トピック

好きな濃さで飲めるビール「ビアボール」 市場低迷が生んだ新発想

サントリーから「ビアボール」という新商品が、11月15日に発売されました。その商品名の語感からすると、ビール風のハイボールというか、某ビアテイスト飲料のようなものを想像してしまいますが、さにあらず。ビアボールとは一体なんなのか、ビール業界に、いやアルコール飲料業界にどのような波紋を広げるのか! 発売元のサントリーに押しかけてきました。

炭酸水で割るけれど、れっきとしたビールなのが「ビアボール」

お話をうかがったのは、マーケティング本部内の「イノベーション部」に所属する佐藤勇介さんです。さっそく発売したばかりのビアボールについてあれこれ聞いてみます。ビアボールとは何ですか? ビールのようなもの? ハイボールみたいなもの?

サントリー ビールカンパニー マーケティング本部 イノベーション部 佐藤勇介さん

「ビールです。れっきとしたビール。酒類の分類、品目にも『ビール』と記載しています。発泡酒でもスピリッツでもリキュールでもなく、濃いビールと思ってもらえれば間違いありません」

ビアボールはビール“風”ではないのです。つまり「本当はビールを飲みたいんだけど、これでガマンしとこう」的な思考で飲むものではありません。炭酸水で割ることを前提とした、まったく新しいビールなのでした。でも、ビール好きからすればビールを飲めばいいだけのこと。なぜゆえ、わざわざ炭酸水で割るのでしょう。

「味わいもアルコール度数も、もっと自由に好きなようにビールを楽しめないかと思い開発しました。アルコールに弱い方は薄めにしてもいいし、アルコールも味も濃いほうが好みなら炭酸水を少なめにしてもいい。飲む人オリジナルのビールを楽しむのがビアボールです」

ビールはのどごしだけじゃない。もっと自由に楽しみたい

確かに最近は乾杯のときからビール以外のハイボールやレモンサワーを飲む若い人が多いと聞きます。いわゆる若者のビール離れですね。その一方で「ビールの味は好き」とか「1杯目はビールだけど、2杯も3杯も飲めない」なんて声も聞こえてきます。だったら、ビールの方が変わればいいという発想。人それぞれのスタイル、飲み方で楽しめるのがビアボールです。

「実際、ビールそのものの消費量は減ってきているし、飲み方そのものも変化しています。いまの若い人たちは『お酒を飲む』目的でなく『食事や会話を楽しむ』ためにお酒を嗜んでいます。ならば、その嗜好に合わせることでビール界、アルコール業界そのものを活性化したい! その第1弾の商品がビアボールなのです。」

イノベーション部は、固定概念に捉われることなく、新たな価値を提供していくことをミッションに掲げている、新たに生まれた部署。その最初の商品となったのがビアボールで、発案者は佐藤さん。佐藤さんは開発にあたってさまざまな意見を集めるべく、学生さんなど若い皆さんに自慢のサントリーのビールを飲んでいただいたそう。そのときに気づいたのは、今の人たちは少しずつ飲むということ。つまりビールののどごしを楽しむ概念がないのだそうです。

「正直、びっくりしました。ビールをちびちび飲むんですよね。サントリーの人間としては『ビールはのどごしでしょ!』とつい叫んでしまいそうですが、そこはグッと抑えることで『だったら氷を入れてもOK?』と気づきました。私たちの常識だとビールに氷はNGですが、ちびちび飲むスタイルならむしろ氷が溶けていく過程も楽しんでもらえますよね。ビアボールの可能性を実感した瞬間でもあります」

開栓後、一度に飲みきれない時に冷蔵保存するための再栓用キャップが付属。「ちびちび派」にもうれしい

お手製のビール濃縮が、ビアボール誕生のきっかけ

佐藤さんはビアボールの開発前に「まずは自分でつくってみよう」と思い、ビールの冷凍を繰り返すことで濃縮してみたそう(凍結濃縮という手法)。凍った水分を取り除くことを何度か繰り返すと、次第に味わい成分やアルコールの濃度が高くなる。

