西田宗千佳のイマトミライ

第1回

AppleとQualcomm、GoogleとAmazon。「和解」から見えるそれぞれの事情

新連載を始める。タイトルは「西田宗千佳のイマトミライ」。インプレスのWatchシリーズで、日々伝えられるニュースから注目のものをピックアップし、西田なりの視点で解説してみよう、という連載だ。「前の週のニュースについてのコメントが翌週に読める」感じで、やっていくつもりだ。

一回目は「和解」をテーマに話していきたいと思う。

今回取り上げるニュースは以下の2つ。

・AppleとQualcomm和解で、Intelがスマホ向け5Gモデムから撤退(4月17日:PC Watch)

・GoogleとAmazonが和解。YouTubeをFire TVに、PrimeビデオをAndroid TVに提供(4月18日:Impress Watch)

どちらも、大手IT企業同士の争いが一段落し、新しい関係へ一歩踏み出すというニュースである。

AppleとQualcommの和解に潜む「アメリカ」という事情

業界全体としてより大きいのは、前者であるAppleとQualcommの和解に関するニュースだろう。なぜ両者が和解に至ったのか、特にAppleの姿勢が大きく変わったのかについては、色々と分析がなされている。筆者なりの分析でも、理由はやはり「これ以上5Gで遅れるわけにはいかない」というApple側の事情が大きい。

Appleは現在、インテルの4Gモデムを採用している。5Gでもインテルをパートナーとする予定であったが、インテルの5Gモデムは開発が難航していた。サンプル出荷が2019年末まで行なえない、というアナウンスがなされていたのだが、そうすると「5G搭載のiPhone」の出荷は、最速でも2021年、ということになりかねない。

すでにいくつかのメーカーから5G対応のスマホは発表されているが、アップルとしても2019年の「先陣争い」には興味はなかった。「iPhone」の中に自然に5Gモデムを搭載し、普通の製品として出荷できる形にしたかったからだ。この辺、ハイエンドかつごく少数の「チャンピオンモデル」と「マス向けのハイエンド」「マス向けのミドル」といった、多数のラインナップを持つ他のスマホメーカーとは、ちょっと考え方が異なるところだ。

だが、「2020年にもメイン商品に5Gを搭載できない」事態だけは避けたい。2020年秋ということになると、もはや5Gは広いエリアで使える技術になっており、日本を含むあらゆる地域で「最初の大きなニーズ」が生まれるということ。マス製品であることにこだわるアップルとして、2019年はパスできても、2020年というタイミングは死守したかったのだ。

そうすると、パートナーになり得る相手は2社。Huaweiの創業者である任正非CEOが「アップルへの5Gモデム供給を検討する」というニュースが流れたこともあるが、これは実現せず、Qualcommとの和解に落ち着いた。

実のところ、筆者の感触として、「AppleがHuaweiに供給を依頼することはあり得ず、Huawei側の5Gに関するアピールに過ぎない」と思っていた。だから、Qualcommとの和解しかあり得ず、「それがいつなのか」という風に考えていたのである。

Apple内の人々の話を聞くと、Huaweiへの信頼度は低い。それは同社との過去のビジネス関係がどうこう、というよりは、「中国の通信メーカーに基幹パーツを依存する」ことへの拒否感、といってもいい。それが正当なもの、と筆者は思わない。だが、アメリカが政府ぐるみでHuaweiを敵視して排除していった流れを思えば、そうしたイメージも理解できるのではないだろうか。

今回の件については「政府側の働きかけや関係があったのでは」という意見もある。筆者もその可能性はあったのでは、という印象はあるが、直接的に政府からの圧力のようなものがあったかはわからない。しかし、アップルが結果的に「アメリカ企業としてQualcommしか選べない」状況にあったのは間違いない。AppleとQualcommの件は、「5Gをめぐる米中の戦い」という側面を抜きに語ることはできないのだ。

AmazonとGoogleは「将来よりも今」を見据えて和解か

AmazonとGoogleの和解は、Apple・Qualcommの和解に比べると小さく、わかりやすいもののように思える。

プラットフォーム同士の争いでは、過去には「いかに自社内で強みを占有するか」ということを重視していた。だからこそ、「他社に強いサービスを提供しない」のが基本、という発想があった。

だが、今のユーザーの動向を考えると、この発想は正しくない。

支配的なプラットフォームは確かにあるのだが、人々のデジタル機器との付き合い方は多層化しており、複数の支配的なプラットフォームを自然にミックスして使うようになっている。

それを分かっていても、プラットフォーマー側でも、これまでは「占有」を優先せざるを得ない事情もあった。

それは「レコメンド」や「データ収集」の事情だ。どういう風にデータを集め、どうレコメンドなどに使うか、という技術的な制約は意外と大きい。例えば「音楽サービスを音声アシスタントと連動する」場合、音声の検索データとサービス側でのインデックスデータの連携開発が必須になる。それがないと、単にアプリでモードを切り換えるような形になるので、サービス連動が不自然になる。連動をするには、相互に連動するためのAPIなどを用意する必要もあり、そのためには接続するサービスの側との話し合いも必要になる。

となると、「本当は他社のサービスと連携したい」と思ってもできない……ということもあるわけだ。

もちろん、単にビデオサービスなどの「アプリを提供すればいい」ところでは、アプリを提供しさえすればいい。だが、「アプリさえあればいいじゃん」と思えても、「将来的な音声アシスタント連携とかデータ解析をどうするのか」という観点に立つと、簡単には同意しづらい状況があったわけだ。

だが、今回はその辺の「将来まで含めた事情」よりも、「まずはユーザーのニーズが大きいし、他社連携できないことのマイナスも大きい」という判断から、今回の和解に至ったのではないか、と思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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