石野純也のモバイル通信SE

第29回

キャリアの影が薄まるハイエンドスマホ サムスンがオープンマーケット本格化

サムスン電子は、Galaxy S23 Ultraのオープンマーケット版を発売する

サムスン電子が、オープンマーケットにフラッグシップモデルの「Galaxy S23 Ultra」を投入する。オープンマーケットとは、キャリアを通さず、メーカー自身がメーカー自身の仕様で端末を販売すること。かつて、キャリアモデルにSIMロックがかかっていた名残から、「SIMフリー」と呼ばれることもある。このオープンマーケットに、変化の兆しが見え始めている。

Galaxy S23 Ultraは、ドコモとKDDIが販売しているサムスンの最上位モデルだ。2億画素のカメラや、Galaxy Noteシリーズから受け継いだ大画面やSペンを備え、「Snapdragon 8 Gen 2 for Galaxy」を搭載しており、処理能力も高い。オープンマーケットモデルも、基本的なスペックはキャリア版と同じ。ただし、ストレージの容量は1TBのみ。1TB版はKDDIがオンライン専用モデルとして用意していたが、ドコモでは販売されていない。

投入されるのは、ストレージ容量がもっとも大きい1TB版のみ。KDDIも、オンライン限定で同容量を扱っている

背面の刻印はないが、サムスンのオープンマーケットモデルとして、初めておサイフケータイにも対応する。キャリアアプリなどはプリインストールされないが、その他の仕様に関しては、基本的にキャリア版と同等と考えていい。対応周波数も、キャリア版と同等だ。販路は、サムスンのオンラインショップ限定で、7月6日の発売を予定する。

おサイフケータイに対応。サムスン電子が販売するオープンマーケット版のスマホとしては初だ

オープンマーケット本格展開のサムスン

サムスン電子は、昨年、オープンマーケット専用モデルとして「Galaxy M23 5G」をAmazonなどを通じて発売したが、これはあくまでユーザーの反応を見るためのテスト的な投入だった。海外版の製品から大きく仕様を変えておらず、おサイフケータイにも非対応。そのぶん、価格を抑え、4万円前後と比較的手に取りやすい価格で販売していた。

Amazonを通じて販売するモデルとして22年に導入されたGalaxy M23 5G

初のオープンマーケットモデルとして反響があった一方で、サムスンと言えばやはりGalaxy Sシリーズのイメージが強く、おサイフケータイや防水・防じんに対応した端末を求める声は多かったという。投入前から同社が想定していたとおり、フラッグシップモデルを求める声も一定数、上がっていた。サムスン自身も'23年からGalaxyではなく社名(Samsung)を前面に出し、ブランド認知度を向上させようとしている。こうした事情がそろい、もっともインパクトが強い最上位モデル中の最上位モデルを発売するに至ったという。

実はGalaxy S23 Ultraの発売にあたり、サムスンは徐々にその準備を進めてきた。

1つは、オンラインストアの開設だ。2月にアクセサリーなどを購入できる、サムスン自身の販路を設け、メーカーとして直接製品を販売する体制を整えた。

2つ目が、分割払いへの対応だ。アップルストアでもおなじみの「Paidy」に対応し、手数料無料で最大12回払いを選択できるようになった。これらはGalaxy S23 Ultra販売の布石だったというわけだ。

2月にオンラインストアを開設
6月から、後払いサービスのPaidyに対応した

さらに、6月23日からは、下取りサービスも開始する。この下取りサービスでは、サムスン電子のスマホ、タブレット、スマートウォッチ、ワイヤレスイヤホンに加え、他社製品も買い取りの対象になる。

こうした体制が整い、ついにサムスン電子もオープンマーケットに本腰を入れ始めた。また、Galaxy S23 Ultraと同時に、ミッドレンジで手ごろな「Galaxy Tab S6 Lite」(Wi-Fi版)の販売も開始。Sペン付きで56,799円で、Apple Pencilが別売のiPad(第10世代)に対抗していく。

タブレットのラインナップも強化している。新たに、Sペン対応で価格が手ごろなGalaxy Tab S6 Liteを発売する

Xperiaもフラッグシップ前倒し

オープンマーケットへの取り組み方を変えたメーカーは、サムスンだけではない。「Xperia 1 II」のころからフラッグシップモデルを自社で販売してきたソニーも、最新モデルの「Xperia 1 V」は発表の時期を早め、キャリアモデルと同時に告知している。オープンマーケット版のXperia 1 Vは、キャリア版より約1カ月遅い7月に発売される。時期はズレているものの、告知が同時だっため、ユーザーにとっては選びやすくなったと評価できそうだ。

オープンマーケットモデルに積極的だったソニーは、発表タイミングを前倒しに。発売日もキャリアモデルと近くなった

各社がフラッグシップモデルをオープンマーケットに投入している背景には、ハイエンドモデルの売れ行き不振も関係していると見ていいだろう。'19年10月に電気通信事業法が改正され、売れ筋の端末がミッドレンジモデルに集中した。キャリア側も、ハイエンドモデルのラインナップを以前より減らし、端末の価格レンジを広げている。キャリアに納入するだけでは、以前と同規模の販売数が見込みづらくなっていると言えるだろう。

キャリアごとの機能差も、わずかになった。以前はデュアルSIM/eSIMの有無や対応周波数などに違いがあった一方で、総務省の調査を契機に、仕様がほぼ統一されている。キャリア側にとっても、ハイエンドモデルの“かぶり”が重要事項ではなくなりつつあると言えるだろう。

ただし、Galaxy S23 Ultraも、オープンマーケットで販売する1TB版はKDDIがオンライン限定でしか扱っておらず、元々流通量が少ないバージョンだ。Xperia 1 Vもオープンマーケット版はストレージが512GBで、ミリ波非対応の代わりにストレージが多く、やや目先を変えている。

メーカーやブランドを支えるファンに向け、キャリア版以上にターゲットを絞り込んでいる。メーカーにとってはユーザーを囲い込めるメリットがあるため、こうした販売方法は徐々に広がっていきそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya