印されていたり、利用可能ではないことを示す警告メッセージがそこらじゅうに見受けられた。

Suicaデビュー前日の新青森駅の在来線改札。Suicaリーダーが無効化されている
デビュー前日の弘前駅改札の様子。ディスプレイには大きく警告メッセージが表示されている

東北新幹線の場合、えきねっとで新幹線eチケットを発券してSuicaを紐付けておくと、磁気切符なしでSuicaのみで新青森まで移動できてしまう。さらに、Suicaのタッチのみで在来線(奥羽本線)への乗り継ぎができてしまうので、精算処理が必要になる。

JR東日本 秋田支社の方によれば「駅周辺で(コンビニなど)Suicaが使える施設が増えているにもかかわらず、移動だけはSuicaが使えないので『不便だね』という声はつねづねいただいていた。弘前などは駅利用が観光中心ということもあり、受け入れ窓口としてようやく対応できるようになったことは大きい」という。

改札機は新型になっているが、Suicaリーダーには使用不可の張り紙がある
新幹線を使って新青森経由で弘前駅にやってくるとSuicaで同駅の改札まで到達できてしまうため、精算行列ができることになる
Suicaデビュー前の弘前駅の改札を外側から見たところ

実際、到着時(デビュー前日)の弘前駅は非常に大人しい感じだったが、デビュー当日の駅はお祭り騒ぎのようにキャンペーン告知があちこちに貼られている状態だった。

朝一番でSuicaを購入していく人もいたそうで、それまでSuicaを扱ってこなかった“みどりの窓口”での初売りということもあり、券売機を含めて駅員などが利用者に丁寧に説明する姿が見受けられた。

ただ、まだまだ地元の方と思われる人たちが従来の磁気切符を利用している姿を見かけられ、当面は域外からの旅行者と、通勤や通学などで対応エリアを移動する地元民がSuica利用の中心と思われる。

デビュー当日の弘前駅改札。首都圏ではお馴染みの改札機の光景になっている
東北3エリアでのSuicaデビューにあたっては秋田駅と弘前駅の2ヶ所で関係企業や自治体ら代表によるセレモニーが行なわれた
改札入り口にはポップアップが立って、Suicaの使い方と移動可能範囲を示している
前日までなかったモバイルSuicaやえきねっと入会を促す告知も
券売機はSuica対応に。路線図にはSuicaで移動可能なエリアが色分けされている
指定駅の券売機で高額チャージするとオリジナルグッズが当たるキャンペーンも

実際に乗ってみる。従来Suicaとの違いは「わからない」

まずは論より証拠、実際にカード式SuicaとモバイルSuicaでセンターサーバ方式の新型改札機を通過してみた。動画を見てみると分かるが、“遅い”という感覚がないどころか、既存の都市部のSuica改札との違いが分からないレベルだ。

JR東日本自身が「従来と速度上の変化はほとんどない」と明言しているように、「ラッシュを捌けない」という声は杞憂だと思われる。次の5つの動画を順番にチェックしてほしい。

セレモニーに参加した関係者らがSuicaによる改札追加をデモンストレーション
カード式Suicaで駅に入場する
カード式Suicaで駅を出場する
モバイルSuicaで駅に入場する
モバイルSuicaで駅を出場する

当面は観光客中心だが、拡大が追いついていない面も

前述にように、東北3エリアにおけるSuicaは当面「域外の旅行者の送客と地元通勤・通学客のカバー」が中心となる。実際、それら3エリアでは各々が観光名所を抱えており、特に弘前については「オールシーズン楽しめるスポットがある」と関係者らは自信を持って説明する。前述のように新幹線で県庁所在地まではすぐに移動してこられるため、ある意味で“ラストワンマイル”を拡張するためのSuicaエリア拡大と考えていいのだろう。

弘前城と岩木山。桜のシーズンには弘前城公園での桜祭りが有名な観光スポットだ

ただ、地元の対応が追いついていないと思われる面もある。例えばデビュー当日の弘前駅には地元の特産品を販売するポップアップショップが出現していたのだが、こちらはSuicaには対応せず現金のみだった。

スタッフに聞いてみたところ、以前よりSuica対応のための機械が利用できるようリクエストを出していたが、JR東日本側から当日になっても反応がなかったという。チェーン店を中心に街中でSuicaに対応する店舗が増えている反面、こうした細かい部分で対応が追いついていないのは残念なところだ。

弘前駅構内のポップアップショップ。地域のお土産が主な商品だが、残念ながらSuicaには対応していないようだ

その意味で、今回のエリア拡大は「Suicaの利用をさらに促すための一歩」と考えるべきなのかもしれない。とりあえず観光客やよく鉄道を利用する地元客向けの最低限の足を確保しつつ、徐々に利用を浸透させ、前述のポップアップショップのような細かい場所での対応も促す。本来の意味でSuica導入の低コスト化が実現できるのであれば、こうしたロードマップを描くのも可能だろう。

ただ、地域といってもJR東日本のエリアを外れるととたんに対応が厳しくなる。弘南バスが導入した「MegoiCa」のようにSuica連携の地域カードというケースもあるが、旧東北本線の青森エリアを走る青い森鉄道などはSuica対応からはまだ切り離されている。

おそらくSuica対応にかける温度差もあると思われ、なんだかんだで同じ地域でも沿線いかんによって大きな差が出そうだ。

今回Suica対応エリア(青森、秋田)に含まれた奥羽本線の車両
青森駅を発着する青い森鉄道。旧東北本線で青森と盛岡間のうち、青森県内を走る鉄道が第3セクター方式で運営されているもの
青森駅の青い森鉄道へと続く階段にはSuicaエリア外であることを示す警告ポスターが貼られている

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)