石野純也のモバイル通信SE

第27回

ahamo・Rakuten最強に対抗 UQの「コミコミプラン」の狙い

6月1日に料金プランを刷新するUQ mobile。中でも特徴的なのが、データ容量20GBと1回10分の音声通話定額をパックにしたコミコミプランだ

KDDIは、5月22日にUQ mobileの新料金プランを発表した。サービス開始は6月1日から。

UQ mobileは、KDDIの中・低容量帯を担うブランド。データ容量無制限を売りにするauと比べると料金が安く、同社の主力ブランドになっている。現行の料金プランは容量別に「S」「M」「L」の3種類に分かれており、割引やオプションなどの仕組みは共通していたが、新料金プランでは、料金ごとに特徴を持たせた。

お店で申し込めるahamo? 「コミコミプラン」の狙い

中でも大きく変わるのが、現行のプランLに変わって導入される「コミコミプラン」だ。同プランは、ドコモのオンライン専用プランである「ahamo」や、楽天モバイルが同じ6月1日に導入する「Rakuten最強プラン」への対抗意識を色濃く反映したものと言える。現行プランは通話料が従量制で、定額、準定額のオプションを用意していたが、これをパック化。データ容量もahamoと同じ20GBに設定した。

また、複雑に見える割引を廃し、料金体系を一本化しているのも特徴だ。

金額は3,278円。ahamoは2,970円、Rakuten最強プランは3,278円で、水準をそろえた。

ahamoに対しての強みは、通話定額の時間が10分と多いところにある。KDDIのパーソナル事業本部 パーソナル企画統括本部 副統括本部長、長谷川渡氏によると、通話定額が10分あれば、およそ9割の通話を無料でカバーできるという。オプションをつけずとも、この金額だけで済んでしまうのはコミコミプランの魅力だ。

ahamoや楽天モバイル対抗の色合いが強い

オンライン専用プランのahamoに対し、UQ mobileは日本全国に2,700もの店舗網がある。ここで料金プランの変更手続きや相談、端末の購入などができるのも、コミコミプランの強みだ。ahamoよりわずかに料金は高い一方で、音声通話を無料できる時間が長く、店舗でのサポートも受けられるというわけだ。

これで、オンライン専用プランで取りこぼしていたユーザーにも訴求できる。

対ahamoという観点だと、図右の店舗が強みになる

エリアのチカラでRakuten最強に対抗

対楽天モバイルという観点では、金額が同じだがデータ容量は少ない。楽天モバイルのRakuten最強プランでは、20GBを超えた場合の金額が3,278円になるからだ。逆に、Rakuten最強プランで20GB以下にデータ容量を抑えることができれば、料金は2,178円で済む。単純な比較だと、楽天モバイルの方がリーズナブルだ。逆に、エリアに関してはUQ mobileに軍配が上がる。

楽天モバイルは無制限で3,278円。UQ mobileの20GBより、データ容量は上だ

楽天モバイルのRakuten最強プランも、KDDIからのローミングを合算することで人口カバー率99.9%を実現しているものの、通信品質にはまだまだ差が出る可能性が高い。KDDIから借りるのは、800MHz帯のみにとどまっているため、場所によっては十分な速度が出ないおそれもある。UQ mobileは、KDDIの持つすべての周波数帯を利用でき、「多くのエリアで周波数を束ねるキャリアアグリゲーションに対応している」(執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長兼事業創造本部長 松田浩路氏)。

楽天モバイルもKDDIのローミングを利用し、人口カバー率を99.9%まで引き上げているが、通信品質やエリアは同等ではない

KDDIと楽天モバイルの新ローミング契約によってエリアは広がり、ローミングエリアでの容量制限もなくなるが、依然として品質には差があるというわけだ。

また、先に挙げた対ahamoの強みと同様、店舗網が全国に整備されている点はUQ mobileに軍配が上がる。楽天モバイルも店舗網を拡大してはいるが、コスト効率性の観点でいったん急ブレーキを踏んでいる状況だ。料金的に横並びにしつつ、自社の強みを生かしたのがUQ mobileのコミコミプランと言えるだろう。

au/UQの“足りない”プランを埋める

UQ mobileが最上位プランの中身を大きく改定した背景には、データ需要の高まりがある。

'20年との比較で、ユーザーのデータ使用量は1.8倍に増加しており、よりデータ容量の大きなプランが求められていた。これに対し、UQ mobileは現行プランでもデータ容量が25GBのLプランを用意していたものの、契約者数の割合は「全体で見ると、高くなかった」(長谷川氏)。20GBプランには、テコ入れが必要な状況だったと言えるだろう。

現行の料金プランはS/M/Lの3本立て。ただし、プランLの割合は低かったという

また、他社の場合、20GBプランはahamoやLINEMOといったオンライン専用プランに用意されているが、KDDIのpovo2.0は料金体系が既存のauやUQ mobileとはまったく異なる。トッピングで使いたいときだけデータ容量を追加するというコンセプトは斬新で、新たなユーザー層を開拓できるとは言え、既存のユーザーがそのまま移行するにはハードルが高い。ahamoやLINEMO、さらにはRakuten最強プランと直接対決できる料金プランがなかったというわけだ。

さらに、5月24日からは、MNPワンストップ方式が始まり、ユーザーが解約しようとしているキャリアから、事前にMNP予約番号を取得する必要がなくなる。これによって、ユーザーの流動性が高まることが予想されている。長谷川氏が「こういったことも意識した」というように、市場の変化にも対応した格好だ。

大きくリニューアルしたコミコミプランに対し、MやLに相当するプランは、既存の仕組みを受け継ぎ、割引を前提にした料金プランとして継続される。プランSは「ミニミニプラン」にリニューアルし、データ容量が3GBから4GBにアップ。プランMは「トクトクプラン」になり、1GB以下の場合に、1,080円の割引が適用されるようになった。ただ、どちらも「auでんき」か「auひかり」などの固定回線をセットで契約した場合の料金が、従来よりわずかに上がっている。

プランS、プランMもリニューアルし、それぞれトクトクプラン、ミニミニプランに改定する

新たに「家族セット割」が用意され、auでんきやauひかりのないユーザーでも割引を受けやすくなっているが、割引前の価格自体も上がっている。

例えば現行のくりこしプランSは割引前が1,628円、auひかりとのセットにすると3GBで990円なのに対し、ミニミニプランは割引前が2,365円、割引適用後が1,078円になっている。現行のプランより、割引前提の色合いが濃くなった。

現行のくりこしプラン +5Gは、ワイモバイル対抗で生まれたものだが、新料金プランではその路線を微修正していると言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya