レビュー

AirPods Proは完全ワイヤレスイヤフォン決定版か? NC搭載と日常重視

AirPods Pro。価格は27,800円

本日(10月30日)発売になった、アップルの「AirPods Pro」のレビューをお届けする。初代AirPodsが出てすでに3年が経過した。左右のイヤフォン間にもケーブルが無い「完全ワイヤレス型ヘッドホン」は、この3年で一気にメジャーな存在になった。

このジャンルが盛り上がることはAirPods登場前から見えていたが、各社の新製品が入り乱れるジャンルに成長したのは、間違いなくAirPodsがヒットしたためだ。アップルによれば、AirPodsは完全ワイヤレス型ヘッドホンとして販売数トップになっただけでなく、全ワイヤレスヘッドホンでトップになっているという。

そんなAirPodsの上位モデルとして登場した「AirPods Pro」(Apple Store価格27,800円)。AirPodsは優れた製品だが、欠点や向き・不向きもある。現在の市場には、AirPodsでは満足しない人向けの製品も多数現れている。

今回は、AirPods ProとAirPods、ライバルにあたるソニー「WF-1000XM3」を用意し、使い比べた。完全ワイヤレス型イヤホン市場の覇者であるアップルが打ち出す次なる製品は、どのようなものだろうか?

左がAirPods、右上がAirPods Pro、右下がソニー「WF-1000XM3」

マイク部が短くなってケースは横長に。付属ケーブルは「USB-C」

まず外観やパッケージの話からいこう。ほぼ正方形の箱、というパターンは同じである。だが、パッケージをあけると結構違う。

パッケージ。AirPodsとイメージは同じだ

AirPodsのケースと比較すると、Proのケースは縦横が入れ替わったようだ。マイク部の飛び出し量が減り、イヤーチップを使う形になったので横幅が広がり、縦に短くなった。厚みはほぼ同じ。体積自体は増えているのだが、微妙な差だ。

AirPods Proのケース。横長デザインになった。正面には電源用LEDも
左がAirPods、右がAirPods Proのケース。ちょっとAirPods Proの方が体積は増えた
両方フタをあけて持つ。横長になったので、AirPods Proの方がかなり大きく感じる
WF-1000XM3と比較。1000XM3のケースがかなり大きいので、AirPods Proは小さく見える

ケースの考え方はワイヤレス充電対応のAirPodsと変わらない。フタの下に充電状況を示すLEDがあるが、それ以外にインジケーターの類いはない。本体裏には、強制ペアリング用のボタンがある。

充電状況を示すLEDは、最新のワイヤレス充電対応AirPodsと同じくフタのすぐ下
ケースの裏。強制ペアリング用ボタンがある

充電端子もLightningで変わりない。ただし、付属のケーブルはUSB Type-AのものからUSB Type-Cのものに変わった。これで充電速度などが違うのか……とも思ったが、アップルに問い合わせたところ「そうではない」との回答。従来のUSB Type-A to Lightningのケーブルも充電に使えるし、充電時間も同じ。単に「付属するケーブルがUSB Type-Cに変わっただけ」だ。とはいえ、USB Type-Cの充電器を一切もっていない人には注意が必要だ。

本体内容物。イヤーチップとUSBケーブルは内箱の中に。この他マニュアルがある
付属のケーブルはUSB Type-C接続のLightningケーブルになった。USB Type-Aの従来のケーブルも利用可能だという

この他の付属品として「イヤーパッド」がある。この話をする前に、デザインの変更について触れた方がわかりやすい。

AirPodsは耳の穴にイヤーチップを突っ込む、いわゆる「カナル型」ではなかった。そのため非常に楽につけられて、耳への負担も軽かったのだが、一方で「人によっては落ちやすい」「外部の音が入ってくる」「大きな音で鳴らした時に音漏れがする」という特性があった。

後述するが、外部の音が聞こえることは必ずしもマイナスではない。だが、そのことによって没入感が削がれるため、音量を大きくしてごまかす人が多かったのも事実。それが音漏れの原因であり、ひいては難聴の遠因ともなる。

AirPods Proでは、イヤーチップを耳の穴へと入れる「カナル型」に近い構造になり、その結果として落ちづらくもなった。イヤーチップによって耳の穴をふさぐため、外音も聞こえづらくなるし音漏れも小さくなった。そして、ノイズキャンセル機能(NC)を内蔵することで、従来のAirPodsよりもかなり没入感が増している。

