石野純也のモバイル通信SE

第30回

楽天モバイルが「ワンクリック申し込み」を実現できた理由

楽天モバイルが、ワンクリック申し込みを開始した。合わせて、Rakuten最強プラン(データタイプ)の提供もスタートした

楽天モバイルが、7月3日に「ワンクリック申し込み」を開始した。eSIMとの組み合わせで、最短3分で開通できることをうたっている。楽天市場や楽天ペイなど、同社グループのサイト、アプリ内にはバナー広告が張られ、ここから楽天モバイルの契約が可能になる。

申し込み可能なのは、同日から導入された「Rakuten最強プラン(データタイプ)」で、090/080/070の電話番号を使った音声通話や「Rakuten Link」での通話はできない。SMSには対応する。

データプランで「ワンクリック」が実現できた理由

データタイプと言っても、料金は音声通話ありのRakuten最強プランと変わらない。3GBまでの料金は1,078円、3GB超20GB以下が2,178円、20GBを超えると容量無制限になり、料金は3,278円に上がって打ち止めになる。電話番号も、音声通話可能なタイプのものが付与される。020番号のIoT用SIMカードは、音声通話をするためのセッションも張れない仕様だが、Rakuten最強プラン(データタイプ)はこれとは異なり、コアネットワーク側で通話を不可にしているようだ。近い仕様のデータSIMは、他社も導入している。

データタイプと言っても料金が安くなるわけではなく、金額は通常のRakuten最強プランと同じ。SMSも利用できる

この仕組みを導入したことで、新規契約の手続きが大幅に短縮される。実際のフローを動画で見てみたが、その手続きは驚くほど簡略化されている。バナーをクリックすると、即座に料金プランやSIMカードの種類選択、重要事項説明などが表示され、「次へ」をクリックすると申し込みが完了する。eSIMを選択していた場合、同時にプロファイルの発行手続きに入り、QRコードが届く。これをスマホで読み込めば、すぐに楽天モバイル回線が開通する。

バナーをクリックすると、即座に料金説明などに移り、ボタンを押して申し込みが完了すると、すぐにeSIMの発行が始まる

ここまで契約が簡単なのは、楽天グループが持つユーザーの情報を利用しているからだ。住所や電話番号などはすでに入力済みのため、新たに打ち直す必要がなくなる。毎月の料金を支払うためのクレジットカードも登録が済んでいる。こうした情報を流用することで、ユーザーに二度手間をかけさせないのが、ワンクリック申し込みと言えるだろう。

ただし、ワンクリック申し込みをするには、「楽天カード」が必要になる。また、Rakuten最強プラン(データタイプ)は、通常のRakuten最強プランに変更することができない。音声通話が必要な場合やMNPしたい場合などには、通常の手続きを踏む必要がある。

楽天モバイルによると、音声タイプへの変更には、23年秋ごろに対応していく予定だという。

楽天グループが持つ会員基盤を生かし、楽天モバイルの契約を促進する

ワンクリック申込の狙いは“お試し利用” 本人確認という課題

現時点のワンクリック申し込みは、“お試し利用”を促進していくのが狙いだ。

エリアに不安のあるユーザーが、2枚目のSIMとしてRakuten最強プラン(データタイプ)を入れ、MNPなどをせず、楽天モバイルの実力値を試すといったケースを想定している。こうしたお試し利用を促進するため、同日から1カ月間、3GBまでの料金である1,078円ぶんをポイントバックするキャンペーンを実施している。1カ月間実質無料で使い、必要だと思ったらそのまま使い続けることができるというわけだ。

楽天モバイルではお試し利用を想定しており、ポイントバックキャンペーンも実施

一方で、お試し利用に限定せざるをえなかった事情もある。ワンクリック申し込みでは、厳密な意味での本人確認が取れないからだ。現状、携帯電話を契約する際には、「携帯電話不正利用防止法」に基づいた厳格な本人確認が行なわれる。免許証やマイナンバーカードの提示をした記憶がある人は多いだろう。オンライン契約なら、eKYCが必須になる。現状のワンクリック申し込みには、こうしたプロセスが存在しない。

では、なぜ規制をクリアできたのかというと、データSIMであるところに答えがある。上記の携帯電話不正利用防止法は、音声通話可能な携帯電話回線が対象。データ通信オンリーのSIMカードは、規制の対象外になっている。とは言え、本人認証を緩くしすぎると、データSIMでも持ち逃げなどの不正利用が発生しかねない。対象ユーザーを楽天カード会員に絞ったのは、それを防ぐためとみられる。利便性と厳格さのバランスを取りつつ、サービスを導入した格好だ。

携帯電話不正利用防止法などの法令を紹介する総務省のサイト

本人確認徹底の動きと今後の楽天モバイルの展開

とは言え、データSIMでも自主規制として本人確認を徹底する動きもある。例えば、MVNO各社が加盟するテレコムサービス協会のMVNO委員会は、SMS対応のSIMカードの場合、音声通話と同等の本人確認を行なうよう、加盟事業者と申し合わせている。

例えば、同協会に加盟するIIJmioは、SMS対応SIMカードでも、契約時に運転免許証やマイナンバーカードの提示が必要になる。

楽天モバイルのワンクリック申し込みは楽天カード保有者に限定しているため、まったく本人確認を行なっていないわけではないものの、グループ間での情報共有をどこまで許容するかは意見が分かれそうだ。こうした取り組みに反発するMVNOが出てきても、不思議ではないだろう。

テレコムサービス協会MVNO委員会では、自主規制としてSMS対応データSIMでの本人確認を強化している

実際、楽天モバイルが1人で契約できる回線数を10回線に引き上げた際にも、あるキャリア関係者は「業界で決めた自主ルールを反故にしている」とその取り組みを批判していた。ユーザーの利便性を上げる取り組みではあるが、不正利用防止をどう担保していくのかは、もう少し丁寧な説明が求められそうだ。

一方で、音声通話ありの場合は依然として携帯電話不正利用防止法の対象になり、自主規制よりもルールは厳格になる。当然ながら、本人確認なしでの契約はできない。そのため、秋に始まる予定の音声タイプへの切り替えの際には、何らかの追加手続きが必要になる可能性が高い。

また、音声通話可能な通常のRakuten最強プランでワンクリック申し込みができるようになる時期も、「未定」という。

5月に楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が「音声対応も8月ごろに開始する」と語っていたが、その目途はまだ立っていないようだ。他社の後を追う楽天モバイルの“武器”になるだけに、早期の解決に期待したい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya