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2000円で始めるカッコイイ万年筆 パイロット「ライティブ」

パイロット ライティブ

パイロットの万年筆「ライティブ」を買ってみました。購入価格はヨドバシカメラにて2,200円でした。ほかでも2,000円前後で販売されています。インクは「カートリッジインキ」がパッケージに同梱されており、書き始めるにあたってほかに何かを買う必要はありませんでした。

私は万年筆のようなペン先のパーカー・5thというシリーズのペンを買って、たまに使っていたのですが、キャップを閉めて保管していてもけっこうな早さでインクが無くなってしまうので、だったらもう安くてもいいので高品質で実用的な製品をとりあえず買って、本流たる万年筆にちゃんと向き合ってみようと考えたのがライティブを買ったきっかけです。

ペン先の太さは中字のMと細字のFがラインナップされており、今回は中字のMを買いました。

万年筆に見えないモダンなデザイン

ライティブのパッケージ

パイロットの「ライティブ」は、2021年12月に発売された万年筆です。非常にスッキリとしたモダンなデザインで、軽量なボディも特徴です。パイロットでは「デザイン性と機能性を追求した気軽に使える大人の万年筆」と謳っています。

デザインは、万年筆と聞いて思い浮かべるような伝統的で重厚な雰囲気は無く、ペン先を見なければ、ちょっとボディが太めのボールペンかサインペンといった風に見えます。パイロットの万年筆のラインナップ一覧を眺めてみても、ライティブは最もシンプルなデザインだと思います。

高級な素材は使用されていませんが、安っぽく見えないように工夫されています。クリップ部分はありがちなデザインを避け、万年筆であることをあえて主張しないかのように角ばっていて、努めてシンプルです。こういってよければ、ドイツ・ラミーの製品のようなモダンなデザインですし、現代の筆記具全般からみても王道的でニュートラルな佇まいです。

軽さも特筆すべき点で、カートリッジインキ搭載時で14.2gでした。中身が入っていないのでは? と思えるほどです。キャップ側が比較的重く、筆記時にキャップを軸(ボディ)の後ろに付けると、重心はわずかに後ろよりになります。そもそもかなり軽いのであまり問題にならない気がしますが、私はキャップを付けた状態がしっくりきました。

特徴
パッケージ内容
カートリッジインキを搭載した状態の重さは実測で14.2gでした
万年筆っぽい雰囲気がないデザインです
ラミーの「LAMY 2000」(ローラーボール)と

ライティブのもうひとつのポイントは、2,200円と、子供用とペン習字用ペンを除けば、パイロットの万年筆で最も安いモデルであることです。これなら、ちょっと興味があるぐらいのモチベーションでも手を出しやすいです。ふで箱に雑に入れておくといったことも気兼ねなくできます。

キャップについては、新仕様のインナーキャップで気密性を確保したとあり、インクの乾きを抑える工夫がされています。ねじ回し式ではなく普通のパチッとはめる押し込み式ですが、キャップを閉める時、最後にスッ と精密にフィットする感覚があり、確かに気密性は高そうです。万年筆として安価でも、実用性に配慮されているのは嬉しいですね。

パイロットの万年筆自体はすでにたくさんの種類がラインナップされており、「ライティブ」に革新的な技術が投入されているわけではありません。軸(ボディ)はプラスチックですし、ペン先は万年筆の定番である金ではなく特殊合金ですが、初めて万年筆を手にする私には気兼ねなく使えて、ちょうど良いと思いました。パイロットは100年以上も万年筆を作っているメーカーですし、判断基準に乏しい初心者からすれば、ペン先の仕上がりに何も不満はないというのが正直なところです。

ペン先。購入したペン先タイプは中字の「M」です
ペン先を横から見たところ
裏側はペン芯と呼ばれるパーツ。色はグレーです

カートリッジで簡単に始められる

ライティブのパッケージにはカートリッジインキ1本(ブラック)が同梱されており、これを挿し込むだけで使い始められます。このカートリッジにメーカー間の互換性はなく、インクの色のバリエーションはパイロットのラインナップから選びます。同社は最近、日本の情景をテーマにしたボトルのインク「色彩雫」(いろしずく)で人気の12色をカートリッジインキでも発売しており、従来の黒、赤、青、ブルーブラックという定番色以外も選べるようになりました。

