こどもとIT

「10年前の大学研究を小学生が開発できる時代」と審査員も驚く、高レベルな作品が集まる

――「micro:bitで作ってみよう! 第2回 NECレノボ キッズ・プログラミングコンテスト」レポート

NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンは、「micro:bitで作ってみよう! 第2回 NECレノボ キッズ・プログラミングコンテスト」の表彰式を2019年12月7日に開催した。本コンテストは、2019年8月30日から9月30日までの期間に作品募集が行われ、その中から自由部門に応募した中の上位4作品、課題解決部門に応募した中の4作品、計8作品を選出。当日は作者の子どもたちによるプレゼンテーション、審査員による質疑などを経て、各賞が選ばれた。

自由部門 最優秀賞は東京都荒川区立第二峡田小学校の松本遼馬さんの「りょうまのボクシングゲーム」に、課題解決部門 最優秀賞は千葉県千葉市立扇田小学校の近藤結実さんの「メダカのためのえさやり機」に決まった。いずれも力作ぞろいの作品を順に紹介していこう。

プレゼンテーションの後、作品について子どもたちに質問する審査員

自由部門 最優秀賞 松本遼馬さん作「りょうまのボクシングゲーム」

自由部門の最優秀賞に選ばれた松本遼馬さんには、レノボ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 デビッド・ベネット氏からレノボ・ジャパンのIdeaPad C340が贈られた

自由部門の最優秀賞に選ばれた、松本遼馬さんの「りょうまのボクシングゲーム」は、micro:bitとScratchを使って開発したボクシングゲーム。ゲーム開発のきっかけは、「お母さんのストレス解消になればと作ることにしました」というもの。他にもうひとつゲームを作ることも計画していたので、それも合わせて楽しく遊ぶことができるゲームを作り上げた。ゲームが完成すると、「ストレス解消だけでなく、ダイエットにも使えるかも!」と予想を上回る効果が出そうだという。

東京都荒川区立第二峡田小学校 松本遼馬さん

審査員の東京大学大学院 情報学環 教授の越塚登氏は、「ゲームとしての完成度が高い」と評価。さらに、「ゲームとして楽しむだけでなく、お母さんのストレス解消にダイエットと役に立つものを!と考えて開発に取り組んだことも素晴らしい」と話した。

「りょうまのボクシングゲーム」は、手に持ったmicro:bitを前にふるとパンチが出て、自分のパンチが相手にあたると相手の体力が減るが、相手のパンチを受けてしまうと自分の体力が減ってしまう
ボクシンググローブも自分で布を選び、家族で製作した物

課題解決部門 最優秀賞 近藤結実さん作「メダカのためのえさやり機」

課題解決部門の最優秀賞に選ばれた近藤結実さんには、ベネット氏からNECパーソナルコンピュータのLAVIE Direct NMが贈られた

課題解決部門で最優秀賞となった近藤結実さんの「メダカのためのえさやり機」は、タイトル通り、メダカの餌やりを自動化するシステム。レゴ、サーボモーター、スピーカーボード、micro:bitなどを組み合わせて自動で餌を与える仕組みを作り上げた。近藤さんは、「旅行に行く間、メダカの餌やりを親戚に頼まなければいけないことがあって、自動で餌をやる仕組みがあればと思ったことが作品を作るきっかけになった」と話していた。

千葉県千葉市立扇田小学校 近藤結実さん

審査員の越塚教授は、「実は10年位前に、漁業で鯛の養殖のためにIoTによる自動餌やり機を考えたことがあるが、大きな意味ではほぼ同じ仕組み。メカの完成度も高く、総合的に素晴らしい作品になっていた」とこの作品を評価した。

「メダカのためのえさやり機」は、micro:bitのBボタンを押すと磁石をつけた時計の針がmicro:bitに近づくタイミングで「メダカの学校」を演奏して餌をあげ、Aボタンを押すと懐中電灯の光を当てた時に反応する

自由部門 micro:bit教育財団賞 遠藤最さん作「マイクロビットバランスボード」

自由部門のmicro:bit教育財団賞に選ばれた遠藤最さんには、越塚氏からbitPark Minicarが贈られた

自由部門のmicro:bit教育財団賞を受賞したのは、東京都品川区立浜川小学校の遠藤最さんが作った「マイクロビットバランスボード」。バランスボードに乗って、足でスイッチを押すとスタートし、5秒間バランスを崩さずにいるとクリアすることができる。遠藤さんは小学校に入る前から健康器具が大好きで、量販店に行った際には必ず試していた。ところが、「量販店の店員さんから、子どもはやっちゃ駄目だよと注意されるので、自分で作れば好きなだけ試せる」と考えて、自作することを思いついたという。

