小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第32回

コデラ、なぜかオリンピック“バブル”に入ってしまう

雨ばかりだった宮崎を脱出

オリンピック開催を直前に控えた7月20日から21日にかけて、再び東京へ出張した。

この頃、都の「専門家ボード」の座長を務める東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授は、「今、東京都は、これまでで最大の危機を迎えていると思う。今回は、1日の感染者数が3,000人を超える感染が起こりえる可能性があり、非常に危惧している。全国に波及する可能性もあり、全国でも比較的若い人が入院することがあると思うので医療体制や自宅やホテル療養で重症化を防ぐ体制を作ることが求められる」とコメントを出した。(7月20日NHK報道)

その言葉通り、7月28日には東京都で3,177人の感染者が確認されたところである。

さてその7月20日、羽田へ向かう宮崎空港のロビーでは、オリンピック選手団と思しき10数人の外国人が、一般の搭乗に先駆けてゲートを通過していった。リュックにTeamNLという文字が見えることから、オランダの選手のようだ。

選手村に入る前に、宮崎で調整などしていたのだろうか。宮崎市は空港にほど近い場所に大きな総合運動公園があり、スポーツ設備はかなり充実している。またコロナ感染者も1日数人程度で安定しており、東京の選手村に長期間滞在するよりも安全だと考えることに、妥当性はある。

行きの飛行機では、彼らは一番奥の席に座っているらしく、前方の席だった筆者とは機内でまったく接触がないままであった。一番先に搭乗し、一番後から降りるのだろう。

今回のオリンピックでは、新型コロナ対策として「バブル方式」が採用されている。これは開催地を大きな泡で包むように囲い、選手やコーチ・関係者を隔離し、外部の人達と接触を遮断する方式とされている。入国前のPCR検査はもちろん、大会期間中にも定期的に検査を行なう。移動制限・行動制限も厳しく、ホテルと練習会場・会場以外には原則移動できないことになっている。宮崎が練習会場であったなら、移動はできるわけだ。

羽田では、ところどころにTOKYO2020の文字が見える。ただ国内線ロビーに外国人選手の姿はなく、本当にオリンピックが開幕するのか、まだ多くの人は懐疑的であったように見受けられる。ただ目立つところに警察官の姿があり、若干の緊張感を生み出していた。

羽田空港にもTYOKYO2020の文字が

また羽田空港内にも臨時のPCR検査センターができており、検査を待つ人の列ができていた。北海道、沖縄便に搭乗する人は優先的に検査が受けられるようだ。

羽田空港内にあるPCR検査センター

帰りの便にも…

2日間の出張を終えて、19時10分発の宮崎行最終便をロビーで待っていたところ、また外国人のオリンピック選手団と一緒になった。今度はドイツのようである。

開会式まで間もないタイミングで、宮崎入りするというのはどういうことだろうか。気になって調べてみたところ、今回のオリンピックに「ホストタウン」という制度があることを知った。これは大会参加国と地域が、スポーツや文化を通じて交流するという制度だそうである。宮崎県はドイツ、イギリス、カナダ、イタリアのホストとなっており、ドイツは宮崎市、延岡市、小林市がホストタウンとなっている。

選手団は先に搭乗し、一番後ろの席の一角を占めていた。ただ、なぜか後ろから詰めるのではなく、逆L字とでもいう格好で席が用意されているようだ。筆者は帰りの便は最後方から3列目だったので、この逆L字の中に囲まれる格好で座ることとなった。3列シートで窓側に一人だけなので、ドイツの選手とは距離がある。

選手の席は、3列シートの窓側と真ん中の2席だけを使い、通路側の席は使えないように張り紙がしてあった。だが相手は堂々の体躯のオリンピック選手だ。エコノミー席に2列並んで座るのはさすがに窮屈で、ドアクローズのタイミングで真ん中の席の選手は通路側に移動していた。まあさすがにそれは致し方ないだろう。

ドイツの選手は機内ではみな静かに過ごしており、マスクを外すこともなかった。ただ到着後、彼らは最後に降りることになるので、我々囲まれたバブル外の乗客は、彼らに混じって棚から荷物を降ろし、彼らの中を突っ切って先に降りることになる。

彼らに囲まれる格好になった我々の存在が、「バブル方式」に反している。

いや、彼らから感染するリスクがあると言っているわけではない。むしろその逆だ。彼らはおそらくワクチン接種も受け、PCR検査も毎日しているだろう。

一方こちらはワクチン接種もいつになるかわからず、PCR検査もしていない。しかも東京の街中からの帰りである。そういう者が、オリンピック選手の中に混じって一緒に荷物を降ろしたりしていて大丈夫なのだろうか。

オペレーションとしては、一応「バブル方式」による移動という事になっているのだろうが、実際にはかなり儀礼的というか、形式的なものになっており、実効性についてはほどんどワクチン頼みではないだろうか。

現在日本国内にこのホストタウンに名乗りを上げた自治体が528もあるが、受け入れを断念した自治体は105だという。ということは、残り400余の自治体では、選手たちも本当に移動しているということになる。このホストタウン制度は過去の大会にはないもので、計画されたのは2019年12月より前のようだ。

もちろん、これが平時であればどこの国の選手であろうとウエルカムなのだが、この感染者急増が懸念されているタイミングで、大事に預かっているはずの海外アスリートを日本中に移動させる事業が、ほとんどが中止もされずに実施されているとは、正直驚いた。地域交流と言うが、実際に現地に行って、そんなことができるのだろうか。

計画当初はいい取り組みであったと思うのだが、交流という当初の目的が達成できないことがほぼ確定的になった時点で、早々に中止すべきではなかったのか。結局このオリンピックは、誰もブレーキを踏まないまま、ありもしないゴールへ突進するダンプカーのようなものではないのか。

【訂正】記事初出時にTeamNLの国名を誤って記載していたため訂正しました。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。