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米国は遠隔医療が「7割」 コロナ禍で急進する医療DX

フィットビットは、同社が関わる医療や研究分野などについての最新情報を発信するオンラインイベント「Fitbit Wellness Day Tokyo 2021」を開催した。その中で、「ポストコロナのヘルスケアイノベーション」と題し、コロナ禍での米国医療の変化とDX、日本での課題などについて、スタンフォード大学 日本版バイオデザインプログラム ディレクターの池野文昭氏が講演した。

日本人は、マスクをすることに抵抗がなく、1918年~1920年に世界で猛威を振るった「スペイン風邪」でも、マスク姿で仕事をする人の写真が残っている。

対して米国では、11月に入ってからも1日で平均1,200人ほどの死者が出ているのにもかかわらず、マスクをしていない人が大勢いるという。これは日米での決定的な違いで、結果としてマスクをすることに抵抗がない日本では同時期の平均死亡者は8名で、ゼロの日もある。人口の多い先進国では極めて低い水準といえ驚異的な結果だとした。

しかし、逆の視点もあるとし、米国はコロナ禍で苦しんだことにより、医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)が飛躍的に進み、今や医療のDX化は米国が最も進んでいるという。

米国では、ほぼ全米でロックダウンが行なわれ、20時以降に出歩けば、職質され、最悪逮捕されるという状況が続いていた。そんな状況で「非接触ビジネス」全般が大きく市場を広げた。AmazonやUber Eatsなどによる日常生活を支えるサービスは勿論、医療では、バーチャルケア、デジタルヘルスアプリの利用が急増。非接触でどうやって日常を維持するかが真剣に検討され、積極的にテクノロジーが投入された結果だという。

米国の患者にとってデジタルヘルスは「必須」なものになったが、コロナのダメージが少ない日本では、皮肉なことに依然としてデジタルヘルスは「あったらいいな」というレベルに留まっている。

米国では7割近くが遠隔診療

米国でも、遠隔診療の普及率は、コロナ直前まで1%程度で、日本と同等だった。しかし、5G環境の普及など、遠隔診療が普及するための下準備は進んでいた、

これが、パンデミック発生により、診療報酬が見直され、公的保険が遠隔診療に保険を付けたことから、急速に拡大することになった。現在では診療の6割から7割が遠隔診療メインで、もう元には戻らないと言われているという。

米国では遠隔診療はすでに「必須」な位置づけで、医療アプリのダウンロードも急増。コロナ前に比べて遠隔医療アプリのダウンロード数はコロナ禍以前に比べて4,000%増加した。

病院のバーチャル化も進んでいる。2015年には、遠隔医療専門の病院「Mercy Virtual」が設立。4階建の125,000ft2の施設内には遠隔医療の開発や提供を行なう設備だけが入っており、入院患者用の病室などは無い。また、遠隔医療を実現するための機器を開発しているスタートアップ企業「Medically Home」は、米国の主要な医療機関の支援を受け、機材を提供しているという。

1924年に公開された未来の遠隔診療想像図
遠隔医療専門の病院「Mercy Virtual」
遠隔医療機器を開発しているスタートアップ「Medically Home」

手術や薬以外の治療方法として、デジタルによる治療方法も注目されている。心臓疾患など器質的疾患には対応できないが、精神疾患などは医療用アプリなどと相性がよく、デジタル治療の取り組みも行なわれている。

新たな医療機材やテクノロジーを認可するには実際に患者に試してもらう「治験」が必須だが、コロナ禍では実際に来院してもらって治験を行なうのは難しい。これもバーチャル治験の試みが行なわれている。家庭や会社など、病院施設以外の場所でモニタリングが可能な仕組みを作ることで、病院に行かずとも医療機器に身体データを送ることが出来るもので、これにより従来よりも医療コスト、開発コストが下がることが確認されている。

バーチャル治療の仕組みとして、フィットビットをはじめとしたフィットネスウォッチなどのデータも活用する。

日本に米国式の医療DXは無理?

しかし、日本では事情が異なるという。米国では医療保険に入っている人でも、医療費が払えず自己破産する人が相次いでいる。自己破産の理由ナンバーワンは医療費が払えないことだそうだ。

米国では元々医療保険が高いことから、遠隔医療が流行っているのだという。遠隔医療は対面の医療よりも医療費が安く、医療保険も医療費はなるべく使って貰いたくない。そうした事情から、遠隔医療が促進されている背景がある。

対して、医療費で自己破産する人は日本ではまずいない。国民皆保険で、対面の医療費がそもそもそれほど高くは無い日本では、そうした理由では流行らないのではないかと池野氏は分析する。

しかし、日本では別の事情から、やはり遠隔医療のニーズがあるという。それは、先進国でトップクラスの高齢化だ。

日本は2060年には高齢者の割合が38.1%と、世界で最も高齢者の多い国になることが予測されている。そうした背景をうけ、日本は「健康立国宣言」を行なっており、国として「人生100年時代」を掲げ、100歳まで国民が生きる社会を前提に国造りを行なおうとしている。こうした目標を掲げているのは日本だけだという。

コロナ禍において、日本でも長期にわたる自粛や医療崩壊に近い状態も発生した。経済も悪化し、医療は安全保障の一環としても注目され始めている。

国民の多くが長寿となった現代では、病気になる前のウェルネス、未病の状態が重要だとし、健康寿命をなるべく長く保つことが大切だという。

そうした事態を乗り切るには、予防医療が重要で、いかに健康を保つか、が課題になってくる。健康状態を保つには、適正な食事や運動が重要だが、食欲の制限や日常的な運動は、根本的な欲望との戦いでもある。全ての人が持続的にそうしたことを続けるのは難しい。

そこで、フィットネスウォッチなどのウェアラブル機器が重要になるという。シンプルでわかりやすく誰でも使うことができ、そうしたデータを活用することで未病状態を保つことに役立てることが可能になる。個人個人が健康になることで、国全体を健康な状態にする。

最後に池野氏は、「ポストコロナでは、『ヘルスケアのDX』は死語。DXはヘルスケアのデフォルトになり、常態化する」とし、医療のデジタル化は当たり前になると語った。