■リビングシアターはシンプルさが大切
筆者は取材などで、さまざまなホームシアターを体験してきたが、家族全員で使うリビングのシアターはできる限りシンプルなほうが実用的と考えている。簡単に設置できて、場所をとらず、家族の誰でも操作できることが大切なのだと思う。もちろん映画やデジタル放送を活かす機能を揃えていることが前提条件になるのだが、シンプルという条件で意外に苦心するのがサラウンドへの対応である。5.1チャンネルなどの本格サラウンドを楽しみたい場合は、面倒なリアスピーカーへの配線が必要になり、すっきり配線するには日曜大工以上の工事が必要になる場合もあったりする。6個ものスピーカーを何処に置くかも大問題だ。また、サラウンド用AVアンプの操作の難しさも大きなネックになる。サラウンドを使えるのはお父さんだけ、なんてことになってしまってはリビングに置く意味がないだろう。
■ラックシアターは究極の簡単サラウンド
そんな課題を一挙に解決してくれるサラウンドシステムが、パナソニックのラックシアターHTRシリーズである。本機はAVアンプとサラウンドスピーカーを内蔵したテレビラックで、同社の薄型テレビビエラの下にラックとして置くだけでフロントサラウンドのシステムが作れる新しいコンセプトのAV機器だ。
テレビにラックは必須、と考えるとスペースゼロでサラウンド環境が整ってしまうことになる。今までにもさまざまな簡単サラウンド機器を見てきたが、ある意味で究極の省スペースシステムと言って良いだろう。
ラック内蔵のフルデジタルAVアンプには、前面スピーカーだけで5.1チャンネル的なサラウンド音場を合成できる「ドルビーバーチャルスピーカー」を採用し、広がり感のある音場を実現している。
セットアップはとても簡単だ。リアスピーカーが要らない3.1チャンネルのフロントサラウンドなのでリアへの配線が不要。ラック内のスピーカーとAVアンプは出荷時に配線済みなので長いスピーカーケーブルと格闘する必要はまったくない。またビエラリンクに対応しているので、ビエラやレコーダーDIGAとの接続も至って簡単で、下図のように3本のケーブルを繋ぐだけで、もうそこがシアターになってしまう。操作でもビエラリンクを活用すれば、テレビ(ビエラ)のリモコンだけで、音声切り替えやサウンドモードの設定などが可能だ。この操作のしやすさも大きな魅力といえるだろう。
■パナソニック独自のユニバーサルデザイン
というのが本機の第一のメリットなのだが、詳しく見るとパナソニック独自のノウハウが多く盛り込まれていることがわかる。
そのフォルムには、ユニバーサルデザインを追求する同社の家電的なフレンドリーさが感じられる。高級感のある天然木材の天板(SC-HTR500-K)は四隅の角が取れたマイルドなフォルムで、子供などが体をぶつける事故を防いでいる。
各スピーカーはネットで隠されているため、スピーカーに指を突っ込まれるといった子供のイタズラ攻撃も防げそうだ。天板背面には配線を通す窪みが設けられ、ケーブルを痛めることなくぴったり壁寄せして設置できる。同シリーズのSC-HTR300-K、SC-HTR200-K、SC-HTR100-Kでは背面の角を大きくカットすることで、部屋コーナーへの設置も楽にできる配慮もされている。こうした部分にファミリーユースに配慮した本機ならではの実用性が感じられる。
意外な注目点は前面のガラス扉にある。というのも、これが付いているラックシアターは見かけたことがない。ガラス戸があったほうがレコーダーなどを置いても埃が入りにくく、インテリア性も高い。一見するとガラス戸は簡単に付けられそうに思えるが、実はラックシアターではサブウーハーの振動でガラス戸が鳴ってしまうという大きな問題があったのだ。本機はこの課題を後述する制振技術「振動キラー」で解決し、ガラス扉つきのラックを実現しているのだ。
■フロントにセンタースピーカーを搭載