「それが意外とイケたというか、想像した感じの味に近かったんです。実際のビアボールは別の製造方法なのですが、この手作りビアボールが、製品としてのビアボール実現への原動力、発端になりました」

ちなみに、真似をしようと缶や瓶のままビールを凍らせると危険です。

始まりは佐藤さんの「ビールを凍らせてみた」というシンプルなアクションだったわけですが、実際のビアボールは「サントリー式“酵母イキイキ製法”」という企業秘密の製造法でつくられています。

「サントリー式“酵母イキイキ製法”とは、酵母の栄養供給や温度管理などを徹底して、アルコール度数の高いビールをつくる製法。酵母が元気で、なおかつ炭酸水でつくった際にもっともおいしい状態のアルコール度数が16度でした。そこに『ザ・プレミアム・モルツ』シリーズで培った香味や『マスターズ・ドリーム』で培った麦の味わいを加えることでビアボールのおいしさをつくりあげています」

アルコール度数はなぜキリのいい15度じゃないのかといったことを聞かれることもあるそうですが、「16度」という度数にも理由があったんですね。

おすすめの比率はあるが、割材含めどのように飲んでもおいしい

さて、そのビアボール。おすすめの比率はビアボール1に対して炭酸水3の割合だそう。「自由に楽しむ」とはいえ、やはりサントリーとしての基準は提案しておきたいところ。おいしさを把握しているからこその提案です。濃い目オーダーなら1:1で、ロックもおすすめとのこと。酒飲みを自認している方なら、おそらく初めて耳にする「ビールのロック」という言葉は心に響くはずです。

氷と炭酸水をグラスに入れてからビアボールを注ぐのがおいしくいただく秘訣。氷の表面にビアボール原液が触れることで泡立つのだとか
ノベルティの専用グラスの底面にある突起、4Bスポット(Four B Spot/Beer Ball Best Balance、4つのB)がグラス内に対流を起こし、炭酸水とビアボールをほどよく撹拌する。専用グラスは数量限定のセットで購入できる

「炭酸水といっしょにレモンピールを入れてもおいしいですね。比率以外にも割材を変えることで違ったおいしさが楽しめます。個人的なおすすめはトニックウォーター。意外なところでは野菜ジュースや牛乳でつくる飲食店もあり、レッドアイやカルーアミルク的な発見がありました」

基準となる1:3の黄金比から牛乳まで、ビアボールの自由を佐藤さん本人が体現しているようです。さて、今後のビアボールは、どのような存在になっていくのでしょうか。

「ビールって、みんなで乾杯して『今日はお疲れ!』って言い合える楽しいお酒だと思っています。でも、時代が少しずつ変化してきて、そのイメージがネガティブに捉えられかねない。だったら誰もが自分のスタイルで飲める、新しいビールに変わればいい。ビアボールが、もう一度みんなで『ビール』を楽しむための時間、シーンをお店でもご家庭でも生み出してくれるとうれしいですね」

新しいスタイルのビールながら、すべてが新しいわけではありません。家庭用小瓶(334ml)の瓶の形は「ザ・プレミアム・モルツ」など従来のビール製品の小瓶と同じ、業務用中瓶(500ml)は昔ながらのビール中瓶の形を継承しています。瓶の形で「ビアボールはビール」であることを表現しているのです。

業務用中瓶は昔ながらの形状

大瓶を片手に議論に夢中になるのは昭和だったでしょうか、ジョッキでグビッと盛り上がるのが平成だった気もします。令和は、自分好みのビールをつくって味わう時代。人の嗜好は変われども、どの時代でも「ビール」はうまい。ビアボールは、そんなビールの魅力を、ビールが好きな人にもそうでなかった人にも教えてくれる新しいお酒なのかもしれません。