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ソニーのヘッドホン「MDR-CD900ST」を折り畳み式に改造

今回は、筆者が普段使っているソニーのヘッドホン「MDR-CD900ST」(以下、900ST)を自分で折り畳み式に改造してみたので、その模様をレポートしたいと思います。

30年以上売られている名プロダクト

900STといえば、プロがレコーティングなどの際に使用するモニターヘッドホンとして特に有名です。80年代のアイテムですが、今でも写真や映像でミュージシャンが900STを装着している姿はよく見かけます。

調べてみると、もともとソニーのスタジオ専用だった「MDR-CD900CBS」を1989年に「MDR-CD900ST」に改名し、業務用としての外販を開始。その後、1995年に一般向けに発売されたそうです。30数年にわたって製造が続けられているのですから、ソニーの名プロダクトといって良いのではないでしょうか。

筆者は特に楽器を演奏したり、音楽を作っていたりするわけではありませんが、“プロ仕様”という部分に惹かれて20年ほど前の学生時代に購入。その後、専ら音楽鑑賞用として使っていました。音場の広さはさほどありませんが、楽器や人の声が直接耳に届くようなカチッと明瞭な音質でとても気に入っています。

折り畳み改造前の900ST

持ち歩くときに小さくしたい

900STの大きな特徴に、構成するパーツがバラ売りされている点があります。修理が必要な部分は自分で交換できるのが魅力となっています。また、長年売られている人気アイテムとあってか、サードパーティーからも交換パーツが出ていてカスタマイズを楽しめます。

そんな900STのよく知られたカスタマイズが、今回紹介する「折り畳み式への改造」です。なぜ折り畳み式にしたのかと言えば、筆者は最近動画撮影の仕事が増えており、撮影現場で音声をモニターするのに、「せっかく持っているのだから900STを使いたい」と考えたからです。

しかし、そのままではバッグの中で嵩張るので持ち歩きづらいというのが本音。そこでこの機会に、かねて聞き及んでいた折り畳み改造をしようと思い立ったのです。

いざ改造に着手!

折り畳み改造には、姉妹モデル「MDR-7506」の「スライダー」というパーツを使用します。これは、ヘッドバンドとハンガーを繋いでる金属の板です。左右別の型番になっており、価格は1つ1,300円ほど。筆者が購入した際は、右側用の箱に海外モデルである「MDR-V6」用と記載されていましたが、問題無く900STで使用できました。

スライダーの箱
左右の違いは数字の位置だけのようです
このようにヒンジが付いています

改造に使う工具は基本的にプラスドライバーだけ。ハンダ付けなどはありません。右側から作業を進めていきました。

まずは、ハンガーから元のスライダーを外します。

続いて、ヘッドバンドのプラスチックパーツを外します。筆者の900STは年季が入っていて、ひび割れがありました。しかし、この部分を新しくするにはヘッドバンドごとの交換になってしまいます。ここはいずれの機会に換えるとして、今回はこのまま進めることにしました。

スライダーを押さえているプラスチックのパーツと併せて、スライダーもヘッドバンドから引き抜きます。

この時、後ろ側のプラスチックパーツにバネと金属球が仕込まれているので、これを無くさないように慎重に作業します。

スライダーが外れたら、その中ほどにあるプラスチックのパーツを外します。

ここで、取り外した900STのスライダーを交換するスライダーと比べてみました。曲がり具合が結構違うことがわかります。

900STのスライダー(左)と交換するスライダー(右)

ここからは、分解した逆の手順で組み立てていきます。まず、新しいスライダーの中ほどにプラスチックのパーツを装着します。

するとこのようにうまくヒンジが動くことが確認できます。

次に、スライダーをヘッドバンドの中に戻していきます。このとき、スライダーをヘッドバンドの中にある透明な2枚の板の間に入れるようにします。

そしてヘッドバンドの端を押さえるプラスチックパーツを組み付けるのですが、金属球が外れないように押さえながら戻していきます。この作業が全体を通して唯一の難所という感じでしたが、何度か試して戻すことができました。

