トピック
B2Bカード決済を「成長投資」に VisaとONEが進める企業間取引のデジタル化
- 提供:
- ビザ・ワールドワイド・ジャパン
2026年9月29日 09:00
日本国内の個人決済市場におけるキャッシュレス比率は、2025年には58%に到達し、さらにその比率を高めている。一方で、日本国内でキャッシュレス化が進んでいない市場が存在する。それが企業間取引(B2B)だ。
多くの企業で「DX」の歩みが進められているが、業界の商慣習や取引先との合意形成、社内の仕組みなど、様々なシステム変更が必要となる企業間取引・決済は、自社の努力だけでは変えられない難所でもある。
こうした中、ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)では、日本市場における事業戦略の柱としてB2B決済のデジタル化を掲げ、B2B取引における「カード決済」を推進している。日本のB2Bカード決済が進むことで、どのようなメリットを企業にもたらすことができるのだろうか。
9月10日、Visaは「国際物流総合展2026」においてコンテナ海運大手「ONEジャパン」と共同でセミナーを開催し、B2B決済のデジタル化についての実態を報告した。そこで語られたのは成長戦略としてのB2Bカード決済の導入だ。
企業間取引という巨大市場 B2Bカード決済を阻む課題
企業におけるクレジットカードの利用というと、「法人カード」「コーポレートカード」を思い浮かべる方は多いかもしれない。これらの市場も伸びているものの、これらのカードを使う取引は、消耗品購入や接待交際費、出張経費の決済などが中心となっている。
ITサービスやデジタル広告など、デジタルを前提とした取引では、B2Bカード決済が増えているが、企業活動の核となる仕入れなどの決済では、まだB2Bカード決済は本格的に普及しているとは言い難い状況だ。
国内のB2B取引市場は、年間の取引額が1,000兆円を超える巨大な市場。大きな可能性があるはずだ。しかし、ビザ・ワールドワイド・ジャパン 法人ソリューションズディレクターの細谷淳司氏によると、「日本のB2B取引におけるカード決済比率は1%にも満たない状況」なのだという。
ここには、日本企業の商習慣も関係している。日本企業の企業間取引における決済は、長年銀行振込が主流であり、現在もほぼ変わっていない。それに加え、請求書や手形、小切手を発行して取引を行なう紙ベースの取引習慣も根強く残っている。
こうした従来の決済方法には、様々な問題も潜んでいる。例えば、紙を前提とした取引では、書類の作成や送付の作業、入金がどの請求に対する支払いなのかを照合する作業などが発生するが、その多くにマニュアル作業が残ってしまう。当然、多くの時間や手間に加え、人件費がかかることになる。また、支払遅延や貸し倒れが発生すると、資金に余裕のない企業においては大きなリスクとなる。
こうした課題に対する解決策のひとつが、Visaが推進するB2Bカード決済だ。請求・支払いプロセスを含めて取引をデジタル化することで、業務の効率化や省力化が期待される。
ただし、企業間取引で、新たな仕組みを取り入れる場合、導入事業者においては、社内手続きや経理業務の変更などが必要となる。さらにこれらの変更は取引先にも周知し、使ってもらう必要がある。
つまり、支払側(バイヤー)と受入側(サプライヤー)の双方にメリットがあるかたちを作れなければ、なかなか導入は進まない。それでは、どのように企業間取引のデジタル化を進めればよいのだろうか。
デジタル化が難しかった業界慣習 ONEがカード決済を導入した理由
今回、「国際物流総合展2026」で開催されたセミナーでは、いち早くB2B決済のクレジットカード化を取り入れたコンテナ海運大手「ONE(Ocean Network Express)」がVisaとともに導入の実態を報告した。コンテナ海運業界における多くの課題を両者はどう乗り越えたのだろうか?
