トピック

0.5ペタ・海底ケーブル・敷設ロボ・街のメッシュ化。 Facebookの高速ネット技術

Facebookは「Inside the Lab」と題し、同社の研究開発についてメディア向けに解説するイベントを行なった。今回のテーマは「接続」だ。

インターネットがなければFacebookも存在し得ない。そのため同社内では、インフラ事業者などと協力して、ネットインフラを整備するための技術開発が進められている。それぞれはFacebookに直接利益をもたらす事業でも、技術開発でもない。しかし、そこに積極的に協力することが、同社にとって基盤となる「快適にインターネットを利用できる人口を増やす」からだ。

今回は、大陸を結ぶ海底ケーブルから光ファイバーの敷設、無線でのラストワンマイルに至るまで、さまざまな技術が解説された。特にラストワンマイル技術である「Terragraph」については、担当者への単独インタビューの形で詳しく聞くこともできた。

それら技術の概要について解説していこう。

Facebook Connectivity

NECと組んで0.5「P」bpsの海底ケーブルを敷設

「人々は、生活や仕事のほとんどの面で、我々が提供するようなインターネットサービスに依存しています。昨日は、家族からのメッセージを受信できなかった人や、1日分の仕事を失った中小企業の経営者など、多くの方々の声を聞きました。私たちのダウンタイムによって影響を受けた皆様には、大変申し訳なく思っています。そして、私たちが今日ここで話したかった仕事の重要性を再認識することができました」

FacebookのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)であるマイク・シュローファー氏は、記者向け説明セッションの冒頭でそう陳謝した。

FacebookのCTOであるマイク・シュローファー氏

10月5日、Facebookは長時間に渡り、同社の幅広いサービスで大規模な障害を起こした。そのため、サービスや連携機器にアクセスできない人が出て大きな影響を与えた。偶然とはいえ、安定的なサービスと回線の存在が重要である、ということを示す結果となってしまった。

では、その根幹である基幹ネットワークからいこう。

インターネットで国同士を結ぶには回線がいる。衛星も重要ではあるが、それだけで圧倒的な需要を満たすことは不可能。だから、大陸と大陸を結ぶ経路については、海の底を通る「海底ケーブル」に頼る必要がある。

その海底ケーブルには現状、2つの課題がある、とFacebookは指摘する。

一つめが帯域の確保だ。

光ファイバーを何本か束ねた形で使うが、現状では2本から8本のパス(1パスは2心のケーブルで構成)を束ねる場合が多いという。最大でも16本だった。当然本数が多いほど有利になるが、太く・重くなるとそれだけ敷設コストは大きなものになり、経済合理性が問題になってくる。

そこでFacebookが注目したのが、新しい素材を使い、より軽く細い光ファイバーを作ることだ。これを使うことで、24本(48心)のケーブルを海底に敷設できるようになった。転送できるデータ量は0.5「ペタ」bps。すなわち約500Tbps=500万Gbpsという膨大なものになる。

このケーブルを使い、Facebookはヨーロッパとアメリカを結ぶ超大容量光海底ケーブルシステムを構築する。計画・運用を行なうのはFacebookで、ケーブル敷設工事を行なうのはNECだ。この案件は、NECとしても初の北大西洋横断ケーブルであり、前述のケーブル製造も、NECの子会社であるOCCが担当している。日本とも無関係ではないのだ。

だがFacebook側は「これだけの容量でも十分でないことがわかっている」と話す。トラフィック増大の勢いはさらに強くなっており、その対策は必須だ。

太平洋向けには複数社でコンソーシアムを作り、全体的な容量を70%増加させることを目指している。それ以外にも、世界中で30社以上とパートナーシップを締結、15万キロメートル以上の海底ケーブルに投資しているという。

結果としてさらにケーブルの敷設が続くわけだが、そこでは「Atlantis」という予測モデルが使われるのだという。

Atlantisは、地域のネット傾向・過去の故障率・修理対応時間など、さまざまなデータを調べて、海底ケーブルルートを設定する。そこでは、海底火山や地滑りなどの地質学的課題はもちろん、「ケーブル障害の3分の2を占める」(Facebook担当者)という釣りや投錨による破損についても調査し、検討するという。

