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TSUTAYAがレンタルから「SHARE LOUNGE」に移るワケ

CCCが展開する「SHARE LOUNGE」

「落ち着ける空間でじっくり仕事をしたい」「休日に本を読みながらリラックスしたい」「食事を持ち込んで子連れのママ会をしたい」――そんな要望をすべて受け入れてくれる空間があります。TSUTAYAや蔦屋書店を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の「SHARE LOUNGE(シェアラウンジ)」です。

SHARE LOUNGEには、テーブルやソファ、カウンターなど、様々な机とイスが用意されており、自分の好きな場所を選んで座れます。電源・Wi-Fiはもちろん、モニターやケーブルの貸出も行なっており、平日は朝から働く人で賑わっています。

フリードリンクやフリースナックが豊富に用意されていますが、持ち込みもOK。アルコールプランなら、提供されているアルコール飲料も楽しめます。

1店舗目は、2019年11月に渋谷スクランブルスクエアにオープン。現在は、国内25店舗、海外2店舗、提携店10店舗('24年1月末現在)を構えています。

モニター席
モニターがあり半個室として利用できる
フリードリンクやスナックを豊富に用意

いずれの店舗もアプリで事前予約が可能。会員登録は必要とせず、ドロップインでの利用も可能です。また、月額プランや法人プランも用意されています。1時間あたりの料金は店舗によって異なりますが、1,000円~1,600円前後。決して安くない金額ですが、それでも店内は賑わっているのが印象的です。

なぜ、SHARE LOUNGEが好評を博しているのか。また、TSUTAYAでのCDやDVDのレンタル事業や書店事業を中心としていたCCCが、SHARE LOUNGEという空間を提供する理由や今後の展開について、CCC 新業態開発部部長 渡邉 匠さんにお話を聞きました。

丸の内店の料金表
CCC 新業態開発部部長 渡邉 匠さん

ウィズコロナで注目されたSHARE LOUNGE

取材に訪れた「TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHI」は、2022年12月に東京駅の丸ビルにオープンしました。書店「TSUTAYA BOOKSTORE」の機能も備えており、さらにはコーヒーショップ「スターバックス コーヒー」が併設されています。書店で売っている雑誌や書籍は、3冊までならSHARE LOUNGEに持ち込んで閲覧可能です。

TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHIは、丸ビル開業20周年のリニューアルとともに始まりました。窓からは東京駅丸の内駅舎が見える好立地に、座席203席、個室17席、会議室2室が用意されています。女優ミラー付きブースや大型モニター付きブースといった特徴的な席も、追加料金なしで利用可能。男女比では女性の方が多く、30~40代の人が多く利用しているそうです。

場所柄、シェアオフィスとして利用する人も多いながら、個室では持ち寄りのパーティなども開催されているそうです。

TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHIのSHARE LOUNGEの場合、利用料金はドロップインのソフトドリンクプランが60分1,650円、延長するごとに30分825円掛かります。1日利用のプランもあり、ソフトドリンクプランが5,500円で提供されています。

丸の内店は、窓から東京駅丸の内駅舎が見える
会議室はSHARELOUNGEの利用料込みで、8名個室が1時間7,150円、10名個室が1時間9,900円
女優ミラー付きブース
丸の内店のサービス内容

2019年に第1号としてオープンした渋谷スクランブルスクエア店も同様の価格帯ですが、オープン当初は客足があまり良くなかったようです。

「2011年に代官山に蔦屋書店をオープンして、BOOK&CAFEという空間を楽しむ場所を作りました。10年ほど続けているうちに、もっと空間を楽しむためのビジネスモデルは何だろうと考え、時間課金制のカフェというスタイルが生まれました。それが、渋谷スクランブルスクエア店です。

とはいえ、始めた当初はあまり客足がありませんでした。そして開業からまもまく、新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、緊急事態宣言の発令中は渋谷スクランブルスクエア自体が休業していたのでSHARE LOUNGEも休まざるを得ません。