同じような構造を採用しているのが、ソニーの「WF-1000XM3」(直販価格25,880円)だ。他にもカナル型構造を採用して没入性を高めている製品はあるものの、NCも採用している製品は少ない。そのことから一躍ヒット商品になったわけだが、価格的にも両者は近く、比較が気になっている人もいるだろう。

AirPods Proの本体。耳に入れる部分にイヤーチップが採用された。
左がAirPods、右がAirPods Pro。マイク部の長さが変わり、イヤーチップ化した結果、デザインはかなり印象が違う
左がAirPods Pro、右がWF-1000XM3。同じNC対応でイヤーチップ採用でも、イヤーチップの構造が違うため、デザインは大きく異なる

話をAirPods Proに戻そう。

カナル型を採用したことでイヤーチップは必須になった。そこで、本製品にはS・M・L種類のイヤーチップが付属する。最初からついているのはMのイヤーチップで、ほとんどの人はこれで大丈夫だろう。気になる人は適宜付け替えていただければいい。

イヤーチップ。右からS・M・L。Mが最初からついている
SとLのイヤーチップはこのようにホルダーに付けられてパッケージに収納されている

一般的にイヤーチップは「穴があいた軸にイヤーチップの穴を差し込む」ような構造をしている。カナル型ヘッドホンは基本的に、「音導管」を耳の奥へと導く形になっているからだ。

だが、AirPods Proはそうではなく、スピーカーユニットをカバーする部分がイヤーチップのすぐ後ろに来る。そのため、カバーユニットと本体のハウジングの間にイヤーチップを挟むような構造になっている。

文章で読むと付け外しが難しそうに思えるが、そんなことはない。引っ張るだけで簡単に外れる。一方、意思をもって引っ張らない限り外れないような構造でもあるので、使っている最中に簡単に外れることはないだろう。

イヤーチップは指で引っ張ると外れる。カバーユニットと本体のハウジングに挟むような構造で、付けるのも簡単。だが、外すにはそれなりの力が必要だ

耳から「落ちない」という特徴。耳への圧迫感は小さい

装着感はどうだろう。

AirPodsは「耳にのせるだけ」のような感じで軽かったが、さすがにAirPods Proはもう少し「耳の中に入れる」努力が必要になる。かといって、WF-1000XM3のように「まっすぐ耳の穴に入れる」感じでもなく、ちょっとねじって耳に入れるような感触だ。なので、最初は装着に手間取るかもしれないが、すぐに慣れるはずだ。

外観を比べると、耳からの飛び出し量はAirPodsよりかなり小さくなる。それでも、特徴的な「耳から出るマイク」の形状は変わっていない。より“おとなしくなった”という感じだろうか。WF-1000XM3はケースが大きい分本体も大きく、いかにも耳を覆って目立ちそうに思うが、耳のくぼみにぴったりと収まるため、飛び出し量は意外と小さい。

左から、AirPods・AirPods Pro・WF-1000XM3。AirPodsとAirPods Proは似た印象だが、マイク部の飛び出し量は減った

では「付け心地」はどうか?

正直WF-1000XM3は、耳の穴への負担を感じる。AirPods Proよりも奥までいれるためだろう。

それに対してAirPods Proは、AirPodsに比べると「入れている」感があるのは否めないが、WF-1000XM3よりは耳への負担が軽い。このことは音質傾向にも影響しているのだが、そのあたりは後で述べよう。

AirPods Proの改善点は、なにより「耳から落ちづらい」ことだ。正確には「落ちそうという不安が小さい」というべきか。AirPodsと比べると“安心感”がある。その安心感はイヤーチップが生み出しているので、なおさらイヤーチップの選び方が重要になってくる。

こうした特別な構造であるため、現状では、他のイヤホンのように、サードパーティー製のイヤーチップで音の違いを楽しむ……といった遊びはできない。AirPods Proがたくさん売れれば、そうしたものを作るメーカーが出てくるかもしれない。

iOS/iPadOSに特化したセッティング、「イヤーチップ装着状態テスト」は優秀

ここでセットアップの話をしておこう。

AirPodsはセットアップが簡単なことで知られている。ケースをiPhoneやiPadの前で開いて、画面に現れる「接続」ボタンを押せば終了である。AirPods Proもプロセスはまったく同じでとても簡単なのだが、ちょっとしたチュートリアルが表示されるようになった。UIが変更になっているためだ。

