レビュー

第3世代になったAirPods。音の良さと空間オーディオの楽しさ

Appleのワイヤレスイヤフォン「AirPods」が第3世代モデルとなって、10月26日から発売されました。デザインが一新されたほか、音質の向上や空間オーディオ対応、充電器の強化などが行なわれています。

コロナ禍で、オンライン会議が増えたこともあり、AirPodsのような完全ワイヤレスイヤフォンが注目を集めました。その中でも、iPhoneやApple製品との連携の簡単さや開放的な装着感からデファクトスタンダードといえるのがAirPodsです。

価格は23,800円と従来の第2世代AirPods(17,800円~)より価格はアップしていますが、その新モデルの実力はどんなものでしょうか? 1カ月ほど使ってみました。

短くなった“軸”。果たして装着性は……

AirPodsは左右がケーブルレスで独立したいわゆる完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)です。本体のほか、充電ケースが付属し、充電はこのケースを使って行ないます。バッテリー再生時間は最大6時間で、通話時間は最大4時間。ケースを使った4回のフル充電が行なえるため、音楽であれば最大30時間の再生が可能です。

第2世代のAirPodsからの違いとして、再生時間が1時間延びています。また、ケースがワイヤレス充電ができる「MagSafe」に対応したため、MagSafe対応の充電器であれば、置くだけで充電できる点も大きな違いです。AirPodsの重量は4.28g(片耳)、ケースは外形寸法54.4×46.4×21.38mm、重量37.91gです。

第3世代AirPodsの大きな特徴となるのが一新されたデザインで、軸の部分が短くなり、耳への収まりがよくなったとのこと。装着性の向上が第3世代AirPodsのアピールポイントということです。また、上位機種の「AirPods Pro」と同様の感圧センサーを装備した点も特徴です。

耐汗性能と耐水性能の両方を備えたことで、スポーツ利用にも問題なく対応可能となりました。第2世代でもランニングなどの簡単なスポーツ利用には対応していましたが、より安心して使えます。また、AirPods本体だけでなく、充電ケースもIPX4等級に対応しました。

第3世代AirPods(上)と従来のAirPods(第1世代:下)との比較

iPhoneでの利用では、ケースを開いて近づけるだけでペアリングが完了。iPhoneとペアリングしてしまえば、Macでもその設定を引き継いで利用でき、iPhoneからMacの操作を始めれば、Mac側に音を引き継ぐことができるなど、Apple製品間の連携の良さは他社製品の追随を許しません。

筆者は主にWindows PCを使ってはいますが、この便利さ故にメインマシンをMacにしたくなります。

Apple製品での初期設定がとにかくかんたん

装着性の向上がポイントということで、期待して装着してみましたが、正直に言うと、個人的にはあまりフィットせず、やや不満が残る印象です。AirPodsはイヤーピースなどがない形状のため、耳につけると滑りやすく、フィット感はないのですが、形状の工夫により「カバーされている」という触れ込みなので期待していました。しかし、筆者の場合は期待ほどではありませんでした。

第2世代AirPodsも使っていますが、個人的には特に右耳のフィット感が低めで、歩いていて落ちることがあったため主に室内で利用していました。第3世代でもあまり印象はかわらず、筆者の場合、耳に合わないのか左耳が滑りやすくなった印象です。

耳にギューッと押し込むとそれなりの密着感が得られ、部屋の中での利用では落下することはほとんどありませんが、部屋間の移動などでは注意しないと落としてしまいます。「外出時の利用には厳しい」というのが、第3世代AirPodsの装着性についての個人的な印象です。

ただし、他の人に使ってもらうと全く問題なく、「運動もOK」という人もいます(という人のほうが多い)。耳の形状など個人差があると思いますが、可能であれば購入前に一度試してほしいところです。

AirPodsの場合、専用イヤーピースなども発売され、それらを使えばフィット感は向上できるかと思います。ただし、それらを装着すると充電時に外す手間なども生じるため、できれば“買ったそのまま“で使いたいところです。個人的には、装着感については物足りなさが残ります。