ヘッドバンドの端の皮革がめくれていない事を確認しつつ、ネジを締めます。

これで片側の交換がが完了です。同じように左側も作業すれば全工程が終了。完成した900STを見てみると、スライダーのカーブの違いで、オリジナルとは少し異なったフォームになりました。

さっそく折り畳んでみると、手のひらに収まるほどになりました。ヒンジの動きもスムーズで問題ありません。これで持ち歩きはだいぶ楽になりそうです。

重要パーツ「ウレタンリング」も交換

ところで、900STの内部には「ウレタンリング」というパーツが使われているのですが、これが時間と共に劣化する消耗品となっています。劣化してくると低音が出なくなってくるのですが、劣化は少しずつ進むので気が付きにくいのです。

ちょうど良い機会なので、ウレタンリングも交換することにしました。左右用に2つ購入します。パッケージにはやはりMDR-7506用と記載されていますが、問題ありません。

ウレタンリングは、両面テープで貼り付ける仕様になっています。

筆者は定期的に交換していますが、前回から時間が経っていたので、形が少し崩れてきていました。

まず、古いリングを取り外します。この時、ウレタンを引っぱらずに両面テープ部分を掴んで引くと綺麗に剥がれます。

新しいリングの剥離紙を剥がします。リング部分と中央部分はまだ分離しないでおきます。

位置を合わせてそのままドライバーユニットの上に置きます。その後、周囲のリング部分だけを指で押してよく接着させます。そして中央の不要部分を剥がすと、リングだけが残ります。

ここでリング部分を押す作業が不十分だと、不要部分を剥がしたときにリング部分も一緒に外れてしまうので注意しましょう。

うまくいくと、このように垂直に立ち上がったウレタンリングが残ります。何はともあれ、このウレタンリングを良い状態に保っておくのが900ST本来の性能を発揮させる重要ポイント。変型してきたり弾力が弱くなってきたら、早めに交換することをお勧めします。

イヤーパッドやプラグもカスタマイズ

さて、筆者の900STは折り畳み以外にも以前からモディファイをしています。その一つがイヤーパッド。これも時間が経つと劣化してくる消耗品です。

最初に付いていた純正イヤーパッドが劣化した際に、サードパーティとなるYAXIの900ST対応イヤーパッドに交換して長らく使っています。2つで4,000円ほどと少々高価ですが、純正品よりも厚みがあるので付け心地がかなり良くなります。長時間装着していても、耳たぶに違和感が起きにくいと感じます。

ただ、ドライバーとの距離が変わるせいか音も変わります。サウンドがわずかですが大人しくなる印象です。900STオリジナルの音にこだわりたい場合は、交換するか思案のしどころでしょう。

そして、プラグも交換しています。購入時は標準プラグ(6.3mm径)が付いていましたが、カメラに繋ぐには不便なのでミニプラグ(3.5mm径)に変えました。

プラグはノーブランド品ですが、カメラに繋ぐときに他のプラグと干渉しないようになるべくスリムなものを選んでいます。プラグの交換はハンダ付けが必要ですが、さほど難しくは無いと思います。

購入20年目の大改造。まだまだ使い続けたい

ソニーのモニターヘッドホンといえば、900STと同じソニー・ミュージックソリューションズ扱いの新モデル「MDR-M1ST」が登場して久しいところですが、900STの人気は依然として高いようです。

MDR-M1STは900STの置き換え品では無く、いわば別ラインとの位置づけだそうです。そのため900STの販売が継続されることになり、いちユーザーとしてパーツの入手などで安心しているところです。

音質や求めやすい価格も含めて、900STはロングセラーも納得の逸品というよくできたアイテムと言えるでしょう。ヘッドバンドにある「STUDIO MONITOR」の文字もいよいよ消えかかってきましたが、これからも長く使っていこうと改めて思いました。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。