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ガストの「猫ロボット」成功のワケ わずか1年半で3000店導入

ガストやバーミヤンで、猫型ロボットが料理を運ぶ様子を見たことがある人は多いのではないでしょうか。同店を展開するすかいらーくグループは、'22年12月にこの猫型配膳ロボットを、全国のガスト、しゃぶ葉、バーミヤン、ジョナサン約2,100店舗に、3,000台を導入したと発表しました。

導入したロボットは、中国の大手ロボットメーカーPudu Roboticsが開発した猫型配膳ロボット「BellaBot(ベラボット)」。すかいらーくでは'21年8月に実証実験を開始してから、わずか約1年4カ月でのスピード導入となりました。ベラボットを導入した経緯や狙い、現在の運用状況などについて、すかいらーくレストランツ 営業政策チーム ロボット導入責任者の花元浩昭氏に聞きました。

すかいらーくレストランツ 営業政策チーム ロボット導入責任者 花元浩昭氏

料理を運ぶ従業員の歩行数が半減

すかいらーくグループでは、基本的にベラボットを配膳専用ロボットとして使用しています。食事やドリンクをトレイに載せ、画面上のテーブル番号をタッチすると、指定したテーブルの近くまでベラボットが運んでいき、注文したお客がそれを受け取る。トレイ上に物がないことを赤外線センサーで検知すると、自動的にホームまで戻るという流れです。

導入の決め手になったのは「顧客満足度」と「従業員の働きやすさ」でした。

「お客様満足度を向上させる上で、ピークタイムにお客様をお待たせすることなく、客席の回転率を上げられること。あとは従業員の働く環境をしっかり整えられること。この2つを達成できるかどうかを検証し、実現可能だろうと判断しました。マネジメントのトップも実際に来店して何度もロボットを見て、決断してもらいましたので、実証実験から展開まで比較的スムーズに進んだと考えています」(花元氏)

導入目的

配膳ロボットは他メーカーも含めていくつかあるが、その中でベラボットを選定した最大の理由は「走行の安定性」だと花元氏は語ります。

「他社も含めて何種類か実験しました。例えばガストだとハンバーグやスパゲティ、アルコールなどいろいろなものを実際に載せて走行させ、走行の安定性や、お客様目線で取り扱いやすいかなどを総合的に判断しました。実際にワークサンプリングを取り、どれが一番効果的なのかについても検証しました。また、お店によっては1台だけでなく2台や3台のロボットを運用する場合もあるので、複数台運用する場合のスムーズさもベラボットが一番良かったのです」(花元氏)

他社も含めて何種類かのロボットで実験した結果、走行の安定性などを理由にベラボットを採用

プラスアルファとして、「キャラクターが良かったことも結果的にいい方向に進んだと思います」と花元氏は続けます。

「ベラボットは耳を触ると声出して喜んだりと反応するんです。業務の合間を見つけて従業員がお子様に『耳を触ると喜ぶんだよ』と言って、実際に触ってもらったりといったコミュニケーションが生まれています。

従業員が『今日もよく働いてくれてありがとう』みたいなことをロボットに話しかけているのをお客様がご覧になられて、SNSにその様子を投稿されるといったこともありました。そういう意味ではお店の雰囲気を良くするロボットだなと感じています」(花元氏)

触ると反応するなど複数のリアクションを用意

導入効果は数字にも表れました。

「例えばガストでは、基本的に料理を運び続ける担当者がいます。ピークタイムにはキッチンからたくさん料理が出てくるため、ほかのメンバーがフォローに入って配膳を行ないます。しかしロボットを導入すると、その作業をロボットが肩代わりするので、ヘルプがいらなくなります。

それによって、ノンピーク時にはドリンクバーを今までよりきれいにしておく、トイレチェックも頻繁に行なうなどのサービスの向上につなげながら、ピーク時には今までより早く空いたテーブルを片付けることができ、次のお客様をスピーディーにお通しできるようになりました。従業員の負担という点でも、料理を運ぶ従業員の歩行数が約半分ぐらいに減りますので、従業員の負担軽減にもなっていると思います」(花元氏)

