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小さなMakerたちの作品が集合! プログラミング好きな小中学生の交流を促すイベント「Kids Maker Festival」レポート

子どもたちが「Maker」として自分がプログラムした作品をブース展示する「Kids Maker Festival」が、2019年5月19日に開催された。レノボ・ジャパン株式会社とNPO法人みんなのコードが主催し、早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所、同基幹理工学部鷲崎研究室が共催した。

Scratchからロボット、電子工作までさまざまな作品が集まる

当日は、会場となった早稲田大学グリーンコンピューティング・システム研究機構のスペースに、出展する小中学生が自信作を持ち寄った。作品は自分でプログラムしたものという以外に特にルールはなく、Scratchで作ったゲームもあれば、レゴ マインドストーム EV3やアーテックロボなどで作ったロボット、micro:bitやIchigoJamなどのシングルボードコンピュータを使った装置など、多岐にわたった。

Viscuit、Scratch、IchigoJamなどさまざまな作品が集まり、参加した子どもたちは気になるゲームをかわるがわる楽しそうにプレイしていた

この「Kids Maker Festival」は、プログラムのレベルを競ったり賞を決めたりすることが目的ではなく、出展者同士の交流を重視している。そのため、見学に来た一般の来場者だけでなく、出展した参加者自身も交代でお客さん側になり、他の出展者の作品を体験した。

展示も、ポイントや作り方を掲示したり、ゲームを体験した人のハイスコアを貼り出したり、「外出中です」などの札を出したりと、さまざまに工夫して楽しんでいる様子だ。micro:bitのワークショップも開催され、出展者、来場者両方の立場で楽しめる空間となっていた。

アーテックロボを使った自動改札のシステム。指で触れても反応しないが、専用のカードをかざすと反応するように、フォトリフレクタの値を読み取って調整している
Arduinoを使ったていねいな工作で注目を集めていた動物ロボット。元々サーボモーターとLEDの動作チェックに作ったものだが、かわいかったので増やしたという
Scratchで作ったゲームを、micro:bitをコントローラーにして操作できるようにしたスキーゲーム。micro:bitを組み込んだベルトを腰に巻いて楽しくプレイできる
IchigoJamにMixJuice、MapleSyrupを使ったダイヤル式のデジタル金庫。金庫のダイヤルでパスワードを入力させ、サーボモーター制御のロックを解除する仕組み
Arduinoとサーボドライバーで複数の足をコントロールするクモ型のロボット。当日は調整中で稼働していなかったが、災害ロボットを想定した意欲的な作りが目を引いていた。3Dプリンタでパーツを作るハード担当と、動作プログラムを作るソフト担当の2人の共作

大規模なプログラミングスクールの場合、発表会としてイベントが開かれることもあるが、個人でプログラミングに取り組んでいたり、小さな規模のスクールの場合、なかなか開かれた発表のチャンスはない。家庭やスクールの枠を越えてフラットに発表し合う場というのは貴重な機会だ。

会場中央ではmicro:bitのワークショップも開催された

鷲崎研究室による、モノづくり教育における学習効果の考察発表も

イベントの後半では、今回の共催でもある早稲田大学基幹理工学部鷲崎研究室から講師の齋藤大輔氏が、「モノづくり教育における学習効果」をテーマに講演した。鷲崎研究室は、昨年度の総務省「地域におけるIoTの学び推進事業」に株式会社D2Cへの協力で参加しており、埼玉県狭山市と東京都大田区で地域ICTクラブを開いた経緯がある。その報告と共に小学生のプログラミング学習に関する考察が語られた。

早稲田大学基幹理工学部情報理工学科 講師の齋藤大輔氏、現在はプログラミングが与える学習効果に関する研究に取り組んでいるという

この事業では、地域の課題を解決することをテーマに、IoTの仕組みのあるものづくりに小学生が取り組んだ。学校ではなく地域ICTクラブとしての募集に応じたメンバーが対象で、低学年はMakey MakeyにScratchでのプログラミング、高学年はRaspberry PiにPythonでのプログラミングでものづくりに挑んだ。

埼玉県狭山市と東京都大田区における講座で使用した教材

活動のエピソードとして興味深かったのは、そもそも子どもたちが「地域の課題」をとらえるのが意外と難しかったという点だ。確かに大人がイメージするような「地域」と子どもにとっての「地域」は違う。子どもにとって身近でリアルな社会環境といえば学校だ。そこで学校や通学路に関係する課題としてとらえることもアドバイスをしながら進めたという。

講座を通じて子どもたちが開発したプロダクト

こうした課題解決のワークショップ形式を取る場合、子どもの視点でどう自然に発想を引き出すかという設定が大切なことがわかる。ここはプログラミングの専門家よりもむしろ小学校の先生が得意とする領域であり、両者が上手に協業できたら面白い授業ができそうだ。

また、活動において重要なのはクリエイティビティを育てることであり、プログラミングの論理を教えること自体を目的にしない方が良い、という指摘があった。「逐次、繰り返し、条件分岐」といったプログラミング的な考え方は高学年では感覚的に理解できているので、クリエイティブな活動の中で理解を深めれば良い。自分で問題解決の手段を考え、設計書を作成し、実際に作ってみるというクリエイティブな力をつけることこそを大切にして欲しいと齋藤氏は語った。

質疑応答では、高学年でテキスト言語のPythonを扱ったことについて興味が集まり、Scratch等のビジュアル言語からテキスト言語への橋渡しについて話が及んだ。

例えばScratchからPythonにいきなり移行すると、ドラッグ&ドロップでのブロック操作から文字をタイプする操作になるだけでなく、慣れない英語を扱うことになる。このギャップは大きい。そこで、まずScratchの言語設定を英語に切り替えて使うことがアドバイスされた。使い慣れたScratch同士で日本語と英語を対比することで、「もし」と「if」の対応関係を知るなど、プログラミングで使う英語に馴染むことができる。また、PythonのビジュアルエディタであるEduBlocksを活用するなど、橋渡ししたいテキスト言語に近いビジュアルツールを選んで使うという方法も紹介された。

全体として、和やかな雰囲気の作品展示やその場で参加できるワークショップ、大人向けの講演などがコンパクトに詰まった、あたたかいイベントとなった。出展した子どもたちが、会場の中で自分の居場所を持つ誇らしさを感じている様子なのが、何よりも印象的だった。作ったものが人に使われてこそ見える課題もある。こうしたフラットでオープンな場で展示することは、小さなMakerたちにとって楽しく学びの多い体験になったのではないだろうか。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。