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「Androidは世界一オープン」 幹部が語るタブレットへの期待と未来

Google AndroidおよびGoogle Play、Wear OS プロダクトマネジメント担当のサミール・サマット バイスプレジデント

Google I/O 2023では、Pixel スマートフォンやタブレットのほか、Androidにおいても多くのアップデートが紹介された。今回、AndroidとGoogle Play、そしてWear OSのプロダクトマネジメントを統括するサミール・サマット副社長へのインタビューをお届けする。

取材は米マウンテンビューのGoogle本社で行なわれた。Google社内にはドロイド君も

デジタルデバイスにとって、Androidは大きなエコシステムになっている。多くの人がスマートフォンを思い浮かべるだろうが、それだけでなく、非常に幅広いデバイスに向けたOSとして使われている。

Google I/O 2023の基調講演でも、Androidデバイスの広がりがアピールされた

GoogleはAndroidの現状をどう捉え、どのような方向に進化させようとしているのだろうか? 複数の観点から、サマット副社長に聞いた。

タブレットの「プロダクティビティ」強化を重視

Google I/O 2023で、GoogleはAndroidの次バージョンである「Android 14」について語った。基調講演では合わせて、Googleの新ハードウェアである「Pixel 7a」「Pixel Fold」「Pixel Tablet」についても発表している。

先日発表された「Pixel Fold」
同じく「Pixel Tablet」

なかでも現在、サマット副社長が重視しているキーデバイスはなにか? そうたずねると、彼は「1つはタブレットだ」と答えている。

サマット氏(以下敬称略):タブレットには大きな期待を抱いています。

私たちの調査によると、多くの人はタブレットを家の外に持ち出していないようです。もちろん、コーヒーテーブルの上に置いたり、ベッドの横に置いたりしているかもしれませんが。

とはいうものの、タブレットの面白いところは、消費デバイスとしてだけでなく、家庭での生産性向上デバイスとしても使えることだと思います。時にはノートPCの代わりに使い、映画を見るためにも使う。

その両方が可能だから、非常に重要なジャンルなのです。だからこそ、家庭での利用を想定したPixel Tabletに期待しています。

Androidタブレットは幅広い。低価格なものからハイエンドまで色々なデバイスがある。一方でこれまで、市場の中心は低価格のものであり、ハイエンドではシェアがなかなか拡大してこなかった。

サマット:Androidはオープンであることが特徴。ですから、私たちは多くのメーカーと協力しています。結果として、消費者にとってはさまざまなタイプのデバイスの選択肢がある、ということです。

例えば、私の子どもたちは2人ともタブレットを持っていて、彼らにとってはメインのコンピューターです。それらのタブレットは最高級なものではありませんが、学習用ソフトやYouTubeの視聴などに使える。中間くらいのグレードですかね。

一方、私はサムスンの「Galaxy Tab S」を使っていますが、これはハイエンドの部類に入るものです。

さまざまなサイズ、さまざまな機能を持つ、多くの選択肢を提供します。

現状重要なことは、Androidにとって、ハイエンド・タブレットの分野が本当のチャンスだということです。この分野では、マルチタスクやプロダクティビティ(生産性)を満たす機能が求められます。サードパーティ開発者とGoogleによるアプリケーションのサポートが非常に重要です。

私たちはこの分野をより良くするために多くの投資を行なってきました。

この投資は、タブレットだけでなく、小型のタブレットになるハイエンド端末であるフォルダブル(二つ折り)端末にも役立っています。

アプリ間の移動、タスクバーでの作業、さまざまなアプリをそこにドッキングしてドラッグ&ドロップで使えるようにするなどの改善は、「Android 12L」で始めたもので、継続的に取り組んでいます。

彼のコメントとして興味深いのは、「Galaxy Z Fold」やPixel Foldなどの二つ折りスマホを「ミニタブレット」と位置付けていることだ。

スマホとして使うだけでなく、プロダクティビティも視野に入れたタブレットとしての使い勝手を向上させる、という発想はわかりやすい。

もう一つ、タブレット向けに重要な施策が「アプリ」だ。

サマット:Googleのアプリケーションも50以上を大画面向けに最適化し、使いやすくしています。サードパーティーのアプリケーションについても、Minecraft・Disney・Spotifyなど、多くのデベロッパーと協力して、彼らのアプリがうまく動作するようにしました。

そして、多くの人々が本当に求めているのは、「すべてのアプリデベロッパーから、タブレットに最適化された体験が得られる」ことです。第2四半期に展開するPlayストアの新バージョンは、大型スクリーンにのみ対応するものです。これは大画面のために完全に再設計されたものです。大画面向けのアプリを強調し、大画面デバイスのレビューとスクリーンショットだけを表示するようになっています。

つまり、スマートフォン向けの情報ではなく、そのアプリのタブレット版を使っている人のレビューを表示し、スクリーンショットは大きな画面で見たときの様子を示しています。