一方、インクボトルにペン先を入れて吸い上げる、別売りのコンバーター(インク吸入器とインクのタンクを兼ねたもの)を取り付けることもできます。パイロットを含め世の中には色や発色にこだわったものから耐水・耐光性を加えたものまで、さまざまな種類の万年筆用インクがボトルで販売されています。一般的にメーカー純正のインク以外は推奨されないことに留意する必要はありますが、コンバーターはそうしたさまざまな種類のインクを使う楽しみ方も可能です。店頭販売価格でみるランニングコストという点でも、ボトルインクはカートリッジインキの半分以下になる計算です。

とはいえ、とりあえず使ってみたいという私のような初心者ならカートリッジインキが手軽ですし、万年筆を使い始めはじめるハードルを下げるのに一役買っていると思います。

万年筆初心者、書き味に驚く

万年筆をほぼ初めて使う私にとっては、恥ずかしながらいろいろなことが新鮮でした。

ペン先のわずかなしなりは、硬いボールペンにはない、どちらかといえば筆に近い感覚です(万年筆としては硬めのペン先らしいです)。筆圧が少なくてもサラサラと書けてしまう点や、早いストロークでも綺麗に書ける点も、毛筆的なリズムを反映させやすいです。

ボールが転がっているのではない、ペンの先端(ペンポイント)の確かな接地感もとても気に入った部分です。選挙の投票用紙と鉛筆の、あの絶妙な書き心地を連想させるものがあります。

また机など硬い物の上で紙に書いている時の、ゾリゾリ、カリカリといった音を聞いて、ゲームや映画で“なにかにサインしている時の効果音”だと思いました(笑)。鉛筆よりも少し硬質な音で、万年筆ならではの心地のいい音ですね。

万年筆は、字を書いている時の筆圧の変化の反映、ストロークの早さとリズム、確かな接地感・適切な抵抗感により、すべてが制御下にあると感じられ、それが綺麗な字かどうかはともかく、書こうとしている字を書けているという一体感を感じます。

これに比べるとボールペンは、硬い机の上などでは特に、勢いよく転がっていくペン先をなんとか抑え込んでいるようで、字形やリズムに集中しづらいという印象が残ります。万年筆の「書き味が良い」って、こういうことだったのか……と本当に今更ながら経験することになりました。う~ん、これはもっと前に体験しておくべきでした……。

ペン種の中字・Mは少し太いですが、濃淡を含めて筆の雰囲気がより出る印象です
カートリッジインキは水性で裏抜けも少ないようです。これは画紙で、鉛筆などに最適なマルマンのクロッキー帳、MPS-C、52.3g/m2です

パイロットのWebサイトにはメンテナンス方法を含め使い方を解説する懇切丁寧な短い動画がたくさん用意されているので、使い始めるにあたっての大抵の疑問はここで解決します。ひとまず付属のカートリッジインキで使い始めれば、万年筆と聞いて身構えていたような面倒事はなく、拍子抜けするほどでした。もちろん移動中の強い振動でインクが漏れ出す可能性はあるので、ペン先をなるべく上向きにする、強い振動が加わらない持ち運び方にするなど、多少の配慮はいると思います。

ライティブはシンプルで気兼ねなく使える、万年筆らしくない万年筆で、万年筆と聞いて想像される多くのハードルを下げている製品だと思います。重厚感はなく、ステータスシンボルにもならないでしょうが、日常生活になじみやすいデザインで、とても軽く、気軽に普段使いができそうです。個人的には、万年筆の一般的な特徴とはいえ今更ながら知った、“字を書くための書き味”とでも解釈すべき上質な書き味もプッシュしたいです。若い人や大人が手にする最初の一本として最適だと思いました。

太田 亮三