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高額家電は値引き不可? パナ・日立が進める「指定価格制度」とはなにか

日立GLSの指定価格第1号商品となるBD-STX130J(右)と、BD-SX120J(左)と、イメージキャラクターの芦田愛菜

家電の指定価格制度が広がろうとしている。

指定価格制度とは、メーカーが指定した価格で販売を行ない、店舗主導による値下げや在庫処分時の値引き販売ができなくなる一方で、メーカーは販売店の在庫リスクについて責任を持ち、売れ残った商品の返品も可能にする仕組みだ。返品を可能にしていることから、メーカーが販売価格を決定することを禁止する独占禁止法には抵触しない。

パナソニックが先行し、日立も導入開始

パナソニックが2020年度から、ナノケアドライヤーやドラム式洗濯乾燥機で試験的な運用を開始し、2022年度には対象商品を拡大。現時点で、国内白物家電の約3割が指定価格制度による販売となっている。先行したドラム式洗濯乾燥機では、販売金額の約8割が指定価格による販売だという。2024年度には、白物家電全体で5割にまで引き上げる計画だ。

パナソニックが2023年10月から発売するななめドラム洗濯乾燥機「NA-LX129CL」

2023年10月からは、日立ブランドの家電事業を行なう日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が、指定価格制度を導入した。第1弾となるドラム式洗濯乾燥機の新製品2機種を発表。11月から発売する予定だ。日立GLSでは、約1万5,500店を対象に、「日立家電品正規取扱店」の契約を新たに結び、これらの販売店でのみ、指定価格の新製品を扱える。2024年3月には、1万6,000店舗に拡大する予定だ。

日立GLSでは、今後1年間で、製品ラインアップの約10%を指定価格制度の対象にする目標を掲げている。今回のドラム式洗濯乾燥機以外には、具体的なカテゴリーは明らかにしていないが、同社では、洗濯機、冷蔵庫、掃除機を重要分野に位置づけているほか、電子レンジや炊飯器で付加価値モデルを商品化しており、これらの商品の一部が対象になりそうだ。ちなみに、既存商品は指定価格の対象にはならず、新製品の発表にあわせて、指定価格商品のラインアップ広げていくことになる。

指定価格制度は値下げ前提の商習慣転換を狙う

パナソニックと日立GLSが指定価格制度に乗り出した背景には、事業の健全性維持に向けた危機感がある。

白物家電は、商慣習として値下げが前提となっており、新製品の発売から一定期間を経過すると、2割引きから4割引きの価格で販売されることが多い。メーカーでは、この販売価格を見直すために、あまり機能が進化していなくても、毎年1回、マイナーチェンジした新製品を投入し、値崩れした価格をもとに戻す。だが、このときにも、在庫処分という形で大幅値引きが行なわれ、メーカーや販売店の利益を圧迫するという状況が生まれている。

日本では、主要白物家電の普及率は90%以上に達し、買い替え需要が中心となっていることや、一般世帯数は2023年をピークに減少に転じると予測されている状況にある。加えて、多くのメーカーが市場に参入しているのが日本の家電市場の特徴であり、全国に広がる地域販売店や大手量販店によって構築されたきめ細かな販売店網の存在や、昨今のECサイトの利用率の高まりによって、「オーバーストア」と指摘される状況にあるのも事実だ。

こうした状況が進展すれば、価格競争はさらに激化し、メーカーや販売店にとっては、利益を確保することが難しくなる。業界全体として、事業の健全性を維持できなくなるのは明らかだ。

先行したパナソニックの品田正弘CEOは、「市場の論理で価格が下がることに対して、メーカーが意思を持って、価格コントロールをしていくことになる」と、指定価格制度を位置づけ、「パナソニックは、国内家電市場のトップメーカーとして、業界全体の発展を考え、需要が縮退するときに、過当な競争が起きないように備えをしなくてはならないと考えた。その問題意識をもとにスタートしたのが新販売スキームによる流通改革である。価値があるものを、価値に見合った価格で流通させることが狙いである」と語る。

パナソニック 品田正弘CEO

指定価格制度が浸透することで、メーカーにとっては、経営の安定化が図れるというメリットが生まれる。

長期間に渡る値崩れがないため、販売ピークをライフサイクルの前半に引きつけることで、経営の安定化が図れるほか、商品サイクルの長期化によって、不要ともいえる毎年のマイナーチェンジに貴重な開発リソースを割くことがなくなり、革新的な商品の開発に投資を振り向けることができる。この結果、機能の高い商品を適切なタイミングで投入でき、顧客満足度の向上につなげられるというわけだ。

日立GLSの伊藤芳子常務取締役 COOは、「良い商品を出すために、お客様の声に耳を傾け、腰を据えて開発できる期間を持つことができる」と語り、商品ライフサイクルを2年間に長期化し、これによって創出される新たなモノづくりの成果に期待を寄せる。

