西田宗千佳のイマトミライ
第206回
「二つ折り」スマホの今を考える。新GalaxyにPixel Foldなど続々
2023年7月31日 08:20
7月26日、サムスンは「二つ折り」系Galaxyシリーズである「Galaxy Z Fold5」と「Galaxy Z Flip5」を発表した。
グローバルでの製品発表であり、日本での価格・発売時期などの予定は明らかになっていない。しかし、過去のモデルがそうであったように、遠からず日本でも発売されることになると予想される。
二つ折りはもう珍しい存在ではないが、この夏は日本市場向けの製品が揃っている。
7月27日にはGoogleの「Pixel Fold」が日本でも発売になり、8月末にはモトローラの「motorola razr 40 ultra」も発売になる。
今回はこれらの製品から、今後の「二つ折りスマホの可能性」を考えてみたい。
ヒンジ改良で薄くなる「Z Fold5」、スマホとしての完成度はPixelより上
筆者の手元には複数の二つ折りスマホがある。昨年から使い続けている「Galaxy Z Fold4」と「Pixel Fold」だ。
この2つを見たとき、縦横比などの関係から、筆者の好みはPixel Foldである。詳しくは筆者の記事をご覧いただきたい。
だが、スマートフォンとしての完成度、特にOS周りのUXの配慮で言えば、Galaxyの方が上だ。
Pixel Foldはタブレットを二つ折りにしたような構造で、システム設定などもシンプルだ。シンプルであることは悪いことではないが、特に複数のアプリを扱った時の挙動などに荒削りなものを感じる。
Galaxy Z Fold4にはアプリ起動時の振る舞いや外部ディスプレイを接続した時に使える独自環境である「DeX」など、サムスンが長年培ったものが多く導入されている。
Galaxyについては韓国でのイベントには参加しておらず、発表イベントをオンラインで見ていた。だから新型の「5シリーズ」については、報道資料などでチェックした状況ではある。だが、Galaxy Z Fold5は確実にGalaxy Fold4よりも洗練されており、使いやすい製品になっているという印象を受けた。
特にGalaxy Fold5とGalaxy Fold4世代で変わるのは「折りたたんだ時の隙間」だ。
Pixel Foldなどでは隙間がなくなり、よりポケットなどに収まりやすくなっている。Galaxy Z Fold4とPixel Foldを比べてみるとけっこう差があるのがわかるだろう。Galaxy Z Fold5でこの違いが緩和されることになる。
今年のサムスンは「Flip5」推し
とはいうものの、Galaxy Z Fold4と5の差が劇的なものではないのも事実だ。
どのスマホでも「毎年大きな進化」をするのは難しくなってきており、それは二つ折りでも例外ではない。隙間がなくなって10g軽くなり、持ちやすくなるのは大切なことだが、高価な二つ折りスマホをそれだけで買い換えられるのか……というと、微妙な線かもしれない。
実のところ、今回のサムスンの発表イベント「Samsung Galaxy Unpacked July 2023」を見ていて感じたのは、「今年は横開きではなく『縦開き』の年なのだな」ということだ。
よりじっくり説明したのは、フラッグシップのGalaxy Z Fold5ではなく「Galaxy Z Flip5」の方だった。
こちらは外側の画面が1.9インチから3.4インチに大型化して、より多くのことを「閉じたまま」使えるようになる。
Flipシリーズは真ん中から縦方向に二つ折りにするタイプの製品で、ポケットや鞄の中での収まりの良さ、片手のなかに入るコンパクトさがウリの製品だ。画面サイズが大きくなって「折りたたんだまま使いやすい」ものになった分、薄型化も効いてくる。
外画面の大型化という意味では、モトローラの縦折りスマホ「motorola razr 40 ultra」も同様の進化をしている。こちらも外側のディスプレイが3.6インチになり、畳んだまま使いやすくなったことをアピールしている。
また、過去のモデルである「motorola razr 5G」は「開く」「閉じる」のどちらかしかできなかったが、motorola razr 40 ultraは好きな角度で固定できるようになった。この辺も、ライバルであるFlipシリーズに習ったような印象だ。
カジュアルだが「高い」 「二つ折り」が抱える矛盾
筆者はメインストリームのスマホとしては、「より広くなる横開き」よりも、「よりコンパクトになる縦開き」の方が可能性はある、と思っている。
大きな画面は確かに魅力だが、今のスマホは十分に画面サイズが大きい。タブレット的な使い方を求めている、筆者のようなハイエンドスマホ好きは「横開き」がマッチするが、より多くの人は、コンパクトになる「縦開き」の方が使いやすいと感じるのではないだろうか。アプリの使い方などを大きく変えるものではないが、逆に言えば、「いままでのスマホの使い方のまま」で移行できる。新しく覚えるのは「表側の画面をどう使うか」だけでいい。
カジュアルな印象も強く、サムスンも今回は長めに時間を割いて、そうした部分をアピールしていた。
一方、「縦開き」型のジレンマは「価格」という点に集約できる。
Galaxy Z Flip5は999ドル(日本円で約142,000円)。motorola razr 40 ultraは日本での販売価格が155,800円(直販サイト「MOTO STORE」の場合)。Galaxy Z Fold5の1,799ドル(日本円で約255,000円)に比べれば安いものの、スマホとしてはハイエンドな価格になる。
ハイエンドとカジュアルは矛盾するものではないが、スマホに10万円以上払える人は、よりハイエンドな「横開き」を選ぶのではないか……という感触がある。
価格が下がらないのは生産量の問題だ。もっと大きなニーズがあるならコストを下げていくこともできるだろうが、どうしても価格の問題でまだニーズが伸びきれずにいる。
こうしたジレンマを解消するには、二つ折りの採用メーカーが増え、複数のディスプレイメーカーで生産されたディスプレイデバイスが市場で切磋琢磨するようになるのがベストだ。
過去、そうした流れでは中国メーカーが大きな役割を担ってきた。だが昨今は米中摩擦の関係もあり、中国系スマホメーカーのハイエンドは欧米・日本で売れづらくなっている。
そう考えると、サムスンがこのまま市場で独走してコストを下げていくか、「他の大手」が入ってくるまで、なかなか難しい状況かもしれない。
もしくは、日本での「スマホ割引」規制を緩和して、ハイエンドを買いやすい環境を整えるかだ。筆者としては、後者をもう少し薦めるほうがいいと思うのだが……。