ONEは、川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が共同で2017年に設立したコンテナ海運会社で、世界第6位のコンテナ船運行規模を誇っている。
ONEの営業本部受渡部部長の遠山尚氏によると、ONEでは貨物運送の予約から船積み準備、書類発行などのプロセスをWebで完結できる仕組みを構築し運用している。これにより、貨物輸送に関わる多くの部分がデジタル化されているのだが、「代金の請求と支払い」の部分についてはデジタル化がされていなかったという。
そのためこれまでは、ONEが荷主に請求書をEメールまたはFAXで送付し、荷主がその請求書をもとにONEの銀行口座に代金を振り込み、その内容をメールでONEに通知、その後ONE側で請求書どおりに入金されていることを確認してようやく荷積みの作業へと進める、といった手順を踏んでいたとのことだ。
こうした「アナログ」の仕組みになっていたのは、海運業界では慣習として、「支払い完了」が「貨物の引き渡し」や「船積書類(B/L)の発行」を条件とした現金払い(キャッシュ・オン・デリバリー)になっていたためだ。ONEは多くの中小荷主を顧客として抱えているが、従来は自社でそれらの荷主に与信枠を設定できなかったので、結果として「事前に銀行振込で着金を確認してから荷物を動かす」という流れになっていた。
ただし、この運用ではONEのスタッフに負担がかかっていると遠山氏は指摘する。
「ONEでは毎日約700件の銀行振込の着金がありますが、その振込がどの取引のものなのか、7~8名のスタッフが手作業で突き合わせを行なっています。しかし、顧客の3割は1度に複数取引の代金をまとめて振り込みますので、どの取引に対する振込なのかを正確に確認するために膨大な時間と手作業がかかってしまいます」(遠山氏)
その中には、振込金額の過不足などが発生することがあり、それらが書類発行や貨物引き渡しが遅れる要因になっていたという。
こういった問題を改善するためにVisaと取り組んだのが、クレジットカード決済の導入だった。
ONEでは、顧客向けWebサイト「eCommerce」内に、2026年4月からクレジットカードで決済できる「ONE Finance」を日本向けに構築し、請求・支払いのフローをデジタル化した。
これにより、Webから請求支払いの状況をリアルタイムで確認できる。加えて、現金取引で必要だった着金確認連絡などが不要で、書類発行・貨物の引き渡しが可能となり、大幅な省力化が実現できたという。
B2Bカード決済の導入で何が変わったのか
カード決済の導入により、荷主側とONE側の双方における請求/支払いの「マニュアル作業」は大幅に削減できた。これは大きなメリットだが、カード導入の狙いはそれだけに留まらない。
荷主側にとって大きいのは、運転資金管理の最適化。つまりキャッシュフローの改善だ。
クレジットカード決済は、荷主側では“即時決済・後払い”となるため、代金支払いを先送りできる。「これまでは代金を振り込まない限り処理や貨物引き渡しが先に進まなかったのが、代金支払いをクレジットカードで先送りできるのでキャッシュフローの改善につながる」(遠山氏)。これは特に中小規模の顧客の運転資金のサポートとして重要だという。
加えて、経理業務の合理化も大きい。従来のように、「代金支払時に経理へ伝票を回して振込依頼をする手間がなくなりますし、これまでかかっていた振込手数料の負担もなくなります」と荷主側のメリットを紹介する。
ONEにとっても、クレジットカード決済の導入メリットは大きい。特に、中小規模の事業者にも「与信」を出せるようになったことがポイントだ。
遠山氏は、「我々が直接与信リスクを負うことなく、Visaのクレジットカードを経由する形で実質的な与信を提供することが可能になった」(遠山氏)と指摘し、このことが、新規顧客の増加に繋がっているという。同時に、債権回収に関する督促業務の合理化にも繋がっているそうだ。
実際の効果は? 「成長投資」としてのB2Bカード決済
