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Adobeの新ドロー&ペイントアプリ「Fresco」。iPadでリアルな水彩油彩

アドビ システムズは、開発中のドロー&ペイントアプリ「Adobe Fresco」の記者説明会を実施。イラストレーターの福田愛子さんによるデモンストレーションとFrescoを使ったワークショップが行なわれた。

Frescoは、プロのイラストレーター向けのドロー&ペイントアプリ。iPadとApple Pencilでの利用を想定し、プロフェッショナル向けながら、シンプルなUIを採用することで、誰もが使えるアプリを目指しているという。

特徴は豊富なブラシ。Photoshopのブラシが利用可能で、オリジナルのブラシもそのままFrescoで使える。Creative Cloudユーザーであれば、イラストレーターのカイル ウェブスター氏が作成した1,000種類以上の追加ブラシもダウンロードして利用できる。スマホアプリ「Adobe Capture」で撮った写真から作成したブラシも使える。

立方体を豆腐に見立て、葉っぱと集中線のブラシを使用。一瞬で完成

また、ベクターブラシも搭載。Photoshopなどで採用されているラスター形式のブラシで描写したものは、拡大した際に劣化してしまうが、ベクター形式のブラシで描写したものは、拡大しても劣化せず、最大12,800倍まで拡大できるという。ベクター形式は、AdobeのソフトではIllustratorなどで採用している。

赤い部分と「99円」がベクターブラシの描写。拡大しても劣化しない

従来、Adobeのソフトを使う際は、ラスター形式で描写したい場合はPhotoshop、ベクター形式で描写したい場合はIllustratorと、使い分けが必要だったが、Frescoではその両方が利用できる。

さらにFrescoでは、Adobe Senseiの人工知能を利用した「ライブブラシ」を搭載している。水彩と油彩の2種類とそれぞれ数種類の筆の形状を用意。アナログの水彩や油彩の描写、絵の具同士の混色などを再現する。

水彩ライブブラシでは、絵の具が紙の上で広がる様子や、別の色を上から塗った際に滲みながら混色していく様子を表現。あらかじめ塗った色を水で滲ませるといった方法もデジタルで再現できる。

水彩ライブブラシ。水色の上に紫色がかかると滲むようにして混ざっていく

油彩ライブブラシでは、絵の具を乗せたときの凹凸や、キャンパス上での油絵具同士の混色を表現。混色によって出来上がった色をそのまま利用することもでき、ブラシの設定内にある「カラーをリロード」の切り替えで、選んでいた色に戻すなどの制御が可能。

油彩ライブブラシ。筆の跡やキャンパス上での混色が表現されている

PC版のPhotoshopとのラウンドトリップ編集ができ、レイヤー化したラスターファイル、ベクターファイルをIllustratorと共有可能。Frescoは、Creative Cloudのソフトとなるため、ブラシやカラー、ドキュメント、各種設定は自動でバックアップされる。また、制作時のタイムラプス動画も書き出せる。

また、iPadとApple Pencilでの利用に最適化したアプリとして、2本指でのタップで「取り消し」、3本指で「1段階進める」などのジェスチャー機能、画面内のボタンを押しながら操作すると別の機能が使えるタッチショートカット(ペンを選択中に消しゴムが使えるなど)を備えている。Apple Pencilの筆圧感知調整やダブルタップ時の設定なども可能。

iPad以外のタブレットや、スタイラスに対応したバージョンも順次展開するとしている。

開発には世界のクリエイターが「Gemini 10」として協力している。また、Frescoは日本のマーケットも重視しており、田中ラオウさん、鹿島初さんといった国内のクリエイターも「日本のGemini 10」として参加。開発中のアプリに触れ、フィードバックを行なっているという。

参加イラストレーターがFrescoで製作したアートワーク

今後開発を進め、年内にリリースするとしている。対象機種はiOS 12.4以降のiPad Pro全モデル、iPad Air(第3世代)、iPad(第5、6世代)、iPad mini(第5世代)。

デモンストレーションでは、イラストレーターの福田愛子さんが、アートワークとして提供しているヒマワリの絵の制作手順を紹介。ラフの書き方やペン入れ、着彩など、デジタル特有の手法も使いながら再現した。

イラストレーター 福田愛子さん

Frescoでは、iPadのカメラで撮影した写真や、カメラロールの画像をキャンパス上に配置できる。福田さんはまずヒマワリの写真を配置したレイヤーを作成。となりにラフを描写し、ラフだけを抽出して拡大したレイヤーを新たに作成。ペン入れ後に鉛筆で着彩していく。

写真を隣においてラフ

写真を模写しただけでは、花びらのバランスからさみしい部分があるとして、レイヤーを複製。複製したレイヤーを反転、角度を調整して組み合わせ、すでに描いた花びらの一部を空いた部分に付け足すデジタルならではの手法を実演した。

レイヤーを複製、反転して空いた場所に花びらを付け足す

背景には油彩のライブブラシを使用。福田さんがよく使うというピンクを使い、全体を塗った後に、白を混色してまとめ、油彩の上に色鉛筆着彩のペン画というアナログでは実現できない作品が仕上がった。

福田さんの完成作品

ベータ版Frescoで実践。油彩ライブブラシが楽しい

筆者もベータ版を実際に利用してみた。まず手元にあったカメラをiPadで撮影してキャンパスに設置し、鉛筆ブラシでトレース。書きたいところにちゃんと線が書けるので、苦戦することなくトレースできた。

カメラを撮影。これをFrescoに取り込む
鉛筆で線画。狙ったところにちゃんと書けるので比較的スムーズに描けた

次にカメラを水彩ライブブラシで着彩。ところが、「流量」や「水量」数値の設定が難しく、色を置いてみたら思った以上に色が広がってしまったり、色が狙った濃さにならなかったりと大苦戦した。部分ごとにレイヤーを分けることで、混色で汚くなってしまうことは防げたが、狙った色の濃さにはなってくれなかった。

水彩ライブブラシと複製レイヤーやらを駆使してそれっぽくしてみた

筆者は趣味で水彩鉛筆を使った絵を描くことがあるが、滲ませる際の水の量や、布などでふき取るといった作業はすべて感覚で行なっている。デジタルでは、その感覚による作業をすべて数値で設定しなければならないこともあって、思うようにいかなかった。完全に筆者の技量の問題だ。

一方で油彩は非常に楽しく利用できた。背景に油彩ライブブラシを使用。混色による色の制御などはうまく使いこなせなかったが、ベースの緑を塗った後に青や白を乗せてキャンパス上で馴染ませてみたところ、良い塩梅にできたと思う。筆の跡や凹凸の表現がリアルで気に入っている。アナログ油彩では切っても離せない、筆を洗浄する薬剤の臭いもデジタルなら気にする必要がない。

背景は油彩ライブブラシで混色。筆の跡や凹凸がリアルで描いていて楽しい

油彩の下地に鉛筆画の水彩という絵が完成した。機能がシンプルなので、書いている間にどのツールを使えばいいかわからなくなるといったことは起こらなった。レイヤーは名前が付けられないため、増えてきた段階で少し戸惑ったが、表示非表示の切り替えやアクションの機能をワンタップで表示、並び替えなどは使いやすかった。ライブブラシもリアルな再現ながら遅延等がなく、スムーズに描ける。年内のリリースが楽しみだ。

完成