インストラクター制度でほぼ全店導入

'21年8月に数店舗で実証実験を開始し、11月下旬から本格導入を開始。

「'21年末時点では約150店舗で約180台程度でしたが、'22年の1年間で2,100店舗3,000台まで拡大しました。ガスト、しゃぶ葉、バーミヤン、ジョナサンの4つの業態については、導入に適していない店舗以外はすべて導入が完了しています。これだけのスピード感で展開できたのは、関係先や取引先のご協力もありました。それに加えて、当社内にインストラクター制度を設けて、インストラクターが各地で活動した結果、導入がスムーズに進んだと考えております」(花元氏)

現在はガスト、しゃぶ葉、バーミヤン、ジョナサンなど、2,100店舗に3,000台導入

インストラクターは、もともと店長として勤めていた社員など最大17人で構成。その役割は「ロボットの初期設定」と「従業員のオペレーション指導」の2つ。

導入時には、まずロボットが店舗内を走行してマップを作成し、テーブルの配置などを記憶していきます。

「ロボットが動きながら自分で地図を作っていき、どこに障害物があってどこが壁なのかなどを認識します。次は各テーブルの停止位置にロボットを止めて、停止する位置と向きを設定します。設定自体は取引先の方が行なうのですが、お店の知識を持っていないとうまく設定できません。

そこで『このテーブルはこういう向きでこの位置に止めてください』とか、『ドリンクバーはこういう形をしているので、少し真ん中より左側を歩くようにしてください』とった細かい設定を、取引先のエンジニアの方に依頼し、従業員もお客様もストレスが少なく運用できるように設定します」(花元氏)

導入時は、ロボットが店舗内を動きながらマップを作成し、テーブル配置などを記憶していく

設定が完了したら、1日かけて従業員のオペレーション指導を行ないます。

「今でこそ『ガストと言えばロボット』みたいになってきましたが、最初はロボットの認知度も少ないため、どういうものかなかなかイメージがつきません。ですので最初は従業員も半信半疑なんです。そこでロボットの正しい使い方を教えて、それまでのオペレーションをこのように変えていきますと指導します。動画や紙のマニュアルなども整備しましたが、実際に使ってみないと分からないことも多いので、お店でロボットを動かしながらインストラクターが指導していくのが大きなポイントです」

顧客も従業員も待ち焦がれる存在に

導入はとてもスムーズだったと花元氏は語ります。

「料理を載せて伝票に書いてあるテーブル番号(数字)を押して出発させれば、ロボットが動いてくれるので、運用しやすいです。新人さんでも習得は早いですし、外国人従業員の方でも覚えやすいと思います」

オペレーションが完了すれば、従業員は料理を乗せてロボット操作部のテーブル番号(数字)を押すだけ

ただし、ちょっとした段差には苦労したそうです。

「ロボットはタイヤで動くので、カーペットとタイルの境目などの数mmの段差で衝撃を受けます。乗り越えることはできるものの、料理が崩れたり、液体がこぼれたりしてしまいます。そういったときはロボット側ではなく、店側に変化を加え、インストラクターが段差を簡易的に平らにするなどの処置を行ないました。最終的には、お店のリニューアルや業態転換の際に改装しますが、そのような応急処置を都度行なっていました」(花元氏)

導入後、顧客の反応は良好でした。

「ロボットの可能性を探るところから始めたので、まずは渋谷や新宿、秋葉原など、比較的ロボットを受け入れてもらえそうな地域で実験を開始しました。実際に運用したら想定よりも高評価が得られたため、効果を検証した上で展開を進めました。

地方の店舗ではどうなのかと思っていましたが、シニアのお客様にも思いのほか受け入れていただきました。写真や動画撮ったり、興味津々にご覧になられているのを肌身で感じました。展開し始めると、お客様センターに『自宅近くのお店にはいつロボットが入るのか』という問い合わせが来たりするほど興味を持っていただきました」(花元氏)

さまざまな表情を用意。居眠り(休止)中もあります

待ち焦がれていたのはお客だけではなかったと花元氏は語ります。

「従業員も展開の後半になると待ち焦がれてくるので、導入が決まると『何月何日、猫ちゃんロボット導入です!』といったポスターを手製で作るお店もありました。導入日には常連さんもいらっしゃったりと、いろいろな方に受け入れていただけたのかなと思います。