これは、タブレット向けのアプリをアピールしたいデベロッパーにとって重要であると同時に、消費者にとって重要な変化です。

Google製のアプリ50以上がタブレットに最適化され、サードパーティー製のものも改善が進んでいるという

ジェネレーティブAIはスマホにも

今回のGoogle I/Oで、同社は「ジェネレーティブ(生成系)AI」について多くの発表を行なった。次期バージョンである「Android 14」にも、ジェネレーティブAIを使った機能は搭載されている。

スマホでもジェネレーティブAIの活用を推進

サマット:Androidは優れたカスタマイズ性を持っています。2年前「Material You」を導入し、デバイス全体のカラーパレットを統一できるようにしましたが、今年は、ジェネレーティブAIによる壁紙生成を発表しました。簡単なプロンプトによって、あなただけの壁紙を生成します。

Android 14では、壁紙をジェネレーティブAIで生成可能に

もう一つのジェネレーティブAIを使った機能が、Googleのアプリケーション群です。Gmailなどでより簡単に執筆したり、要約したりできます。

Google製アプリなどから、PC同様にジェネレーティブAIは導入されていく

ジェネレーティブAIの導入はまだはじまりに過ぎません。まずは消費者にわかりやすく、使いやすく、シンプルなところから始めたかったんです。

ジェネレーティブAIをスマートフォンに組み込む、という未来には大きな可能性がある。一方で、ジェネレーティブAIは同じAIでも、画像認識・音声認識などとは違う。必要な処理能力も変わってくるだろう。サマット氏も筆者の意見に同意する。

サマット:現在、ジェネレーティブAIの多くはサーバー上で実行されています。しかし、技術の進展は速い。時間が経過するとともに、デバイス上でAIモデルを動かす機会も増えてくるでしょう。

サーバーではなくデバイスの上でAIを動かす理由として、まず存在するのはプライバシー上の懸念です。データをクラウドに送らないで処理したい、というニーズは増えるでしょう。またレイテンシー(処理遅延)上も有利で、素早く反応できます。

パラメータはすべて調整可能なので、1つのモデルだけでなく、多くのモデルが登場すると思います。非常に特殊な問題を解決するためにチューニングされ、フィッティングされたモデルが多数登場することになるでしょう。そして、そのうちのいくつかはデバイス上で動くかもしれません。

現状は未解決の問題が多いのですが、技術の進歩は素早く、その変化を我々は目の当たりにすることになるでしょう。また来年には、多くの進化を見ることになると思います。

私たちはAndroidチームとして、AIモデル構築ツールと協働することを目指しています。もちろん、私たち独自のツールもありますが、他社とも連携していきます。

また、半導体製造会社との連携も図っています。クアルコムからMediaTek、GoogleのTensorまで、あらゆるデバイス上での実行を、可能な限り最適化できるように努めています。

この分野は非常に初期段階ですが、多くのチャンスがあります。

ここで関連する質問をもう一つ。

現在、Androidデバイス向けにはARM系のアーキテクチャを使ったプロセッサーが多く使われている。しかし世の中には、x86系のプロセッサーもあり、さらには、ライセンスがオープンなRISC-Vもある。Androidのエコシステムを広げる上で、プロセッサアーキテクチャの変化や拡大をどう考えているのだろうか?

サマット:ジェネレーティブAIの活用にも大きく関わってきますし、プロセッサ・アーキテクチャの進化や命令セットの進化について、現在は非常に興味深い動きが起きている時期である、と認識しています。

一方で、プロセッサ・アーキテクチャ多様化については、あまり騒がれている状況にはありません。バックグラウンドで起きている変化です。

対応拡大などについて、私たちはパートナーと一緒に実現していきたいと考えています。

半導体に関する取り組みには時間がかかりますが、この分野には期待していますし、もっと話を続けるべきものであることは間違いありません。

スマートウォッチやXRデバイスで続くサムスンとの協業

Googleは、スマートウォッチ向けの「Wear OS」にも力を入れている。Wear OSは2年前、OSのコアをAndroidベースからTizenベースに変えた。サムスンとのパートナーシップによるものだが、その現状はどうなっているのだろうか?

Wear OS 3ベースのスマートウォッチは、ローンチ以降5倍の量に増えた、とアピール

サマット:サムスンとのパートナーシップは素晴らしいものです。その継続的なパートナーシップの一例が、今回のGoogle I/Oで発表した、新しいウォッチフェイスのフォーマットです。

Tizenは多数のウォッチフェイスを作ることができます。

そこで私たちは、サムスンのチームと協力して、Wear OS向けに、新しい「ウォッチフェイス・フォーマット」と呼ぶものを開発しました。

これはXMLをベースにしたフォーマットです。ウォッチフェイスを作る「Watch Face Studio」という」と呼ばれるものがあるのですが、これは、開発者がコードを書かずにウォッチフェイスをデザインするためのソフトです。デザインはウォッチフェイスのフォーマットに変換され、コンパイルされた後、あなたのデバイス上で実行することができます。