東京都品川区立浜川小学校 遠藤最さん

越塚教授の講評では、「すぐに使えそうで、このまま売ってもいいんじゃないか。micro:bitの傾きセンサーを活用している点も素晴らしい」と評価した。なお、遠藤さんは1回目のコンテストに続いての優秀賞入選となった。

「マイクロビットバランスボード」は、micro:bitについているボタンは立ったままでは押せないため、アルミ箔を使って足で踏むスイッチを自作したという

自由部門 スイッチエデュケーション賞 秋山快誠さん作「micro:bit messenger」

自由部門のスイッチエデュケーション賞に選ばれた秋山快誠さんには、審査員の株式会社スイッチエデュケーション 代表取締役社長 小室真紀氏からプログラミング・フォロ for micro:bitが贈られた

自由部門のスイッチエデュケーション賞を受賞したのは、東京都文京区立昭和小学校の秋山快誠さんの「micro:bit messenger」。コンテストを知ったのがおばあちゃんの誕生日に近かったことから、おばあちゃん用にハッピーバースデイのメッセージと音楽が流れる仕組みを作ることを決定したという。ハロウィン、クリスマスバージョンも作った。メッセージを流すための筒はプリングルスの空き箱、「プリングルスの空き箱が一番いいサイズだったから」と秋山さん。小学校1年生の秋山さんができるプログラミング技術を使って作り上げた。

東京都文京区立昭和小学校 秋山快誠さん

越塚教授の講評では、「プリングルスをずいぶんたくさん食べたのかな?とにかくアイデアがユニーク。シンプルだったが印象に残った」と話した。

「micro:bit messenger」は、メッセージ、イラスト、音楽をプログラミングしたmicro:bitの電源を入れると、暗くした部屋の天井に、音楽とともにメッセージが流れる

自由部門 マイクロソフト賞 網野瑛仁さん作「無線リモコン クレーンゲーム」

自由部門のマイクロソフト賞を受賞した網野瑛仁さんには、審査員のレノボ・ジャパン株式会社 開発オペレーションズ・事業計画管理 中村鉄平氏からMakeblockプログラミングロボット mBot Rangerが贈られた

自由部門のマイクロソフト賞を受賞したのは、兵庫県西宮市立南甲子園小学校の網野瑛仁さんの「無線リモコン クレーンゲーム」。網野さんはクレーンゲームが大好きで、リモコンの4つのレバーを操作して、アームを前後、左右に動かしてキャッチャーで商品を取る仕組みとなっている。クレーン本体は100円ショップで買ったものや、日本橋電気街に出向いて必要な部品を買いそろえた。「最初は無線方式ではなかったんで、どうしても無線リモコンがいいということで作り直した」というこだわりの力作だ。プログラミングだけでなく、リモコンの構造を理解しないと完成できない作品になっている。

兵庫県西宮市立南甲子園小学校 網野瑛仁さん

越塚教授は、「クレーンの見た目からしてすごい!配線が大変だったことは見ているだけでわかる。ポート部分のトランジスタ工作もすごい」と作った際の苦労を推し測って評価した。

「無線リモコン クレーンゲーム」は、お父さんにも協力してもらったが、85%は半田付けも自分で行ったという力作

課題解決部門 micro:bit教育財団賞 中尾碧杜さん作「ブザーロボット」

課題解決部門のmicro:bit教育財団賞を受賞した中尾碧杜さんは当日参加できなかったが(写真は代理)、越塚教授からbitPark Minicarが贈られた

課題解決部門のmicro:bit教育財団賞を受賞したのは、三重県伊勢市立四郷小学校の中尾碧杜さんの「ブザーロボット」。残念ながら、当日、中尾さんは欠席だったが、ビデオプレゼンテーションで参加した。三重県の伊勢に住んでいる中野さん、近所には信号がない横断歩道があり、安全に道を渡ることができるよう、この作品を作ることを思い立ったのだという。目玉の飛び出したロボットが通過する車を感知し、信号を送信。お腹の光るロボットがその信号を受信すると、音と腹部の光で危険を知らせる。音と光という二種類で危険を知らせるのは、目が悪い人、耳が悪い人でも危険を感知できるように配慮したから。

