小寺信良のくらしDX

第2回

AIを教育に使うべき? 議論は踊る、現場は進む

教育のICT化として、1人1台端末の導入や公務のIT化などが進められている。息子が通う公立校では、昨年末よりAIを使ったデジタル採点支援システムを試験導入しており、今年度から本格運用が始まるという。

デジタル採点支援システムは、紙の回答をスキャンして回答例と照合し、正誤判定するもので、記号問題は自動採点、記述問題は先生が目視で採点と、AIを利用しつつも先生の裁量を取り入れたものとなる。

学校ごとに作成する試験問題や解答用紙がデジタル化するまでには、当分時間がかかる。したがって紙の試験は、すぐにはなくならないだろう。一方で紙の答案用紙が先生に負担をかけていたのは、合計点の集計や、テストの成績を成績管理分析ソフトに手入力するといった部分だった。ここをサポートするシステムというわけである。

このシステムの年間使用料は、PTA会費から捻出することになった。本来ならば学校予算でやるべき部分だが、教育委員会に任せると県下一斉導入となり、時間がかかる。何かと批判の多いPTAだが、パッと動かせるPTA予算を使って学校をどんどん先に行かせるというのは、悪くないやり方だ。

一方で、AIを子供の学習に導入すべきか、議論が尽きない。主な論点としては、以下のようなものがある。

AIを子供の学習に導入すべきか
賛成意見

1.AIは個々の学習者に合わせた個別指導を提供できるため、教育の質が向上する可能性がある。
2.AIを活用することで、遠隔地や経済的な制約がある地域でも質の高い教育を受けられる可能性がある。
3.AIと協働する新しいスキルや職種が生ままれることで、教育分野における新たな雇用機会が創出される可能性がある。

反対意見

1.デジタルデバイドやインフラの不備が未解決の場合、一部の人々だけがAI教育の恩恵を受けることになり、格差が拡大する恐れがある。
2.適切なデータ管理やプライバシー保護が不十分である場合、学習者のデータが不正利用されるリスクがある。
3.AIが学習者に偏見を持たない教育を提供できるかどうかが懸念される。トレーニングデータに偏りがある場合、AIが偏った判断をする可能性がある。

どちらの意見も、もっともな話である。よってルール化が必要という落とし所だが、ルールがデメリットを解消するわけではない。メリットがデメリットを上回るように、運用で頑張れ、という話であり、細かいところは現場に丸投げみたいにならないか心配である。

問題に対する解答だけではない、AIの活用

高校の学習で一番難易度が高いのは、数学ではないかと思う。特に2年生からの数学IIBは、数列や微分など高等数学の分野に足を踏み入れてくるため、苦手とする人も多かったのではないだろうか。

苦手、という中には、「一体自分が何をやっているのかわからない」のも相当含まれるのではないかと思う。

先日東洋経済ONLINEに『『学校では習わない「微分積分」の意外すぎる活用法』という記事があった。微分や積分がどう生まれて来たのか、実社会の中でどう役に立っているのかを解説しており、面白く読ませていただいた。

しかし、である。こうしたことは、高校の授業の中で、学習を始める前に教えるべきではないのか。確かに筆者も習った覚えはないが、学習する意義について「学校では習わない」こと自体が、おかしい。

「これを学んで何になるのか」を回答してくれるものとして、AIは有意義なのではないか。数列についてこうした疑問をChatGPT(GPT-4)に質問してみたところ、金融や人口学、物理学、音楽、美術といった分野での活用例を示してくれた。保護者の知識では、とても全部は教えられない範囲である。

数列の活用範囲について聞いてみた

またAIは、万能な問題集としても機能する。例えば数列の問題を出題してと聞けば、たちどころに問題を作ってくれる。もちろん回答も示してくれる。さらには、この問題が具体的にどのように社会で役に立っているのかも教えてくれる。

今回はChatGPTを使用しているが、ある意味こうした「物知りおじさん」が無料なり月額20ドルで使えるなら、各自の学習において「使うな」という方が無理だろう。

高校数IIBの範囲で数列の問題を作ってもらった
この問題が具体的に何に役に立つのか聞いてみた

学習にAIを使わせる最大のリスクは、「自分で勉強せずAIに回答を作らせていい点を取る」ことである。大学のレポートのように、自主学習や研究の成果で評価するところでは、効力を発揮するだろう。

だがどのみち入社試験や資格試験ではふるい落とされる。それよりも、学校では教えていない「なぜ」について聞ける相手がいるということは、学習者にとっては大きな力となり得る。

今後、学校がAIの活用にどう舵を切るのかはわからない。恐らく判断が出るまで、「使わせない」という方針で行くだろう。今学習する環境は、家庭より学校や塾のほうが良いと思う人が多いとされてきた。しかし今後はAIが使えるという点で、家庭の方が先に進む可能性が出てきた。

ただし最初に示した懸念のように、全家庭でこれができるわけではない。その点では家庭差が生じる。だがそもそも、世帯年収や兄弟姉妹の数など、各家庭は元々平等ではない。年間100万円とも言われる有名私塾へ兄弟姉妹全員を3年間通わせる体力のない家庭は多いはずだ。AIの利用はその差を埋めるもの、という考え方もできるのではないか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。