「Atlantis」予測モデル解説

海底ケーブルについてのもう一つの技術は「電源供給」だ。

ケーブルを長くすれば、その距離に応じて通信品質は劣化する。それを回避するためには、一定間隔で信号を整え直す中継器を配置して対処することになる。

現状、海底ケーブルの場合には約80キロメートルごとに中継器を配置しているそうなのだが、実は海底ケーブルの容量は、この中継器群に供給可能な電力の量でも決まってしまうのだという。なぜなら、その電力もまた、光ファイバー同様に地上につなぎ、そこから供給を受ける必要があるからだ。

そこで開発したのが、海上に浮かぶ「ブイ」に発電能力を持たせる、という技術だ。波浪発電と太陽光発電を組み合わせて、1つのブイで最大25キロワットの電力を継続的に生成し、海中のさまざまな場所にある2本の海底ケーブルに供給するという。

海上に浮かぶブイによって電力を供給し、中継器の数を減らして海底ケーブル敷設の難易度を下げる開発も行なわれている

ロボットで光ファイバーを敷設する「Bombyx」

大陸同士が広帯域ネットワークでつながったとしても、それだけではダメだ。

日本やアメリカなどはすでに様々な場所にネットワーク網が構築されており、自宅まで回線をつなぐのも難しくはない。だが、アフリカ諸国をはじめとした新興国は、インフラ整備の面でまだまだ課題が大きい。新たな設備を多数用意していくのは、現実問題としてコスト的に厳しい。

そのため、いろいろな企業で「高高度プラットフォーム(HAPS)」や「低軌道衛星(LEO)コンステレーション」などを使ったインフラ整備技術の開発が進められている。Facebookもこれらは有望と考えている。HAPSについては直接的な検討が行なわれていないものの、LEOコンステレーションについてはパートナーと共に状況を精査している段階だそうだ。

さらに、もっと近いエリアで現実的な路線も進めている。

結局のところ、インターネット向けの回線構築を進める場合、光ファイバーによって有線網を整備するのが近道で安定している。ただし、光ファイバーのために電柱を立てたり坑道を整備するのは大変だ。安定した形で簡単に光ファイバーを敷設するには、既存の電力網が使う電線と電柱に相乗りする形が現実的だ。

そこで課題となるのがやはり「工事」。電力線に影響を与えないように敷設すると、光ファイバー網の工事自体の規模が大きくなっていく。Facebookによれば、1mあたり数十ドルから数百ドルの工事コストがかかっているという。

ここに一つ解決策がある。電力ケーブルの周りに別のケーブルを巻き付けていく「ヘリカルラップ」というアイデアだ。これは1980年代に発明されたもので、電力ケーブルに巻き付けていくことで、安定性と工事コストの低減を同時に実現できる。

ただ、今は課題があってあまり使われていない。電源ケーブルに巻き付ける工事を行なう際は、事故防止のために送電を止めなければいけないからだ。また、結局工事担当者が電柱ごとに動きながら作業をする必要があり、手間がそこまで軽減されるわけでもない。また、高温になる送電線から光ファイバーを守る必要もある。

ヘリカルラップを人手で行なう場合、かなりの労力と負担が必要になる

そこでFacebookが考えたのが「ロボットにヘリカルラップでのケーブル敷設をやらせる」という方法だ。

Facebookが開発中のケーブル敷設ロボット「Bobmyx」

同社が開発中のロボットは「Bombyx」と名付けられている。Bombyxは完全自律型で、送電を止めなくてもいいように配慮しつつ、前に進みながら電線にケーブルを巻き付ける。電柱などを乗り越えなければいけない場合にも、自分で適切に動いて乗り越える。曲線の上で動くため、Bombyxの制御はとても大変だ。Bombyxには8つファンがスラスターとして働いているという。

Bombyxによるケーブル敷設の様子

ヘリカルラップでは「ケーブルを巻き付ける」動作の際、回転する必要が出てくる。その際、従来は反対側に重り(カウンターウエイト)を配置してバランスを取っていたため、どうしても機器が大きくなってしまった。これは、狭いところなどに敷設を進めるには障害となった。Bombyxでは形状をネックピローのような馬蹄状にすることで、カウンターウエイトを張り出させる必要をなくし、小型化に成功している。結果として、狭いところでの敷設も可能になった。

課題だったケーブルも、プラスチックの専門家と協力し、特殊な皮膜材を開発して対応し、熱や高周波の問題に対処したという。芯数も減らし、重量も減らしている。

確かにこれなら、工事に関わる人員は最低限で済むだろう。Facebookによれば、Bombyx1台で1日平均1.5~2km分の光ファイバーを敷設できて、コストは1m当たり2、3ドルにまで圧縮できるという。計算上は最低でも10分の1になるわけだ。