ですが、コロナ禍でリモートワークというスタイルが確立され、緊急事態宣言が解除された後にアフターコロナやウィズコロナと言われる時期が来ると、お客様の利用はどんどん増えました。やはりリモートワーク利用の方が多いですが、朝から開店している店舗が多いので、仕事前に資格の勉強で使う人もいます」(渡邉さん)

第1号店は、2019年にオープンした渋谷スクランブルスクエア店

SHARE LOUNGEのゆったりした造りが、感染対策になると考えたユーザーも多かったようです。SHARE LOUNGEでは、1人あたり1,200~1,300mmのテーブルの広さを確保しています。おおよそ2人分が座れる広さに1人で座れるので、居心地の良さだけでなく、安心して滞在できる場所と捉えられたことが功を奏しました。

ワーキングスペースとしての利便性と、ラウンジの居心地の良さを兼ね備える場所として認知が広がり、コロナ禍以降、客足は右肩上がりで増えています。

1人あたり1,200~1,300mmのテーブルの広さを確保しており、ゆったりした造りが受け入れられました
ソファ席も充実

レンタル事業から空間提案へ

1時間1,000円~1,600円前後というSHARE LOUNGEの利用料金は、決して安くはない価格帯ですが、それでも受け入れられている理由はどこにあるのでしょうか。

「SHARE LOUNGEの空間に価値を感じて、選んでいただいているのだと思います。体験価値に重きを置かれるようになりましたが、SHARE LOUNGEも同じく、『ここで過ごすこと』に価値を感じてもらえているのだと思います。

ここはただのコワーキングスペースではなく、私たちは、インスパイアする空間を提供したいと考えています。仕事でアイデアが浮かばない人たちが、周囲にある本を読んでヒントを得たり、リラックスすることでより良い発想が生まれたりするかもしれません。また、体験価値を上げるために、イベントを通じてコミュニティを作ることにも取り組んでいます」(渡邉さん)

丸の内店は吹き抜けになっており、2フロア構成
書籍のほかコミックも

空間のアップデートにも常に取り組んでいます。SHARE LOUNGEには直営店とフランチャイズ契約の店がありますが、直営店では「何がお客様に響くのか」をどんどんトライし、アンケート調査等を行なって検証しています。

ドリンクやフードにもこだわり、丸の内店ではきめ細かい泡でクリーミーな「ナイトロコーヒー」が楽しめるサーバーや、好みの味を選べるワインサーバーといった目新しいものもズラリと並んでいました。こうした挑戦で、フランチャイズ契約したいオーナーが安心して事業ができるような仕組みを整えているそうです。

「挑戦には失敗もつきもので、2号店となったTSUTAYA 田町駅前店は、レンタル、書店、SHARE LOUNGEのすべてを入れました。

選択肢の幅が増えるほどお客様が増えると考えたのですが、実際には何のお店だかわかりづらくなってしまったようです。そこで、1年後ぐらいに全部SHARE LOUNGEに改装し、一部書籍や雑貨の販売も行なっていますが、改装してからの方が好調です」(渡邉さん)

バルミューダのトースターで軽食を温められる
ビアサーバー
ワインサーバー

現在展開しているSHARE LOUNGEは、元々レンタルサービスとして機能していたTSUTAYAを改装して今の業態になっている店舗もあります。動画・音楽配信サービスの普及とともにCD/DVDレンタルサービスは存在感が薄れつつありますが、SHARE LOUNGEにチャレンジしていくというのは一見思い切った判断に思えます。

「レンタルビジネスも空間ビジネスも、生活提案であるという点では共通しているのです」と渡邉さんは話します。

「レンタルビジネスでも、単に映画や音楽の貸し出しを行なっているのではなく、作品を通してお客様のライフスタイルに影響を与えるきっかけになる、という思いで展開していました。その中で、時代の移り変わりとともに、空間にいることや体験すること、過ごした時間と場所を大事にする世の中になり、私達のライフスタイル提案は空間ビジネスにも広がっていったということです。

確かにTSUTAYAがSHARE LOUNGE? と思われるかもしれないですが、六本木でBOOK&CAFEとして滞在する空間の提供は2003年から行なっており、その流れは代官山や二子玉川にも広がっていきました。いきなりラウンジを始めたのではなく、世の中の変化に合わせて変わっていったという認識でいます」