機能面では、肌検出センサーを搭載しています。物体に反射した光を読み取ることで“肌”を検出するため、AirPodsが耳に装着されているのか、かばんの中やテーブルの上にあるのかを判別し、耳から外れている時は再生を一時停止します。

また、操作面での特徴が感圧センサーの搭載です。軸の部分のセンサーを一回押すとオーディオを再生/一時停止、次の曲に進むには、センサーを2度押し、1つ前に戻るにはセンサーを3回押します。シンプルながら特に曲送りはとても使いやすいです。ただし耳にフィットしていないときにはAirPods本体を落としそうになります。

音量を上げ/下げには音声アシスタントの「Siri」を利用します。「Hey Siri, 音量を上げて」のように伝えるだけなのでシンプルですが、電車の中などでは躊躇するかもしれません。もちろんiPhoneのボリュームボタンでもコントロールできます。

音質がとても良くなったAirPods

予想を超えて好印象だったのが「音質」です。バランスが良いのは従来のApple製品と共通で、クリアでしっかりとした情報量があり、どんなどんな曲を聞いても“いい感じ”で再生されます。

iPhoneで、Apple Music(ロスレス含む)やSpotifyの楽曲を中心に聞きましたが、“AirPodsとは思えない”しっかりとした低域と、くっきりとした音像が印象的です。第2世代AirPodsと聴き比べるとその差は顕著です。

従来のAirPodsはイヤーピースがないオープン型のイヤフォンらしく開放的な音が特徴となっていた一方で、これまでは「低音が弱い」というイメージでしたが、その印象が完全に払拭されています。

これは、新たに搭載したアダプティブイコライゼーションの効果と思われます。イヤフォン内に内向きに装着されたマイクが音を拾い、動的に低域と中域を調整し、密着度の変化によって失われたと予想される音を補間しているそうです。

そのため、開放的な装着感のAirPodsなのに、明瞭で力強いサウンドが鳴らされます。最初にアダプティブイコライゼーションの説明を聞いたときには、音を強調・誇張したような音になるのかと予想していましたが、クラシックでもロックでもジャズでも自然で違和感はありません。バランスよく“明瞭”というのがAirPodsのサウンドのポイントです。

他のワイヤレスイヤフォンと比べても低音の量感が凄いというわけではないのですが、低音のキレがよく、サウンドイメージのしっかり・くっきりしたした感じが、AirPodsならでは。音をダイナミックに補正するため、「原音に忠実」というピュアオーディオ的な考え方とは異なったアプローチですが、その補正が不快でも不自然でもない絶妙なバランスで行なわれており、音がしっかり“見える”という印象です。多くの人にとって好ましい音になっていると思います。

開放型のため周囲の音はそれなりに気になりますが、第2世代AirPodsと比べると特に、低音がしっかりしており、音像や輪郭がくっきりした印象。これが、アダプティブイコライザーの効果かと実感できます。

アダプティブイコライザーだけでなく、ドライバやアンプなどもAirPods用に新開発し、最適化しているとのことです。アダプティブイコライゼーションは、「Apple H1ヘッドフォンチップ」の搭載により実現しているほか、このチップにより、デバイスとのワイヤレス接続も高速化。使うデバイスの切り替えは最大2倍高速になったとのこと。第2世代AirPodsとの比較では「少し早くなったかな?」レベルですが、少しでも切り替えが早くなるのは重要なポイントです。また、Siriを声で起動できることや、ゲームでのレイテンシが最大30%低減したのも、このH1チップによるものとのことです。マイクの通話での明瞭さも向上しています、

個人的には、AirPodsの良さは圧迫感のないつけ心地で、Web会議などが続いても疲れないということころにあると考えているので、音質向上とともにマイク性能のアップは歓迎したいところです。