実際、ONEが4月にクレジットカード決済を導入して以降、7月にはクレジットカードの取扱件数が約14倍に急増している。また、一度クレジットカード決済を利用した荷主は、その後も継続してクレジットカード決済を利用しており、継続率も高いという。
実際にクレジットカード決済を利用している顧客からも、「明細書送付が不要となり、管理工数を削減できた」、「経理へ伝票を回すことが不要になった」、「銀行振り込みの手数料を節約できた」、「カードのポイントが貯まった」、「リアルタイムで決済ステータスを確認できるため、確認待ちがなくなった」など歓迎されているという。
一方で、カード決済の導入により、ONE側で負担するカード手数料も発生するが、「業務の効率化」のメリットに加え、「新規顧客獲得による取引量増加」という成長のための投資と位置付けることで、カード決済の導入の価値について社内合意が得られたという。
実際、カード決済を組み込んだことで、Webから申し込む中小顧客が増加傾向で、「これまでアプローチできていなかった潜在層に届いていると実感している」と遠山氏。また、これらの企業は「(カード決済を)継続して使っていただいており、かつ(利用数も)増えています」と語る。中小顧客を積極的に獲得する「成長投資」としてのカード決済導入に手応えを覚えているという。
B2Bカード決済がサプライヤーの利益を加速する
ONEがB2B取引にクレジットカード決済を取り入れたことでONE側(サプライヤー)、荷主側(バイヤー)双方に大きなメリットが生じた。B2B取引のデジタル化が難しかったのは、こうした業界の商慣習や相手との調整の必要性だったが、カード導入を成長のための投資と位置づけることで、それぞれの側のメリットを拡大していくツールとして活用していく狙いだ。
Visa細谷氏によると、実際にB2B取引にクレジットカード決済を導入したサプライヤーの約70%が売上増加を報告しているという。
これは、アジア太平洋地域におけるVisaの調査によるものだが、直接的な効果としては売上増加がもっとも多く、その他に未回収や支払い遅延の軽減、外部資金サービス利用コストの軽減、手数料に対する税務上の節減効果、キャッシュフロー改善などの効果があり、トータルでは請求金額に対して5.71%に相当する利益効果があるとのこと。
「クレジットカードが利用できるというところは、競合サプライヤーと比較して大きな差別化要因となり、お客様に選ばれる要因になります。同時に、未回収・支払い遅延といったリスク軽減や代金回収に関わるコストや負担の軽減も可能で、業務効率の改善にも繋がります。こういった部分を積み上げていくと、得られるメリットは圧倒的に大きいと考えます」(細谷氏)
企業間取引に広がるB2Bカード決済
そのうえで細谷氏は、「カード決済が解決できる課題は多い」とし、Visaとして様々な業界にクレジットカード決済を広めていきたいと意欲を示す。
例えば、飲食店などは、中小企業や個人事業主が多く、資金繰り(キャッシュフロー)の課題を抱えるケースが多い。こうしたカード決済に親和性の高い業種を軸に、B2Bカード決済を浸透させていく狙いだ。
そのひとつとして挙げるのは医療業界。小規模なクリニックなどを中心に、医薬品や医療器具の仕入れにクレジットカード決済を使うといった需要が大きいと考えているという。
また、トラベル業界も大きなポテンシャルがあると指摘。特に大手の旅行代理店(オンライン・トラベル・エージェント)がホテルの部屋や航空券の席を仕入れる際にクレジットカード利用するという部分は、Visaが戦略的に取り組んでいる領域で、グローバル規模で広めていきたいとのことだ。
日本では、2027年3月末に紙の手形・小切手の交換が廃止されることになっており、それを契機にB2B決済のデジタル化が大きく進むと考えられる。
企業におけるカード決済は、出張経費の精算などの限られた場面から、企業間取引に広がりつつある。Visaがこの先に見据えるのは、サプライチェーン全体を支えるインフラへの進化だ。ONEとVisaの取り組みは、その進化の具体例といえるだろう。支払側と受入側の双方にメリットをもたらし、業務効率化と取引拡大につなげる。その実践は、他の業界でB2Bカード決済を広げていくうえでもヒントとなりそうだ。













