石野純也のモバイル通信SE

第110回

iPhone Duoに残された課題 洗練のハードウェア、未成熟のエコシステム

10月23日に発売されたiPhone Duo。この端末に最適化されたアプリだと、写真のように大画面を生かした表示になる

10月23日、アップル初となるフォルダブルスマホの「iPhone Duo」が発売された。初物ながらもハードウェアの完成度は高く、ヒンジの滑らかな動作やナノテクスチャーコーティングされた映り込みの少ないメインディスプレイなどは、これまでのフォルダブルスマホにない特徴として評価されている。実際、実機を使ってみても、ハードウェアの工作精度の高さを感じられる。

一方で、スマホはハードウェア単体ではただの箱にすぎない。そこにOSやアプリなどのソフトウェアが載って、初めて価値を持つ。そのソフトウェアを広げるための、エコシステムも重要だ。その観点で見ていくと、本稿を執筆する10月26日時点でのiPhone Duoは、まだまだベータ版の域を出ていない印象だ。

対応アプリは素晴らしい しかし最適化できていないアプリが多すぎる

OSやアップル純正ソフトウェアの完成度は高い。折りたたみというフォームファクターを生かしてアイコンやインジケーターなどを再構築しており、閉じても開いても快適に使えるよう、設計が計算されている。一方で、スマホの体験はOSとファーストパーティのアプリだけで完結するわけではない。重要なのは、サードパーティアプリがどこまでこのフォームファクターについてこられるかだ。

画像はApple Musicアプリ。広い画面を生かしつつ、操作系を右に寄せて使い勝手を高めている

その観点では、iPhone Duoは未完成と言わざるをえない。NetflixやマイクロソフトのOutlook、Claudeなど、アップルのデモでも使われたようなアプリは開いたときの大画面を十分生かしきったレイアウトになるため使い勝手がいい反面、そうでないアプリがあまりにも多すぎる。最適化されていないアプリや最適化しきれていないアプリは、主に2つの方法で表示される。

サードパーティアプリでも、すでにiPhone Duoに最適化を済ませているものは存在する。写真はNetflixで、半開きの状態だと操作パネルが現れる

1つが、これまでのiPhoneと同様の縦長のレイアウトが、そのまま横長のディスプレイに表示されるというものだ。縦横比率が大きく異なるため、当然ながら、そのままだと左右にかなりの無駄な“黒帯”が表示されてしまう。ディスプレイサイズは大きくなっているが、描画領域で言えば、むしろこれまでのiPhoneよりも狭くなっているほどだ。

本体を縦にすると、大きく表示されるが、ディスプレイサイズに近づけるためには、拡大ボタンをタップする必要がある。この状態だと、今までのiPhoneよりは大きな表示になるものの、本体を回転させ、かつボタンをタップするという2つのアクションが必要になる。これでは、あまりにも手間がかかりすぎる。

メルカリ、Yahoo!ニュース、楽天市場など、日本で利用頻度が高いアプリの中に、iPhone Duo非対応のものが依然として多い。左右に盛大な黒帯ができてしまい、スペースの無駄使いになっている

厄介なのは、人気の高いアプリですら、このように表示されてしまうことだ。特に、日本で人気の高いLINEやメルカリ、楽天市場などが軒並み横に黒帯が出る状態で表示されてしまう。これらのアプリならまだいいが、電子書籍アプリなど、本来であればiPhone Duoのディスプレイを生かせるアプリの対応も進んでいないのは、かなりガッカリ感が強い。しかも、利用頻度が高いだけに、ユーザー体験が低下してしまう。

もう1つは、大画面に最適化されている一方、右側に細い“黒帯”が表示されるというアプリだ。こうしたアプリは、iOSのアプリをビルドするXcode 27で作成されたものだ。画面サイズには最適化されている一方で、iPhone Duoならではの、右にボタンなどを寄せるユーザーインターフェイスは取り入れられていないのが、こうしたデッドスペースが生まれる原因だ。

Googleマップのように、全画面表示はできるが、右のエリアが黒い帯になってしまうアプリもある

こちらに関しては、多少の見栄えの悪ささえ気にしなければ、それなりに使うことはできる。右手で画面をタップする際に、無駄なスペースぶん指を伸ばさなければならないのは気になるものの、致命的に使いづらいというわけではない。GoogleマップやGoogleフォト、Kindle(しかもバグが結構あったりする)、Speedtest.netなどの一部アプリはこのように表示された。

時間が解決する問題だが「遅さ」は気になる Duoが売れれば解決?

もちろん、これらは時間が解決する問題でもある。アップルは、27年4月を期限にiPhone Duo対応を必須にしており、これ以降、新規で登場するアプリやアップデートされるアプリはiPhone Duoの存在も念頭に置いておかなければならなくなる。

上記で挙げたアプリも基本的には頻繁にアップデートがかかるため、多少の時間はかかりそうだが問題なくiPhone Duoへの対応はできるはずだ。

その反面、アップデートが遅く、頻度も少なめの金融・決済系のアプリや、個人開発者のアプリなどは、縦表示で黒帯が左右に出るままで取り残されてしまうおそれもある。ゲームなど、画面のサイズをある程度決め打ちで作っていたようなアプリが、すんなりこのアップデートに追従できるかも未知数と言えるだろう。

金融系アプリや決済系アプリも軒並み非対応だった。画像は三井住友銀行の法人向けアプリ

アプリ開発者側を責められない側面もある。iPhone Duoの発表から発売まで、1カ月程度しか時間がなく、対応の余裕がなかったことが推察される。せめてWWDCで発表し、正式な発売日などの告知を9月にするという流れであれば、スタート時点での対応アプリは増えていたはずだ。新たなカテゴリーの端末を投入するわりには、開発者のケアが不足していた感は否めない。

Androidのフォルダブルスマホでも近い問題はあったが、こちらは、21年時点でアプリのUI開発ツールキットに「Jetpack Compose」を取り入れており、比較的柔軟に画面サイズの変更に対応できるようになっている。また、OS側で強制的にアプリのレイアウトを変える機能も備わっているため、Day 1(発売初日)でも開いたときの画面に最適化していないアプリだらけということにはならなかった。

元々、スマホからタブレットまで、最近ではGooglebookでも同じアプリが動くプラットフォームのため、画面サイズを決め打ちしづらかったこともフォルダブル向きだったと言えるだろう。

アップルもiPadでは可変UIを取り入れていたが、iPhone向けアプリは画面レイアウトを決め打ちするものがまだまだ残っている。こうしたアプリの開発者を、どう動かしていくかは今後の課題と言える。

もっとも、iPhone Duoが飛ぶように売れるのであれば、対応アプリはおのずと増えていくはずだ。出荷台数が限定的だったこともあるが、現時点ではほぼ完売となっており、滑り出しは上々と言える。この勢いを維持していくことができれば、アプリが増える好循環につなげられる可能性もあるはずだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya