西田宗千佳のイマトミライ

第6回

Amazonは“1万円以下”で攻める。スマートディスプレイ夏の陣

Echo Show 5

5月29日、Amazonは、5.5型のディスプレイを備えたスマートディスプレイ「Echo Show 5」の予約販売を開始した。販売開始は6月26日を予定している。

Amazon、5.5型画面で9,980円になった「Echo Show 5」

Amazonは昨年秋からディスプレイ付きデバイスの比率を上げている。そしてGoogleも、先日のGoogle I/Oで、「Google Home Hub」を「Nest Hub」と名称変更し、新機種を投入した。日本での発売も予告されており、まもなく購入できるようになるはずだ。

「スマートディスプレイ」と呼ばれるディスプレイ付きデバイスはなぜ広がっているのか、そして、「Echo Show 5」はその中でどのような役割を果たすのかを考えてみよう。

スマートホームの軸になる「ディスプレイ付きデバイス」

スマートスピーカーからスマートディスプレイという製品にどう変わっていったのか? その辺は、昨年10月に筆者が書いた記事を読んでいただくのが早道だと思う。

2019年はスマートディスプレイ元年? スピーカーに画面が付く理由。TVも?

ざっくりいえば、スマートスピーカーで先行していたAmazonがここでも一歩先に、2017年から製品化をスタートし、Googleが昨年秋にアメリカで製品を出し、Facebookも追従して大きな流れになっている、というのが今だ。日本にはAmazonしか入ってきていなかったが、Googleの参入も近い。

なぜディプレイ付きのスマートスピーカーが出てきたのか? 今年1月のCESで、Alexa Devices バイス・プレジデントのミリアム・ダニエル氏にインタビューした際、疑問が氷解している。

家電やクルマへ広がるAlexa音声制御。CESに登場したAmazonの戦略とGoogle対抗

ダニエル氏は筆者の問いにこう答えている。

「音声での操作は有効です。でも、音声で候補を読み上げ、そこから必要なものを“選ぶ”という動作は面倒なものです。そういう時には選択肢を示してタップしてもらった方がいい。でも、ぜんぶを画面でやるのはやっぱり面倒。だって、機器の前で操作しつづけないといけませんから。スマートスピーカーのように離れたところで操作しつつ、必要な時だけ触れる、という使い方ができるのは便利なものです。だから、ディスプレイ付きの製品が人気になってきているのでしょう」

選ぶ、という要素は、特にスマートホームやショッピングにおいて重要だ。AlexaやGoogleアシスタントが人間並みに空気を読んでくれるようになれば、「あれをアレして」でいいのだろうが、いまはそうはいかない。細かく声で伝えるよりは、途中や最後に、必要なところで「タップ」させた方がいい。

Googleが「Google Home Hub」から「Nest Hub」に変えたのも、同社のスマートホーム製品群「Nest」とブランド統一をして、スマートホーム戦略で優位に立ちたい、とい発想からだろう。

Google Next Hub

アメリカの場合、「温度管理」と「セキュリティ」という要素がスマートホームの核として定着し始めており、それらを使うためには、ディスプレイのあるデバイスである方がいい。

日本の場合、温度管理もセキュリティも、アメリカと同じニーズ、というわけにはいかない。なので、「スマートホームといっても、シーリングライトくらい?」みたいな反応になりがちだ。

その辺、なにかブレイクスルーが必要なのだろう。

Amazonが、従来以上に安いデバイスを市場に投入してきたのも、「スマートスピーカーを買うなら、こっちでももはや値段は変わりませんよ」というアピールをすることで、市場をすばやく押さえたい、という意図があるのかもしれない。スマホで量産効果が効いている、低価格な5.5インチ液晶ディスプレイを使えば、トータルのコストは下げやすい。確かに画面は小さいが、「卓上の時計やカレンダー」のようなものだと思えば、これでも問題はない。

今夏は日本でも、スマートディスプレイ商戦が盛り上がることになるのだろうか。

なお、Amazonは6月4日(現地時間)夜から6月7日にかけて、AIに関するカンファレンス「re:MARS」を米・ラスベガスで開催する。テクノロジーが中心のイベントだが、AlexaやEchoなどについての新情報が出る可能性もある。

筆者は現地取材を予定しているので、ニュースが発表され次第、AV Watchなどで記事を寄稿する予定である。

スマートディスプレイは「お部屋テレビ」になる?!

一方、筆者が個人的に注目しているのは、「スマートディスプレイの個室テレビ的用途」である。

アメリカでは、スマートディスプレイの用途として、明確に「映像」がある。キッチンにおいてレシピやニュースをみたり、ベッドサイドにおいてYouTubeや動画配信を見たり、というやり方だ。

GoogleはYouTube連携を、音楽機能の一部として強く推している。

Amazonは、アメリカ市場向けに販売している「録画機能付きホームハブ」である「Fire TV recast」を作り、「テレビを家のどこでも見れる、もちろんEcho Showでも」という形でのプロモ−ションを展開した。

Fire TV recast

日本の場合、NetflixやAmazon Prime Videoはもちろん、TVerやAmeba TVなどのアプリがあるとウケそうな気がする。だが、今は用意されていないので、ぜひ提供を検討していただきたい。

まあ、スマートディスプレイといっても、その中身はかなりタブレットに近い。タブレットそのものでない理由は、前出のダニエル氏のコメントにあるように「ずっと操作しているわけではない」からだろう。だからこそ、そこまで高性能である必要はなく、低価格なハードウェアでいい。

どこかの家電メーカーが率先して「お部屋テレビとしてのスマートディスプレイ」を作ってもいいし、逆に、小型のテレビを、AmazonやGoogleのスマートディスプレイ互換製品にしてしまう、というパターンもありではないか。

意外に日本では、スピーカーよりこっちの方がウケがいいのでは……という気がするのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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