こどもとIT

「すぐに商品化できそう」と審査員も絶賛、子ども達の自由な発想とmicro:bit(マイクロビット)で実現した作品群

――「micro:bitで作ってみよう!キッズプログラミングコンテスト」レポート

4月3日、NECパーソナルコンピュータ株式会社(以下NECPC)とレノボ・ジャパン株式会社(以下レノボ)は、「micro:bitで作ってみよう!キッズプログラミングコンテスト」の表彰式を開催した。

今回のプログラミングコンテストは、小学生、中学生を対象に2018年12月5日から2019年1月28日までの2か月間、「みんなが困っていることを解決するためにプログラミングを活用する課題解決部門」、「プログラミングを活用することで自分が作りたいと思うものを自由に作る自由部門」の2つの部門で作品が募集された。使用機材としてmicro:bit(マイクロビット)を使うことが必須となるが、それ以外の制限はない。

第1回目となった今回は、東京・秋葉原のDMM.make AKIBAで開催された表彰式に、全応募作品の中から自由部門4作品、課題解決部門4作品の合計8作品が集合。最優秀賞をかけて、子ども達が自らプレゼンテーションを行った。審査員からも、「こういう発想はなかった!」、「すぐに商品化できそう」といった声が上がった各受賞作品とプレゼンテーションの様子を紹介しよう。

プログラミングを活用することで自分が作りたいと思うものを自由に作る「自由部門」

福岡市立照葉小学校 安東鷹亮さん作「時限爆弾」

「時限爆弾」は福岡県の安東鷹亮さんの作品。タイトル通り時限爆弾で、つながれているワイヤーのどれかを切ると爆発せずに時刻カウントダウンが止まる仕掛けとなっている。これを作るにあたっては、「テレビやアニメに出てくる時限爆弾を見て研究しました」という。爆弾に見える筒の部分は実はトイレットペーパーの筒部分を使った。赤い紙を貼ることで爆弾らしく見えるように工夫をこらした。爆弾を止めるためのカウントダウンは、スピーカーを仕込んで、それらしく聞こえるものを設定している。

安東鷹亮さん

タイムオーバーとなってしまった時には、「本当に爆発させることはできないので、脱力感のある残念な音が鳴ります」とのことなので、安心して遊ぶことができそうだ。

滋賀県守山市立速野小学校 越智千晶さん作「まほうのペンダント」

越智千晶さんが作った「まほうのペンダント」は、「アナと雪の女王が大好きで、今に魔法が使えるようになりたいと修行中です。まだ、魔法が使えないので、魔法が使えるペンダントを作りました」という女の子らしい願いを込めて作られた。micro:bitを100ショップで購入した丸い缶にしまい、さらにキラキラと光るようフルカラーLEDを24個搭載したmicro:bit用円型LEDモジュール、ZIP Haloをとりつけた。その結果、micro:bitというよりまさに魔法のペンダントにしか見えない外観となった。

越智千晶さん

「micro:bitのボタンを押すことで魔法の種類を変えることができます、使える魔法は炎、水、風、雷、毒、回復の6種類です。私が一番気に入っている魔法は氷の魔法です」という越智さんがデモンストレーションを行うとまさに魔法のようにキラキラと光るのだった。

山形県立天童市立寺津小学校 瀬野加蓮さん作 みんなをハッピーにするロボット「ぶるぶる君」

瀬野加蓮さんの「ぶるぶる君」は、「お父さんを爆笑させたい!」という気持ちで作られたロボットだ。お父さんが単身赴任中であることから、離れて暮らすお父さんの誕生日にロボットをプレゼントすることでお父さんが爆笑して欲しいという願いを込めて作られたものだ。

瀬野加蓮さん

「最初は、普通にロボットを作ったのですが、転校した天童の小学校はプログラミング学習が盛んで、micro:bitを使って音を出したり、動いたりさせたりする構造にしました。動くだけでなく、メッセージを出したり、音を出したりしてみんなにハッピーになって欲しいです」という願いを込めて作られたぶるぶる君。だが、ついている洗濯バサミを押すとぶるぶる君が自爆する驚きの仕掛けとなっているという。

埼玉市立常磐中学校 辻 健人さん作「敵を倒せ!ミサイルゲーム」

「敵を倒せ!ミサイルゲーム」は、辻健人さんが作ったオリジナルゲームだ。「自分の部屋に帰るとゲームができないので、いつでも、好きだけゲームができるよう、自分でゲームを作りました」とゲーム少年らしい願いを込めて作られた。