ただし、現状Bombyxは開発段階にあり、まだ活用されていない。電力会社などとともに、さらなる実証実験が進められていくという。

Facebookのラストワンマイル無線「Terragraph」とは

これで、各地域まで光ファイバーでネットワークがやってきた。残るは各戸への引き込み、いわゆる「ラストワンマイル」問題だ。

現在のところ、各戸への引き込みには光ファイバーなどを使う場合が多い。だがここでも、結局課題となるのは「工事」だ。引き込み工事には時間もコストもかかる。

また、ネット需要が増大したコロナ禍においては、ブロードバンド普及初期に設備が作られたマンションなどで、「屋内の回線がVDSLなどの古い技術であるために遅くなる」などの課題も出てきた。

光回線の引き込みは今後も続くだろうが、様々な事情に対応するには、高速な無線通信によるラストワンマイル技術が必要になる。

そこでFacebookが開発したのが「Terragraph」だ。

この技術を担当するFacebook・エンジニアリング担当バイスプレジデントのYael Maguire氏は、「この技術の重要な点は、免許が不要な『アンライセンスバンド』を使うものだ、ということ」と話す。

Facebook・エンジニアリング担当バイスプレジデントのYael Maguire氏

アンライセンスバンドの代表は、我々が日常で使っているWi-Fi。2.4GHzや5GHzを使っている。機器開発の自由度が高く、コスト的に安くなるのが最大の特徴だ。

「全世界でも、光ファイバーにつながっている家は17%だけです。アメリカや日本はとてもとても進んだ環境と言えます。アフリカやアジアの一部の発展途上国では、光ファイバーの敷設率は4%程度です。区画整理や許認可、交通機関の混乱などの理由で、ファイバーを敷設するのは非常に困難です」

Maguire氏はそう説明する。

Terragraphは60GHz帯を使う技術で、「IEEE 802.11ay」に準拠している。速度は最高で10Gbpsと高速だ。ただし、通信距離は数百メートルまでなので、携帯電話ネットワークのように使えるわけではない。

だが、街角にアンテナを設置していくことで相互に繋がったメッシュネットワークを構築し、街全体に高速インターネットを提供するために利用できる。

「Terragraphが優れている点は、状況の変化に対応しやすいことです。工事などの関係で1つのノードが使えなくなったとしても、それを即座に把握し、別のノード同士がつながります。今後VRなどで低遅延が重要になることはわかっているので、ノード同士が低遅延につながり、網としては遅延の小さな状態を維持します」とMaguire氏はいう。

Terragraphの動作イメージ動画。一箇所が使えなくなっても、別のルートを自動的に検索してメッシュネットワークを作る

Terragraphは2019年にFacebookのお膝元である米カリフォルニア州メンローパークで実証実験が行なわれたのち、オーストラリアのパースなどで既に実際にサービスとして利用されている。日本にもサービス化に取り組んでいる企業はあるようだ。

こうした技術は、ライセンスバンドを使う、携帯電話事業者などによる「5Gでのラストワンマイル整備」と競合し、ぶつかり合うようにも思える。

だがMaguire氏は「現状双方が必要で、どの技術も補完し合って使われるのが望ましい」と話す。

「Wi-Fiのような技術はお金がかからず、家の中で自由に使えるのがメリットです。でも、家やカフェを出たらWi-Fiは使えない。ライセンスバンド、すなわち携帯電話ネットワークには『どこでも使える』という利点があります。そして、カフェや自宅に高速な回線を低コストに引き込むには、5Gのラストワンマイル技術も、Terragraphも役に立ちます。ただ、パースでTerragraphを使ってISPを事業化している『Penta』は、全くの新しい事業者です。彼らのような事業者が帯域ライセンスを得ることなく事業を始められたのは、大きな成果だと考えています」(Maguire氏)

また、日本での実用性についてもこう補足する。

「このプロジェクトは2015年に始まったのですが、まず出てきたユースケースの1つは、アパートです。日本やアジアの他の地域でも有用です。光ファイバーなどの技術を建物内に敷設するための権利を得るのが困難な場合があるからです。将来的には、日本でもTerragraphのような技術を使えるようになることを期待しています」(Maguire氏)