AirPods ProのセットアップもAirPods同様簡単。UIのチュートリアルが表示されるようになった

ただし、セットアップにはiOS 13.2もしくはiPadOS 13.2へのアップデートが必要だ。それは先にやっておこう。

さて、セットアップが終わったら、まず「設定」の「Bluetooth」に移動して、AirPods Proの詳細設定を見ていただきたい。

この中の「イヤーチップ装着状態テスト」を選ぶ。すると、耳にちゃんとイヤーチップがはいり、理想的にNCが効く状況になっているかを、iPhoneが自己診断してくれる。

これは、耳の内側への反響を聞き取ってノイズキャンセルに使うマイクを活用したものだ。耳への入りが浅かったり、イヤーチップの大きさが合っていなかったりすると、画面のように警告が出る。付け方を工夫したり、イヤーチップのサイズをひとつ大きなものにしたりしてみよう。

Bluetoothの設定-AirPods Pro-詳細設定の中に「イヤーチップ装着状態テスト」がある。ぜひこれを試していただきたい
AirPods Proをつけ、「イヤーチップ装着状態テスト」をすると音楽が流れる。この時の耳の中の反響状態から、ちゃんとつけられているかどうかを教えてくれる

こういうことがOS上で出来るのは、ハードとOSを一緒に作っているメーカーならではの部分、といえそうだ。一方で、この「イヤーチップ装着状態テスト」は、セットアップの最後に自動的にやってくれたら親切だったのに……と思わないでもない。

AirPodsは「耳につけているイヤホンをタップする」ことで曲送りなどの操作を行なう。それに対してAirPods Proは、伸びているマイク部に小さな物理スイッチが埋め込まれているので、それを「押す」ことで操作する。軽いクリック感があるので、使ってみればすぐにわかる。短く押すと曲の停止や曲送りなどができて、長押しすると、後述する「外部音取り込み」などの切り替えができる。

なお、AirPods ProはAirPodsと同様、アップルは動作保証していないものの、ケース裏のボタンを押してペアリングすることで、AndroidやWindows PCでも利用できる。Android 10が動作しているPixel 4で確認すると、「AACコーデック」で接続しているのが確認できた。

Androidでも接続は可能。その際の利用コーデックはAACになる

ただし、やはりこれもAirPodsの時と同じなのだが、AirPods Proの細かな動作設定やファームウェアのアップデートは、iOS・iPadOSからでないと行なえない。前出の「イヤーチップ装着状態テスト」も、iOS 13.2以降・iPadOS 13.2以降でのみ可能だ。

WF-1000XM3に競り合うAirPods Pro、没入感重視かカジュアルさ重視か

さて、音質チェックだ。

ノイズキャンセル(NC)の効果はなかなかいい。電車の走行音や屋外の雑踏の音が、けっこうきれいにとれてくれる。AirPodsと比べると、当然まったく違う感覚だ。

では、「クラス最高NC性能」を謳うWF-1000XM3と比べるとどうか?

聞き比べてみると、AirPods ProはNC性能でWF-1000XM3に一歩劣るようだ。特に、水が流れるような高い音が、AirPods Proは消し切れていない。耳の密閉度もWF-1000XM3の方が高い印象だ。

ただ、AirPods Proで大きな不満があるか、というとそうではない。むしろ別の美点がある、というのが筆者の感触だ。

すでに説明したように、WF-1000XM3は耳の奥にスッとイヤーチップを入れるため、密閉度が高くその分、NC性能と没入感が高くなっている。だが、耳への圧迫は感じやすい。それに対し、AirPods Proは耳への圧迫感が小さい。

面白いことに、音楽を流さずNCだけをかけた時の「耳への圧迫感」では、AirPods Proの方が上だ。なのに、ちょっと長くつけた時の負担は、WF-1000XM3の方が大きく感じる。これは、作り方のポリシーの違い、といってもいいだろう。

純粋な音質はどうか?

これも筆者はWF-1000XM3に軍配を上げる。ではAirPods Proは悪いか、というとこれもそうではない。AirPodsに比べると低音を中心に改善が著しく、非常に聞きやすい音だ。

面白いのは、WF-1000XM3の音質の良さは「DSEE HX」の賜物ではないか、と思える結果が得られたことだ。DSEE HXは、音源の圧縮時に失われた部分を補完する技術。これがあるのでなめらかで自然な音に感じる。この機能をオフにしてみると、筆者の耳には、AirPods Proの方が良い音に聞こえる。

より耳を密閉し、NCを効かせ、没入感を重視した製品作りがなされているがゆえに、比較すると「WF-1000XM3の音質が良い」と感じるのだが、長時間使うならどちらか……と言われると、AirPods Proを採る。