辻 健人さん

実はかまぼこ板を使った木の板にmicro:bitと左右に分けた電池ボックスを取り付けゲームコントローラーのような形とした。電源スイッチを入れ、左右に傾けてステージを選び、手前に傾けるとゲームが始まる。辻さんが好きなシューティングゲームで、雰囲気を出すためにスピーカーをつけ、BGMだけでなく効果音が鳴る使用で、効果音が鳴ってもBGMだけでなく効果音が途切れないようにするなど工夫がこらされている。

みんなが困っていることを解決するためにプログラミングを活用する「課題解決部門」

千葉県市川市立八幡小学校 磯山弘樹さん作「みっちーくん」

磯山弘樹さんの作品、「みっちーくん」は道順がわからない時に使える案内人。みっちーくんを持って歩くと、交差点ごとにとりつけているセンサーが反応し、行きたいところに行くための道順を教えてくれる。インフォメーションセンターなどにみっちーくんを置き、行きたい場所をセットして使ってもらう。その後、回収ボックスに戻してもらい、多くの人に利用してもらうことを想定している。

この作品を作るきっかけとなったのは2020年に東京オリンピックが開催されること。海外からも多くの人が訪れ日本の街を歩くことを想定し、道案内をしてくれるみっちーくん開発を思いついたという。

品川区立浜川小学校 遠藤最さん作「けんばんハーモニカ練習そうち」

遠藤最さんが作った「けんばんハーモニカ練習そうち」は、まさに学校でけんばんハーモニカの練習に苦労をしている人なら思わず膝を打つ作品だ。けんばんハーモニカの次に弾くべきけんばんが光ることで、自然に弾き方を覚えることができるようになる。

遠藤 最(かなめ)さん

「音楽の授業で、けんばんハーモニカを覚えるのが難しかったので、micro:bitを使うことで、弾き方を覚えることができればと思い、これを作りました」と遠藤さん。けんばんの上を光らせることはなかなか難しく、当初はLEDを使ったものの、LEDの光は広がってしまい、どのけんばんなのかわからない。そこでお父さんのアドバイスを受けてレーザーを利用するようにしたところ、見事に次に弾くべき場所が光るようになったという。

名古屋市立八社小学校 川口明莉さん作「たんたん!探検隊」

「たんたん!探検隊」は、川口さんが普段友達と木の棒を使って行っている、「木の棒を立てて倒れた方に行くという遊びを、micro:bitを使って行くところを決めてくれたら、楽しそうだと思って作りました」という。木の棒を倒して行く方向を決める遊びという古典的な遊びを、現代のmicro:bitで再現しているところが特徴となっている。

川口明莉さん

単に遊ぶだけでなく、出発してからの時間を表示する機能や、あまりに遊びすぎるとお母さんの電話番号を表示して連絡を取るよう促してくれる機能もあって、「遊びすぎても安心です」と川口さん。自分の分だけでなく、弟の分まで作り、どちらもデコレーションしているところもユニークだ。

滋賀県大津市立青山小学校 長田快さん作「おじいちゃん・おばあちゃんを見守るシステム」

現代、多くの人が抱える課題を解決する作品といえるのが、長田快さんの作った「おじいちゃん・おばあちゃんを見守るシステム」。見守りたい高齢者が持つ装置、玄関マットなど出口の下に仕掛けた装置、高齢者を見守っている人が持つ装置の3つから成り、高齢者が外に出ようとすると出口のセンサー、玄関マットなどに仕掛けた装置が反応して、高齢者が外に出ようとしていることを知らせてくれる。

長田 快さん

長田さんは、「色々な人が困っているということで作ろうと思いました」とこの作品を作ることになったきっかけを明らかにした。自宅に高齢者の方がいて困っているというわけではなく、多くの人が困っていると聞いてこの作品を作ることになったのだそうだ。

最優秀賞にはNECPC・レノボ製パソコンが贈呈

子ども達のプレゼンテーション後、各審査員が各作品の展示を見ながら子ども達一人ひとりと会話をしながら審査を行う。

質問する審査員に、しっかりと受け答えする子ども達
参加した子ども達同士で情報交換する姿も見られた

1時間に及ぶ審査を経て、8つの力作の中から自由部門、課題解決部門それぞれに最優秀賞が選ばれた。自由部門の最優秀賞に選ばれたのは辻健人さんの「敵を倒せ!ミサイルゲーム」。賞品としてレノボの「Lenovo Yoga 330」が贈られた。

自由部門の最優秀賞を受賞したのは辻健人さんの「敵を倒せ!ミサイルゲーム」

辻さんは受賞の喜びを、「嬉しいんですけど、せっかくゲーム機を作っちゃったのに、(最優秀賞でもらった)パソコンの方が色々できそうです」とゲーム好きならではの受賞のコメントで会場を沸かせた。今後は、「今回のゲームの改良版として対戦型に取り組んでみたいです」という。