日立GLSの伊藤芳子常務取締役 COO

パナソニック くらしアプライアンス社の松下理一社長も、「100個も、200個も機能を搭載しても、使われている機能は、せいぜい10個ぐらい。毎年、新製品を投入するために余計な機能が搭載され、多機能化が進むという悪循環を断ち切れる。顧客価値にフォーカスしたモノづくりができ、商品を磨くことができる」と語る。

課題とパナソニックの「実績」 高級家電では普通の施策

だが、いくつかの課題も指摘されている。

なかでも、メーカーにとっては、市場価格の変動に追随できにくくなるため、指定価格を導入していない競合他社にシェアを奪われやすくなるという点があげられる。

実際、2022年後半には、過剰な流通在庫を背景に各社による一斉値下げが行なわれたが、パナソニックは、「一時的なシェアダウンは覚悟の上」(パナソニックの品田CEO)として、この流れに乗らずに価格を維持。結果として、冷蔵庫や電子レンジのシェアは、前年度の1位から、2位に後退してしまった。

しかし、パナソニックの白物家電事業全体では、価格改定や新販売スキームによる効果として、200億円を超える利益貢献があり、「同業他社と比べて、収益性へのダメージはある程度食い止められたと判断している」(パナソニックの品田CEO)と総括した。

とくに、ドラム式洗濯乾燥機やナノケアドライヤーでは、販売価格を維持しながらトップシェアを維持。これらの製品は、同社の独自技術に支えられ、商品力が強い分野であるからこそ、なしえた成果だといえる。

「競争力がない商品は目論見通りにいかなかったという反省がある。言い換えれば、競争力のある商品を出し続けなくてはならない」と、パナソニックの品田CEOは語る。

日立GLSが、指定価格制度の最初の商品に、ドラム式洗濯乾燥機を選んだのも、同社が最も差別化しやすい商品分野であることの裏返しだ。この領域は、パナソニックと日立GLSの2社で、約6割の市場シェアを持つ。つまり、他社と差別化ができる付加価値商品だからこそ、指定価格制度が成り立つというわけだ。

実は、外資系メーカーを中心に、一部の付加価値モデルは、値引きが少なかったり、どの販売店でもほぼ同じ価格帯で販売されたりしているケースがすでに存在している。家電ではないが、アップルは長年に渡って、どの店舗で購入しても基本的には同じ価格であり、アイロボットやダイソン、バルミューダといった付加価値モデルで家電事業を推進しているメーカーも同様だ。競合商品を上回る価値の高さが、販売価格の維持につながっている。

販売店・消費者のメリット・デメリット

では、指定価格制度は、販売店や消費者にとっては、どんなメリットとデメリットがあるのだろうか。

販売店にとっては、値崩れを過度に心配することなく、安心して販売ができ、商品が売れ残るリスクが無くなるのに加え、仕入原価を切った在庫処分が不要となるメリットがある。だが、どの店舗に行っても同一の価格で購入できるため、販売店がショールーム化してしまう可能性が課題として指摘されている。

しかし、この点についても、「販売店は、価格訴求ではなく、製品の価値の訴求に注力でき、接客力やアフターサービスによる差別化を図ることが可能になる。付加価値販売の強化で収益性を高めることができる」(日立GLS)とする。

一方、消費者にとっては、値引き交渉ができなくなり、特別価格では購入できなくなるという点ではデメリットかもしれない。だが、値引き交渉のために複数の店舗を回らなくて済むこと、同一の購入価格でアフターサービスが充実した店舗や、自宅に最も近い店舗を選択することができるといったメリットが想定される。

パナソニックの品田CEOは、「消費者は、いつでも、どこでも、高付加価値商品を適正な価格で購入できる安心感と信頼感を得られる」と説明する。

ちなみに、日立GLSが、2022年9月に発売したドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム BD-STX120H」の発売時の市場想定価格は44万円前後であったのに対して、今回発表した指定価格対象商品である日立初の13kgモデル「ビッグドラムBD-STX130J」の価格は37万円前後、12kgモデルの「ビッグドラム BD-SX120J」では33万円前後となっており、発売時の価格が下がる傾向にあるともいえる。

パナソニックや日立GLSでは、今後も指定価格の対象商品を拡大する方針を示している。また、こうした動きに追随するメーカーも出てくるだろう。

パナソニックの品田CEOは、「消費者、流通、メーカーにとって、三方良しを実現できる」と自信をみせる。

その成果を正しく評価できるようになるには、もう少し時間がかかりそうだ。だが、業界の立場からいえば、健全な事業の形を維持するための一歩としては、大きく評価できるものだといえる。

大河原 克行

35年以上に渡り、ITおよびエレクトロニクス産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ウェブ媒体やビジネス誌などで活躍中。PC WatchやクラウドWatch(以上、インプレス)、ASCII.jp (角川アスキー総合研究所)、マイナビニュース(マイナビ)、ITmedia PC USERなどで連載記事を執筆。著書に、「イラストでわかる最新IT用語集 厳選50」(日経BP社)、「究め極めた省・小・精が未来を拓く エプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)など