ソニーWF-1000XM4との比較

空間オーディオとAirPodsならではの魅力

また無印の「AirPods」では初めてDolby Atmosによる空間オーディオに対応し、Apple Musicの空間オーディオ楽曲や、Apple TV+で配信されている映画やドラマなどのDolby Atmos音声を楽しめます。ざっくりいうと3D的な広がりや奥行き、音の“場所”の具体感などに違いを感じられます。

Apple Musicでビリー・アイリッシュの「bad guy」を聞いてみると、強烈な低音を出しつつも、細やかに配置されたコーラスや効果音が曲に広がりを与えていることがわかります。空間オーディオをオフにすると強烈なベースラインが空間を埋め尽くすように広がり、クラブやライブハウス的な迫力が出てくきて、これはこれで格好いいのですが、元々の重層的なサウンド構造が単調に聞こえる印象です。次の曲「xanny」でも、空間オーディオでは、音像がクリアで楽曲の奥行き感がぐっと出てきます。

ジェイムズ・ブレイク「I’m So Blessed You’re Mine 」では、bad guyほどの全体的なサウンドは変わらないのですが、それゆえに音が鳴っている“場所”の違いがより顕著にわかります。

なお、楽曲が空間オーディオに対応していなくても、「ミュージック」アプリの設定で「ドルビーアトモス」を「常にオン」にすれば、空間オーディオ再生はできます。ただ、第3世代AirPodsやAirPods Pro、AirPods Pro Maxでは、頭の向きに応じて定位が変わり、空間の把握がしやすくなる「ダイナミックヘッドトラッキング」にも対応した点が特徴です。

iOS 15.1では、ヘッドトラッキングのON/OFFを切替できますが、この違いも興味深いものです。正面から音が出ている場合、頭を右に向けると、音が左から聴こえてきて、頭を元の位置に戻せば、また正面から聴こえてきます。つまり、スピーカーで音が鳴っている空間にいるかのような体験が、イヤフォンだけで実現できているわけです。

ON/OFFを切り替えなければ、その“凄さ”に気づかないかもしれませんが、イヤフォンで“空間”体験を実現できるとわかってしまうと、ヘッドトラッキングをOFFにすると違和感がでてきます。アップルがSpacial Audio=空間オーディオと名付けた理由もわかる気もします。Apple MusicやApple TV+で空間オーディオを楽しむためだけにも、AirPodsの価値はあると言えそうです。

また、空間オーディオでは“没入感”の向上も感じられる一方で、外の音がそれなりに聞こえるというのも面白いところです。

開放的な唯一無二のイヤフォン

音質は明らかに第2世代AirPodsより良く、音楽を聞くという一点でもアップグレード感があります。なにより開放的な装着性が魅力的で、音質とマイク性能の向上はオンライン会議などでの使いやすさもアップしていると感じます。

上位モデルのAirPods Proは、AirPodsのほぼすべての機能に加えて、ノイズキャンセルを搭載していますが、この開放感はAirPodsにしかない特徴です。一般的なカナル型(耳栓型)のイヤフォンで競合製品の多いAirPods Proに対し、開放的な装着感とサウンドはAirPodsの唯一無二といえる個性で、「開放感ある空間オーディオ」とても印象的です。

ただ、実際に耳に合うかどうかは慎重に見極めたいところ。筆者の場合は屋外や歩きながらでの利用には不安があるため、利用シーンが家・会社などに限定され、オールマイティとは言いづらいところです。結構クセというか特徴がはっきりしたイヤフォンなのに、ワイヤレスイヤフォンの代名詞的存在になっているのが、AirPodsの面白いところです。

第2世代AirPodsも16,800円で併売されますが、7千円差であれば個人的には文句なしに第3世代AirPodsを推したいと思います。ノイズキャンセルやカナル型の安心感などが必要な人はAirPods Proという選択肢もありますが、第3世代AirPodsにしかない「個性」を確実に実感できます。

臼田勤哉