課題解決部門の最優秀賞となったのは、川口明莉さんの「たんたん探検隊」。賞品としてNECPCの「Lavie Note Mobile」が贈られた。

課題解決部門で最優秀賞を受賞したのは川口明莉さんの「たんたん!探検隊」

川口さんは、「すごく頑張って作ったので、最優秀賞をとることができてとても嬉しいです。散歩をしていても楽しくなかったので、楽しくなるようにこれを作りました。苦労した点はLEDをつけてもうまく光らず、何度もやり直しました」と話している。次に作ってみたいのは、「ピタゴラスイッチみたいなものを作ってみたいです。大きくなったらプログラマーになりたいです」と頼もしい言葉が聞かれた。

なお各部門の作品には、日本マイクロソフト株式会社 執行役員 梅田成二氏からマイクロソフト賞として「Surface Headphone」が、株式会社スイッチエデュケーション 代表取締役社長 小室真紀氏よりスイッチエデュケーション賞として「micro:bit本体とbit Pak Drive」が、東京大学大学院 情報学環教授 越塚登氏よりmicro:bit教育財団賞として「micro:bit本体とmicro:bitバングルモジュール」がそれぞれ贈られた。

自由部門 マイクロソフト賞 安東鷹亮さん作「時限爆弾」
自由部門 スイッチエデュケーション賞 越智千晶さん作「まほうのペンダント」
自由部門 micro:bit教育財団賞 瀬野加蓮さん作「ぶるぶる君」
課題解決部門 マイクロソフト賞 長田快さん作「おじいちゃん・おばあちゃんを見守るシステム」
課題解決部門 スイッチエデュケーション賞 遠藤最さん作「けんばんハーモニカ練習そうち」
課題解決部門 micro:bit教育財団賞 磯山弘樹さん作「みっちーくん」(本人は授賞式不参加のため関係者による代理受賞)

7月には第2回プログラミングコンテストの募集も予定

全体の講評として審査員の東京大学大学院 情報学環教授の越塚登氏は、「審査は大変でした。どれも甲乙つけがたく、しかもそれぞれが全く違うからです。博士論文の審査と比べてもはるかに難しかったくらいで、いい作品ばかりでした」と話す。

東京大学大学院情報学環教授 越塚登氏

まず、自由部門の作品について「『時限爆弾』は、線は本来“つなぐもの”だが“はずす”というオペレーションの発想がすごく面白かった」「『まほうのペンダント』は、キレイにビジュアルされていて工作もすばらしかった」「『ぶるぶる君』は、こういうのを自分の子どもからもらったらうるっときてしまう、すごく良かった」「『敵を倒せ!ミサイルゲーム』は、並行プログラミングができないといけないのだが、中学生でそういう領域まで達しているのがすごい」と講評した。

課題解決部門の作品についても、「『みっちーくん』は、ハードウェアもっと小さくつくったら、実世界の課題が解決できるアプリケーション」「『けんばんハーモニカ練習そうち』はAR(Augmented Reality、拡張現実)、アイディアもすごいしシンプルなステッピングモーターで実現されているのもすばらしい」「『たんたんたんけんたい』は自分も子どもの頃やった記憶がある、今はmicro:bitで問題解決できてる、ハードウェアの工作もすばらしい」「『おじいちゃん・おばあちゃんを見守るシステム』は、それぞれの家庭でプログラミングできると問題解決できる、大人のお手本になるような作品だった」と語り、すぐ商品になると思うものばかりだったと絶賛した。

越塚氏は最後に、協力した家族に向けて「こういう分野はお父さんが子育てに参加するいい機会、ぜひお父さんお母さんもいっしょになってやる、そういう場としてもすばらしい企画だったと思う」と締めくくった。

NECPC、レノボ両社の代表取締役社長をつとめるデビット・ベネット氏は、9歳からプログラミングを始め、「プログラミング大好き!」と公言する。今回のコンテストについても、「プログラミングができると色々なことが解決します。非常によい体験になると思います。今日は素晴らしいものを見ることができました」と話した。

NECパーソナルコンピュータ株式会社 代表取締役執行役員社長 兼 レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 デビッド・ベネット氏

NECレノボグループでは、「テクノロジーは、文化や地域、個人の多様性を問わず、教育への公平な参加機会を作るパワフルなツール」と考え、日本国内でも子ども達向けに様々なSTEM教育に関する取り組みを進めている。今後も5月19日に「Kids Maker Festival」、7月には大和研究所、米沢事業所で「エンジニアさんといっしょ」と題した夏休み自由研究を実施し、7月からは第2回プログラミングコンテストの募集を行う予定だという。

日本でのキッズ向けプログラミングに関する取り組み
NECPCとレノボが今後開催予定のイベント

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。