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炊飯器を置かないキッチンはなぜ生まれた? パナ「ワイドコンロ」と日本の食卓
2024年2月20日 08:30
家庭用の3口IHクッキングヒーターといえば、手前に2口、奥に1口を三角形状に配置したものが一般的。そんななか、国内メーカーで唯一「横並び」の形状を取り入れたのがパナソニック ハウジングソリューションズの「ワイドコンロ」シリーズです。
2008年から発売されているこのシリーズは、IH・ガスどちらもラインナップ。見た目がスタイリッシュなだけではなく「狭いキッチンでも効率的に作業できる」という利点があります。鍋でごはんを炊くための「炊飯」モードや、お湯を沸かすのに適した「湯沸かし」モードなど、多彩なモードも特徴的です。
実際の使い勝手はどのようなものなのか? パナソニックショールームにて実機をチェックしてきました。
パナソニックブランドの第1弾商品
累計16万台出荷の人気シリーズであるワイドコンロは、2008年に松下電器からパナソニックに社名が変わるタイミングで生まれた、パナソニックブランド第1弾の商品です。
パナソニックのシステムキッチンの新しい顔を作ろうという声のもと、「忙しい主婦にもテキパキ料理ができるキッチン」というコンセプトで開発されました。キッチンの動線を見直し、コンロとシンクのアクセスを改善することで、キッチン内で効率的に作業できるようにしています。
ショールームで実際にワイドコンロを体験すると、その使いやすさがよくわかります。一般的な三角配置ヒーターの場合、遠くにある奥側のヒーターにアクセスするには腕を伸ばして調理をしなければなりません。
そのうえ、手前にもヒーターがあるので、手前側の鍋がグツグツと煮立っている場合は蒸気が腕にあたる危険も。一方、ヒーターが横並びのワイドコンロなら、どの鍋にも安全・手軽にアクセスできます。
俵型と比較して奥行きが必要ないので、天板手前に約16cmの作業スペースがあるのもワイドコンロの大きな特徴です。この作業スペースによりキッチンのに変動線化が生まれ、食材を切ったり盛り付けたりといった作業が効率的に行なえるようになるのです。
手前に作業スペースを確保した分、総作業スペースを減らすことなくIHとシンクの間にある作業スペースを狭くすることも可能。IHとシンク間を狭くすることで「鍋に水を入れる」「使用後のフライパンを洗う」といった作業をスムースにするというメリットもあります。
また、俵型が幅60/75cmなのに対し、ワイドコンロの幅は90cmに広がるため、2人での同時調理時にも余裕をもって作業ができます。
ワイドコンロの炊飯機能
加熱機能に多彩なモードを備えているのも、ワイドコンロの魅力の1つ。ハンバーグモードやホットケーキモードなど、センサーが熱加減を調節して焦げないように仕上げられる機能です。
その中でも印象的なのが「炊飯」機能。多くのビルトインIHクッキングヒーターで搭載されており、ワイドコンロにはIH・ガスともに標準的に備わっている機能ですが、意外と知らない人も多いそうです。
先日パナソニックが新しいキッチンシステムを発表した際も、この炊飯機能を使うことでキッチンに「炊飯器を置かない」提案をして話題を呼びました。
実際に、ワイドコンロでの炊飯も体験してみました。炊飯手順はシンプル。まず鍋に米と水をいれて30分浸水させたあと、炊飯ボタンを押して米の量(1~3合)を選択し、スタートボタンを押すだけ。
約40分前後で失敗なく美味しく炊飯ができます。炊飯後は自動的に加熱を停止するため、手間としては炊飯器とほぼ同じでした。炊飯後は保温ボタンを押すことで保温にも対応します。
炊飯に使う鍋の制限はありませんが、ステンレス鍋が使用されることを想定してのプログラムになっているそうです。いわゆる「始めちょろちょろ中ぱっぱ」となるように、沸騰したあとは弱火でお米をふっくら炊き上げます。
実際にワイドコンロで炊いたご飯は見た目がツヤツヤ、ごはんの一粒一粒がプリプリとハリのある炊き上がりでとにかく美しい見た目。食べてみると、芯まで柔らかくしっかり甘みを感じられました。