六本木のBOOK&CAFEが現在のSHARE LOUNGEにつながっている

スターバックス コーヒーの併設が相乗効果を上げる

丸の内店を含め、SHARE LOUNGEはスターバックス コーヒー併設の店舗が半数近くあります。なぜスターバックス コーヒーを併設しているのでしょうか。

「併設したらカニバリゼーション(競合し、売上を奪い合う)を起こすかもしれないと考えたのですが、空間を提供している事業者同士なので、むしろ良い相乗効果が起きています。ちょっとだけ休憩したい人はカフェで、ゆっくり滞在したいという人はSHARE LOUNGEでというように、選択肢の幅を増やすという意味で併設しています」(渡邉さん)

スターバックス コーヒーを探して訪れた客や、書店に本を探しに来た客がSHARE LOUNGEを見つけ、休憩するパターンも多いそうです。また、丸の内店では、丸ビル内にあるということもあり、滞在中の客が同じフロアのショップを眺めるなど、ビルのテナントに対しても良い効果を上げていると渡邉さんは話します。

SHARE LOUNGEのカフェマシン。種類は豊富だが、スターバックスの併設は相乗効果があるという

実は、CCCがレンタルビジネスから空間ビジネスにシフトチェンジしたきっかけは、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIにあります。

「先にも話しましたとおり、滞在する空間という考えは、2003年に初めてBOOK&CAFEにチャレンジした、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIから始まっています(現在は六本木 蔦屋書店)。そのときに、物を売る、買うだけの場所ではなくて、そこで過ごす場所という考え方が生まれてきました。

さらに、2011年の代官山 蔦屋書店をオープンする際に、現会長の増田宗昭がこれからは企業の時代ではなく個人の時代になる、というコンセプトを掲げました。財務資本の会社ではなく知的資本を持っている会社が世の中の中心になる、と」(渡邉さん)

まずは全国100店舗を目指す

このほかにも、ユーザーのニーズに沿うよう、ホテル、オフィスビル、マンションなどさまざまな場所での出店を考えています。

「ビジネスユースでは、商業の中心地であったり、ターミナル駅であったりと利便性が高い場所での出店が求められます。既に出店している『SHARE LOUNGE 外苑前』は、オフィスビルの中に入っていますが、一般の人も使うことができます。

それ以外に私たちは、ホテルや住宅の領域でもSHARE LOUNGEの可能性があると考えています。『SHARE LOUNGE 押上』はリッチモンドホテルプレミア東京スコーレの中にあり、一般利用のほか、ホテルの宿泊料にSHARE LOUNGE利用料も含まれているプランを提供しています。また、『SHARE LOUNGE 亀戸 with H1T』は、プラウドタワー亀戸クロスというマンションの1階にあります」

「SHARE LOUNGE 押上」はリッチモンドホテルプレミア東京スコーレの中にあり、ラウンジ利用を組み込んだ宿泊プランもあります

住宅に関しては、住民専用ラウンジを併設しているマンションにおいて、年数が経つにつれ利用する方が減り、維持が難しくなるというお話を聞いたことがあります。現在展開している亀戸とはまた別の構想になりますが、「マンション共有部にSHARE LOUNGEが入り、住民以外のSHARE LOUNGEの会員も使えれば、永久的に賑わうかもしれない。将来的にチャレンジしたいと考えている業態です」と渡邉さんは話します。

「今後SHARE LOUNGEでは、オフィス、ホテル、住宅の3つの領域にも注力し、店舗を増やしていきたいと考えています。一定の拠点数を超えることがお客様の価値にもなると考えているので、まずは100店舗の展開を目指し、将来的により利便性高くSHARE LOUNGEを使っていただける店舗数まで拡大を目指していきます」(渡邉さん)

SHARE LOUNGEはどの店舗も広々とした空間に、座り心地の良い椅子、豊富なフード&ドリンクと、快適に過ごせる工夫が随所に施されています。一度足を踏み入れると、何時間でもいたくなるような居心地の良さがあります。時代にあわせて変化するTSUTAYAの展開に、これからも注目です。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。