また、お店にとって助けになるロボットを導入するのをきっかけにして、インストラクターは各店舗の従業員と1日一緒に仕事します。今までの仕事よりも従業員とコミュニケーションがうまく取れて、さらに従業員に喜んでもらえる仕事は今までにないと、インストラクター自身も喜んでいました」

「とんかつ」や「プリン」などロボットに名前を付ける店舗も

現在はガスト、しゃぶ葉、バーミヤン、ジョナサンの4業態への導入が完了し、最大17人いたインストラクターは6人に縮小しているといいます。

「2023年から飲茶などの新業態を始めているので、そういう業態に移った人や、元々携わっていた業態の店長に戻った人、今までの経験を生かして本部のほかの部署を担当している人もいます。

現在いる6人のインストラクターは新店や転換店舗の設定やオペレーション指導などに携わっています。取引先から設定の仕方を学びましたので、改装時にお店のレイアウトが変わったりして場合にはインストラクターが設定し直したりしています。また、3,000台という今までにない台数なので、各部品の消耗具合を点検するなど、いろいろな目線で運用状況の確認なども行なっています」(花元氏)

様々な運用に挑戦 ロボットは「サポート役」

飲食業では慢性的な人材不足だと言われていますが、ベラボットの導入理由は「人員の削減」ではないと花元氏は語ります。

「アフターコロナになって、少しずつお客様が戻ってきました。その中で、今までと同じ人数で対応できるようにしようというのが中心の考え方です。今までは3人でやってたところを、客数が増えたから4人にするのではなく、3人+ロボットで対応できるようにする。つまりロボットによって対応人数を増やすイメージですね。

今後も採用が難しいことは避けて通れないと思いますので、ロボットを導入することによって従業員の負荷を軽減する。あるいは、ロボットがいるから働いてみようという動機の一つにしてもらうことで、採用と定着につなげていきたいと考えております」

コロナ禍を経て、少しずつ客足は戻っていますが、これまでと同じ人数+ロボットでの対応を想定

現在は基本的に配膳専用ロボットとして運用していますが、「ステーキガスト」では熱々の鉄板で提供されることもあり、下げもの専用として実験運用しています。そのほか、1台は配膳、1台は下げものに使うといった実験運用している店舗もあるそうです。

「ランチタイムの11時にオープンするお店だと、12時ぐらいまでは皆さんが料理を食べている時間なので、下げもの用ロボットの出る幕がありません。この時間帯は配膳で、この時間帯は下げものに切り替えるなどの使い分けも含めて、いろいろな角度から運用していこうと考えています」(花元氏)

現在は1回のオペレーションで1つのテーブルに搬送するスタイルですが、「オペレーションを考えると複数卓搬送もできるようになった方がいいので、そのためにはどうするべきかという議論もしています」と花元氏は語ります。

「ベラボットが到着する際にすべての棚が青く光るのですが、到着する前にお客様が取るべき棚だけ青く光るようにしてほしいとか、料理を取るとセンサーが感知して自動的に戻るのですが、その秒数を我々が変えられるようにしたいといった要望をメーカーに出しています」(花元氏)

現在は1回のオペレーションで1つのテーブルに搬送するスタイル

花元氏は、次世代のロボットについても言及。

「ベラボットは人と違って手が付いていないので、運んだ料理をお客様にお取りいただくか、従業員が提供する必要があります。それを提供できる手が付くといいのかなと思うこともありますが、そのためにはテーブルのどこが空いているロボットが察知する必要もあるでしょう。また、ベラボットは移動中に障害物があるとよけるのですが、通行できない場合はどうするのかなど、細かい課題があります。さらに進化したロボットはどういうことができるといいのか、メーカーや取引先と相談しながら、数年後さらに進化したロボットになるといいなと考えています」(花元氏)

ただし、あくまでもロボットはサポート役だと花元氏は話します。

「我々ファミリーレストランという業種は、従業員がお客様とコミュニケーションを取る時間をちゃんと作らなければいけないと考えています。特にモーニング営業しているお店では、従業員と話をしたいから朝からお店に通っている常連のお客様が多数いらっしゃいます。そう考えると、従業員とお客様のコミュニケーションをつなげることは大事だと思いますし、それを実現するためにサポートするのがロボットだと考えています」

安蔵 靖志