今回はスーパーでも売っている一般的なコシヒカリを使いましたが、説明書通りの水分量と浸水時間で炊飯すると、比較的モチモチ系の食感に仕上がるようです。ごはんは人によって好みがありますが、ほとんどの人は満足できる味だと感じました。
炊飯モードのほかに、ワイドコンロには「湯沸かし」モードもあります。今回湯沸かしモードも体験しましたが、200mlの水は50秒を待たずに沸騰してお湯になっていました。
炊飯、湯沸かし、どちらのモードもワイドコンロでは標準的に備えている機能で、そこには日本のキッチン事情の変化が大きく関係しています。
「昔は毎日ごはんを炊くという家庭が多かったのですが、今は週に2~3回炊いたものを冷凍する、という家庭が増えています。そうなると、炊飯器は使われない間はキッチンで場所を取る存在になります。そう考えたときに、コンロに炊飯機能や湯沸かし機能があれば、炊飯器やケトルが不要になり、キッチンをより有効に使えるのではと考えました」(西田氏)」
「魚焼きグリル」がないキッチン
多機能なワイドコンロですが、前述の「手前16cmの作業スペース」などを生み出すために犠牲になったものもあります。それが一般的なコンロなら当たり前のようにある「グリル」です。
IHヒーターとグリルは一体ユニットのため、グリルの扉をカウンター前面にあわせるには、IHヒーターもカウンター手前ギリギリに配置しないといけません。それをなくし、従来グリルがあった場所には引き出しを配置し、収納スペースとなりました。
グリルをなくしたのはワイドコンロ開発当初からのアイディアで、発売時は社内からも「これでは売れない」という声が挙がったそうです。しかし、フタを開けてみるとグリルがないことのクレームはほとんどなく、むしろ「グリルで魚を焼かない」という家庭が多くあったことから、この形は広く受け入れられました。
パナソニックだからこそのワイドコンロ
機能性だけではなく、ワイドコンロはスリムで見た目も魅力的。しかし、残念ながら日本メーカーで「横並び」タイプのコンロを発売しているのはパナソニックだけだそう。
その理由は、日本の一般的なシステムキッチンはビルトインIHクッキングヒーターのサイズが決まっているため。家庭用の3口ヒーターは天板幅が60cmか75cmの2種類。このため、多くの家電メーカーはビルトインIHクッキングヒーターの形を大きく変えられません。
一方、パナソニックは住宅設備事業も行なっており、IHクッキングヒーターだけではなく、システムキッチンまで作っています。このため、家電だけを作っているメーカーでは実現できない「横並び」という変形ワイドコンロシリーズを実現できたのです。
なおワイドコンロは、新築だけでなくマンションリフォームでも導入できますが、キッチンシステムがパナソニック以外の場合は、キッチン全体をリフォームすることで導入できるようになります。
ワイドコンロシリーズは現在、大きく分けて4つのモデルがあります。今回体験した「マルチワイドIH」のほか、3口のヒーターが横に並ぶ定番の「トリプルワイドIH」、カウンターの前後どちらからでも操作できる「対面操作マルチワイドIH」、3つのガスコンロが並ぶ「トリプルワイドガス」の4つです。IHだけでなく、調理はガス派という人にもワイドコンロは選んでもらえます。
今回体験したマルチワイドIHの特徴は、中央ヒーターを他より大きくデザインし、楕円形などの幅広大型鍋が利用できること。さらに、中央ヒーターは独立した2つのヒーターとしても利用できます。
つまり、マルチワイドIHは最大4口のIHヒーターになるのです。じつは日本メーカーのIHクッキングヒーターには4口製品がほとんどありません。3口ではヒーターの数が物足りないというユーザーにとっても嬉しい仕様です。
筆者は今まで「横並びの3口IHクッキングヒーター」があることは知っていましたが、実際に体験するまでは見た目のスタイリッシュさが特徴のシリーズと思っていました。
しかし、使ってみるとワイドコンロの魅力はむしろ使い勝手の良さにあると実感します。キッチンスペースが狭い家や調理効率にこだわりたい人は、一度ショールームなどで体験してみてはいかがでしょうか?