西田宗千佳のイマトミライ

第240回

マイクロソフト4400億円の投資に見る「経済安全保障」

マイクロソフトの巨額投資発表は、岸田文雄首相のアメリカ訪問にあわせて発表されたもの

4月9日、米マイクロソフトは、今後2年間で日本に対し29億ドル(約4,400億円)の巨額な投資を行なうと発表した。

この投資は日本におけるAIインフラとハイパースケール・クラウドコンピューティング基盤の増強を目的としたもの。マイクロソフトにおける日本の営業活動の中でも過去最大のものとなる。

この投資は、岸田文雄首相のアメリカ訪問にあわせて発表されたものだが、同様の「岸田首相・渡米合わせ」の案件は他にもあった。

これはどういう意味を持っているのだろうか? 今回は国際間投資と政治の関係について少し考えてみよう。

AIインフラと研究で4400億円以上を日本に投資

マイクロソフトの投資は、簡単に言えば日本に生成AIを中心とした高性能クラウド基盤を整備するためのものだ。さらに今回マイクロソフトは、クラウド基盤への投資に加え、マイクロソフトの出資する研究機関であるMicrosoft Researchのアジアブランチの1つとして、新たに東京に「Microsoft Research Asia lab」を設立する。同研究所では、ロボットやAIなどを介した「社会経済経済的課題の解決」にフォーカスするという。

それに合わせ、今後5年間で東京大学・慶應義塾大学・カーネギーメロン大学のAI研究パートナーシップに対し、それぞれ約15億円(1000万米ドル)を提供する。

クラウド基盤整備に加えて研究開発基盤にも巨額投資をするわけで、マイクロソフトとしては大盤振る舞いと言っていい。

クラウドインフラを提供する事業者にとっては、生成AIを軸としたインフラの整備は急務。その際、各国の法制度を考えると、サーバーは他国でなく現地にあるのが望ましい。だとするならば、インフラを各地に整備していくのは必然と言える。

ただ、そこでどれだけ大きな額の投資を行なうかは、それぞれの企業にとって判断が分かれるところだ。マイクロソフトにとって日本は重要な国だが、ここまでの巨額投資がすんなり決まったことには少々驚きもある。

Googleも同タイミングで海底ケーブルへの投資を発表

同じタイミングで巨額投資を発表したのはマイクロソフトだけではない。

Googleは、日本に接続する海底ケーブルの拡張に10億ドル(約1,500億円)を投じると発表した。敷設にはKDDI、アルテリア・ネットワークス、CITADEL Pacific、北マリアナ諸島自治連邦区(CNMI)が協力体制を敷き、複数の太平洋諸国の回線規模拡大を目指す。

昨今の海底ケーブル敷設には、大手IT事業者が積極的に関与している。過去にFacebook(現Meta)の回線敷設投資に関する取材記事を書いているが、今回のGoogleの取り組みも同種のものであり、Amazonも投資をしている。こうした事業ではNTT・KDDI・ソフトバンクなどの通信会社ももちろん関わり、NECや三菱商事などの国内企業もビジネスとして参加している。

巨額同士の裏に見える「経済安全保障」と「相互依存」

マイクロソフトの巨額投資や海底ケーブル事業は、国際的で大規模な事業だけに、投資額も大きい。当然、各国政府の思惑も影響してくる。

特に現在重要になってきているのは、安全保障上の関係強化だ。

米中関係の悪化は、日本にとっても重要な案件である。真面目なところ、戦争がなく「世界がおおむね平和で物流が滞らない状況」であることが望ましい。

ただ、状況が良いわけではない。コロナ禍のようなパンデミックから得られた知見もある。

クラウドインフラにしろ通信回線にしろ、そして半導体の調達にしろ、十分で安定的な量を確保し、さらに各国の関係を安定させるためには、相互に投資を加速する必要が出てくる。

ご存知のように、日本は熊本に巨額の投資を行ないTSMCの誘致を行なった。

TSMCの熊本への誘致は、日本企業が必要とする半導体の安定調達という側面が大きい。一方でこのことは、単に日本企業のためだけではない。

ソニーセミコンダクタソリューションズのイメージセンサーの安定調達は、ソニーの業績に直接的な影響を与える。それと同時に、ソニーのイメージセンサーを大量調達する企業の生産安定にもつながる。要はアップルにとってもプラスなわけだ。

アップルはもちろんアメリカ企業。熊本への投資は現地や日本企業のみならず、アメリカの利益にもつながっていることになる。

この種の安定供給に関わる戦略は「経済安全保障」と呼ばれるわけだが、生産安定の投資自体が国同士の関係を強化することにもつながる。

この視点で見れば、マイクロソフトやGoogleの投資も経済安全保障の一環と見做せる。彼ら自身が投資価値を認めているのは間違いないと同時に、アメリカ政府からの意向を受ける形で計画が進んだと想像できる。

日本としては、半導体製造に関する連携だけでなく、NTTがインテルなどとも協力して進める「IOWN」も売り込んでいきたいところだろう。

日本に投資を促したい日本政府と、日本との関係強化を願いつつ自国企業の業績拡大を求めるアメリカ政府、そして政府と様々な部分で綱引きを続けている大手IT企業との間で相互依存する関係が、こうした状況を生み出しているのである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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