なお、音漏れについては、AirPods Proも「最高音量」にすれば“ある”。耳孔への圧力を低下させるために空気穴が空いているためだ。だが、音量を7割にすれば音が漏れてくるAirPodsよりはずっと小さい。よほどの大音量で常用する人以外はあまり気にしなくていい。この点も、AirPodsからの改善点といえる。

「外部音取り込み」の自然さから感じる「日常重視」の設計思想

アップルが「日常的につけていられるヘッドホン」を目指したであろうことは、別の要素からも感じられる。

AirPods Proをつけてみていきなり、筆者は「これはちょっと変わったヘッドホンだな」と思った。片耳だけつけた時はNCの効果を感じず、両耳つけた時に初めてNCの効果を感じたからだ。実はここにユニークさが隠れていた。

AirPods Proには、NCに使う外音ノイズ収集用のマイクを使い、「外部音をとりこんで聞こえるようにする」機能がある。AirPodsが完全に音を遮断していなかったのは、周囲の音も聞こえるようにして、安全に配慮するためだった、と聞いたことがある。それと同じように、外部音取り込み機能を使って周囲の音を自然に聞かせて、安全性や快適さを確保しようとしているのだ。

さきほど筆者が「片方だけつけた時に変な感じがした」のは、この「外部音取り込み機能」の結果だ。実はAirPods Proは、片方だけ外した時には、自動的に「外部音取り込みモード」になる。片方はイヤホンがないので自然の音、もう片方は「外部音取り込みモード」の音だったのである。だが、それとはすぐには気付かない。音が取り込まれて聞こえるまでの遅延がほとんどなく、音量も自然だからだ。筆者が面白いと感じたのは、両耳にイヤホンを付けると、自動的に「NCモード」に変わるためだったのである。

外部の音を取り込む機能は、ソニーのWF-1000XM3にもある。というより、ソニーは外部音取り込み機能では他社の先を走っており、2年前から製品実装を進めていた。スマホアプリと連動し、「歩く」「電車内」などの行動を分析し、それに合わせた外部音取り込みとノイズキャンセルの最適化を行なっている。

アップルはAirPods Proで、そこまで細かいことはしていない。しかし、取り込まれる音の自然さではソニーの上を行く。WF-1000XM3ではどこか「マイクで取り込んでいるな」という感触があるのだが、AirPods Proはより違和感が少ない。これは、「自然に音楽を生活の中で聴く」にはとても大きな要素だ。

また、音楽が耳に聞こえるまでの遅延も非常に小さい。試用時間が限られていたので遅延の測定には至らなかったが、こと「iPhone同士で使う場合」なら、AirPods ProとWF-1000XM3では、AirPods Proの方が遅延は小さい。これはゲームをやる人には重要なことだろう。なお、Android上でWF-1000XM3を使った時はコーデックが変わるためか、AirPods Proとの差はより小さくなったように思う。

接続性についても、短い時間だったのでなかなか確定的なことはいえない。Bluetoothでの接続性は、わりと偶然に左右されやすいためだ。WF-1000XM3は「Bluetooth接続を改善した」とされているが、それでもそこそこ音切れが目立つ。特に「高音質」モードではそうだ。一般論として、AirPodsはWF-1000XM3よりも接続性がいい。数時間の利用では、AirPods Proも、同じ傾向だと感じた。

さて、結論だ。

音楽の楽しみ方はいろいろある。音をとにかく追求することもあるだろうし、気軽に使いたい、という考え方もあるだろう。

AirPods Proは、音質と気軽さを、かなり高いレベルで両立している。WF-1000XM3の方が音への没入性では勝るが、AirPods Proの快適さを選ぶ人がいてもおかしくない。ケースのサイズなどもポイントかもしれない。

一方、AirPods Proはやはり「アップル製品と組み合わせることを前提とした製品」である。セットアップもiOSに特化しているし、音声アシスタントである「Siri」連携も魅力だ。iOS 13からは「着信メッセージの読み上げ」もできるようになった。今後、さらに機能追加されていくことだろう。

だが、世の中アップル製品を使っている人だけではない。Android上で使う、複数のOSで使うなら、他の製品の方がいい部分もある。

アップルから見れば、AirPods Proのようなヘッドホンの存在もiPhoneやiPadを使う魅力のひとつだ。それはその通りだと思う。AirPods Proは、AirPods以上にアップル製品との連携を突き詰めていこうとしているように思える。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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