この方式の利点は、美しいウォッチフェイスを簡単に作ることができ、しかもそのウォッチフェイスは最も電力効率の良い方法で実行されることです。なぜなら、あなたがコードを書く代わりに、コンパイラがあなたのデザインをこのウォッチフェイスのフォーマットに変換し、それをデバイスで解釈するからです。

デバイスのプロセッサが小さくなれば、消費電力も少なくなります。ウォッチフェイスを再コード化する必要はなく、新しいウォッチフェイスのフォーマットでウォッチフェイスを再コンパイルするだけで、自動的にそうした新しいイノベーションを利用することができます。

そのため、あなたのウォッチフェイスは、今後もずっと利用可能になります。

これは、サムスンとの継続的な協業の一例ですが、サムスンはTizenでスマートウォッチを作る上で多くの知見を持っており、ウォッチフェイスもその1つです。

サムスンとの協業は、もう1つ予定されているものがある。Google I/Oの基調講演では、Googleとサムスンが共同で「新しいXR(VR・ARなど)デバイスを開発中」であることが改めてアピールされた。このデバイスは年末までに詳細の公開が予定されている。

今年の後半に向け、Googleとサムスンが共同開発したXRデバイスの詳細が公開される

「まだ細かい部分を話すことはできない」とサマット氏は言う。しかしヒントはくれた。

サマット:XR、すなわちARやVRは非常にエキサイティングな領域です。一方で、まだ未成熟なジャンルでもあります。Googleも以前はこの分野のパイオニアでした。しかし、技術は進化しており、今はより新しいことが可能になっていると思います。

Wear OSにおけるサムスンとの提携で学んだことは、サムスンとGoogleが一緒になって何かを作ろうと決めたら素晴らしいものができる、ということです。サムスンとは非常に良好なパートナーシップを継続しています。彼らはXRについて考えていましたし、私たちもXRについて考えていました。だから、一緒に開発するのは自然なことです。

今日のところはここまでにさせてください。私はこのプロジェクトにとても期待しています。私たちが何を作ることができるのか、今年の後半にはもっと多くのことをお伝えできると考えています。

Androidは「世界一オープン」 Pixelもチームの1つ

Androidは強力なプラットフォームだ。一方で、アプリケーションストアなどの影響力については、各国で規制も含めた議論がなされている。「スマートフォンのプラットフォーマーは独占的にエコシステムを支配している」という指摘について、サマット氏は「多くの部分が誤解に基づいている」と話す。

サマット:まず、私たちはAndroidを常にオープンなシステムとして設計してきたということをお伝えしたいと思います。Androidは、コンピュータの歴史上、最もオープンなオペレーティングシステムの1つだと思います。

中にはGoogleのサービスがまったく入っていないデバイスもありますが、それはそれでまったく問題ないです。

第二に、私たちは、自国民にとって最適なテクノロジーを決定しようとしているすべての政府を尊重しています。そして、政府は、民主的に選ばれた政府とともに、市民とともに、この技術をどのように機能させるべきかを決定します。

同時に、いくつかの誤解があると思います。

一つの誤解は、Google Play以外のストアも提供できる、ということです。選択肢はたくさんありますから、誤解です。例えばサムスンのGalaxyには、Google Playと同じようにGalaxy Storeが組み込まれています。その他にも、スマートフォンを製造しているほとんどのOEMがストアを持っています。実際、Android端末の50%以上が2つ以上のストアを搭載していると言われています。さらに、サイドローディングをはじめ、さまざまなオプションがあります。

ですから、私たちは常に、開発者が「Google Playか、それ以外のストアか」を選択できることこそ、あるべき姿だと考えています。

もちろんGoogle Playで配信する場合、Googleとしても、その場の価値に基づくビジネスモデルを持てます。

私たちは、Androidやその他のプラットフォームの主要なアプリストアの中で、最も低いサービス料金を設定しており、多くの価値を提供していると考えています。

ハードウェア製品という側面で見ると、同じスマートフォンやタブレットの中で、Googleはプラットフォーマーでありつつ、「Pixel」で他のAndroidデバイスと競合する立場でもある。この点についてはどうだろうか。

サマット:私はAndroidチームの責任者です。ですから、さまざまなプレーヤーと提携しています。

そしてPixelも、私たちが一緒に仕事をしているチームのひとつです。

Pixelはもちろんですが、サムスンとも緊密に連携していますし、その他の企業とも連携しています。サムスンとは、早い段階から二つ折り型スマホの開発で協力し、腕時計でも協力し、XRのような新しいプラットフォームも一緒に構築しています。私たちはサムスンとのコラボレーションを積極的に進めています。

より大きな競争は、このオープンなエコシステムとクローズドなエコシステムの間にあると思うんです。どうすれば、クローズド・エコシステムよりもオープン・エコシステムに多くの消費者を興奮させることができるでしょうか?

その1つの方法が、選択肢を提供することです。選択肢を提供し、さまざまなデバイスを自由に行き来することができて、すべてのデバイスがよりよく連携することです。

これこそが、バリュー・プロポジションの一部であると私は考えています。私たちは、さまざまなメーカーと常に協力し、今後もポジティブな形で仕事をしていきます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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