いつモノコト

Neveのヘッドフォンアンプ「RNHP」で快適な音楽ライフ。所有欲も満たす

「ヘッドフォンアンプ」という装置をご存じだろうか? これは、ヘッドフォンをドライブするための専用アンプのこと。少しマニアックなアイテムだが、一般的な音楽プレーヤーやPCなどのヘッドフォン出力よりも高音質とあって、近年使用者が増えているのだ。

そこで今回は、筆者が購入してちょうど1年ほど経ったRupert Neve Designs(ルパート ニーヴ デザイン)のヘッドフォンアンプ「RNHP」を紹介したい。価格は税込で6万円台前半というところだ。

ヘッドフォンアンプは内外のメーカーからかなりの種類が出ているが、RNHPはコンシューマーから見るとちょっと変わった立ち位置の製品である。それは、レコーディングなどでエンジニアがモニターに使うために作られた業務用のアイテムだという点だ。

このRupert Neve Designsというアメリカの会社は、ミキシングコンソールといったプロ向けのレコーディング機材の製造を専門としていて、実際RNHPは同社の「5060 Centerpiece」という100万円近いミキサーのヘッドフォン出力回路をベースにしたものとなっている。

この話だけでも良い音がしそうで買いそうになったのだが、社名の由来になっているRupert Neveという人がプロオーディオ業界では知らぬ者がいない名開発者だと聞いて、いよいよ購入に踏み切ってしまったのであった。

筆者の家にはほとんど無い「Made in USA」の文字が新鮮だった

筆者は特に音楽をやっているわけでもなくNeve氏については知識がなかったが、調べてみるとある人曰く「高音質の代名詞」だとか、またある人曰く「録音技術のパイオニア」――。はたまた「生きる伝説」などというのもあって、業界では半ば神格化された人のようである。ただしNeve氏は相当高齢ということなので、開発の全てをしているわけではないと思うが、長年培われた氏の知見はしっかりと投入されているのだろう。

と、前置きが長くなったがここから実機を見ていく。本体サイズは約165.1×116.8×48.3mm(幅×奥行き×高さ)で、デスクトップに置いてもさほど邪魔にならなかった。

前面にあるのはヘッドフォンジャック、インプットセレクトのボタン、ボリュームノブとシンプル。ヘッドフォンジャックは6.3mmの標準タイプで、バランス駆動には対応していない。

背面にはXLR(キャノン)端子、RCA端子、ステレオミニ端子の3つの入力があり、前面のA/B/Cのボタンで1つを選択する。RNHPは純粋なアナログアンプなので、デジタル入力はないということだ。

XLR端子が付いているのは業務用なので当然なのだが、民生用でも高級なDAコンバーターはXLR出力があったりするので、リスニング用であっても有用だろう。XLR端子は高級品とされるノイトリック製。ここには、バランスのTRSフォーンプラグも挿せるようになっている。

電源だが、ACアダプター式にしては比較的高い24V仕様となっている。これによって歪みなく大きな音が出せるそうだ。少々大きめの音で確認しても、音が悪くなるようなことはなかった。また、付属のACアダプターを使っているが、スイッチング電源というデメリット(ノイズなど)も感じられなかった。

ケースはスチール製とのことだが、両サイドは二重構造になっており、なんとも頑丈そうに見える。まさに質実剛健という感じでアメリカンな印象を受けた。

中を見ると基板は1枚で、表面実装の小さなパーツが整然と並んでいる。その中で目を引く大きなボリュームは、アルプスアルパイン製の高特性タイプ。また、派手な色の電解コンデンサーはニチコンのオーディオグレード品。日本メーカーのパーツも活躍していた。

一方アンプの出力段には、テキサスインスツルメンツ(TI)の「TPA6120A2」が使われている。プロ用機器への搭載も最初から想定されている、高忠実度を謳ったヘッドフォンアンプ専用のICだ。TIによると広帯域、低ノイズ、高ダイナミックレンジなどが特徴だそうだ。

筆者の環境では、PC→単体のDAコンバーター→RNHPという接続で使っている。ヘッドフォンは、ソニーの「MDR-CD900ST」を繋ぐことが多い。RNHPの出力はかなりのもので、最近のポップスの録音だとボリュームが時計でいう9~10時の位置で十分な音量という感じだった。

音質面では密度感がありながら、それぞれの音の分離も良い印象。筆者は専らリスニングに使っているが、快適に音楽を聞くことができている。音の色づけというのはあまり感じられず、低音や高音に特段の盛り上がりなどはないようだ。ただ、周波数的には両端十分伸びており、特に低音でそれを感じることができた。本来がプロのモニター用なので、敢えて色づけなくまとめてあるということなのだろう。

もう1つ、筆者が気に入っているヘッドフォンにフォステクスの「T50RP」がある。もう生産していないものだが、独自の平面振動板による広がりのある音が特徴だ。

ところがこのT50RPはドライブが難しいといわれており、実際RNHPを買うまで使っていたオーディオアンプのヘッドフォン端子では本来の力を発揮できていないのではないかと思っていた。で、RNHPでドライブしたところ音の鮮度のようなものが向上して驚いた。低域も伸びるようになり、見通しが良くなった。

その他、ボリューム周りも特筆すべきクオリティだった。ボリュームを絞って聞いていても、左右の音量差が感じられないところなどは流石だと思った。小音量での左右バランスの崩れは、これまでしばしば経験していたからだ。また、ボリュームノブは金属製で質感が高く、揺らしてもがたつきは全くなかった。回転がやや重めなのだが、かえって微妙な調整がしやすくて便利だった。

全体的に大変気に入っているが、筆者が気になった点を挙げるとすると2つある。1つは電源スイッチが背面にあるということ。業務用の音響機器は誤操作防止の意味もあってこういうものかも知れないが、やはり使い勝手を考えるとフロントに欲しかった。

もう1つは、電源を切るときにヘッドフォンから毎回「キューン」という大きな音が出てしまうこと。そのため、ヘッドフォンのプラグを抜いてから電源を切るというのを習慣にする必要があるのだ。

と、少しのウィークポイントもあるが、筆者は買って良かったと思っている。本体の性能の良さもあるが、大御所が手がけたギアが机の上にあるという満足感や、業務用のアイテムを使っているという高揚感もまたRNHPで音楽を聴く楽しみを高めてくれると思っている。

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。