ビデオ参加となった、三重県伊勢市立四郷小学校 中尾碧杜さん

越塚教授は、「光と音で危険を感知してアラートが出る仕組みは、実は10年くらい前に論文として書いたことがある。10年経つと、こうしてキッズのプログラミングコンテストに登場するようになるのだから感慨深い」と自らの経験をふまえて話した。

「ブザーロボット」は、音と光で知らせることで、目の悪い人でも、耳の悪い人でも車に気がつくことができる

課題解決部門 スイッチエデュケーション賞 谷内皇太さん作「ぜったいにおきるめざまし時計」

課題解決部門のスイッチエデュケーション賞を受賞した谷内皇太さんには、小室氏からプログラミング・フォロ for micro:bitが贈られた

課題解決部門のスイッチエデュケーション賞は、東京都足立区立足立小学校の谷内皇太さんの「ぜったいにおきるめざまし時計」が受賞した。お父さんを起こしに行ってもなかなか目が覚めないことから作品開発を思いついたそうだ。セットした時間になると目覚ましが鳴り、同時にゲームがスタート。ゲームをクリアしないと目覚ましの音が鳴り続けるため、目を覚ましてゲームをしないといけなくなる。ゲームをクリアすると目覚ましも止まり、「二度寝しないでね」という声が出る仕掛けとなっている。

東京都足立区立足立小学校 谷内皇太さん

越塚教授は、「この仕組みなら絶対に起きる。僕も二度寝してしまうことがあるので、使ってみたい」と講評した。

「ぜったいにおきるめざまし時計」は、目覚ましが鳴ると同時にスタートするゲームにクリアしないと目覚ましが止まらない

課題解決部門 マイクロソフト賞 磯山弘樹さん作「水出しビット」

マイクロソフト賞を受賞した磯山弘樹さんには、中村氏からMakeblockプログラミングロボット mBot Rangerが贈られた

課題解決部門のマイクロソフト賞は、千葉県市川市立八幡小学校の磯山弘樹さんの「水出しビット」が受賞した。磯山さんは第1回コンテストに続き、2回目の受賞となった。鈴虫を飼っていた磯山さん、夏の暑い時期、温度を下げるために鈴虫に水やりをすることは必須だが、つい忘れてしまうこともあるという。そこで、旅行など家を離れる時でも、鈴虫を預けた近所の人にボタンを押してもらうことで、鈴虫に水を与える仕組みを考えた。ボタンを押すだけで水が出るので、機械に詳しくない近所の人でも扱うことができる。さらに、24時間に1回は水が出る仕組みとすることで、万が一、水やりを忘れた時の対処法が考えられている。

千葉県市川市立八幡小学校 磯山弘樹さん

作品ができあがるまでに寒くなって鈴虫が死んでしまったため、まだ実際に使ってはいないそうだが、越塚教授は「実用性、完成度がとても高い」と評価した。

「水出しビット」は、機械に詳しくない人でも使えるシステムを開発したとのことだ

10年前に大学で研究していたものを、小学生が開発できる時代

審査を終え、コンテストの感想を話すベネット氏

今回で2回目となるコンテストだが、ベネット氏が「レベルの高い素晴らしい作品が集まった」と感嘆する作品が揃った。ベネット氏は、「(参加された)子どもたち、おめでとうございます。とても良いプレゼンテーションを見ることができました。私にも同じ年頃の子どもがいますが、うちの子もこんな素晴らしいプレゼンテーションができるだろうか?こんなに素晴らしい作品を生み出すことができるだろうか?と心配になってしまうほどでした」と参加した子どもたちへの賛辞の言葉を贈った。

審査員を代表し、コンテストの総評と各参加者の作品評価を話す越塚氏

審査員を代表して越塚氏は全受賞作品を振り返り、「今回は無線を使った作品が4作品あるなど、高度な技術を使ったものが多かった。しかも、アイデアが素晴らしく、開発のきっかけがお母さんのため、お父さんのため、おばあちゃん、ペットと家族であるものが多かった。完成度も素晴らしく、個々の作品の講評したように、私が研究で取り組んでいたものが10年経つと小学生が開発できるようになっていることが大変感慨深かった。今回は身近な問題を解決するための開発に取り組んでもらったが、社会には色々な問題があり、その解決法が登場することが待たれている。問題を解決していこうという気持ちを大人になっても持ち続けて欲しい」とエールを送り、今回のコンテストを締めくくった。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。