西田宗千佳のイマトミライ

第205回

iOS 17がもたらす「コミュニケーション」と「充電」の変化

アップルもiOS 17のプレビューページを公開

秋に公開予定のiPhone用新OS「iOS 17」のパブリックベータ版が7月13日に公開された。アップルにも新機能を紹介するページが用意されている。

対応機種を持っている人なら、登録すれば誰もが無料で使える。しかし、まだ開発途上であり、大きな不具合が残っていたり、自分が使っているアプリが動かなくなったりする可能性はある。そのため、特に事情がない限り利用することは推奨しない。

ただ、新機能が気になる人もいるはず。特に今回は、周辺機器事情に影響を与えそうなものもある。

その点も含め、特に筆者が気になった3機能をご紹介しよう。

なお、今回の記事内の画像については、報道向けに利用する許可を得た上で作成し、利用している。

「マイカード」と「NameDrop」で連絡先交換が変わる

まず、iPhone同士で変わる点から。

iOS 17では「マイカード」という機能が搭載される。これは簡単に言えば、自分のプロフィールに付随する、写真や画像、名前を入れた「ポスター」というカードを作る機能。連絡先を交換する際、一緒に転送される。

マイカードで使う「ポスター」の編集画面。自分が相手に見せる画像・写真などを設定する

iOS 17では「NameDrop」という機能が搭載される。iPhone同士を合わせるだけで「ポスター」のついた連絡先を交換する。

WWDCでの発表より。NameDropは、このようにiPhone同士を近づけて連絡先を交換する機能

そして、マイカードが登録された相手から電話が来ると、以下の写真のように表示されるわけである。

マイカードを交換済みでポスターが設定されていると、電話着信時にこんな風に表示が

電話がかかってくる分には、相手がどんなOSのスマホを使っていようが、固定電話であろうが問題ない。iPhoneの「連絡先」にその人の「ポスター」が登録されていて、さらに、連絡先に電話番号が登録されていればいいのだ。電話がかかってくれば、その人のポスターが表示される。

ただし、NemeDropで連絡先を交換しないとポスターは表示されない。ポスターの中身は写真でもいいし、「ミー文字」を使ってもいい。名前などに使われるフォントは変えられるし、縦書きもできる。

ポスターに表示する名前などは縦書きも選べる

実のところ、なくても困りはしない。だが、あれば確かに楽しい。iPhone同士でしか交換できないが、こういう機能が意外と刺さり、「iPhoneじゃないと」という話になっていくのかもしれない。結局、AirDropという圧倒的に支持されている(しかしクローズドな)仕組みと同様の流れだ。

OS標準で「手書き入力」に対応

ちょっとしたことだが、日本語入力で「手書き文字」がサポートされたことも取り上げて起きたい。

手書きでの文字入力にも対応

iPadと違い、iPhoneはペンをサポートしていない。そのためこれまで、手書き文字認識をOSの機能としてはサポートしてこなかった。アプリの中で手書き文字認識ができるものはあるが、それとこれとは話が別だ。

通常の「キーボード」の追加として手書き文字認識が入っているので、どのアプリからでも同じように使える。基本的に指先で書くので、そんなに綺麗な字では書けないかもしれない。だが、そこそこの精度で認識してくれる(写真で認識に失敗しているのは、片手で写真を撮りながら書いているから……と思って欲しい)。

入力精度やスピードは、やはりフリックやQWERTYでの入力の方が良いと思う。だが、「ひらがなで手書きしてからの漢字変換」や「簡単な漢字+ひらがなでの変換」といった柔軟な使い方もできるので、気になる方はiOS 17登場以降に試してみていただきたい。

「スタンバイ」で充電の時の用途が拡大

もっとも大きい変化が「スタンバイ」だろう。

これは、iPhoneを充電中に「横にする」ことで、iPhoneをフルスクリーンで「表示デバイス」的に使うものだ。

条件は2つある。充電にMagSafe(背面のマグネットを使ったワイヤレス充電)を使うこと、そして、その際に本体を「横に向ける」ことだ。

どんな風に動くかは以下の動画をみていただきたい。

MagSafeを使って画面を横に傾けて充電すれば「時計」に早変わり
スタンバイにして「時計」表示にした例

この機能、実はかなり芸が細かい。

フォトスタンドにしたり音楽プレイヤーを表示したりできるし、時計のデザインも複数選べる。途中に出てくる通知などもフル画面の専用表示になる。

スタンバイにした時の表示例。音楽プレイヤーやフォトスタンド機能もあるし、通知やSiriの回答も大きく表示

ただ、過去にもAndroidには、充電スタンドに置くと時計などが生かせる「アンビエントモード」があった。現在は機能がカットされているようなのだが、発想として「充電時にもディスプレイを活かそう」というのはアップルの発明、というわけではない。

だがもっとも大きいのは、「就寝時のことを考えてある」というところだ。

表示は暗闇になると赤文字になる。これは目に刺激を与えないように、という配慮だ。さらに「集中モード」が「睡眠」になっていると表示が消える。

だが、時計を見ようと顔を近づけると「赤文字」での表示になる。これにはiPhoneの近接センサーが使われている。前掲のビデオをよく見るとわかるが、定期的にセンサーが光っている。近接モードセンサーの光を捉えたもので、暗くなっても時折光るのがわかる。

この辺を見ればわかるように、この機能自体が、OSとiPhoneというハードウェアの連携で出来上がっているわけだ。

MagSafe+スタンバイ 「Qi2」で無線充電が拡大

WWDCの基調講演では、周辺機器メーカーのBelkinが発売を予定しているスタンドを使って説明された機能なのだが、実際には、MagSafeを使っていて本体を回転させられる形のものならなんでもいい。今回はたまたま、筆者が使っている充電器(Anker 637 Magnetic Charging Station)がそういう風に使えた。

WWDCではBelkinのスタンドが紹介された

この機能は確かに便利なので、MagSafe式充電器やスタンドのニーズを拡大しそうだ。

話はそれだけにとどまらない。

iPhoneのMagSafeは、2023年後半に製品が登場する、ワイヤレス充電の次期標準規格「Qi2」に組み込まれている。

簡単に言えば、MagSafeの持つ「マグネットでくっつけて給電する」仕組みが、他のスマホでも採用が広がり、周辺機器も増えていくということだ。

現在も、MagSafe用の充電器をAndroidに対応させたり、iPhoneを壁などにくっつけるための「MagSafeリング」が売られているなど、機能を便利に使う流れは生まれている。

iOS 17の「スタンバイ」に似た機能が他のスマホに広がるかはともかくとして、前述のように、「スタンバイ」の利用を想定した、Qi2/MagSafe対応充電器・スタンドが増える環境はすでに整っている。

そのため、こうした動きが「スマホでのワイヤレス充電利用」を広げていく可能性は高いのではないか……と考えているところだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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