そしてスピーカーにも注目したい。本機は左右スピーカーとサブウーハーのほか、センタースピーカーまで備えた贅沢なスピーカー構成を採用している。ポイントはセンタースピーカーで、これがついていないラックシアターもある。センタースピーカーには映画の台詞やボーカルなどの定位感(鳴る場所の存在感)を増して聞きやすくする効果があるが、一般的に言って、置き場所が適切でないと画面とは別の場所から台詞が聞こえる違和感を感じるケースもあったりする。本機のセンタースピーカーはこうした点に配慮していて、同社独自の「リアルセンター機能」で、ラック内蔵のスピーカーでありながら、あたかもテレビ画面からセンターサウンドが出ているように聞こえる音場を実現している。このため、スクリーンの裏にスピーカーがある映画館のように映像と一体感のあるサラウンドが楽しめるのだ。
■振動キラーで重低音の迷惑を解消
映画サラウンドで特に大切なのがサブウーハースピーカーの重低音である。重低音はアクション映画の爆発シーンなどの迫力を倍増してくれるが、一般のサラウンドシステムでは再生に注意が必要だ。重低音は音というよりスピーカーからの振動であり、無指向性の揺れとしてマンションの上下階や隣室などに広がる。一般のシステムでは、このことをよく理解しておかないと近所迷惑になって、せっかくのサラウンドを生かせない事態になる場合もあるだろう。
本機は、重低音を再現しつつ、サブウーハーの振動を抑えるデュアルドライブ方式の「振動キラー」の採用によって、こうした重低音の迷惑を最小限に抑えている。振動低減のノウハウは、2つのサブウーハーをラックの左右に向かい合わせてレイアウトすることで重低音(作用)と同時に発生する不要なスピーカーの振動(反作用)を相殺する独自の構造にある。この機構によって不要な振動を約65%もカットし、マンションなどでも十分な音量と迫力で映画を楽しめる。防振という見過ごされていた大切なユーザーニーズをフォローした本機の実用性に拍手をおくりたい。
■サラウンドの広がり感を堪能
実際にビエラの最新モデルPZ750SKとコンビで視聴してみよう。PZ750SK本体のスピーカーもテレビとしてはかなり贅沢で意外にレンジ感があるのだが、ビエラリンクで本機のサラウンドに切り替えると上下左右の音像と包囲感がまるで違ってくる。狭い部屋から広い映画館に入ったような広がり感のあるサラウンドを楽しめる。リアルセンター機能の効果も確実で、映画字幕の上あたりから台詞が聞こえる印象で違和感がない。フロントサラウンドにありがちな音場の中抜けが感じられない点もセンタースピーカー搭載のメリットだろう。振動キラーの効果も確かで、ボリュームを中程度にして天板に手を置いても大きな振動は感じられない。それでいて、テレビ本体と比べると重低音のインパクトはシネマサラウンドにふさわしいレベルにまで向上している。
■ワイヤレス5.1chにシステムアップも可能
さらにシステムアップの楽しみもある。本機(SC-HTR500-Kのみ対応)に別売のワイヤレスリアスピーカーキットSH-FX60を追加すれば、本格的な5.1チャンネルシステムにアップグレードが可能だ。リアユニットへの接続はワイヤレス通信になるので、配線はリアユニットとリアスピーカーだけで済む。この構成ではバーチャル7.1チャンネルとしても作動するので、BD-ROMの5.1チャンネルのほか7.1チャンネルサラウンド(リニアPCM入力)にも対応できる。
というように手軽で実用的な本機は、ビエラと同時購入したい新しいスタイルのAV機器だ。メーカー純正ラックの価格+テレビを買った量販店のポイント程度で、ラックとサラウンドシステムが揃えられる点も大きな魅力と言えるだろう。そう考えると本機の最大のメリットは”購入にあたって家族の同意が得られやすい”ことかもしれない?ということで「このラックシアターなら家族を説得できそう」と購入策を立てているAVファン(実は筆者もその一人だったりする)の健闘を祈りたい。
(増田 和夫)
プラズマテレビの使いやすさとエコロジー設計 http://panasonic.jp/viera/products/pz750/eco.html#01